妖精と白兎の愛育日記   作:護人ベリアス

9 / 37
お気に入り登録、感想ありがとうございます!
励みになってます!

一話状況説明を挟みましたが、今話からは問題の一つ、シルさん問題に突入します。
…作者的にシルさんはすっごく怖いです。ダンまちの中で怒らせたくない相手トップクラス。(戦闘力一切鑑みずで)


同じ希望を宿す親友へ

 日は昇り、辺りは明るい光に照らされる昼時。

 

 私は退院を済ませた後ベルと別れ、久方ぶりに『豊穣の女主人』に帰った。

 

 だが昼時というタイミングが悪く『豊穣の女主人』は昼の開店に向けて準備で忙しい。

 

 結局派手な出迎えを受けることなく今は私が部屋を借り受けている離れへと足を運んだ。

 

 離れはほぼ無人。

 

 ここには火の光もあまり差し込まずぼんやりと暗い。

 

 そう感じるのは私自身の心に影が差しているからかもしれない。

 

 それはきっと今から私がしようとしていることのせいなのは間違いない。

 

『豊穣の女主人』で働く同僚達に帰還を告げることなく真っ先に離れに来たのには理由がある。

 

 そして同僚達の出迎えは受けなかったが、誰の出迎えもなかったというのは嘘。

 

 私の帰還を待っていたかのように離れの外に立っていたミア母さんと一言だけ言葉を交わしていた。

 

 

 それはシルの居場所に関して。

 

 

 シルはまだ出勤せず自室にいる。

 

 そして他の同僚達は全員既に働きに出ている。

 

 そうミア母さんは言うと、すぐに調理場へと戻っていった。

 

 目の前にそびえ立っていた離れに用意されたのは私とシルしかいない状況。

 

 …まるでミア母さんとシルに図られたかのような状況。

 

 これは二人による意思表示に他ならなかった。

 

 

 ベルとの関係についてシルと決着を付けるように、と。

 

 

 私は胸元に手を当てて小さく息を吐く。

 

 …今こうして過去を振り返っているのも躊躇の現れ。

 

 離れの前で逡巡した流れと同じ流れを今私はシルの部屋の前で繰り返している。

 

 私はシルと向き合うのがはっきり言って怖かった。

 

 ベルとのことを話すのに『覚悟』を求めたシルが怖かった。

 

 …『覚悟』を求めた理由など今更考える必要もない。

 

【深層】では忘れていた。

 

 ベルの温もりに溺れ、正義(希望)を得られた喜びに身を浸していた私は思い出せなかった。

 

 だが危機を乗り越えた今では目を背けることさえできない事実が横たわる。

 

 

 シルもまた私と正義(希望)を抱いていたということベルへの愛という正義(希望)を。

 

 

 …再び胸元に手を当てる。

 

 心臓の鼓動早くなるばかり。

 

 シルは私の親友で。

 

 ベルは私の恋人で。

 

 シルは私の恋人を愛している方で。

 

 ベルは私の親友の愛する方で。

 

 今顔を合わせて正面から向き合えば『何か』を失う。私にとって何物にも替え難い『何か』を。

 

 退院するまでの間ひたすら悩んでいた。

 

 それこそベルが懸念した私の身の置き場などよりもずっと悩んでいた。

 

 日陰者で生きるのはもう慣れている。だからそれはいい。

 

 だが私は尊敬し恩を授かり心を救ってくださった親友との関係が壊れることは心の底から怖かった。

 

 かと言って唯一無二の正義(希望)を宿してしまった私はもう引けない。

 

 引けば親友との関係の代わりに全てが壊れる。

 

 私の心も。

 

 私の生きる意味も。

 

 私の正義(希望)も。

 

 全てが壊れる。

 

 だからこそ判断がすぐに下せなかった。

 

 そしてだからこそ私は正面から向き合う他ないという結論に至った。

 

 …結局私は下手な言い訳や小細工をするより正面から挑む以外に常に選択肢を持たないようだ。

 

 そう自嘲しつつ私は胸元に手を当てたまま空いたもう一方の手を戸の前にかざす。

 

 

 …覚悟を決めなさい。リュー・リオン。シルの求める『覚悟』を私はもう既に見出したはず。

 

 

 そう自身に言い聞かせつつ私は戸を叩く音を響かせる。

 

 そしてゆっくりと喉を震わせた。

 

 

「…シル。ただ今戻りました。…少し話をするお時間を頂けませんか?」

 

 

 

 ⭐︎

 

 

 

「お帰り。リュー。完治して何よりだね。あっ…あとお見舞いにあれから行けなくてごめんね!みんな忙しくて…」

 

 私に部屋に入る許可をくださったシルは私が入室すると共に口々にそう言葉を並び立てる。

 

 だが私でも気付かないわけがなかった。

 

 私のことを心配しているような言葉や陽気な声色とは裏腹にその視線がとても冷え切って私を射すくめているかのようなことを。

 

 今浮かんでいる微笑みがただの作り物でしかないことを。

 

 だから私は早々にシルの上辺だけの言葉を遮った。

 

「…シル。私のことなどよりベルのことが…話したいのではないですか?」

 

 そう静かに尋ねる私を見て、シルは即座に言葉を切った。

 

 そしてその瞬間シルの表情からは笑みが消えた。

 

「…そうだね。変に取り繕っても時間の無駄。話は単純明快に…そうリューなら言うのかな?」

 

「…それが私達にとって望ましい手法ならば」

 

 シルは感情の消えた表情を浮かべて私に尋ねてくる。そんなシルに私は思わず一瞬だけ言葉を詰まらせてしまう。

 

 …覚悟していたとはいえ、実際に相対すると私の心は揺らぎ始めていた。

 

 そんな私の心を見透かしてか見透かさずかシルはすかさず言葉を重ねてくる。

 

「じゃあリューは私達にとってベルさんのことをリューが私に話すのが望ましいって思ってるんだ。じゃあ遠慮なく聞こうかな。私前お見舞いに行った時にリューに伝えておいたもんね?ゆっくりベルさんとのことを聞かせてって。話す覚悟をしておいてって」

 

「…その通りです。全て洗いざらいお話ししましょう」

 

「そう。じゃあリューの話したい順ででいいから私に話せる範囲で全て…」

 

 私はシルの要望に応じた。

 

 それは元より覚悟の上。

 

 そして今から取る私の行動もまたその要望に応じる上で必要なものであった。

 

「…いきなり私の前に跪くというのは一体どういうつもりなのかな?リュー?」

 

「…私の覚悟を示す上で必要だと思ったまでのことです」

 

 私はシルの言葉が終わる前に静かに跪いていた。

 

 シルに見下ろされる私。

 

 シルを見上げる私。

 

 この状況こそが私とシルが話す上で必要な状況だと思ったから。

 

 非があるのは私であり、これから私を責めるであろうシルには何ら非はないと思ったから。

 

 この状況がシルの言葉を全面的に受け止める…そんな覚悟を示すことができると思ったから。

 

 ただ私の覚悟を示すのはそれだけではなかった。

 

 私はシルに見下ろされる中自らの懐に手を差し込み、あるものを取り出す。

 

 そうして取り出したあるものをシルに捧げた。

 

「…本当にどういうつもりなの?リュー?私にこの小太刀を受け取れと言うの?それは一体どういう意味で?」

 

「その小太刀の銘は双葉。私の仲間の大切な遺品です。私の意図は追ってお話しします。今はただお受け取りを」

 

「…ふーん。言われなくとも何となく察するけど、リューの説明を待つことにするね。じゃあ話して?リュー?」

 

 私がシルに捧げたのは双葉。

 

 …武器を捧げる理由など説明するまでもなくシルも察しているとはっきり言った。

 

 

 生殺与奪の権をシルに捧げる。そういうことだ。

 

 

 私はそういう形でしかシルに覚悟を示せなかった。

 

 私はそこまでの覚悟をしなければ向き合うことさえもできない。そう結論付けていた。

 

 シルは双葉を等閑に受け取ると、私に説明を催促してくる。

 

 …それに私は顔を一瞬だけ床に落とし一息置く。そしてシルを改めて見上げ、小さく息を吐くとその催促に応じた。

 

「…シルもご存知のことだと思います。そして私は今更言い逃れをするつもりもありません。…シルがベルのことを愛していると知りながら、私はベルの恋人になりました」

 

「…うん。知ってる。それで?」

 

「…私はこれまでシルのベルへの恋を応援していました。それは同僚達にもシル自身にも周知の事実。そして私自身そのつもりでした。私はベルはシルの伴侶になる。そう思っていました。…ですが私の心はそうなることを許さなかった。これはシルへの裏切りです。恩を仇で返す卑劣な所業です。私は親友を裏切り、恩人に仇を成した。その罪から逃れることは到底できません」

 

「そう…なら…」

 

 私が紡ぐのは罪の告白。

 

 私がシルに対してどんな仕打ちを働いたか。

 

 私は一切の粉飾もなく淡々と私の成したことを言葉にしていく。

 

 そして辿り着いたのは罪から逃れられないという言葉。

 

 その言葉にシルは表情を変えることなく行動で応じた。

 

 小さな金属音を響かせながら。

 

 

「今ここでリューを私からベルさんを奪った罪で裁いてもいいということ?」

 

 

 引き抜かれた双葉が私の眼前に突き付けられる。

 

 そうされることは最初から覚悟の上。

 

 双葉を渡した時点からこうなる可能性は折込済み。

 

 今度ばかりは私も動じなかった。

 

 私は剣先を眼前に突きつけられながらもシルに視線をぶつけ、シルの質問に答えた。

 

「ええ。…もしシルがそれを望むならば」

 

「ふーん。私が望めば、リューの命を奪ってもいいんだぁ…すごい覚悟だねぇ…なんて私が納得すると思った?何?リューはそれだけの覚悟があるなら、私は諦められるの?仕方ないね〜って私がベルさんを諦めると思った?そんなに甘くないよ?私?そこまでお人好しでも善人でもない」

 

 シルは私に剣先を向けたまま言葉を連ねる。

 

 私はシルの責を甘んじて受け入れなければならない立場である。私がシルを今苦しめているのだから。

 

 だがそう自分を抑える私でもシルの次の一言には感情を抑えられなかった。

 

 

「何?ベルさんを諦めることがそんな簡単なことだとリューは思ってるの?」

 

 

 違う。

 

 そんな訳がないからこそ私は今こうして私なりに覚悟を示している。

 

 なのにどうしてシルはその私の意図を汲んでくれない?

 

 気付けば声を荒らげ私は即座にシルの言葉に応じていた。

 

 

「簡単なことなどとは思ってませんっっ!!私はベルとのことが重大なことだと思えばこそです!!」

 

 

 唐突な私の感情の昂りにシルは少しだけ驚いた様子。だがすぐに表情は無となり再び責の言葉を紡ぐ。

 

「…じゃあリューは一体何を考えてこんなことをしてるの?説明してみてよ。まぁ私が納得できるとは全く思えないけどね」

 

「…私はシルの立場に立って考えてみました。私の仕打ちにシルならどう考え、シルは何を私にしようとするか考えてみました」

 

「その答えがこれ…リューと私が逆の立場ならリューは私を殺す…そう考えたの?」

 

「…少なくともそれが答えの一つとなり得ると考えました。ですが…私はいくつかの答えを見つけることはできても一つの答えを見出すことができませんでした。私がシルに双葉を渡したのはその答えを例えシルが選ぶとしても否定する権利はない…そういった意味合いでしかありません」

 

 私の言葉にシルは目を細める。

 

 私は確かに双葉をシルに渡した。

 

 だがこれは『殺してくれ。親友を裏切った罪を裁いてくれ」という意味ではない。

 

 私にとってそれは確実に選び得る答えではなかったから。

 

 私とシルが逆の立場だった場合私はシルの命を奪おうという結論に確実に至るかは分からなかったから。

 

 そう。

 

 私の真の答えは…

 

 

「私はシルの立場に立ってもどうするか分かりませんでした。よってシルが今何を考え、私に何をしたいのかは全く分かりません。そのため私がシルに何をすればいいのかもまた分かりません」

 

 

 

「…は?」

 

 私の出した答えにシルはポカンとする。

 

 …それもそうかもしれない。

 

 私は結局の所シルとどう向き合うか結論を導けていないままシルと向き合おうとしているのだから。

 

 私は今この瞬間の私とシルの判断に全てを委ねようとしか考えてこなかったのである。

 

 長い間悩み続け、ベルに心配までさせたにも関わらず、である。

 

 だが私にはそれ以外の選択を持てなかった。

 

「私はシルの命を奪ってでもベルと結ばれたいと思う衝動に駆られる可能性もあると思いました。ベルと結ばれないことに絶望して命を絶つ可能性もあると思いました。ベルとシルが結ばれるのを見届ける可能性もあると思いました。ベルとシルを引き裂くために手を打つ可能性もあると思いました。私の中で様々な可能性が生まれたのです。恐らくそれはシルも同じでは?」

 

「…否定はしない…かな?」

 

「ならばその可能性を最初から拒絶するべきではないと考えました。私はシルにベルとの仲を応援して欲しいとは言いません。私はシルに私を恨むなとも言いません。シルの思うようになさってください。私はシルがどのように思おうと止める資格はありません」

 

「…つまり?私の判断にリューは全てを委ねる…ということ?私がリューの命を奪ってでもベルさんと結ばれたいと思えば、命を奪われてもいい。私がリューにベルさんと別れて欲しいと言ったら別れてもいい。そう言いたいの?」

 

 シルはポカンとした表情を打ち消すと私の考えを汲み取り、私の考えの要約の確認をしてくる。

 

 シルの思うようにすれば良い。

 

 それは私の考えよりもシルの考えの方が優先。そうとも取れる。シルの言う通りだ。

 

 だが私の考えはそうではなかった。

 

「それは少々違います。確かに私はシルの考えを尊重します。ですが私自身の考えを無碍にするとは言っていません。私は私の考えに基づいてシルの考えに向き合います。ただ私はそのシルが出した答えにどう反応するか私自身のことなのに分かりません」

 

「…」

 

 …私の曖昧な態度にシルはもう言葉も出てこないようだ。

 

 とは言っても表情は未だ無のまま。シルは私に双葉の剣先を突き付けたまま。

 

 少なくとも私の話に異論はないと解釈した私は、シルから視線を背けず続けた。

 

「もしシルが私の命を奪おうとすればどうするか…潔く親友を裏切った罪を償うかもしれない。罪を償うことよりも命を守ることを優先するかもしれない。もしシルがベルへの想いを諦めると言えばどうするか…罪悪感でベルから離れようとするかもしれない。気にもせずにベルのそばにい続けるかもしれない。私は仮にシルが答えを出したとしても自らの答えがどう出るかその時が来るまで全く分かりません」

 

「…要は今のリューは私とどう向き合うか全く答えが出せてないということなんだね?」

 

「…恥ずかしながらそういうことです」

 

 シルの忌憚のない指摘に私は素直に頷く。

 

 何の答えも出さずに親友と向き合う…これは間違いなく不遜なこと。

 

 裏切りを何とも思っていないかのように思われても仕方ない行い。

 

 私は確かにシルとの向き合い方を見出せていなかった。

 

 だがまだ私の話は終わってはいなかった。

 

「ただ…こんな愚かな私でも確実に分かることはあります」

 

「確実に分かること?それは何?」

 

 

「可能ならば恋人であるベルも親友であるシルも失いたくないということです」

 

 

 私は率直にそう告げる。

 

 …これが本音だった。

 

 これが私が答えを見出せない理由だった。

 

 そしてこれが私の考えが定まらず歪んでいる理由だった。

 

 そしてその歪みにシルが気付かぬはずもなく…

 

「…ふふ。それ矛盾してるって分かってる?私もベルさんもそばに置きたいってさ。今までの話から考えると、無理な可能性が高いんじゃない?私の考えを尊重するとリューが言うなら尚更さ」

 

 シルは鼻で笑いつつそう言う。

 

 …シルの言う通りだ。シルの考えを尊重するならば、ベルとシル二人ともを失わないというのは難題だ。

 

 だが…

 

「そうかもしれません。ですが今の私はベルとの約束がある以上ベルへの愛を決して捨てられません。仮に死に至るとしても…私はベルへの愛を貫くつもりです」

 

「ベルさんへの愛ねぇ…リューがそんなこと恥ずかしげもなくサラリと言うのは正直驚き。それと同時にそんな風に意志が固いなら私の考えを尊重するのは無理だと思うけど?」

 

「そうでもありません。私の中ではシルへの尊敬の念は変わっておらずシルの考えを尊重すべきという思いは強いですし、私の心を小さくない罪悪感が巣食っているのもまた事実。なので…」

 

 私は改めてシルの目を見る。

 

 決して物怖じせず目を逸らさぬように。

 

 私はシルを見上げる。

 

 見上げているからと媚びるような視線でも懇願するような視線でもなく。

 

 シルと対等に向き合うべく迷いのない堂々とした視線をシルに向ける。

 

 あとは私の直感を信じ、その直感がシルにどのような反応をするかに委ねる他ない。

 

 私は改めて私なりにシルと向き合う覚悟を示した。

 

 そんな私にシルは薄ら笑いを消す。

 

 シルもまた私を見下ろし、私の瞳をじっと見つめる。

 

 そうして絡み合う私とシルの視線。

 

 一瞬の沈黙の後。

 

 私ははっきりと宣言した。

 

 

「シル。私達の今後の関係を決めるため…今ここで決着を付けましょう。シルはシルのお心のままに。私は私の心に従う。それが最善の解決策。長話も長考も不要です。私もシルも今すぐに決断を下しましょう」

 

 

「やっぱりリューは何があってもリューだね…どこまでも真っ直ぐ…どんな苦難があろうと正面から突っ込む…私がどんな反応を示すか分かりもしないのに、先手を打つのを許すなんてリューはお馬鹿さんなんじゃないのかな?仮にリューがどんなに強い冒険者でも目の前に突き付けられた剣先は一瞬でも迷えば反応できないんじゃないかな?」

 

「…その一瞬の迷いこそがベルへの愛よりもシルへの罪悪感が優ったという証拠となり得るでしょう。逆に私がシルの動きに即座に反応できれば、ベルへの愛が優ったという証拠になります。確かに愚かかもしれませんが、シルの考えを尊重するならば私の命を奪える環境を整える必要があるかと思います。何よりシルがそのように動くという確証もまたないのではないですか?」

 

「…それもそうかぁ…」

 

 シルはそう言うと目を閉じて大きく溜息を吐く。

 

 それが何を意味するのかは分からない。

 

 だが私が決断を求めた以上シルはその目が閉じられている間に恐らく決断を下す。

 

 シルがどのような決断を下すか。

 

 そしてそのシルの決断にどのように私が応じるか。

 

 どちらも私には分からない。

 

 だから如何様にも対応できるように私自身決断を下せるよう気を引き締めた。

 

 そしてシルは目を閉じたまま静かに呟く。

 

「じゃあ…私の答えを教えるね…」

 

 シルの言葉に私は思わず固唾を呑む。

 

 一秒一秒が永遠かのように思えるような心地でシルの続きの言葉を待つ私。

 

 そんな私にシルは間を置いてから続きの言葉を紡いだ。

 

「…と言いたい所なんだけど、残念ながらそれは無理みたい」

 

「…え?」

 

 シルは目を閉じたままそう言う。

 

 シルの出す答えを教えられない?

 

 それはどういう意味か?

 

 私はその言葉の意味が理解できずシルを凝視する。

 

 だがシルは目を開けようともせず表情を変えもせずその言葉の意味をその表情から測ることはできない。

 

 私はシルの思わぬ反応に困惑し、状況を測りきれない。

 

 だがそのシルの言葉の意味は次の瞬間には分かった。

 

 シルも私も言葉を発さず静寂を保っていたシルの部屋に響き始める足音。

 

 その足音は段々と大きくなり、近づいてきているかのよう。

 

 …誰かがこの部屋に近づいてきている?

 

 そう結論付けた時には既に部屋の戸が勢いよく開かれていた。

 

 それも私の心を揺さぶる声が張り上げられると共に。

 

 

「リューさんっっ!!」

 

 

「ベッ…ベル!?」

 

 唐突に姿を現したのは自身の本拠に帰ったはずだったベル。

 

 ベルはシルの前に跪く私とその私に剣を突き付ける歪な状況を目の当たりにして。

 

 その状況にベルは瞬時に眦を決してしまって。

 

 そんなベルを私は驚きと共に迎え、シルはゆっくりと目を見開いたものの表情は無のままベルに視線を移す。

 

 シルはシルの考えに従い、私は私の考えに従う…そんな私なりに最善の解決策を相互に受け入れた直後に唐突に訪れたベルの介入。

 

 …ベルの介入がようやく動き出したかに見えたシルと私の関係の決着に思わぬ横槍を入れるのは自明なことだった。




考えを明確に示さないシルさん。
自分がどう考えるか自分でも分からず迷走するリューさん。
ドロドロの女の戦い(?)が始まりかけています…

リューさんは原作でもベル君への恋を自覚しかけているわけですが、シルさんへはどう対応するんでしょう?
まぁシルさんがベル君をどう思っているか不鮮明な以上リューさんの対応も難しい訳ですが…
ただシルさんをあっさり無碍にできるような性格ではないリューさんは自身の想いを抑えるのでは?と思ってます。
が、今作はもうすでにリューさんが一切の対策も取らず何も考えずに賽を投げてベル君との関係を進めてしまった。
そのために今問題に直面しているわけです。
シルさんとの友情とベル君への愛の板挟みに遭うリューさん…
どんな選択が為されるにせよリューさんだと真正面から解決に挑むのでは…と思ってます。…まぁ今作のような命懸けはちょっと無さそうですがね…
それにしてもまぁリューさんは本当に苦労が絶えない…

そして最後に盤面を滅茶苦茶にすることで定評のある(?)ベル君が介入。
ベル君が来ると大きな問題も解決はしないもののなんか知らないけど流れていき、一応は問題が収束する(消えたとは言ってない)という謎の特技がある気がします。
今回のベル君はどう解決するのか…
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。