妖精と白兎の愛育日記   作:護人ベリアス

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ようやくリューさんとベル君は退院!ですが問題は山積み!(白目)
その問題を今回は提示していきます。


募る危惧は漠然と

【深層】を脱出してから、二週間が経った。

 

 あれからアミッドさんの忠告と叱責のお陰もあって、ある意味真剣に自分の身体の療養に注力するようになったリューさんと僕。

 

 療養に注力しアミッドさんに言われた通りに余計なことをしないようにしつつたまに僕の方からこっそり手を繋ごうとしてみたり、お互いのベッドの距離を少し縮めたりと自制あるイチャイチャで収めるように努めた。

 

 これまではリューさんの方から求めてくることが多かった分、ときどきとは言え僕から求めるのは中々に気恥ずかしいものがあった。だがその気恥ずかしさもリューさんの笑顔が見られるなら全く問題はない。…アミッドさんのお怒りを買うのを避けられたという意味でも。

 

 だってその時だけはリューさんに笑みが絶えなかったから。

 

 見つかるか見つからないかのスリルを楽しんでいたからなのかもしれない…と思ったりもする。確かに僕自身アミッドさんに見つからないように触れ合うのは中々に楽しかったというのは否定できない。…何だか妙な趣味が生まれてしまいそう。

 

 ただこのことに関して大事なのはリューさんが『その時だけ』笑みが絶えなかったという点。

 

 つまりリューさんは他の時はほとんど笑顔を浮かべていなかったということ。

 

 …リューさんの様子がアミッドさんによる応急処置が終わってからおかしいのだ。

 

 それから療養に専念できるようになったのはリューさんが面会謝絶をアミッドさんに求めたから、という点は大きい。確かにアミッドさんは僕達が変な行動をしなくなるならとあっさり許可を出してくれたけど、別にアミッドさんが面会謝絶にすべきと言ったわけでは決してない。

 

 即ちこれはリューさん自身の望み。

 

 …その望みを無視できない僕が賛成した結果は以後の面会をした回数が二回しかないというだけでもはっきり分かる。

 

 一回目はファミリアのみんながお見舞いに来てくれた時。

 

 …ただこの時もリューさんは必要最低限の挨拶をした後は何かを考え込むようにほぼ沈黙を保ったまま。

 

 一応事前にリューさんは僕にファミリアの仲間としっかり話すことを勧めてくれていたから、気を使ってくれていた…とも考えられるけどそれだけとはあまり思えない。

 

 リューさんは単に僕に気を使っただけなのか。それとも何か別の意図があってのことなのか。そこはリューさんに尋ねないとまずいかもしれない…のにきちんと聞けないまま時が経っているというのもまた事実。

 

 そしてそのリューさんの態度に何とも言えない不安を抱いてしまった僕であったが、それ以降は誰が気を利かせてくれたのかは分からないがファミリアのみんなが面会を求めてくることはなくなった。そのお陰でリューさんの違和感ある振る舞いを以後見ることはなくなった。

 

 …それが良かったわけでは決してない。

 

 リューさんがなぜあのような態度に出たのか探る機会を失った上に、リューさんと恋人になったことまで伝えそびれた。

 

 …みんながリューさんと僕の無事を心から喜んでくれているのを聞いたら話す機会を逃してしまったのだ。お陰で二週間も経ってから伝えるとなると遅い気もして少々気が重い。

 

 ただリューさんの表情が憂いで満ちるよりは何倍もマシだとは考えられる。

 

 だが一回目のファミリアのみんなとの面会で感じた問題以上の問題が二回目の面会でははっきりと突き付けられた。

 

 二回目の面会の相手は【ガネーシャ・ファミリア】団長のシャクティ・ヴァルマさん。

 

 リューさんのかつての戦友で同じ正義のために戦った方。

 

 このシャクティさんがわざわざお忍びで僕達の病室を訪れたのは、僕達の置かれた立場を伝えるためで…

 

 その伝えられた立場から分かることは僕達の前途には【深層】で考えていたより…いや、予想さえもしていない苦難が待ち受けていたことを思い知らされた。

 

 …その苦難にどう立ち向かうか考えるのを結局のところ療養を名目に避けていたのもまた事実。

 

 シャクティさんの話を聞いた前後にリューさんの様子に変化は特別感じられなかった。

 

 だがそれはリューさんはそれ以前から何かを考え込んで表情を険しくしていることが多かっただけのこと。

 

 リューさんが僕と同じショックを受けたのは多分確実でリューさんがシャクティさんの話を聞いて悩んでいるのは確実。良いことなど全くない。

 

 今日でようやく退院の許可が出る。

 

 それはようやく誰にも邪魔されずリューさんと触れ合えるリューさんにとっても僕にとっても喜ばしい日ということで。

 

 それはそろそろ苦難の待ち受ける前途と向き合わないといけない時が来た日ということでもある。

 

 僕はその前夜寝ずにひたすら考えた。

 

 すやすやと眠るリューさんの寝顔を眺めながら考える。

 

 リューさんは起きている間は何かに悩んでいる様子は明らか。

 

 だがその眠る様子を見るに悪い夢に魘されたりということはこれまでずっと見ていた限りなかった。それは僕にとってのせめてもの救い。

 

 だがこれから襲ってくる苦難を考えれば、こんな風にリューさんが気持ちよさそうに眠ることもできなくなってしまうかもしれない。それは一番避けなければならないこと。

 

 リューさんを再びつらい立場に追い込むことがないように。

 

 リューさんに幸せだけを感じてもらうために。

 

 リューさんに笑顔でいてもらうために。

 

 僕は決めた。

 

 

 退院の前にリューさんとこれからどうしていくかを二人で決めよう、と。

 

 

 

 ☆

 

 

 

「…ベ…ル…?」

 

「おはようございます。リューさん」

 

 考えをまとめた後ずっとリューさんの寝顔を見守っていると、リューさんはゆっくりとその瞼を開く。

 

 どうやらもうリューさんが目を覚ます日の出近くになっていたよう。

 

 …リューさんの寝顔があまりに美しすぎて時間も忘れて見惚れていたというのはリューさんには秘密。

 

 リューさんは目が覚めてすぐに僕の姿を認めると、ふわりと微笑んだ。

 

「…何と言うか…朝起きてすぐにベルとお話しできるのは…安心します。私は一人ではないと分かるからというか…」

 

 リューさんは笑みを浮かべたままそう呟く。

 

 今のリューさんはとても朗らかそうな様子。

 

 これは今日退院であることを楽しみに思い、前途に憂いを抱いていないから?

 

 それとも単に朝目覚めてすぐで思考があまり働かず、前途を直視できていないから?

 

 それは分からないが、少なくとも僕が思うことは一つ。

 

 

 このリューさんの笑顔を守りたいということ。

 

 

 僕は静かに布団から手を伸ばし、リューさんを包む布団の中に滑り込ませる。そして隠れたままのリューさんの手を探した。

 

 その僕の動きに気付いてくれたリューさんは不思議そうな表情を浮かべつつも滑り込ませた僕の手をそっと握ってくれた。

 

「どうしたのですか?ベル?いつもは私が求めないとアミッドさんが…とばかり言って、滅多にベルからは率先して手を繋ごうとしてくださらないのに…」

 

「いやぁ…あは…あははは…」

 

 リューさんは駄々をこねるかのように頬を今にも膨らませそうな表情でそう漏らす。

 

 

 …可愛い。

 

 

 リューさんがわがままっぽいことを言うイメージがないからこそのギャップ?

 

 リューさんがこんな表情で駄々をこねてくれたら手を繋ぐどころかぎゅーと抱きしめてしまいたく…

 

 …とリューさんの魅力に悶えかけたところで何とか冷静さを取り戻す。

 

 …そういえば朝はリューさんがいつもあどけなさ一杯でその可愛さに悶えるあまり重い話を先延ばしにするというのが毎度の展開であったと、冷静になった今だからこそ気付く。

 

 リューさんのこの悩みのない表情でいてくれるのを見ると無理に悩みを与える必要はない…ついそう思ってしまうのだ。

 

 だが今回ばかりは避けることはできない。

 

 前途を見据えず対策も取らずにいれば、望ましくない結末に辿り着くのを避けられない。

 

 僕はリューさんの可愛さに溺れて愛でていたくなる甘えを抑え込む。

 

 そして一度目を閉じて深呼吸をして感情を整理すると、僕はリューさんの手を握る力をほんの少し強くしながら言った。

 

「素直に言うならば、リューさんの温もりを感じたいなって思ったからです。そしてリューさんを決して一人にしないという覚悟を少しでも証明するためにリューさんと手を繋ぎたいなって。…その…たまにリューさんのお願いを断ってしまってすみません」

 

「その点はお気になさらず。今こうやって私の願いを叶えてくださるだけでも私は嬉しいです。ありがとうございます。ベルの覚悟はしっかり私に届いていますよ」

 

 リューさんはそう言うと、笑みを浮かべたまま両手で僕の手を包み込む。

 

 …今のリューさんの表情を歪めるのはすごく気が引ける。

 

 だがそれでも僕は話さないわけにはいかず、覚悟を決めて語り始めた。

 

「そう言って頂けて何よりなんですが…その…リューさん?少し退院する前に話し合いたいことがあるんですけど、よろしいですか?」

 

「…今後に関してですね。分かってます」

 

「…え?」

 

 リューさんは小さく息を吐きながら、僕が話すことを事前に予測していたかのように僕が切り出す前に呟く。

 

 リューさんも今後に関して話さないといけない…そう思っていたということ?

 

 驚きを覚えつつもそう僕が考える中リューさんは目を閉じて言う。

 

「…すみません。ずっとベルときちんと話し合わなけらばならない…そう思ってはいたんです。ですがついつい現実から目を背けたくなってしまって…何よりどうすればいいか分からなくて…ベルが今切り出してくれるまでずっと話をすることができませんでした。ですが…」

 

「ですが?」

 

 リューさんは言葉を切る。それに思わず僕は聞き返すと、リューさんはゆっくりと瞼を開き言った。

 

「ようやく決心がつきました。そしてどう現実と向き合い、どうすればいいかも段々と漠然とですが見えてきたように思えます。…私の話を聞いてくださいませんか?そして私の判断の是非を共に考えてくださいませんか?」

 

 リューさんは僕の目をじっと見つめながら、揺るぎのない視線を向け、僕の助けを求めてくれる。そしてそのリューさんの求めへの答えは言うまでもなく決まっていた。

 

「もちろんです。僕からお聞きしたいこともいくつかあると思うので、その点も含めてだと嬉しいんですがよろしいですかね?」

 

「当然です。共に話し合い解決策を見出し…私達の前に存在する苦難を乗り越えなくてはなりません。私達はお互いを支え合うことを誓い合った恋人同士なんですから」

 

「…っ!はい!」

 

 リューさんの言葉に威勢よく僕は頷く。その僕の反応にリューさんは満足げに頷くと共に早々にこれまで触れることを避けていた苦難へと切り込み始めた。

 

「まずシャクティから教えて頂いた私の処遇に関してですが…」

 

「…リューさんが今回の事件で命を落とした…という設定ですよね。ブラックリストから削除することの引き換えとは言え…あんまりです。生きてる人を…それもリューさんを死んだことにするなんて…」

 

 リューさんが最初に触れた内容について僕は不快感を露わにせずにはいられない。

 

 リューさんが命を落としたことにするなんてまるで表舞台でリューさんに一切活動するなと言わんばかり。それはリューさんの居場所をオラリオから奪おうという結果的に状況とリューさんの立場に一切の変化は与えないという意思表示と大差ないのではないか?

 

 そう考える僕はこの対応に不満を覚えていたが、一方のリューさんは僕とは考えが違うようでホッとしたかのような表情で言う。

 

「いえ…これがシャクティを始めとしたオラリオの治安を司る方々のできる最大限の譲歩だったのだと思います。シャクティに連絡さえすればこれまでのように人助けもしてもいいと聞いたのは私としては大きいです。これまではブラックリストに乗っていたがために情報収集から困難を極め、活動に制限がありました。ですが今後はそれがなくなる。今後は非力ながら少しでもかつてのように困っている方々を助けるためにこの力を生かしやすくなると考えると、嬉しく思います」

 

「人助け…ですか?リューさんは今後も続けるつもりなんですか?その…何というか…」

 

 僕は言葉を詰まらせる。なぜなら続きを話すのは流石にやめておこうとつい思ってしまったから。

 

 …リューさんは人助けとなると相手が僕に限らず無理をすることが多い。

 

 リューさん自身のことを第一に考えて欲しいと思い始めた僕からすれば、今後もリューさんが人助けを続けるのにはあまり賛成し難い。

 

 …何かがあってからではもう遅いから。

 

 僕がリューさんのことを守って、リューさんが僕のことを守る…【深層】で戦い抜いた時のような支え合いだけでもう十分なのではないか?

 

 そう思いかけるが、リューさんの続く一言で僕はその思考を打ち切ることになった。

 

「…私の仲間達の正義でしたから。【アストレア・ファミリア】の正義は…彼女達の願った幸福な世界は…まだ実現できていません。困っている方が一人でも残っているならば…彼女達の願った幸せは掴めません。それにこれはこれまでに迷惑をかけてしまった方々への贖罪という意味もありますから。私はその機会をシャクティが与えてくれたことにむしろ感謝を覚えます」

 

 リューさんの仲間達。【アストレア・ファミリア】。そして贖罪。

 

 …その名前が出されてしまうと僕はもう反論できない。

 

 命を落としてしまった仲間の方達をとても愛していたリューさんを否定することなんてできない。

 

 リューさんに自身が迷惑をかけた方々がいて、その贖罪をしたいと言われたら止められない。

 

 リューさんの思いを否定して止めたらリューさんは今後も苦しみ続けてしまうから。

 

 その苦しみを早々になくせるならば、リューさんは思うままに動いてもらった方が良いように思える。

 

 ただこんな思いも消えなかった。

 

 その正義(希望)は本当にリューさんの正義(希望)を守るために必要なのか、と。

 

 以前リューさんはリューさんと僕を繋ぐ正義(希望)は愛であると確かに言っていた。

 

 …今リューさんが言った正義(希望)は明らかに関係ない。

 

 それは本当にリューさんの正義(希望)ですか?

 

 仲間の方々の正義(希望)であってリューさんの正義(希望)ではないのではないですか?

 

 そう問いたい。

 

 だが僕はあくまでリューさんの考えを尊重したい。

 

 だから僕は小さな頷きと共に納得したフリをした。

 

「…分かりました。リューさんがそう仰るのなら僕は止めません。ただシャクティさんだけでなく僕にも絶対連絡してください。どんな時でも僕は駆けつけますから。リューさん一人に辛い思いをさせたりはしません。何かする時は二人で一緒にやりましょう。いいですよね?リューさん?」

 

「そうできれば何よりなのですが…私が命を落としたという設定のせいで…」

 

 リューさんはそう言いかけた所で表情を歪め言葉を詰まらせる。

 

 …そう。『リューさんが命を落とした』という設定はリューさんと僕の関係に深刻な影響を与えていた。

 

 それは…

 

「…僕と一緒にいるとリューさんが生きてることがバレるかも…ということですね?」

 

 僕の問いにリューさんは辛そうに小さく頷く。

 

 …僕の無駄に高い知名度が心底恨めしかった。

 

 この知名度のせいで僕は四六時中周囲から注目されていると言っても過言ではない。

 

 そのせいでリューさんと不用意に接触すれば、僕と仲のいいエルフとしてリューさんも注目を集めてしまいその行き着く先はリューさんの正体の露見。

 

 命を落としたはずのリューさんの生存が露見すればどうなるか?

 

 つい最近までリューさんをお尋ね者扱いしていたギルドが対応を迫られる。

 

 リューさんに恨みを抱く商会や闇派閥(イヴィルス)の残党が復讐に動き出す。

 

 そうなれば…リューさんは以前の辛い環境に逆戻りする。

 

 …リューさんの笑顔は失われる。

 

 それだけは避けるために何としてでも僕は手を打たなければならなかった。

 

 だがその僕自身がリューさんに害をもたらしかねないというのが凄く恨めしかった。

 

 それでも打てる手は必死に考え、僕は一つの答えを導き出したのだ。

 

「リューさん?僕の本拠で一緒に住むのはどうですか?」

 

「ベルの本拠に…ですか?」

 

 僕の提案にリューさんは目を丸くする。

 

 これが僕なりに考え出した最善策。

 

 リューさんと一緒にいるのを他の人に見られて問題なら見られない場所に住もうというある意味単純な解決策。

 

 その解決策を提案する理由をもちろん僕はすぐに付け加える。

 

「そうです!まだ部屋も余っているのでリューさんのお部屋も準備できますし、何なら僕と同じ部屋ということも当然可能です」

 

「ベッ…ベルと同じ部屋!?」

 

「さらにリューさんと僕の信頼できる方々しかいない僕の本拠なら二人で一緒にいるのが見られても何の問題もありません。今までのように鍛錬とかで外で待ち合わせ…みたいなのもせずに済みます。リューさんと僕は本拠の中ならいつでもずっと一緒にいられるんです!」

 

「ベルと…ずっと一緒…」

 

「どうですか?リューさんは今日から僕の本拠で一緒に同居するんです。『豊穣の女主人』には後で僕が連絡しておきますから、取り敢えず今日僕の本拠に来ませんか?」

 

 僕の説得にリューさんは表情を蕩けさせる。リューさんが僕の提案に乗ってくれると確信しつつ僕はリューさんの言葉を待つ。

 

 要はこの提案はリューさんを一人にしないという僕の約束とリューさん自身の願いに沿った提案。

 

 そして本当は別の意図もあるが、僕はあえて口にしない。

 

 リューさんの表情から察するにリューさんは僕の提案を受け入れてくれる。そう確信していたが…

 

 

「いえ…申し訳ありませんが、お断りせざるを得ません…」

 

 

 …ぁ…れ?

 

 リューさんは蕩けた表情を一変させて悲しげに目を伏せつつそう言う。僕は完全に想定外の反応に言葉が出てこない。

 

 僕のショックを受けた表情を見てかリューさんは少し慌てて付け足す。

 

「あの…!決してベルと一緒に暮らすのが嫌な訳ではないのです!ただ…」

 

「ただ?」

 

 リューさんが言い訳のように付け加えようとするのでついつい若干食い気味に僕は聞き返してしまう。

 

 が、僕は大事なことをいくつも見落としていることを気付かされることになる…

 

「ただ…私とベルが恋人になったことをベルのファミリアの方々にお伝えしていないので、いきなり移り住むとお伝えすれば多大なご迷惑をお掛けしてしまいそうです…」

 

「…ぁ」

 

 …確かにそう…だ。

 

 神様とかリリが簡単には納得してくれなさそう…そしてその口論をリューさんに聞かせてしまうと、リューさんが一緒に住みたくないと考えてしまいそうなだけでなくリューさんを苦しめてしまう結果に終わる…

 

 ファミリアのみんなにリューさんと僕が恋人同士になっていないことを伝えなかったことが早々に問題として露見した瞬間であった。

 

 ただリューさんが述べたのはそれだけではなかった。

 

「それに…私はまだ『豊穣の女主人』の店員ですので勝手に辞めることはできません。…ベルと一緒に暮らせないのは非常に心苦しいですが…私は『豊穣の女主人』に戻ります」

 

「でも『豊穣の女主人』にはたくさん冒険者の方が来ますし、普通に店員をして顔を見せているとまずいのでは…」

 

「そこは恐らく問題ないかと。ミア母さんがいますので」

 

「あっ…はい」

 

 リューさんが『豊穣の女主人』に帰ると言ったことに対してリューさんの安全面で反対しようとしたものの、『ミアさん』の名前が出された瞬間に僕はあっさりと論破されてしまう。

 

 …確かにあのミアさんがいる時点で僕の本拠よりも安全な…気がしてくる…

 

 ただその安全はリューさんの身体的面の話であって。

 

 リューさんの精神的な面で安全かは話が別で。

 

 リューさんの態度に異変が生じ始めた『あの時』を考えれば、僕は『豊穣の女主人』に戻ることを反対し続けずにはいられなかった。

 

「でもリューさん…?やっぱり僕の本拠に来ませんか?僕が絶対すぐに話を通してリューさんと一緒に住めるように手配しますし…」

 

「ベル。それはまだ無理です。私には『豊穣の女主人』で解決しないといけないことがあります。…それが解決できるまでは私はベルと共には暮らせません。…ベルは二人で暮らすことが如何に危険か理解しています。にも関わらずその危険を犯す手段を敢えて取ろうとしています…これは恐らく私が『豊穣の女主人』で解決しようとしていることが何か察しているからではないですか?」

 

「…そうです」

 

 …リューさんの言う通り僕には分かっている。

 

 リューさんの態度になぜ異変が生じ、リューさんがなぜ『豊穣の女主人』に戻ることにこだわっているのか分かっている。

 

 

 それは明らかにシルさんがリューさんの耳元で何か呟いたのが原因であることが。

 

 

 何をシルさんが言ったのかは分からない。

 

 だがその言葉の影響でリューさんが考え込むようになったのは明らか。

 

 …問題がない訳がない。

 

 リューさんとシルさんが向き合えば、『何か』が起こってしまう。

 

 取り返しのつかない『何か』が。

 

 だから僕は一時的でもなんでもリューさんに僕の本拠に住んでもらい、シルさんと距離を取ってもらおうと考えた。

 

『何か』が起こってからでは遅い。

 

 だけど…

 

「ベル?心配は一切必要ありません。何があろうと私のベルへの愛は変わりません。だから何の心配もなく私を送り出してください。私は迷惑をかけることなくベルと共に暮らすことができる環境をまず整えたいのです。私の考えは分かって頂けますか?」

 

「…もちろん…です」

 

「ならば二人で一つずつ問題を解決していきましょう。そうすれば私達の前に立ち塞がる苦難を乗り越えることができます。急ぐ必要はありません。一つ一つ確実に解決していくべきです。私達には時間はいくらでもあります。だから危険を犯してでも一緒に暮らすのは策として望ましくありません。…もちろんベルと一緒に暮らしたいのは山々ですが…」

 

 リューさんは僕の手を包み込む力を強くしつつ言葉を紡いでいく。

 

 僕と一緒に暮らせないことに口惜しさを隠し切れていない様子がありありと分かるからこそ僕はリューさんの考えを尊重しなければならなかった。

 

「…リューさんのお気持ちは重々理解してます。…分かりました。ひとまずリューさんは『豊穣の女主人』に戻るということにしましょう。ただ一応僕達がお付き合いを始めたことはみんなにお伝えして、いつでも一緒に暮らせるように話を通しておきますが問題ないですか?」

 

「ええ。そういう形でお願いします。もし私からの説明が必要であれば、いつでもお伝えください」

 

「分かりました。…じゃあ…取り敢えず決めることはこれくらいですね?そろそろ起きる準備しますか?」

 

「そうですね…すっかり外も明るくなってきてますから」

 

 そうしてリューさんと僕の繋がれていた手は離れた。

 

 リューさんの考えを尊重したいと考える以上僕は仲間の方達の正義を引き継ぎシルさんと向き合うことに反対する訳にはいかない。

 

 だが…リューさんに『何か』を引き寄せてしまうのではないか…?そう思わずにはいられない。

 

 ただでさえリューさんの立場は不安定なものなのに、である。

 

 不安をどうしても拭いきれない中、僕とリューさんは退院への最後の準備を進めることになった。




リュー×ベルって如何にも相思相愛になれば普通に成就するみたいな風に思われてますが、前途には超たくさん苦難が待ち受けてますと考えます。
取り敢えず今回提示した三つをイチャイチャしながら正面から突破していくのが今後の課題となります。

第一にはリューさんが命を落とした設定になったこと。原作ではしがらみがなくなったと書いてありましたが、実際は『普通に生きていく分には』なんですよねぇ…リューさんみたいに表でついつい暴れちゃう人には意味ないんです。
生存がバレた瞬間にギルドも恨みを抱く人々も動かざるを得ませんから。何せリューさんは元ブラックリストに登録された所謂犯罪者で取り消し理由が名誉回復ではなく『死亡』なんですからね…(名誉回復はあくまで世間での話。ついでに言うと死亡したからこそ印象が改善された説もあり得るかと)
よってリュー×ベルが現状で安全に暮らすには真面目にイチャイチャするのみに留める。ダンジョン探索も人助けもしない、という条件があると思います。
そのお陰でよく流れる【ヘスティア・ファミリア】加入説はリューさんの生存がバレるという点でご破算してます。注目度が高いベル君のそばにいたらリューさんの正体なんてすぐ気付かれます。そうなればリューさんの立場は逆戻りして、警戒を解けない日々を送る羽目になります。(まぁこれまで以上に周囲の警戒は厳重なので問題ないと言えばないですが…)
なのでここは解決必須です。あの対策はあくまで応急処置に過ぎないんです。
リューさんは何かしらの方法で表舞台で活動できるように認めさせるか。それとも陰で安全に暮らしていくことを選ぶか。
…普通流せないと思うんですが、原作ではスルーっぽいですよね。本来後者で平穏に済ませればいいものをそうはいかず…ダンジョン探索に駆り出したらまずいのに…
その上早々に外伝12巻で多くの人間に生存を知られるような危ない橋を渡るリューさん…世界の危機とは言えあまりにも軽率なんだよなぁ…
まぁ最初からブラックリスト登録されているのに平気で暴走する(覆面しててもほぼ意味なし)リューさんに死人認定された程度で自重を求めるのはほぼ不可能だと思いますけど!
ここら辺原作はどうなるのやら…と思いつつ今作は進んでいきます。

ちなみに第一作では功績を挙げてリューさんの立場を認めざるを得ないという展開に。(よってブラックリストからの削除の理由が死人認定から功績に免じて削除に変更)
第二作ではリューさんが危険分子認定されて『豊穣の女主人』ごと排除という展開に。(その作品でも書きましたが、『豊穣の女主人』は犯罪者や野良の実力派冒険者を抱えた統制の取れない武闘派集団とも考えられますから、危険という解釈は十分に可能)
さて今作ではどう進めるか…

第二にはリューさんの正義(希望)とは?の再提起です。
リュー×ベルが愛し合うことが正義(希望)と扱ってますが、人助けというリューさんの基本行動方針も忘れてはいけないと思います。これまで幾度も自分は扱ってますが、今作ではどう向き合うのかしっかり描きたい所。

第三にはシルさんとの関係。
これは次回以降で解決に向かいます。
シルさんは本当に怖い人だと個人的に思ってますね…(真顔)
可愛いよりも考えが読めないということへの恐怖の方がつい先行してしまう作者。

…とまぁ以上三つの問題と向き合いイチャイチャさせながら今作は進んで行きます。
ここにさらに新しい問題(?)が加わるとか…リューさぁん…(涙目)
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