励みになってます!
「…最近リュー少し食が細いですよね?食欲湧きませんか?やっぱり…」
「…えっと…それは…」
シャクティさんから
僕が作ったお手軽なサンドイッチを啄むように少しずつ食べているリューに僕はそう尋ねていた。
僕の問いにリューは目を伏せて戸惑いを見せる。きっと答えにくいことを僕に伝えないといけないため躊躇してしまっているのだろう。
そう思った僕はリューの躊躇を和らげるために笑顔を浮かべて言った。
「大丈夫です。僕にとってはリューの体調が一番大切ですから。僕には何でも遠慮なく言ってください。食事に関しても色々考えてみますから」
「…すみません。食事の準備もほとんどベルに任せてしまって…私は…」
「気にしないでください!これくらいのお手伝いしないと、夫として失格ですよ!僕を頼ってください。リュー?僕には直接アリーゼのためにできることがないから…少しでも力になりたいんです」
「ベルッ…」
リューが自虐的な呟きと共に憂鬱な気分に突入しかけるのを防ぎ、リューの体調が第一だという本心を伝える僕。
僕のリューを元気づけるための言葉にリューは視線を僕に向け瞳を潤ませる。
リューが自虐しかけた通り現在食事の準備は調理は僕が受け持ち、リューはお皿の準備とか楽な仕事だけという分担で行っている。
これはリューが以前の僕の好物を当てるために絶食しかけた…という事件の経験から僕が提案した結果始まった分担。
…少なくともアリーゼが産まれるまではリューに料理を任せると色々とまずい…という判断を密かに僕が下し、リューには手伝いをしたいという名目で認めてもらった。
リューは今のように僕に任せっきりにすることを気に病んでいるのが僕としては凄く心苦しいが…とにかく色々な意味で僕は譲る訳にはいかない。
そんな僕の密かな考えに思いを巡らせていると、リューは小さく息を吐き僕の問いにゆっくりと答え始めてくれた。
「先にお伝えしますが、ベルの作ったサンドイッチが美味しくない訳ではないのです。野菜をきちんと摂れて食べやすい食事は今の私では準備できませんし、このサンドイッチを食べているだけでベルの気遣いと愛情を感じることができると言うか…」
「そっ…そうですか?ありがとうございます。でもサンドイッチくらい誰でも作れ…なっ…何でもないです」
「…?」
僕はお礼を伝えた流れで危うく余計なことを口走りそうになり、慌てて口を閉ざす。
リューが首を傾げるのみで聞こえてなかったらしいのが救いだった。
最近聞いたシルさんの話によるとリューはサンドイッチをなぜか黒炭に変えたことがあるとか…
となるとリューは多分サンドイッチを作れないのは明白。
…リュ―の手料理を楽しみにしていた三週間前の僕は知らなかったことだが、リューは料理がほとんどできなかったのである。
後々シルさんのお陰(?)で知ることになった事実が(少なくともリューよりはましだと思われる)僕が料理を担当するようになった理由だったり…
それはともかくとしてリューの今の話は前置きだったのはリュー自身の口振りからも分かり、僕が慌てて口を閉ざした後少しだけ間を置いた後リューは続きを話してくれた。
「…ですがベルのご指摘通り食欲はあまりないです。恐らく【
「…ですよね」
リューの体調を僕が特に気に掛けていた原因はつわり。
つわりとは妊娠した初期に起こる吐き気や嘔吐のこと。
リューは今まさにそのつわりに悩まされる時期にあり、アミッドさんから事前に気を付けるように注意を受けていたのだ。
そのため僕はデートに一緒に行ってリューの気分転換を図る傍らリューの体調をずっと心配になっていたのだ。
「ちなみに吐き気とかは大丈夫ですか?僕が気付いてないだけとかではないかと心配で…」
「その点はご心配なく。食欲が湧かず、時折気分が悪くなったりはしますがそれ以上の症状は誓ってありません。…今度ばかりは隠したりなどしませんよ」
「あっ…すみません。そういうつもりで言った訳では…」
「いえ、謝らないでください。ベル。私はベルに過分な心配をお掛けしてしまうような過ちを既に犯してしまっています。ベルが悪いのではなく私が悪いのです。本当に申し訳ありませんでした。ベル」
「うっ…うぅ…」
心配のあまり僕は思わず口を滑らせてしまったことに気付くも手遅れであった。
リューと僕が想起してしまったのは恐らくアリーゼがリューのお腹にいると分かった際のこと。
当時のリューは僕に体調不良を隠していて、僕もまたリューが嘔吐してしまうまで指摘することができなかった僕達二人の苦い記憶である。
二人してその記憶に辿り着いてしまったため、揃って謝罪し合う沈んだ雰囲気に陥ってしまう。
…この雰囲気を何とか打開しなければ。
そう僕が思い至った矢先にリューが先に口を開いていた。
「ただ…それほど私は辛くはありません。【
「ぼっ…僕のお陰…ですか?」
リューの言葉に僕は思わず目を丸くする。リューが僕のお陰と言ってくれる理由がイマイチよく分からなかったからである。
僕は実際にリューのつわりの辛さが分かる訳でもないし、つわりの辛さを代わってあげることもできない。
それがずっと僕の中では心苦しくて仕方がなかった。
だがそんな僕の想いにリューは気付いてくれたのかもしれれない。
リューは僕の瞳をじっと見つめ、朗らかな微笑みを向けて頷いた後に言ってくれた。
「そうです。ベルのお陰です。ベルはこうして食事の準備をしてくださっています。それも野菜など栄養に気を使った食事をです。それに私の気分の悪い時に何気なく水を用意して下さったり、他にも様々な家事を手伝ってくださいます。…それこそ私の仕事がなくなる程度には」
「それはっ…僕にはそれくらいしかできないからでっ…それに今のリューに無理をしていただく訳にはいきませんしっ!」
「そんなベルの気遣いがあるだけでも私はとても心強いのですよ。ベル。何よりベルはいつでも私のそばにいてくれます。愛するベルが辛いときにそばにいてくださる…私はその事実だけでもつわりの辛さなど吹き飛びます。だから全てはベルのお陰なのです。ベルがこんな私のそばにいてくださることに心からの感謝を。ベルが私の夫で良かったと改めて思います」
「リュッ…リュー!」
リューが僕に微笑みと共に伝えてくれた僕への感謝の言葉に僕は感極まる。
僕の気遣いが少しでもリューの心の支えになっている。
僕のいることが少しでもリューの辛さを減らすための役に立っている。
そうリュ―の口から聞かせてもらえるだけで僕のずっと感じていた心苦しさはスーッと和らいでいくように感じられた。
僕は感極まるあまり瞳に涙を溜めて、今すぐにでもリューの伝えてくれた感謝の言葉のお礼に抱き締めたくなる。
だがその思いを叶えるべく席を立ちかけた僕をリューは手を小さく上げつつ制止した。
「お待ちを。お気持ちは分かります…私も今とてもベルに抱き締められたい気分です…ベルに抱き締められたら…食欲も湧いてくるかもしれませんし…」
「なっ…なら今すぐにでも抱き締めます!リューが食欲を取り戻すためなら僕は何でもしますよ!」
「しっ…しかしっ!今ベルに抱き締められると食事などどうでも良くなってしまいそうで…なので食事を優先しましょう。ね?ベル?」
「リューがそう言うなら…分かりました。ちなみにそのサンドイッチは食べきれますか」
「はい…時間はかかるかもしれませんが、食べられると思います」
「そうですか。なら一応大丈夫ですね…急がずゆっくり食べてくださいね?リュー?」
凄く抱き締められたいかのような迷いがリュー自身の言葉と態度から溢れ出ているが、他ならぬリュー自身がやめるべきと強く言ったので大人しく僕も引き下がり腰を下ろす。
とりあえずは今の僕としてはリューがきちんと食事を食べてくれて栄養をきちんと摂ってくれれば良いので無理に抱き締めようとは動かない。
ただ…リューが凄く抱き締めて欲しそうにしているという事実は変わらないので食事が終わったらすぐにでも抱き締めようと固く決心する。
こうして僕がそばにいることがリューのつわりの辛さを和らげてるという事実がリューをより積極的に抱き締める大義名分になったと確信した僕。
さらに僕はリューのお陰で自らの抱えていた心苦しさを取り除くができ、僕の気遣いに感謝の想いを伝えてくれたリューの気遣いに僕は感謝を覚えずにはいられない。
とは言え心配はそう簡単には消えないものでついつい加えて僕は聞いてしまっていた。
「それで…リューが体調に問題がないなら良いんですが、三日後に
「ベルの心配は分かります。ただ私としては長く
「そうですか…リューがそう言うならそれでいいですが」
僕は納得が少々できていない一面を抱えながらもリューの言葉に理解を示し、それ以上は追及しない。
リューの言う通り僕達の噂に関しても邪神ヘルメスに関しても気掛かり。
さらに言うとリューのつわりも今がピークとは言えいつ終わるかまではアミッドさんにも分からないそう。
そのためリューの考えが一番正しいということは僕にも分かった。
ただ僕としてはリューの体調が万全でない以上リューのこともアリーゼのことも心配な訳で…
僕は心配を抱えつつもこれ以上は我儘になると心配を封じ込め、話を転換することにした。
「それでこの三日間はどう過ごしましょう?僕としては
「ベルの仰る通りです。ベルも私も様々な方にお世話になってますから、挨拶をきちんとお伝えすることは肝要かと。私もミア母さんや同僚達に挨拶をしておきたいですし。何より…
「それは…確かにそうです。リューの仰る通り
一瞬にして考えを一致させたリューと僕はそう言って表情を複雑にしつつも頷き合う。
実のところ未だ僕達が
人目に付かないようにと『竈火の館』などには近寄らないようにしていたため、話をする機会を失っていたのだ。
…デートしている時間があるなら伝えるべきではないのかという点はリューも僕も今の今まですっかり忘れていたということで。
ともかくとして三日のうちに僕もリューも挨拶をしておきたいお世話になった皆さんには会っておかなければという考えが一致するのはある意味で当然であった。
加えて
その考えの延長線か今度はリューの方が口を開いて、一つの提案をしてくれる。
「あと少なくともシルやアーデさんと共に
「あっ…あー」
リューの提案したのはシルさんとリリと一緒に
…リュ―の言うことは間違っていない。確かに密会という形を何度も取っていると目撃されたり尾行されるリスクも高い。そのリスクを考えれば同じ場所に住むべきなのかもしれない。
だがリューは忘れている。
こんな生活を送れているのはシルさんとリリがいないからであるということを。
「でも…リューは良いんですか?」
「何が…ですか?」
「…シルさんとリリがいたら、二人で肩を寄せ合ってお話がしにくくなりますよ?抱きしめ合ったりするとシルさんには揶揄われて、リリには冷たい視線を向けられたりするかもしれませんよ?」
「はっ…!」
僕の指摘にリューはハッと息を飲む。
リューもどうやらシルさんとリリがいないことによるメリット…僕達が二人でいることがいかに大事かようやく気付いてくれたらしい。
「そう…ですね。ベルと肩を寄せ合ってお話しできなくなることも抱き締め合うこともしにくくなるのは…非常に望ましくないです。もしそんな事態に立ち至れば私は気が滅入ってしまいそうで…」
「なら絶対にダメですよ!だからシルさんとリリとは
「そっ…そうですね。今の生活もとても大事ですから…ベルがそれで問題ないと仰るなら…」
「もちろん問題はないです!リューとの二人での生活が一番です!」
「なら…このままと致しましょうか」
こうしてリューを説得できた僕はリューと二人だけでの甘い生活を守り通した。
…ただし
それはともかくとして
ちなみに食事を終えた後リューを滅茶苦茶抱き締めて、一杯温もりを交換し合ったのは言うまでもない。
今回はつわりに関して取り上げてみました。ようやく『愛育日記』らしい内容を盛り込めた…と言った所ですか?(分かりませんが)
本当はつわりは早いと四週間目から始まるらしく、現状八週間目なので本格的に取り扱うには遅すぎるんですけどね!
この辺りは経験則ではなく調べながらの描写ですので間違っている説もあり、その辺りはご容赦を。
一応補足としてつわりの症状を…
吐き気・嘔吐・全身倦怠感・頭痛・眠気・匂いに敏感になる・食べ物の好き嫌いが変化し、食欲が減退、または増進する(この症状に関してはwiki参照・描写や対処法に関しては色んなサイトを調べてます)
ともかくつわりは辛いんだよ、というお話です。
この辛さの中で色々な苦難を乗り越えるのって相当大変なのでは…と思ってしまう作者(+まず苦難の根源を事前に取り除くべきでは?と心の中で愚痴を垂れてますが)