Re:Demonslayer 両断から始まる鬼食い転生記 作:砂漠谷
夜通し歩いて夜が明けた。鎹鴉は喚き声がうるさいので少し、いやかなり後方からついて来させている。持った丸太はもう【養分吸収】で完全に栄養を吸収されており、腹の足しにならない(アビリティで吸収した栄養が腹に行く訳ではないだろうが)。
なので残り滓と化した丸太は捨て、切り株の方を食べる。【根幹操作】で芯の部分の肉と外の部分の木部分を切り離し、前者は直接、後者は【養分吸収】で食らう。
枝の方の肉は旨かったのだが、根の部分の肉は非常に渋味が強く肉とはとても思えない。まあ鬼樹の肉という尋常ではない肉なので肉と思えなくて当然なのだが。えぐ味ではなく渋味なのである。渋柿のような渋味なのである。
[能力名【
[能力名【龍脈探知】のラーニング完了]
[能力名【龍脈接続】のラーニング完了]
不味さに顔をしかめながら食い終わると悲鳴嶼邸に着いた。俺が継子となっている岩柱の家にして修行場、滝の音が聞こえる山の麓にある所である。
「不死川玄弥、鬼殺隊最終選抜試験をくぐり抜け、ただ今帰りました!」
ドタガチャパリンと家の中から音がした後、家の扉が開き、岩柱・悲鳴嶼行冥が表れた。
「よく、よく無事で帰ってきてくれた・・・・・・受験の許可を出した私が言うべきことではないが、生きて帰ってきてくれてありがとう・・・・・・!」
と言って涙を流しつつ腕を広げ、抱擁を求めた。それに感極まって、俺はつい抱きしめた。抱きしめてしまった。
その瞬間、視界が逆転し、投げ飛ばされた、と思ったらうつぶせに組み伏せられていた。
「貴様は誰だ、玄弥はそのような背丈ではない!八日前はもっと低い身長だった!それにこのような丸太のような腕でもない!」
炭治郎の時と同じだ、このパターンは。二度あることは三度あるというし、兄、実弥に他人呼ばわりどころか敵呼ばわりされると、いくら平行世界の兄とは言え心が折れそうだ。どう疑われるのだろうか、「俺の弟は鬼喰いなんてしねぇ、テメェはただの人に化けた共食い鬼だ」なんて言われたら無罪の証明ができないぞ。冤罪も甚だしいのだが鬼喰いをしていること自体は事実である。太陽の元に出ても禰豆子という前例がある。悪魔の証明ほど難しいことはないのだ。それにアビリティも使えるので、もはや自分が人間であるかどうかの自信すら無くなってきた。
などといきなりの出来事に思考が現実逃避を始めてしまったので、気合いで現実を直視し対処する。
「違います、俺は正真正銘の不死川玄弥です!信じてください!顔を触ればわかるはずです!」
岩柱、悲鳴嶼行冥は盲者である。そのため、個人の識別はふつう声色とその声の元、つまり口の位置から身長を逆算して行う。武器である鎖付き鉄球を持てばその音の反響で個人の位置や姿勢を判別できるという離れ業の持ち主ではあるが、それであっても肌の色や顔の貌のような細かい個人の特徴を判別できるようなものではない。最初の挨拶で俺を疑わなかったのは、扉越しで発声源がわからなかったからだろう。
しかし、顔を触れるような親しい間柄であれば、顔をさわり、手の触感で相貌を記憶し、判別できる。そして悲鳴嶼行冥と不死川玄弥は、この世界での今はまだ正式な師匠と弟子という関係ではないが、それでも呼吸の才能がない俺を鍛えてくれている、それなりに親しい関係だ。
彼は顔に触れ、手の感触を確かめる。揉んでつねったりもされる。痛い。いやそれ必要ある?
「確かに顔の貌は玄弥そのものだ・・・・・・最新の技術という合成皮を被っているわけでもなさそうだ。しかし、まだ本人だというには疑わしすぎる。変身の血鬼術を持つ鬼もいると言う・・・・・・」
「いや、今は日が射してますし、俺が鬼なら燃え尽きている筈ですよね」
禰豆子という前例を今ここで口にだす必要はない。
「たしかに・・・・・・鬼ではないことは信用しよう、しかしお前が生きて帰ってきた不死川玄弥であることはまだ納得できない。もしお前が本物ならば、そのような身長になった事情を説明できるだろう」
これは鬼喰いの事実を告白するしかないようだ。いや、前から言うつもりだったのだが。
「隊律違反なのは承知の上ですが、鬼喰いをし、異能を身につけました。この身長もその結果の一つです」
「鬼喰い・・・・・・、君の言うことが真実なら、御館様の元に連れて行かねばならない。少し眠っていてもらう」
仰向けにされた直後に鳩尾に強い衝撃を感じ、俺は意識を失った。
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目が覚めると夕日がまぶしい。俺は知らない屋敷の庭にいた。前世でも今世でも知らない場所だが、記憶を失う前の師のセリフからここが産屋敷邸だと推定できる。
あたりを見回すと、庭には俺をここに連れてきた張本人だろう岩柱・悲鳴嶼行冥(背負子を側に置いている)と、蟲柱・胡蝶しのぶがいる。
そして屋敷の縁側には鬼殺隊の長、産屋敷輝哉と思わしき顔の上半分が爛れている人物と、先日会ったばかりの産屋敷輝利哉、そしてその姉妹がいた。隠はいないようだ。
「君が不死川玄弥隊士だね?無理に連れて来させてすまない。目覚めてすぐで申し訳ないが、君に話さなければならないことがある」
産屋敷輝哉、御館様と呼ばれる鬼殺隊の長は開口して俺にそう言う。
「失礼ですが御館様、こいつが私の継子である不死川玄弥本人であるかはわかりません。気絶して四肢が収縮した不可思議な現象も、鬼喰いでは説明がつくかわかりません」
悲鳴嶼がそう疑問を呈すが、輝哉はこう返した。
「本人であるか否かについては<わかる>んだよ。私にはね。行冥も長い付き合いだ、私の力については感づいているだろう?そして四肢の収縮に関しては、しのぶ」
「はい。鬼喰い者についての資料はどれも伝承レベルで信憑性に欠けるものでしたが、その中の一つに<鬼喰いの才が高いものは、鬼を食ってその血鬼術や異形を獲得できる場合がある>とあります」
「うん、ありがとう、しのぶ。そしておそらくこれは真実だ。意識を失ったことで異形の維持が困難になった。これが四肢の収縮の原因だろう」
「説明ありがとうございます、御館様・・・・・・これで玄弥を安心して抱きしめれれる・・・・・・玄弥、すまない・・・・・・!」
ぎゅうと抱きしめられる。圧迫で肋骨が折れそうな上に暑苦しい。だが、ようやく信じてくれたことの嬉しさの方が勝る。
「彼を離してやってくれないか、行冥。彼には説明しなければならないことがある。この世界の仕組みについて」
この世界の仕組み・・・・・・聞き覚えがある。あの鬼樹が言ってた言葉と同じだ。
「それは、『職業』のことでしょうか。御子息に渡した鬼樹の親の元鬼が言っておりました。奴の話は抽象的で理解し難かったのですが・・・・・・」
「・・・・・・そうだね、その通りだ。その元鬼や鬼樹の話も聞きたいが、それは後にしよう。例えば、君は柱になる条件を知っているかな?」
50体以上の鬼を殺すか、十二鬼月の一体を殺すかのどちらかを達成すれば柱として鬼殺隊から認められた筈だ。前世では必死に目指していたからよく覚えているが、この平行世界では違う可能性もある。
その旨を伝えると、輝哉は頷き微笑んだ。
「その通りだ、玄弥。だが、その条件を満たしたものは鬼殺隊から地位を認められるだけじゃない。世界から役割として『職業』、この場合は【
俺はおそらく見抜ける者にあたるだろう。まだ使ってはいないが、今朝【人物鑑定】を手に入れたためそれを使えばおそらく他者の職業がわかるのではないか。
ということも頭に浮かんだが、今の例えでそれより気になることがある。
「それなら、その情報を鬼殺隊の皆に共有すれば、より多くの人間の意欲が上がり、それらの一部が柱並の力を手に出来るのではないでしょうか」
「御館様の方針に異を唱えるとは・・・・・・我が継子ながらなんと愚かな・・・・・・」
「いや、良い視点ではある。だけどそれは難しいんだよ。戦闘系の『職業』が与える才能や能力というものは、多くが膂力や動体視力の類、つまり基礎的な肉体性能の向上であって、剣術などの肉体・武器操作の技量を直接向上させてくれる訳じゃない。技量が欠如したまま肉体性能だけ柱並になっても鬼は狩れない。すばやく動いたり巨体だったり、血鬼術を使ったりする鬼の首を正確に落とすためには、もちろん肉体性能も大事だけど、それよりも剣の技量が必要だ。何しろ首以外は切っても殴ってもほぼ意味がないんだから、強い攻撃を当てられるというだけでは使い物にならない。そもそも、『とりあえず雑魚鬼五十倒して『職業』を手に入れてから剣技を鍛えよう』という意欲で柱を目指されても死にやすくなるだけだからね」
わかりやすい説明だ。話上手なのだろう、つい聞き入ってしまう。
「教えてくださり有り難うございます」
「うん、ああ、話がそれてしまったね、これは例えなんだった。【鬼殺し】に限らないように、世の中には幾千幾万じゃ数えられないだろう種類の【職業】がある。そしてその中の幾つかの獲得条件を僕は、というか産屋敷家は知っている。これはさっきも話した通り、隊員の技量修練の意欲を下げないために下級隊員には秘匿しているんだけど・・・・・・君には教えなくてはならない。どうしてだかわかるかい?」
「俺が鬼食いをしたから・・・・・・ですか?」
「そうだね。正確には鬼食いで異能を身につけたからだ。刀しか戦うすべを持たない一般の隊士たちは、そこに全能力を集中して鍛え上げることが出来る。一所懸命という奴だね。だけど鬼食いの隊士は、剣技を疎かにして特殊能力を平行して鍛え上げたり、鬼喰いで基礎的肉体性能を伸ばしたがる、らしい。その結果、当然総合的な戦闘力は一般の隊士よりも高くなるが、対鬼のための戦闘能力は一般の隊士よりも低くなってしまう。だからこそ、総合的な戦闘力だけで鬼を圧倒できるほど強くなってもらう必要があるんだ。そのために『職業』獲得の条件を教える」
「その条件とは・・・・・・」
「ああ、その前にもう幾つか話さなければならないことがある。玄弥、体の力を抜いてくれ」
さすがにこの突然の要求には警戒をしたが、別に力を抜いたところで即死するようなことはないだろう。輝哉の言う通りにする。
『十遍回ってワンと言え』
輝哉の口から不思議な声音で命令形の言葉が発せられた。すると、体が何故か一人でに動き、十回でんぐり返しをした後「ワン」と言った。
蟲柱が笑いを堪えている。これは俺の意志でやった訳ではないから笑われる謂われは・・・・・・いやこれは俺が蟲柱の立場でも笑ってしまうな。
「おや、立ったままの回転(ターン)を想定していたんだが、でんぐり返しか・・・・・・まあ、それはいいとして。この世界には現実をねじ曲げる術が存在する。しかも鬼の血鬼術や君の鬼食いによる異能に限らず、純粋に訓練によって獲得可能なものもある。これは【呪いの言霊】というんだが、そうだね。毎食前に一時間ほど訓練して五ヶ月だったかな。おおよそ四百五十時間ほどで身につけられた。言葉のわかる相手にしか聞かないし、本気で抵抗されると術の効果は解ける。特に相手が精神的強者であれば簡単にね。でもまあ役に立つかもしれないと思って手慰み、いや口慰みに身につけたんだよ。さて、これを秘匿している理由はもうわかるよね?」
今まで説明されたことと同じだとすれば、これだろう。
「術の修行にかまけることで剣の技量が落ちるから、ですか?」
「その通りだ。ちなみに全集中の呼吸・常中という技術も呪術の類ではないが下級の隊士には秘匿している。君は呼吸の才がないということだから、教えることはできないがね」
秘匿してたのか・・・・・・最終選抜試験を乗り越えた諸君には教えてしまった。隊律違反だろうしいずれバレるだろうが、今ここでわざわざ言う必要はないだろう。
常中の呼吸は強力だし、剣技と相性も良いのでわざわざ秘匿する必要性は薄いと思うが・・・・・・きっとそこは深謀遠慮な考えがあるのだろう。
「今まで話したような理由で、君には『職業』の獲得のための訓練と、呪術の適性診断。それと鬼食いに尽力してほしい。柱が片手間で捕まえられるような鬼は藤襲山に入れずに君の所に持って行こう」
柱が片手間で捕まえられるような鬼を食っても、既存のアビリティが強化されるだけで新しいアビリティは手に入らないと思うが、それはそれで良しとしよう。
「ありがとうございます。期待に応えられるよう、誠心誠意努力致します」
「僕の期待だけではなく皆の期待にも応えられるようにね。それで、君が持ってきた小さな鬼樹のことだけど、これはしのぶに預けて研究してもらうことにする。あれについて説明してくれるかな?」
「はい、あれは藤襲山で突然襲ってきた動く巨木の子にあたるものです。動く巨木は元は鬼でこの霊樹と融合したと言い、襲撃が失敗に終わると、老木と融合してもう寿命だから介錯してくれと言い出しました。その時に『職業』についての話を聞きました」
蟲柱が口を開く。
「鬼も他の生物と合体し、違う生命体になれば寿命などの弱点が生まれる、ということですか・・・・・・どうやって合体させるかが問題ですが。それにしても、寿命で死にそうな癖して人を襲うなんて、やはり元が付こうが鬼は鬼ですね」
何故かうれしそうだ。いつも感情の見えない笑顔なので確信はないが、さっきより気持ち口角が上がっているように見える。
「あと、その元鬼やそれとは関係ない魚や木を食べても能力を手に入れられました。藤襲山だけの現象かもしれませんが、鬼以外を食べても能力が手に入るようです。若木や小魚では手に入らなかったので、一定以上の強さや大きさが必要なようですが」
この発言を聞いて蟲柱の表情が豹変した。焦り・・・・・・いや恐怖の表情に近い。
「御館様!こいつを今すぐ処刑すべきです!鬼以外を食べても強くなれるということは人も食べられる、それで強くなれるということ。人を食らう理由があるならそれはもう鬼同然で御座います!人型の鬼を食えるということは人食いの抵抗感も少ないと思われます。処刑が不可能なら監禁して一生小魚のみを食わせるべきだと提言致します」
これはまずい、なんてものじゃない。自分から人食いも不可能ではないと言ってから柱らの髪などを食べても良いか聞こうと思ったが、いきなり人食い予備軍扱いされるとは。話が通じそうにない。咄嗟に逃げようとして立つが、我が師悲鳴嶼に首根っこを捕まれて全く動きがとれない。【巨大腕】と【巨大脚】、【怪力】を発動させても僅かしか動けない。
「御館様の裁定を黙って聞きなさい、玄弥」
逃げるのは諦めて黙って座る。こんな所で死にたくはない。慈悲のある裁定が下るように祈ることにしよう。
「玄弥、鬼のような食人衝動はあるのかい?」
「いえ、ありませんが」
アビリティ【悪鬼の因子】や【飢餓暴走】を使用しなければの話だが。
「なら、人を食べる理由はあっても動機は無いね。処刑する必要もないし監禁する必要もない。彼には強くなって多くの鬼を倒してもらわなくてはならないんだ」
しのぶは諦めるように頭を垂れた。
「・・・・・・御館様の意志のままに」
助かった、助かった・・・・・・!ほっとして息を吐く。
「鮫や熊のような強力な生物の肉も食べれば強くなるのかな。藤の紋の家に滞在してもらうから、そこで百人食べた鬼でも倒せるようになるまでひたすら鬼食い獣食いに尽力してもらう。肉のための金はもちろんこちらで用意する。無駄に高級肉なんて頼まないように」
「はい、ありがとうございます!」
「そしてしのぶ、行冥、忙しいところすまない。次の任務も頑張って欲しい」
「はっ!」
「はっ!」
その後、隠に背負われてリレー方式で藤の紋の家まで運ばれた。当然目隠し耳栓でだ。
御館様とかいうアインズ・ウール・ゴウン
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