妖精と白兎の愛育日記   作:護人ベリアス

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〈懐妊編〉第七章 希望を守る旅へ
友の助力を求めて


 ベルとの十八階層でのデートから二日。

 

 私達は問題に何一つ直面することなく幸せと充実感に満たされたデートを終え、無事地上に帰還した。

 

 迷宮都市(オラリオ)を出ることと私がベルと結ばれ子宝に恵まれたことをアリーゼ達に報告することができた。

 

 私とベルの子供を『アリーゼ』と名付けるという決断をベルと二人で下すことができた。

 

 このデートの二日間は恐らく私にとってもベルにとっても一生忘れられない日々の一つになったに違いない。

 

 そしてこのデートを終えた今私にもベルにも迷宮都市(オラリオ)には未練は多くない。

 

 私達の愛という正義(希望)のため。

 

 私達の愛の結晶でもあるアリーゼという正義(希望)を守るため。

 

 私達は早速迷宮都市(オラリオ)を出るべく準備を開始した。

 

 

 その準備とは【ガネーシャ・ファミリア】団長シャクティ・ヴァルマの助けを借りることであった。

 

 

 

 ☆

 

 

 

「何っ?迷宮都市(オラリオ)を出るだと…?」

 

「はい。それが私とベルの決断です」

 

「リューと僕が今説明した通りです。ご協力頂けませんか?シャクティさん?」

 

 シャクティとの密会の約束を『豊穣の女主人』でした私とベルはシャクティと向き合って早々迷宮都市(オラリオ)を出るという考えをシャクティに伝えた。

 

 私達の決断にシャクティは理解できないとばかりに顔を顰める。

 

 ある意味当然かもしれない。なぜならシャクティが事前に提案してくれていた案は皆迷宮都市(オラリオ)に残ることを前提にしたもの。

 

 シャクティの中では迷宮都市(オラリオ)を出るという考え自体が想定の範囲外だったのだろう。

 

 だが私とベルの中では違った。

 

 

 なぜなら私達にとって一番大事なのは私とベルを繋ぐ愛と私達の子供であるアリーゼなのだから。

 

 

 シャクティの芳しくない表情を見受けて、私とベルは顔を見合わせ視線を交わす。

 

 視線を交わした結果私とベルは説明を加えようという考えで一致したと、私とベルは以心伝心の仲なので察する。

 

 そうして改めてシャクティの方に向き直って私達は続けようとすると、徐にシャクティが口を開いた。

 

「確かに…お前達の考えは一理ある…いや、正しいと言うべきなのかもしれないな」

 

「「…え?」」

 

 シャクティから返ってきたのは納得の言葉。

 

 シャクティは今尚顔は顰めたままだが、今確かに私達の決断が正しいと評したのだ。

 

 シャクティの評価に思わず声を揃えて驚きを示してしまう私とベル。

 

 そんな私達にシャクティは苦笑い気味に告げる。

 

「私が言うのは心苦しいが、迷宮都市(オラリオ)の仲は思いの外治安は良くない。お前達の子供の教育にもあまり望ましくないとも考えられるだろう。神ヘルメスのような真意の分からない神がうろつくような街で子供を育てることはとてもではないができない…そんなリオン達の考えには同意せざるを得ない。子供のためにも迷宮都市(オラリオ)を出て、故郷に戻ろうという考えは正しい」

 

「…教育?ベル?確かに神ヘルメスの存在は警戒すべきだとは思ってましたが…迷宮都市(オラリオ)は子育てや教育に向いてないのですか?」

 

「ぼっ…僕に聞かれても…僕は迷宮都市(オラリオ)の外で迷宮都市(オラリオ)を憧れの場所として育ってきたから、別に向いてないとは思わないと言うか…それに子育てや教育のことは僕にはよく分かりませんし…」

 

「…私も故郷の方が余程教育には望ましくないですし…子育てに至っては絶対できないですし…迷宮都市(オラリオ)の方がまだ良い気も…」

 

 シャクティは私達の心情を慮って納得したのだろうと思えはしたのだが…

 

 私もベルも揃って教育や子育てに迷宮都市(オラリオ)が問題があるというシャクティの発想に追いつけず、小声でシャクティの発想をどう受け止めれば良いのか相談しあう。

 

 そしてその密談は当然シャクティにも聞こえていて、シャクティは呆れ顔を浮かべて言った。

 

「…そんな小声で話していても聞こえるぞ?私には。なんだ?子供のことを気掛かりに思ってこう判断したと推察したのだが」

 

「それは言うまでもありません。私もベルもアリーゼのことを気掛かりに思って…」

 

「ん?アリーゼ?」

 

「あ、私達の子供の名前です。ベルと二人で話し合って決めました。お分かりでしょうが…」

 

「あぁ。皆まで言われなくても分かる。…そうか。良い名前だと思う。お前達の子供が彼女のように誇り高い女性になってくれることを祈っている」

 

「ありがとうございま…え?女性?どうしてシャクティは女の子だと思うのですか?」

 

「違うのか?アリーゼだと女性の名前だろう?」

 

「…ベル?どうしましょう?これは少々まずかったのでは…」

 

「…すみません。全く考えがそこまで及んでませんでした」

 

「…まさかお前達子供の性別が分かりもしないのに子供の名前を決めたのか?」

 

 まさにシャクティの指摘通りで私もベルも今更の如く青ざめる。

 

 …アリーゼに夢の中で言われたからというだけで決めたに程近かったため、もし男の子が生まれたら…という想定を私は一切していなかったのだ。

 

 賛同したベルの事情は分からないが、ベルも謝罪してくれた辺り考えが及んでいなかった模様。

 

 頭の中のアリーゼがなぜか凄くいい笑顔で問題ないとばかりに親指を立てているような気もするが…

 

 シャクティに指摘してもらい気付いた以上私もベルも何も考えないという訳にはいかなかった。

 

「…帰ったら男の子だった時の名前を決めましょうか?リュー?」

 

「そうしましょう…私も考えが足りませんでした…」

 

「いえ、僕も気づかなかったので…ともかくシャクティさんのお陰で早めに気付けました」

 

 即座に男の子の時の名前を決めようと考えを一致させる私とベル。

 

 すると私達にシャクティはふと思い浮かんだように尋ねてくる。

 

「ちなみに聞くが、そんなにお前達は女の子が欲しかったのか?」

 

「…?別にそうではありませんよ?私はただアリーゼのような周囲に笑顔と希望をもたらす方に育って欲しいと願ったからで…私としては男の子でも女の子でもベルとの子供ならどちらでも嬉しいと言うか…」

 

「僕も同じ感じです。僕達の子供にはアリーゼさんのような他の人の幸せのために頑張れる子に育って欲しいと思ったからで…僕としても男の子でも女の子でもリューとの子供ならどちらでも大歓迎ですし…」

 

「ベルに似た男の子であれば、優しくてカッコよいとても素敵な殿方に…」

 

「リューに似た女の子であれば、優しくて可愛いとっても素敵な女性に…」

 

 シャクティの質問に私もベルも首を傾げつつ以心伝心の仲なのでとても似通った答えを返す。

 

 私にとってもベルにとっても大事なのは私とベルの子供であるということ。

 

 私達にとっては男の子でも女のことでもどちらも等しく大切だということをこの場を借りて確認することができた。

 

 そうして私の中ではあまり想定になかった男の子だった場合の我が子の姿が浮かび…思わず頬が緩む。

 

 だが私の妄想はシャクティの一言で呆気なく打ち切られることになった。

 

「お前達。話はそれくらいでいい。これ以上放っておくとまた惚気られそうだ…それで迷宮都市(オラリオ)を出たらどうする?私は子育てをするなら二人の両親がいるであろう故郷に戻る方が良いとお前達が判断したのだろうと推察していたが、二人の反応を見るからにそのつもりはないんだな?」

 

「…はい。少なくとも私の故郷はエルフの他種族蔑視の因習が強いためベルと子育てすることはとてもではありませんが、不可能です。私の両親も受け入れるとは考えられません。そもそも私は密かに里を飛び出した身ですし…」

 

「僕も…唯一の家族だったおじいちゃんがいなくなって故郷には戻る場所がありません。なので…」

 

「…配慮が足りなかったな。余計なことを聞いた。すまない。ただ故郷という当てがないなら迷宮都市(オラリオ)を出てどうするつもりだったんだ?」

 

「…」

 

「…」

 

「…まさか何も考えていなかった…とは言わないよな?」

 

「なっ…何もない訳ではありません!」

 

「そうです!僕達にもちゃんと考えがあります!」

 

「ではなぜ即答しなかった?何か私に話しにくいことでもあるのか?」

 

 シャクティは視線を鋭くしてそう尋ね、私もベルも揃って背を縮こまらせる羽目になる。

 

 シャクティは故郷の話が私にとってもベルにとっても良い思い出がないことを察し、話を逸らしてくれるも生憎私達の芳しくない反応は変わらなかった。

 

 とは言え先程までの苦々しい気分という意味での芳しくないからはまるで含む意味合いが違う私達の芳しくない反応。

 

 …私達は迷宮都市(オラリオ)を出たらどうするつもりだったかというシャクティの質問に答えられない。

 

 なぜなら考えはあってもシャクティの期待には全く沿わない…というか子育て云々を一切考慮に含んでいない考えだったからである。

 

 私もベルも話せばどんな反応をシャクティが返すか分かりきっているため、伝えるか否かで迷う。

 

 だがシャクティの絶えず向けてくる冷たく鋭い視線に私もベルも耐えられず、互いに顔を見合わせて頷き合って合意を確認した後で大人しく白状することになった。

 

「…私達の迷宮都市(オラリオ)を出る理由は…結婚式を挙げるのに相応しい場所を探すためで」

 

「実はリュ―のお望みの場所が迷宮都市(オラリオ)の中では見つからなくて…だから『誰もいない夜の森で月に私達の永遠の愛を誓い合う』という条件が適う場所を探す…むぐっ!もごもごっ…」

 

「ベルッ!そこまで話す必要がどこにあるんですか!?そこまで話したらシャクティがどんな表情を浮かべるか…」

 

「…なるほど。要は子育て云々より結婚式のことで頭一杯で何も考えていなかったと。そういうことなのだな?お前達は?」

 

「…あぁ」

 

「むぐっ!げほっげほっげほっ…リュッ…リュー!いくら何でも窒息死しますから!?」

 

 口を滑らしたベルの口を封じるも既に手遅れ。

 

 シャクティは深読みしすぎたことを後悔しているとばかりに絶対零度の視線を私達に突き立て、私はもう完全に立つ瀬がない。

 

 茫然として思わずベルの口を塞ぐ私の手の力が弱まったために呼吸を再開できたベルは声を張り上げるも私には恥のあまり反応も返せない。

 

 そんな私の茫然自失な状態を見かねてかベルは反論するように言った。

 

「でっ…でもちゃんと僕達の愛の巣を一緒に探そうってリューと話はきちんとしてありましたし!」

 

「だが見通しは甘かった。現にお前達はどこに定住し、どこで子供を育てていくかの具体的な考えが一切ない。違うか?」

 

「うっ…うぅ」

 

「子供がいない身の私でも分かるぞ?愛情と気概だけでは大切な家族は守れない。お前達の見通しの甘さがお前達自身だけでなくまだ生まれてもいないお前達の子供を殺す可能性があるんだぞ?それだけの責任があることをお前達は自覚しているのか?」

 

「「…」」

 

 私もベルも返す言葉を見つけることができなかった。

 

 シャクティの言う通りだ。

 

 私もベルも愛だ結婚式だ子供の名前だと浮かれてばかりで具体的に未来をどう過ごしていくかにほとんど考えを広げることができていなかった。

 

 そんな甘さが私達自身だけでなくアリーゼをも殺してしまう可能性がある…

 

 シャクティの言葉は否定しようがなかった。

 

 私もベルも目を伏せて自らの浅慮を反省することしかできない。

 

 そんな時シャクティは続けて言った。

 

「だが…お前達はまだ若いし、冒険者として生きてきたせいで子育てに関しては分からぬことも少なくないだろう。だから周囲を頼れ。周囲の力を借りろ。少なくとも私は力を貸そう。お前達の要望通り迷宮都市(オラリオ)を出るための根回しは私が責任を持って行おう」

 

「シャクティ…!ありが…」

 

 シャクティが私達への協力を受け入れてくれたことに私は感謝の意を伝えようと言葉を紡ごうとする。

 

 だがシャクティの本当に伝えたいことはここからであった。

 

 

「だからっ…大切な家族を…絶対に喪ってはならない。私と同じ後悔を…繰り返すな。お前達はそのために冒険者をやめ、迷宮都市(オラリオ)を出るのだろう?それが大切な家族のために最善だと…思ったのだろう?私が考えたこともなかった…可能性を信じて」

 

 

「!?」

 

 瞳を揺らし、そう告げたシャクティ。

 

 シャクティの言葉の真意が…私には分かってしまう。

 

 

 …アーディのことだ。

 

 

 シャクティにとっての大切な家族でたった一人の妹であったアーディを喪ってしまった後悔のことをシャクティは言っている。

 

 冒険者をやめて迷宮都市(オラリオ)を出ることで大切な家族を危険から遠ざける。

 

 私とベルが私達自身とアリーゼのために掴み取ろうとしている可能性だ。

 

 シャクティがアーディのためにもう掴み取ることができない可能性だ。

 

 シャクティの後悔を私とベルに繰り返すなと伝えてくれている。

 

 シャクティのアーディへの想いと後悔が詰まった言葉が…私の胸に響かぬはずがなかった。

 

 私は深々と頷いて答える。

 

「…はい。その通りです。大切な家族のため…私達が冒険者をやめ迷宮都市(オラリオ)を出る必要があると考えたのは紛れもない事実です。シャクティのお言葉…肝に銘じます。そして…シャクティの後悔を繰り返さぬことをここに誓いましょう。私は…必ずや大切な家族であるベルとアリーゼを守り抜きます」

 

「僕も…シャクティさんのお言葉を心に刻みます。何物にもリューとアリーゼを奪わせることはしません。お約束します」

 

「そうか…お前達?その言葉忘れるなよ?愚かにも忘れ誓約を破れば、私と…そしてあの子が決して許さないだろう」

 

 私はシャクティに誓約を立て、アーディのことを知らず話が鮮明には把握できていないベルも続けてシャクティに約束する。

 

 そんな私達の言葉にシャクティは深々と頷き、満足そうな表情を浮かべてくれる。

 

 

 こうして私とベルはシャクティに親としての自覚の甘さを指摘され自省すると同時にシャクティの協力を得ることに成功する。

 

 私達は四日後暗闇に紛れて迷宮都市(オラリオ)を出ることになった。

 

 これで万が一でもない限り私達は滞りなく迷宮都市(オラリオ)を出ることができるに違いない。

 

 その際にはシャクティ達【ガネーシャ・ファミリア】の警備する門の通過を特別に便宜を図ってもらうというお墨付きを得た上で、である。

 

 シャクティの話によればギルドが執着を見せて追手を差し向けることはほとんどあり得ず、迷宮都市(オラリオ)を密かに出て行方を晦ませることさえできれば安全だと言う。

 

 私達はイマイチ認知していないことであったが、何せ迷宮都市(オラリオ)ではファミリアの夜逃げの如き出奔が少なくなくギルドも全てを引き止めるつもりは流石にないそうだ。

 

 神ヘルメスも一応の懸念材料だが、私とベルだけのためにファミリアを動かしたり、ましてギルドを動かすことはないだろうというのがシャクティの予測。

 

 シャクティの協力と予測のお陰で私もベルも安心して迷宮都市(オラリオ)を出ることができるということになる。

 

 よって問題になってくるのはシャクティに指摘された通り迷宮都市(オラリオ)を出た後である。

 

 シャクティもその後簡単に決められる事柄でもないし急いで決めるべきではないと付け加えられたが、私もベルも考えを深めない訳でいいと捉えられる訳もなく。

 

 私とベルは今後迷宮都市(オラリオ)を出た後どのように過ごしていくかという大きな課題に真正面から向き合わざるを得なくなる。




アリーゼと名付けた後に気付いた男の子だったら名前どうするんだ問題。
まぁご都合主義で女の子決定なんですけどね?単なるネタです。
ちなみに言うと私が調べた限りではかなり個人差があるようですが、少なくとも現状の八週間目に分かった事例は見当たりませんでしたね。ただこの頃から性器の形成が始まるとか。

そして僅かながらに言及したアーディさんに関して。
単純な話迷宮都市(オラリオ)に来ずに冒険者になっていなければアーディさんは命を落とすこともなかったと考えられる訳ですね。(…ある意味作品の根本を否定してるも同然ですが)
そして今作のリューさんとベル君はその冒険者をやめて迷宮都市(オラリオ)を離れるという選択を選んだ訳です。

あとは迷宮都市(オラリオ)を出た後の話ですね。
…まぁこの夫婦何にも考えてないんですよ。なので今から少しずつ考えていこうね?と言う導入です。
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