妖精と白兎の愛育日記   作:護人ベリアス

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【深層】編が長期化している件について
…次回で一応終わります。


希望は二人の手に

「アリーゼ…」

 

 小さく漏れるリューさんの今は亡き仲間を呼ぶ声。

 

 それを聞きながら僕はリューさんの頬をそっと撫でる。

 

 そうするとリューさんはくすぐったいのか少しだけ身体を揺らした。

 

 少し前ほどではないけど、今まででは考えられないほど縮まったリューさんとの距離。

 

 リューさんの綺麗な唇はすぐに触れ合えるほどで。

 

 リューさんの白い肌はほんのりと紅潮しているのが一目で分かるほどで。

 

 リューさんの小さな寝言がこの耳に届くほどで。

 

 

 今僕はリューさんに膝枕をしていた。

 

 

 そんな僕に膝枕されたままのリューさんは時折ぼそりぼそりと寝言を呟くけど、僕が触れても目を覚ます気配は一向にない。

 

 眠りにつくリューさんの表情はとても安らかそう。だから悪い夢を見てるようにはとても見えない。それは僕にとって心安らぐ事実だった。

 

 だってこれまでの眠っている時のリューさんはいつも苦しそうだったから。

 

 僕の存在がリューさんの苦しみを和らげるのに役に立ったなら、それほど嬉しいことはない。

 

 そして気を張り詰めてばかりのリューさんには今だけは休んでもらおうと思った。

 

 だから僕は夢の世界にいるであろうリューさんの邪魔をしないように心掛ける。

 

 …目の前のリューさんが愛おしくて思わず今のように頬を撫でたりと身体が動いてしまったりすることはあるけど、それくらいは許して欲しい。

 

 

 それはそうとリューさんと僕が初めて一つになって心も身体も通わせてからしばらくが経っていた。

 

 何度もキスの雨を降らして。

 

 何度もお互いの温もりを感じあって。

 

 何度も気持ちよさの極致に達して。

 

 リューさんも僕もみんな忘れて快感に身を任せ、お互いの温もりをひたすら求め合った。

 

 その一時は今までの短い人生の中で一番幸せな一時だったと言っても過言ではなくて。

 

 僕はこんな一時を僕にくれたリューさんには一生感謝しないといけない。そしてその感謝をリューさんには一生を掛けてでも伝えていかないといけない。そう思いながらリューさんを包み込んだ。

 

 そしてリューさんと僕が一つになったまま一緒に何度目か分からない極致に達した時。

 

 リューさんはまるで糸が切れてしまった人形のようにぱたりと僕の胸板に身体を預けてしまった。

 

 その時僕はリューさんの身に何が起こったかと心臓が止まりそうなくらい動揺した。だがリューさんが小さく寝息を立て始めたのを聞き、心底ホッとしたものだった。

 

 そうしてリューさんが眠りについてしまったのを境にリューさんと僕が一つになる心温まる時を終わらせることにした僕。

 

 名残惜しさを感じながらも距離を作った僕は、心地よい気怠さに身を浸すのも程々に動き始める。

 

 一糸纏わぬリューさんの姿に改めてしばらく見惚れてしまった後に当の昔に乾いた服を被せ、僕もまた服を身につけていく。

 

 それで身支度を整えた僕は無造作に地面に眠ったままのリューさんを横たえておくのは申し訳ないと思い至る。

 

 それはほんの僅かな間でもリューさんとの間に距離を作ってしまうのは申し訳なかったし、僕自身直前まで全身で感じていたリューさんの温もりを感じられなくなることに心細さまで感じたから。

 

 

 その結果辿り着いたのは、膝枕。

 

 

 僕とリューさんが触れ合うのは僕の膝とリューさんの後頭部だけ。

 

 全身で温もりを感じられないのは残念だけど、今更リューさんの身体を起こして抱きしめるのもリューさんを夢の世界から呼び戻してしまいそうで危険だった。よって妥協点が膝枕だったのだ。

 

 だけどリューさんの綺麗な寝顔が見れる。

 

 リューさんの鼓動を間近で感じられる。

 

 僅かだとしてもリューさんの温もりを感じることはできている。

 

 僕の心はそれだけでも温まった。

 

 僕は考える。

 

 どうしてなのだろうか?

 

 リューさんを一人にしたくないと思って。

 

 リューさんのそばにずっといたいと思って。

 

 リューさんの温もりを感じたいと思って。

 

 その結果リューさんと僕は心も身体も一つにした。

 

 その事実が僕の心を温める。今までに感じたことのないようなポカポカとした感覚を覚えるのだ。

 

 どうして?

 

 リューさんの寝顔を眺め、リューさんの頬を撫でながらその温もりを感じる中僕は考えを巡らせる。

 

 そうして至ったのは一つの答え。

 

 その答えは僕にとっての正義(希望)になり得ることで。

 

 その答えはリューさんにとっての正義(希望)であることも願わずにいられないことで。

 

 その答えの名前は…

 

 

「んん…」

 

「あっ…リューさん?」

 

 僕があと少しで答えを出そうとした所でリューさんは小さく声を漏らしてうっすらと目を開いていく。

 

 それを見て、思わずリューさんの頬に触れたままリューさんの顔を上から覗き込んだ僕とリューさんの視線は自然と絡み合うことになった。

 

「あぁ…ベル…」

 

 リューさんは僕の名前を呟いたかと思うと、ゆっくりと手を伸ばし頬に触れたままだった僕の手に触れる。その反応にリューさんの頬を撫ですぎてリューさんが目を覚ましてしまったのではと不安を抱く僕だったが、その不安は杞憂でしかなかった。

 

「…なるほど。ベルが私に触れていてくださったから夢の中でもあんなにも温かく心地よかったのですね…ありがとうございます。ベル」

 

 リューさんはそう言うと、感謝の印とばかりに僕の手をリューさんの口元に引き寄せる。

 

 そしてリューさんはその柔らかい唇で僕の手の甲に優しくキスをしてくれる。

 

 あまりに自然にリューさんが動いたので僕の方が上手く反応できず恥ずかしさまで覚えさせられる。

 

 そうして恥ずかしさで頬を赤く染めているであろう僕を見てクスリと笑ったリューさんは呟いた。

 

「…ベル?私は眠ってしまっていたのですか?」

 

「あ…はい」

 

「ふふ…そうですか。ベル…?私はベルに温もりをたくさん感じて頂けるようにできましたか?」

 

 微笑みと共に告げられたリューさんの確認。それに僕は即座に頷いて応える。

 

「ええ。もちろんです。僕の心も身体もリューさんの温もりでいっぱいです」

 

「ありがとうございます。ベル。そう言って頂けて私は嬉しいです」

 

「その…僕はリューさんに温もりをたくさん感じてもらえるように頑張れましたかね?」

 

「当然です。私の心も身体もベルの温もりで満たされています。こんなにベルに温もりを与えて頂けるなんて…私はとても幸せです」

 

「そっ…それは良かったです」

 

 僕が答えと共にリューさんと全く同じ質問をリューさんに告げる。

 

 そうするとリューさんは同じように応えてくれて、僕の答えにリューさんが微笑みで喜びを示してくれたように僕も笑顔で喜びを示そうとする。

 

 だがリューさんがその言葉を無意識にか意識的にかは分からないが、お腹を撫でながら言うものだから僕は思わずドキッとして言葉を詰まらせてしまう。

 

 …その…リューさん?そんな嬉しそうにお腹を撫でないでくださいね?僕の温もりが直接リューさんを満たしているのは事実と言えば事実ですけど…

 

 その何と言うか…エッチです…

 

 そんなリューさんが聞いたら怒るか怒らないか不安になることを考えていると、リューさんは続けて言う。

 

「ベルのお陰で私の不安も和らぎました…だから私はもう逃げません」

 

 リューさんは先程までとは打って変わった真剣な表情でそう宣言すると、ゆっくりと身体を起こす。

 

 もう少しリューさんに膝枕をしながら距離を縮めたままでいたいと心で思っていた僕は何かまずい展開になっているのではと、小さな不安を抱く。

 

 だが真剣そのもののリューさんの言葉に横やりを入れる訳にもいかず、身体を起こしたリューさんを見つめる。

 

 …せっかく真剣な雰囲気を作り出そうとしたリューさんが申し訳半分に被せてあった服がぽとりと滑り落ちたせいでリューさんの背の素肌はすっかり僕の目の前に露わになってしまい、今更のように耳まで真っ赤に染め上げて慌てに慌てるリューさんを見なかったことにしながら。

 

「んっ…んっ…さてベル。ここに来てから如何ほど経ちましたか?」

 

「えっと…恐らく四時間ほどかと」

 

「分かりました。あまりここに長居するのは得策ではありません。そろそろここを発つ準備をしましょう」

 

 リューさんは雰囲気を見事に壊した自らの失態を誤魔化すために小さく咳払いをしたかと思えば、この休憩の場を発つことを提案し、身体を起こすだけでなく立ち上がろうとまでし始める。

 

 リューさんの言葉は理に適っている。いくら安全そうとは言え、いつまでもここに留まっていても状況は打開できない。

 

 …というかリューさんと僕はお互いの温もりを求め合うあまり自分達がどれだけ危険な状況に陥っていたのかすっかり忘れていた。

 

 僕だけではない…よね?

 

 そうぼんやりと考えながらリューさんを眺めていると、リューさんは時折僕の付けた赤い跡に驚いては頬を緩め撫でて…という何とも進捗が進まない着替えを進めていた。

 

 僕に背を向け着替えを進めるリューさんの時折垣間見える表情に悲壮感は感じられない。

 

 これから悪夢のように辛かった【深層】の戦いに身を投じなければいけないというのにリューさんはまるで躊躇や恐怖を感じていないかのよう。

 

 リューさんは驚いたり顔を赤くしたりと表情をコロコロと変えて、先程は一瞬真剣な表情を見せてくれたけど張りつめているかのような様子は一切見られない。

 

 …確かにこんな表情をリューさんができるということは、リューさんにとってとてもいいことだとは思う。リューさんがこんな柔らかい表情をいつもしていられたら、と思いもする。

 

 だがこの状況下でその表情と雰囲気はあまりに奇妙だった。

 

 ダンジョンと向き合う時のリューさんは緊張を絶やさず冷静で…そしてどこか死を受いれているような雰囲気があった。

 

 なのに今のリューさんはいつものリューさんとはまるで違う。…申し訳ないけど、何とも言い難い違和感と不気味さを感じずにはいられない。

 

 見慣れないからこその違和感だろうが、見慣れない表情と雰囲気を覗かせているリューさんに何かしらの変化があったのは明らか。

 

 そして見慣れないリューさんがどう行動するかはリューさんの変化を明確に理解できない僕では読めないとなる。すると不測の事態もあり得ないとは言えない。

 

 …つい直前にも僕はリューさんの気持ちと覚悟を見抜けずに危うく命を落とさせてしまうほどだったのだから。僕はリューさんの心の動きをきちんと掴んでおかないと後悔すると思った。

 

 だから僕はここを発つ前にリューさんにきちんと今の心境などを聞き出さなければならないと決心する。

 

 そしてその一端が僕にあるのではと疑うからこそ尚更リューさんがこうなった理由を探ろうと、身支度を整えつつあるリューさんに声を掛けた。

 

「リューさん?ここを発つのは僕も賛成なんですけど…ちょっとお時間を頂けませんか?」

 

「…えっ…?」

 

 僕の求めにリューさんはピタリと動きを止め、僕の方を振り返る。ただなぜか頬をポッと赤くして。

 

 そのリューさんの表情に僕は不思議に思っていると、リューさんは思わぬことを口にした。

 

 

「…もう一度…はダメですよ?確かにもっとベルと触れ合いたいのは山々ですが、流石に身体が持たないというか何と言うか…」

 

 

 …

 

 …なるほど。

 

 リューさんは確かに思わぬ所で盛大なポンコツっぷりを発揮するけど、これは流石におかしい。今のリューさんは完全にダンジョンと向き合うための心構えを欠いているように思える。

 

「リューさん。一度座ってください」

 

「だから…ベル…」

 

「リューさん。とにかく一度座ってください」

 

「え…はっ…はい」

 

 僕はリューさんに有無を言わせず座ってもらうように求める。

 

 リューさんは僕の断固とした態度に動揺したようだったが、僕の求めに素直に応じ僕の前に正座で座った。

 

 そうして再び距離の縮まったリューさんの目をじっと見ようとして…先程までの事をつい思い出して思わず二人揃って視線を逸らすという間の抜けたことをしながらも僕はリューさんに尋ねた。

 

「…リューさん?今のリューさんは何と言うか…いつもと雰囲気が違うように思えます。気が緩んでいるというか何と言うか…一体どうしたんですか?」

 

「そう…ですか?それは…」

 

 僕が咎めるような視線を向けつつ尋ねると、リューさんはやはりと言うか気付いていなかったようで驚きを見せつつ目を伏せて考え始めた様子。

 

 そしてリューさんの言葉の続きを待っているとリューさんは視線を僕の元に戻すと語り始めてくれた。

 

「それは…気が緩んでいるのではなく正義(希望)が私に再び宿り、心の支えを手に入れることができたたお陰で精神的に余裕ができたからだと思います」

 

「心の支え…つまり今までのリューさんがいつも張りつめた表情をしていたのは心の支えがなかったから…ということですか?」

 

「…言うなれば。私はお察しの通りいつも死に急いでいました。ずっと今は亡き仲間たちの元に逝きたい…そう願ってきました。そのため常に死を求めると同時に死の恐怖と戦っていたと言っても過言ではないと言わざるを得ません。そのためベルには私の表情が常に張りつめているように見えたのでしょう。…今回のベルとの逃避行では特に。しかし…」

 

「しかし?」

 

 僕は少しだけ言葉を出すことを躊躇するリューさんを急かすように繰り返す。

 

 その言葉の続きには僕が聞きたい言葉が続く。そんな直感があったから。

 

「しかし…今の私は違います。私には正義(希望)があります。私は未来が欲しい…時間が欲しい…そう久方ぶりに思うことができました。だから…私は決して死ぬ訳にはいきません。どんな苦難であろうと、乗り越えられるか否かではなく乗り越えなければならないと考えています。よって今の私にとっては【深層】のモンスターであろうと、【厄災】であろうと恐れる理由がありません。私の正義(希望)を汚そうとする物は何物であれ正面から突破します。ベルと私が支え合えば…不可能などありません」

 

 リューさんは確固とした決意を込めつつそう語る。

 

 つまり…リューさんから張りつめた雰囲気が消えたのは生き残るための絶対的な正義(希望)を手に入れたから?

 

 リューさんの頭の中からは死という可能性自体が消し去られた…そういうことか?

 

 そうリューさんの言葉から推測を立てた僕はホッと小さく息を吐いた。

 

 良かった…本当に良かった…

 

 リューさん自身吐露した通り今回の逃避行でリューさんはずっと死に急いでいるような行動が多いことが気になっていた。そしてリューさんは実際僕を助けるために躊躇なく命を捨てようと何度もしていた。

 

 それはリューさんにとっては本望なのかもしれないけど、僕は全く望んでなどいない。リューさんを犠牲にして生き残るくらいなら運命を共にする方が何倍もいい。そう僕は思っていた。

 

 だがリューさんの心の中から死という選択自体が消えている。

 

 根拠のないただの精神論であるという指摘ができなくもない。

 

 それでも死に急いでいたリューさんがとても強い生への渇望を抱いている。これが大事だった。

 

 僕もまたリューさんと一緒に生きて帰るという生への渇望は強い。

 

 そしてリューさんもまた僕と共に生きて帰るという生への渇望を抱いてくれた。

 

 つまりようやくリューさんと僕の考えが一致したのだ。ようやくリューさんと僕は同じ目的の下協力し合える。

 

 少し前に起きたあってはならない齟齬ももう起きない。リューさんが一人で僕の前からいなくなろうとしない。僕はそう思うだけで心の重しがかなり消えたように感じた。

 

 さらに言うと心も身体も繋がって一心同体になったリューさんと僕にもはや敵などいない。

 

 僕の考えも早々にリューさん色に染め上げられていく感覚がした。

 

 その楽観的な考えを疑う自分もいた。

 

 だがそうでなければ僕かリューさんのどちらかが一方を一人にしてしまうということであり、お互いに温もりを交換し合うこともできなくなる…

 

 そんな最悪の展開など論外である以上、憂いなく戦い抜くためにはその楽観的な考えに染まるしかないとも思えた。

 

 僕が懸念を示しリューさんの不安を煽れば、リューさんの決意が揺らいでしまう。

 

 そうなればリューさんが再び正義(希望)を失ってしまうかもしれず、その後に行き着く先は最悪の結末。

 

 そうならないためにも僕がリューさんの決意を肯定し、リューさんを支える必要がある…そうも思えた。

 

 だから何より目の前で確固とした決意で語るリューさんを信じ、僕もまたリューさんと決意を共にしようと決心した。

 

「その通りです。リューさんと僕が共に生きて帰ると決めた以上僕達の決意を邪魔できる物なんてありません。リューさんの正義(希望)のため。僕自身の正義(希望)のため。僕達はどんな苦難だって乗り越えます。ですよね?リューさん?」

 

「ええ。ベルの仰る通りです。それで…私からも一つ確認をさせて頂いてもよろしいですか?」

 

「もちろんいいですけど…何でしょうか?」

 

 僕の言葉にリューさんは満足げに頷く。リューさんはさらに自信を深めた様子で戦い抜くための覚悟をより強固にしているようだった。

 

 ただその後に続いたのは僕の目を伺うように告げられた許可を求める言葉。

 

 その確認の内容に関心を抱きつつ答えた僕にリューさんは遠慮がちに尋ねてきた。

 

「その…ベル?ベルは私にもベルにも正義(希望)があり、そのために苦難を乗り越える…そう仰いました。ならばその正義(希望)は…私とベルを繋ぐ正義(希望)は…一体何だと思いますか?」

 

 リューさんが尋ねてきたのは僕にとって、リューさんにとって、そしてリューさんと僕を繋ぐ正義(希望)とは何か。

 

 リューさんはあえて『私とベルを繋ぐ正義(希望)』は何かと尋ねてきた。

 

 それはつまりリューさんと僕の心が繋がっている証であり、リューさんと僕の身体が繋がったきっかけになったもの。

 

 お互いの温もりを求め合っている間は僕には何だったか分からなかった。

 

 リューさんの温もりを感じるので一生懸命で。

 

 リューさんに温もりを感じてもらうのに一生懸命で。

 

 考える余裕もなかった。

 

 だが落ち着いてリューさんと視線を交し合うことができている今の僕にとってそれは明確なこと。

 

 僕は確かに今僕の中にある正義(希望)をきちんと見据えることができている。

 

 僕の正義(希望)は…

 

 それを言葉にしようと口を開きかけたものの、それよりも先に僕の沈黙を受けて待ちきれなかったのかリューさんが言葉を紡ぎ出していた。

 

「ベル?私は私とベルの正義(希望)が一致していると信じています。だからベル?一緒に答え合わせをしませんか?」

 

「…っ!もちろんです!」

 

 リューさんが言葉にしたのは僕への信頼。

 

 それと同時に見つめ合う僕達の正義(希望)は言葉にせずとも同じもの。

 

 そう心が通じ合っているのかリューさんも僕も分かっているのかもしれない。

 

 だがリューさんも僕も言葉にして確かめたい。そう思ったのだと思う。

 

 実は違う、なんてこともあるかもしれない。

 

 だけど僕もリューさんも確かめたかったんだと思う。

 

 

 リューさんと僕を繋ぎ、僕達に生きて帰りたいと思わせる正義(希望)の正体を。

 

 

「リューさんと僕を繋ぐ正義(希望)は…」

 

「私とベルを繋ぐ正義(希望)は…」

 

 

「「愛だと思います」」

 

 

 

「…っ!ベル!」

 

「リューさん!」

 

 リューさんも僕も溢れる喜びを抑えきれず互いの名前を呼び、そのまま距離を縮めて抱き締め合う。

 

 リューさんと僕の心が繋がっていることを証明するように綺麗に重なり合った言葉。

 

 僕達の考えは完璧に同じだった。

 

 リューさんにとっても僕にとっても正義(希望)は同じ。

 

 それは愛であった。

 

 愛を確かめ合うために温もりを求め合い、愛を失わないために生きて帰ることを決意したということ。

 

 リューさんにとっても僕にとってもいつからその正義(希望)が愛になったのか今となっては分からない。

 

 だがこれまでリューさんと僕が自身の命よりも相手の命を尊び、進んで死地に赴いた理由にようやく説明がつく。

 

 リューさんも僕もお互いを結ぶ愛という正義(希望)を守るために戦い抜いたのだ。

 

 そしてその正義(希望)がリューさんと僕の間で一致したということは…

 

「つまりリューさんは僕の事を愛していて…」

 

「ベルは私の事を愛している…それは所謂…」

 

 

「「私(僕)達は両想いということですね」」

 

 

 お互いの温もりを確かめ合っていたリューさんと僕は一時的に距離を作り顔を見合わせる。

 

 それは確認のため。

 

 僕達を繋げているのが愛ならば、僕達はどういう関係なのかの確認。

 

 その確認でも見事に声を揃えて考えを共有できていることを確認できたリューさんと僕はその『両想い』という事実を噛み締める。

 

 そしてリューさんがゆっくりとその瞳を閉じたのを見て、僕はリューさんの意図を瞬時に察する。

 

 

 リューさんは誓いのキスを求めてるんだ。

 

 

 僕達を繋げる正義(希望)が愛であるという証明を。

 

 その正義(希望)が決して消えさえせないという誓いを。

 

 それをキスという形で果たそうとリューさんは提案してくれているんだ。

 

 リューさんは言葉にはしなかった。

 

 けれど僕はリューさんと心で繋がっているから、そして僕自身それを望んでいるから僕は行動に移すことにした。

 

 キスなら少し前まで何度も何度も交わしてきた。

 

 だが今回のキスは意味合いが大きく違う。

 

 これまでのキスはただお互いの温もりを感じあうためだけのもの。

 

 けれど今回のキスはリューさんと僕が確かめ合った愛という正義(希望)のためのもの。

 

 その正義(希望)が僕達二人の物であることを証明するため。

 

 その正義(希望)をこれからも守り抜くという誓いのため。

 

 僕はその意味を深く噛み締めながら距離を縮めていく。

 

 そして再び触れ合うリューさんと僕の唇。

 

 何度目か分からないキス。

 

 だけど今回のキスは今までで一番心に染みわたり、幸福を感じさせてくれるキスだった。

 

 お互いの背に腕を回し、お互いの温もりに貪欲だけど優しさに満ちた抱擁と共に降らされるキスの雨。

 

 どれだけの間触れ合っていたか覚えていられないくらい僕の思考が蕩けてしまったかと思うほどの甘い甘いキス。

 

 

 僕はこのキスを一生忘れない。そう心に誓った。

 

 

 …何か大事なことを忘れている。そうぼんやりと感じながら。




【深層】のモンスター?【厄災】?

そんなの愛の力で粉砕☆

…という中々にやばい精神論に染まり始めたリュー×ベル。プロローグでの極度の思い込みは【深層】での極限状態によって養成され始めたのは事実です。
…と言うかもう【深層】の極限状態とか何それ?状態なくらいべたべたしてるんだよなぁ…このリュー×ベル。…結局状況の深刻さをすっかり忘れてしまったポンコツどもでした。
尚今作において危機を打破するのは隠れスキルでもステイタスでも魔法でもなく愛の力です。ここの点は非常に大事ですからね!()

リューさんは理想主義者寄りの傾向があるのでそういう精神論を平気で信じ込みます。(そして同じように理想主義者寄りの作者はそれを実現させる方向で作品を描いていく、と)
ベル君を精神的支柱にし始めたリューさんではありますが、リューさんにはもう一つの正義が既に宿っています。ということで現状はあくまで過渡期にすぎないということを記しておきます。
リューさんは旦那と子供どっちを優先するんでしょうね?非常に気になります!(それを作者が描いていく予定な訳ではありますが)
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