Re:Demonslayer 両断から始まる鬼食い転生記 作:砂漠谷
《六日目》
魚を、ただの魚を食ってアビリティを得た。
それは、おそらくどんな生き物でも、いや、もしかしたら非生物でさえも食える、食ってアビリティを得られるということ、かもしれない。
それは、人を食って強くなれる、という意味でもある。
俺は全集中の呼吸を使えないが、呼吸を使える隊士を食えば使えるようになるのでは、と思ってしまう。
別に殺す必要はない。鬼に隊士が殺されるなんて日常茶飯事だ、埋葬したふりをして死体の一部を口に入れればいい。
しかしそれでも、鬼になっていない人を食うというのは抵抗がある。隊律違反という意味ではない。鬼食いも隊律違反だ。だが、そうではない、人間の本質的な倫理に反しているような気がしてならないのだ。鬼がただの殺人集団だったらここまで鬼殺隊の怒りは買わない。言葉が通じるのに、元は同じの存在であるのに貪り食い死体を損壊する。それが禁忌だからこそ鬼は憎まれ忌み嫌われるのだろうし、俺もその一人だ。
だから、人は食わないことにする。まあ傷口を舐めたり髪を食うくらいなら許されるかもしれないが……
まあそんな悩みを除けば、鬼以外の生き物からもアビリティを得られるというのは朗報だ。
ただ、鬼食いで通常の栄養は取れないようで、異様に腹が減っていたためかなりの量の魚を食べた。それでたった一つしかアビリティが取れないということは、生物の大きさや強さでアビリティの取得数が異なるということかもしれない。
「炭治郎、お前の鼻を漁にも活かせないか?できるだけ大きな魚を獲ってくれ。薪拾いと火の番は俺がやる」
「どうしたんだ急に?一匹一匹は小さいといえ、かなりの量の魚を昨日獲っただろう?ここは鬼が徘徊しているし、鬼殺隊の管理下にあるから一般の漁師は入れない。だから簡単に大量の魚が獲れるんだ。それで十分じゃないか」
「どうやら俺の体質は鬼食いだけではないらしい。」
炭治郎に、能力について説明する。人食いについての俺の選択についても話す。強者の髪や血があれば譲ってほしい、とも。
「玄弥、君の能力についてはわかった。協力するよ。だけど、どうしてそこまで自分のことを教えてくれるんだ?」
それは、未来でお前のことを知っているからだ。お前が禰豆子を背負って戦っていることも、下弦の伍討伐に貢献し、柱の助力があったとはいえ、下弦の壱と上弦の陸、上弦の肆の首を斬って討伐したことも。そして、お前が鬼にさえ慈しみを抱ける優しい心の持ち主だということも。
だけどそれを言っても信じてはくれないだろう。だから、
「お前の才能に期待をしているからだ。それに、協力者がいないと強くなるのが難しい」
「うん、納得はできないけれど、そういうことにしておこう」
異様に勘が良い炭治郎だが、どうやらスルーしてくれたようだ。有難い。
炭治郎が魚を捕っている間に山をうろつき薪拾いをする。その間に木々の枝や葉を食べてみる。小さい木ではアビリティは手に入りそうにないので、それは薪のために取っておき、樹齢数百年はありそうな巨木を探しては枝葉や根を取って口に入れてみることを繰り返す。
[能力名【光合成】のラーニング完了]
[能力名【養分吸収】のラーニング完了]
およそ危険そうなアビリティ名でもないので、発動してみた。
【光合成】では体の表面が痒くなり、その後緑になった。太陽の光が普段より心地いい感じがするが、あまり普段と変わりはない。発動を解除すれば数十秒で肌の色は元に戻った。
【養分吸収】では、手足の指などの体の一部が針のようになり、それを生き物や地面に突き刺すと腹の減りがすこし収まる。炭治郎の捕った魚に刺したら数分で栄養のなさそうな干物のような見た目になった。ちなみに、食べてもおいしくはなかった。
アビリティを強化するため、樹齢の高そうな木々の葉や根を食べつつ、薪を拾う作業を終わらせた。
「これで魚由来の新しいアビリティが手に入れば俺の戦力が強化できる。炭治郎、焼く作業は頼む」
「ああ、わかった!」
火加減をしながら魚を焼く炭治郎を眺める。前の世界で無限城の上弦の壱に殺されたときは、炭治郎の死の知らせはなかった。だが、その後はどうなったのだろう。無惨に鬼殺隊全員が殺し尽くされたのだろうか、それとも無惨を滅ぼして大団円だったのだろうか。
後者であってほしいが、そんなことを考える意味もないだろう。俺が今生きているのはこの世界なのだから。
そんなことをぼんやりと考えていると、魚が焼きあがったようだ。
「玄弥、できたよ。自分でいうのもなんだけど、凄く良く焼けている」
こんがりと焼きあがった表面にふんわりとした白身、塩があれば最高に美味しく食べられるだろうと後悔する焼き上がりだが、塩がなくとも口に入れた瞬間に魚本来の旨味が広がる。「ジューシー」という表現がもっとも的確だろう。
[能力名【逆流遡行の心得】のラーニング完了]
名前からして、逆流に抗して泳ぐ為のスキルだろう。今は服を濡らしたくないから泳いで試しはしないが、いつか使う時が来るかもしれない。
口に入っている魚を飲み込んで話しかける。
「もぐ、んぐ。もうすぐ最終選抜試験が終わる。炭治郎、これで俺たちもようやく正式な隊士だぜ」
「玄弥、まだ後一晩あるんだ。気を抜かないでくれ」
「そうだな、すまん。気ぃ張っていこうぜ。たしか、後一匹だっていう話だったよな」
「ああ、匂いとしては後一匹なんだが、匂いが強いところを探してみてもどうも見つからないんだ」
ふむ、確かに妙だ。炭治郎の鼻でも見つからないとなると、何か特殊な能力を持っているのかもしれない。
「なあ、匂いが強いところで何か変わった、奇妙な点はなかったか?」
「う~ん、あ。コケが生えている地面に腰くらいまでの小さい木が一本生えていたのが見慣れない風景だと思ったんだ」
コケというものは日陰で育つものだ。地面にそれが生えていたということはその場所は日光が当たらない場所だということだ。そして光合成をする木はふつう、日光のないところには生えない。そこに生えていたというその木は・・・・・・
「炭治郎、それだ!それが鬼だ!その木はどこにあったか?もうすぐ日が沈む。先日の夜の内に潜む場所を変えていなければいいが」
「木に化けているということがわかれば問題ない。少し匂いを辿ればすぐ見つかる」
鬼の匂いを探す炭治郎の後を歩き続け、日が完全に沈んだ頃、少し開けた場所に出た。
「鬼の匂いがうっすらとこの近くからする。息を整えてから行こう」
炭治郎の意見に従い、近くの一際大きい大木に背をもたれかけて休もうとすると、
「なッ、玄弥!?」
炭治郎が咄嗟に振り向き刀を抜く。しかし炭治郎と俺とは数十メートルほど放れており、即座に助けられるほど近くはない。
木の瘤が人の顔のようになり、口に当たる部分が蠢いて声を発する。
「おまえぇ。額に傷がある方の人間だぁ。こいつの命が惜しければ刀を捨てろぉ。頭をぶすりと貫くぞぉ。おめぇがそれなりに強い剣士だってのはわかってるんだぁ」
しわがれた声でそう言いながら、その木・・・・・・いや木のような姿に擬態した鬼が俺の体を太い枝のようなもので拘束する。
鬼化状態ではないアビリティと肉体ではこの拘束を逃れることは難しい。
だから。
「うぎゃああああ!助けてぇ!この声が聞こえたなら麓にいる強い剣士の人助けに来てぇモゴォ」
「うるしぇぇ。人質戦法が効かねぇ強い剣士が来たらどうすんだぁ。俺殺されちまうよぉ」
木の鬼は俺を黙らせるために口に太い枝を噛ませた。
そして俺はその木を噛み千切り嚥下した。鬼化が発動する。どうやら食感からして木の中に鬼の肉が神経のように通っていたようだ。
アビリティが強化される。【巨大腕】と【巨大脚】が強化され、少し太め程度だった俺の四肢が女性の腰ほどに太くなり、身長も180cmほどから二メートル半ほどの巨人になる。【怪力】が強化され、人間重機という表現がふさわしい力を発揮し枝の拘束を引き剥がし、木の鬼から離れて炭治郎のそばまで引く。【治癒加速】で腹の穴も視認できる速度で塞がっていく。
「なぁ、なにぃ。おめぇも鬼かぁ。いやちげぇなぁ。枝が肉ごと噛み千切られてる。【魔喰の戦士】って奴かぁ。くそぉ。俺の命運もここまでかぁ」
「ま、まくいのせんし?何を訳のわからないことを言っているんだ?」
「この霊樹樣に寄生して乗っ取った時に得た知識よぉ。数百年前の埃を被った知識だが、この世界には職業があるって話らしいぜぇ」
「いや、世界に職業はあるだろう。俺の家は炭焼き屋だ」
炭治郎がいきなり訳のわからないことを言い出した木鬼・・・・・・鬼の話によれば霊樹に寄生した寄生鬼に突っ込む。
「そういう話じゃねぇ。世界の仕組みの話だぁ。世界の始まりから組み込まれてるんだってよぉ、人間への加護としてなぁ。人間の能力や身分を表す職業じゃねぇ。それそのものが人間に能力や身分を与えるんだぁ。職業という名の[力]そのものなんだよぉ」
鬼は続ける。妄言として無視し、殺しにかかってもいいが、それにしては真実味がありすぎる。この世界と前の俺がいた世界との差異についての話だ。脳裏に声が流れたり、鬼喰いの結果がアビリティとして具体化したりするという現象。そんな人智を超越した存在の意志が介在してそうな現象を俺は体験したのだ。ほかにもそういった現象や法則があったとしてもおかしくはない。
「で、その「職業」という名の力、加護つってもいいんだろうなぁ。それは生まれつきだったり、何かの条件を満たすことで獲得できるらしいんだがなぁ。その一つに【魔喰の戦士】ってのがあるんだぁ。特徴としては鬼のような尋常じゃない生物を食うと同じく尋常じゃない力を手にできるって奴だぁ。手足がバカでかくなる能力はなかった筈だがそれについては知らねぇ」
「で、それをなんで俺たちに教えたんだ。俺たちは鬼狩りだぞ?」
正確にはその候補だが。
「寿命なんだよぉ。鬼には寿命はねぇって言われるが、鬼と木が融合した謎生物ーーー鬼樹とでもいうかぁ。この種族はその限りじゃなかったって訳だよぉ。俺ぁこの牢獄じみた山にぶち込まれて、共食いしたり色々鬼の能力を試したりしてたら寄生の能力を手に入れた訳だぁ。それでこの霊樹樣に寄生を試みて、抵抗もなく楽にいったんだが、居心地が良すぎて長居しすぎたら寄生どころか木と一体化しちまったんだよぉ。鬼としても変質しちまって寿命も短くなったところに、霊樹樣の老いがドカっと来ちまったぁ。寄生の抵抗がなかったのはもうヨボヨボだったからってことだぁ」
「じゃあなぜ俺を刺した。お前はもうすぐ死ぬんだろ?」
疑問が口を突いて出る。こいつのとぼけた口調が原因か、口が軽くなっているようだ。
「死ぬ前にあわよくば一口って思ったんだよぉ。最後の晩餐って奴だぁ。口も無くなったから根で一吸いってとこかぁ。まあその望みも叶わねぇがなぁ」
「そうか、なら逆にお前を俺が喰ってやる。人喰い鬼の最後としてはお似合いだなァ」
「おいおいぃ。鬼に違わなぬ凶暴な面じゃねぇかぁ。ああ、俺の種がそろそろ生えてる筈だ。そいつを外に連れて行っちゃくれねぇかぁ?元鬼の俺と違って食人衝動がある訳でも人の味を覚えてるわけでもねぇ。生まれつきの鬼樹だからなぁ」
「そうか。そいつが人を喰いそうだと判断したら殺す・・・・・・というか伐採するぞ」
「かまわねぇ。さぁ、一思いにやってくれ。鬼樹は鬼と違って太陽の光で消滅することもねぇ。日輪刀でもおそらく同じだろう。さぁさぁ、さっさとぶった切れ」
そういって木の瘤の顔は消えた。鬼から違う存在に変異することなどあるのだろうか。鬼は元は人だから人に戻るのはわからなくもないが、鬼が木と一体になるなど、考えがたい話だ。俺がこいつを食って鬼化したと思ったが、一時的に鬼になったというより、【魔食の戦士】とやらの能力で魔化したという方が正確らしい。
「炭治郎。俺も剣士の端くれではあるつもりなんだが、この太さの木を斧も無く両断するのは俺には無理だ。何から何まで迷惑を掛けてすまないが、やってくれないか」
この最終選抜試験後半、俺は本当に炭治郎に頼りっぱなしだった。鬼食いの世話から魚の調理まで。強くなるなどと言いながら文字通り食べさせてもらっているだけだ。食べることで能力が手に入るから、それで強くなって鬼を倒すからなどと言いつつおんぶにだっこである。臑齧り極まりない。
「ああ、もちろん」
炭治郎は日輪刀を抜き、躊躇無く振るった。
[竃門炭治郎は戦技【干天の慈雨】を繰り出した]
また脳裏に音が流れる。これもおそらく世界の仕組みとやらなのだろう。
「なぁ、炭治郎、型を使った時に音声がなったりしないか?」
「そんなことはないけれど。玄弥だけじゃないのか?うわぁ、すごい年輪だ、ほとんど真っ黒じゃないか」
音声についてはおそらく炭治郎の言うとおりだとして。俺も倒れた木の年輪をみてみると、確かに真っ黒だった。ほかの色は中心に細く肉の部分があるだけだ。この大きさでこの年輪ということは、生長が非常に遅い種だったのか、それともある程度生長してその後縮んだのだろう。
この大きさの木を食べきるのは俺の歯と胃腸を以てしてもかなり時間がかかるだろう。とりあえず持って帰りたい。枝葉を落として食べ、切り株は掘り起こして炭治郎に持ってもらえば魔化状態の筋力であればなんとか持ち帰れる筈だ。
だがその前に。
「こいつが言ってた生え立ての鬼樹を探さないか?匂いはまだあるか?」
「大丈夫。そもそもこの木には鬼の匂いはしなかった。鬼の匂いの元であるこの肉の部分は太い幹に囲まれていたから。幹の部分が細い生え立ての鬼樹の匂いはちゃんとここからでも匂う。今気づいたけど、鬼樹と鬼の匂いは若干違うんだ」
と言って歩き出すのでついて行く。数分でそこに着いた。
そこには、コケに囲まれた腰ほどの高さの木があった。
だがそれは闇夜の中で名状しがたく蠢き、うねっていた。
「うわっ。うわっ」
二回も驚いてしまった。
驚いているうちに炭治郎が周りの土ごと掘り起こして布に包んでいた。うねりは多少小さくなったが布越しでも見える。
炭治郎の度胸に関心しながら大きい方の鬼樹の方に戻り、枝葉を払って食べる。
[能力名【枝葉操作】のラーニング完了]
[能力名【気配隠蔽】のラーニング完了]
[能力名【木を隠すなら森の中】のラーニング完了]
枝葉を食べながら、鬼樹の切り株を掘り起こし、切り株を背負い枝葉を落とした幹を背負って山を降りた。炭治郎が持とうとしてくれたが、これは俺の食事なので自分でもつことにしている。
これでようやく、最終選抜試験も終わりだ。炭治郎が浅草で無惨と遭遇する時までに強くならないと。確実に仕留めるために。
次回があるかはわからない