Re:Demonslayer 両断から始まる鬼食い転生記   作:砂漠谷

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《九日目》~《一七日目》

《九日目》

 

 朝、藤の紋の家で目が覚める。今日から二週間程はここに籠もって只管強力な獣や魚の骨肉を食らえと命じられた。二週間か……炭治郎に日輪刀が届くのが丁度そのくらいだった筈だ。丁度いい。彼が初任務で出会う沼の鬼の能力は、彼が浅草で出会う無惨の攻略、出来なくてもその一部の能力取得のために是非欲しい。

 可能性は低いが、無惨の体を食えば鬼を人間に戻す能力が手に入るかもしれない。無論最善は浅草で無惨を殺すことだが、おそらく不可能だろう。しかし、その肉の一片でも手に入れたい。無惨の血肉は俺の能力を爆発的に強化するだろうからだ。前世の話だが、上弦の壱であれほど強化されたんだ。無惨本人(本鬼?)の肉を喰えば強力な血鬼術が手に入るだろう。

 

 閑話休題、今は鬼喰いではなく普通の獣肉の話だ。近くの山でマタギが狩ったものが、腐らないように保存処理をしてここに運ばれてくる。

 

 そして今日の昼飯がそれだ。朝飯には間に合わないようなので普通の米と焼き魚を食べ、筋肉強化運動や柔軟をして昼まで待つ。

 

 昼時、大量の塩漬けの鹿肉が届いた。肉は既に捌かれており、骨は付いていない。これを家の人と一緒に煮て食べる。家の人は遠慮していたが、折角の鹿肉を俺一人だけで食うのは勿体ない、遠慮せずに食べていいと言って一緒に食べることにした。

 

 しかし幾ら食べても、食らっても一向に能力がラーニングできない。腹一杯飯を食えるという喜びはあれど、能力を手に入れなければこの食事の意味はない。これはどうしたものか。

 

 うんうんと唸り思い悩むが、わからない。夕飯も昼飯と同じく大量に獣の肉を食らうが、やはりラーニングは出来ない。

 夜になり、布団に入った瞬間に気が付いた。

 

 これは鮮度が原因だ。思い出せば、今までラーニング元に出来た食物は、鬼の踊り食い(我ながら趣味の悪い表現だが、これ以上に的確な表現を俺は知らない)と採った・捕ったばかりの魚や木だ。この塩漬け肉、いくら近くの山で狩ったとはいえ、おそらく死後一日以上は経っているだろう。鮮度が足りなかったのだ。

 

 分かったら早速その旨手紙に認めて鬼殺隊本部に送る。鎹鴉が伝書鳩代わりだ。

 そうだ、ついでに炭治郎にも手紙を送ろう。この状況では知り得ない情報について、たとえば俺が知っている一二鬼月の能力や場所、反復動作などの訓練法などを、鬼や柱から聞き出したということにして教える。他者に伝える時は情報元を誤魔化すこと、信頼できない人間には教えないように、とも書いておく。

 

 信頼出来ない他者に重要な情報、特に未来のものを知らせない、というのは俺にとっても大切だ。例えば御館様、産屋敷輝哉。直接合ったときは彼の雰囲気に魅了されてしまった感があるが、最終選別の残酷な仕組みと言い、その情報の秘匿具合と言い、客観的に見れば完全に信頼できるとは言い難い。俺の味方をしてくれたので逆らうつもりは決してないし、今教えた十二鬼月の能力など、必要な分は知らせるが……

 鎹鴉に持たせて炭治郎に送る。そういえばこいつに名前を付けるのを忘れていた。前世と同じ「榛(ハシバミ)」でいいだろうか。

 

《十日目》

 

 鬼殺隊本部から連絡が届いた。どうやらマタギと共に山に上れとのこと。早速出発の支度をし、藤の家を出る。鬼殺の任務ではないので切り火は断ると言ったが、どうしてもというのでやってもらった。

 

 鎹鴉の先導でマタギのところに案内してもらう。歩いて半日程でマタギの家についた。【悪鬼の尽きぬ体力】のお陰か、半日休まず歩き続けることが出来た。

 

 マタギの家の玄関には藤の花が植えてあった。この家も鬼殺隊協力者の家なのだろうか。

 

「失礼します、山に同行するように言われた鬼殺隊隊士の不死川玄弥です、……あの?」

 

 返事が無い。人がいないのだろうか、扉を叩く。

 

「あーもう、わかったよ……鬼殺隊ね……どんな用だ?」

 

 若い女性が出てきた。女性のマタギとは珍しい。その口ぶりから察するに、どうやら事前の連絡が行ってなかったらしい。

 

「それが“かくかくしかじか”で、新鮮な肉を食べたいんですよ」

 

「ふ~ん、なるほどねぇ……その能力なら人間の肉でも強くなれるんじゃないか?専門職の人間とかなら特に。あたしとか食ってみるかい?」

 

 初対面で急にそんなことを言い出してきた。

 

「いえ、絶対にそんなことはしません……鬼殺隊の本分にも真っ向から反します。お名前をお聞きしても?」

 

「冗談だよ。名前は八重だ。お前は不死川玄弥だっけ?」

 

「はい、そうです。八重さん、よろしくお願いします」

 

 前の俺なら初対面の女性なんて顔真っ赤にして固まってたんだろうな……未来を限定的にだが知っている故か、だいぶ精神的な余裕が出ている。

 

 そんなやり取りの後、彼女の家で準備をして、山を上る。

 

「待て、熊(イタズ)だ。銃(シロビレ)撃(はじ)くから耳塞いでろ」

 

 専門用語だらけの指示だったがなんとなく理解できた。耳を塞いで彼女が銃を向けている方を見ると、遠くに熊が見える。点のようというほどではないがかなりの距離だ。ここから狙えるのか、流石は玄人だ。

 

 ドンと轟音が鳴ると、熊がよろめき、しばらくふらついて倒れた。

 

「よし、新鮮じゃなきゃダメなんだったか。この場で調理できそうなところは……」

 

「あ、いえ。そのままで大丈夫です」

 

 熊に近づき、小刀で皮膚を裂いてそのまま中の肉を食う。【養分吸収】も発動し、指を木の根のように変化させて養分を吸収する。

 

「あ~、喰って得た異能にはそういうのもあるのか。わかった。あたしは回りを警戒しておくよ」

 

「ふぁい、よほひふおへはいしはす(はい、よろしくお願いします)」

 

 熊の肉、内蔵、毛皮を頬張る。骨を噛み砕いて嚥下する。各部位の味がごちゃごちゃになっているが、獣臭さだけは共通している。ちゃんと臭み抜きをして食いたかったが、我が儘は言ってられない。

 

「……羨ましいねぇ」

 

 彼女のボソリと呟いた声が耳に入った。

 

「熊、食べます?八重さんほど上手くはないですが俺も警戒は出来ますよ、調理出来る場所を探して……」

 

 だが、彼女の言いたいことは違った。

 

「いや、羨ましいのは熊の方だ……この話はやめにしよう」

 

 彼女の淀んだ眼と状況から察するに、被食願望がある、のだろうか。家族が鬼になったトラウマの一種としてこういったものもある、と前世の悲鳴嶼さんから聞いたことがある。俺も家族が鬼になった人間だが、こうはならなかった。マタギという、動物の命を食らう職業の影響もあるのかもしれない。

 

[能力名【熊の胆力】のラーニング完了]

 

 今日の収穫はこの熊一匹だけだった

 

《十一日目》

 

 同様に山に上って鹿を二匹狩った。一匹は鍋にして一緒に食べた。年上の女の人と食べる鍋は、美味い。

 

[能力名【山岳歩行の心得】のラーニング完了]

 

《十二日目~十五日目》

 

 そんな感じで、六日間を過ごした。何事もなく六日間を終えたので、とりあえずラーニングした能力を載せておく。

 

[能力名【分厚い皮膚】のラーニング完了]

[能力名【硬い骨】のラーニング完了]

[能力名【野生の膂力】のラーニング完了]

[能力名【最適逃走】のラーニング完了]

 

 ラーニングした能力の詳細についても語っておく。【人物鑑定】を八重さんに試したが、こんな表記が出てきた。

 

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人物名:遠山八重

職業:【狩人】水準七三/百 【狙撃手】水準四三/百

適性:【魔喰の戦士】【魔銃使い】他

 

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 と出てきた。これが御館様や鬼樹が言っていた【職業】か。数値の最大値が百だとすれば、八重さんはかなりの狩人ということになる。

 ただ、この鑑定能力は自分には使えなかった。正確には自分に使っても理解できない暗号のようなイメージしか帰ってこなかった。残念だ。

 【霊樹の旧世界智】は、発動したらぼんやりと神がどうたらや加護がどうたら迷宮がどうたらという知識が芽生えてきた。少なくともこの能力によればだが「神仏やその加護は実在する」といった内容だ。天照大神や月読命のような特定の神話の神ではなく【陽光の神】や【月の神】と言った概念や現象を司る抽象的な神についての知識だった。神は信仰を集める基点として迷宮を作る、ともあったがそもそもその迷宮が具体的に何なのかはわからない。情報源としてあまりにも曖昧だ。正直言って今必要な情報は何も手に入らなかった。

 

 【龍脈感知】は、発動すると地下深くに大きな力の流れがあることが理解できた。そしてその大まかな場所もだ。だがその力の正体が何なのかはわからない。水脈とかなら井戸を掘る時に便利そうだが……

 【龍脈接続】は発動しても何も起きなかった。龍脈に直接接触しなければいけないのだろう。

 

 そして【一代進化】、進化とは、取り返しのつかなさそうな能力名なので、最初は森の中の鼠で試してみた。すると、[対象の蓄積経験値が足りません]という言葉が脳裏に流れた。獣としての経験とはなんだ、捕食者から逃げ、獲物を狩ることだ。そう思った俺は、鎹鴉に目をつけた。

 

 榛を山の中で熊に追わせ、鼠などの小動物を狩らせて喰う。それを八重さんが狩りをしている最中の榛に強要する。いや~、心が痛い。というのも嘘ではないが、進化という言葉の響きに少しわくわくしている部分もある。数日すると、能力を使う時に脳裏に流れるアナウンスが変化した。

 

[対象のレベルが規定値に到達しました。素質を無視し、一度だけ対象を強制的に【存在進化(ランクアップ)】させることが出来ます。【存在進化】させますか?《是》《否》]

 

 一応榛には許可を取る。おそらく取り返しの付かない変化だ。進化というからには負の方向の変質ではないだろうが、鬼のようになる可能性も全くない訳ではない。

 

 過酷な経験値稼ぎに恨み言を言われつつ許可を貰ったので《是》を選択するように強く念じる。すると、いつも元気に空を飛び回っていた彼が暖炉のそばで寝始めた。

 

 ……そして翌日。

 

《十六日目》

 

 俺の鎹鴉は異様に大きくなっていた。翼を広げた大きさは今まではふつうの鴉と同程度だったのだが、今では【巨大腕】を全力で発動して腕を広げた長さと同程度はある。子供くらいなら掴んで飛べそうだ。見た目普通の鴉から、巨大なワシになったような感じだ。無論羽は濡羽色のままだが、若干艶が出ている。

 榛の話によれば【鎹大鴉】になったようだ。知性も向上したようで、使う語彙も話す内にどんどん増えて行っている。連絡事項を繰り返し喚くだけの今までのポンコツぶりとは大違いだ。

 

 今日は八重さんとのお別れの日だ。名残惜しいが、熊や鹿からはもう能力を得られそうにない。これ以上長居するのは本来の目的にも反する。

 次は海に行き、鮫や鯱などの強力な海の生き物を食べる……つもりだったが、その前に数個ほど任務を挟む。鬼殺隊本部から、山狩りが一段落付いたら一旦任務に戻れ、との指令が来た。鬼は地上にいるのだし、海棲生物の能力はそこまで必要ないか、とも思い直し、任務に励むことにした。

 

 ともかく八重さんに別れの挨拶をしなければ。

 

「今日まで色々とお世話になりました。本当にありがとうございます」

 

「ん、ああ。あたしも楽しかったよ。鴉もデカくなったし、いろんな異能を見せて貰ったし、面白かった。感謝するのはこっちの方だ。機会があったらまたやろう」

 

 別れてから帝都に向かう。任務の内容は、帝都の郊外にある民家に鬼婆が出るという噂があるから調査せよ、というものだ。帝都のどこかにある珠世さんの屋敷を探したいこともあり、丁度良い任務でもある。

 

 歩きながら常用の能力を確認する。常に発動させているものは、【巨大腕】【巨大脚】【悪鬼の尽きぬ体力】【石の体】【熊の胆力】【分厚い皮膚】【硬い骨】だ。熊から得た新しい能力は名前そのままの能力で、肉体を強化する類のものだ。体力訓練の時は解除するものもあるが、奇襲を警戒して防御力や精神力を強化するものは普段から使っている。【巨大腕】と【巨大脚】は制御訓練も兼ねて常に発動している。今のところは身長六尺(約180cm)程に収まる程度の大きさを保っており、徐々に制御も上手くなってきている。

 

 今のところ唯一試していない能力、【融合】は名前からは能力の内容が読み取れず、試すのに躊躇していた。

 だが強くなるためには使える能力を増やしていかなければならない。まずは近くにあった俺の腰くらいの直径の岩と、10尺くらいの大きさの杉を【融合】させてみる。

 

 融合した結果、杉の表面、皮の部分が硬い岩の成分になっていた。剥がして食べても特に能力はラーニング出来ない。

 

 もう一度同じような材料(今回は栗の木だ)で【融合】を試してみたら、全く別の物体になった。木の実が小石に変わっていたのだ。この小石は数十程食べれば能力をラーニングすることが出来た。

 

[能力名【石礫生成】のラーニング完了]

 

 他にも色々試してわかったことを記すと

 

・直接接触させた形で【融合】能力を発動させれば融合する。

・融合の内容はお互いの特性が無規則に合わさる形になる。コントロール出来る気はしなくもないが、かなり難しそうだ。

・無生物同士の場合は単に混ざるだけ。

・生物と無生物なら、生命の維持が可能な形で生物の体の一部が無生物に置き換わる、または無生物が体に生える。

 

 生物と生物の場合はまだ試せていない。帝都に行って探せば鼠や蛇を売っている店もあるだろう。それで試そう。

 

 色々と試しながら歩いていると、帝都郊外の例の民家に着いた。もう夕方で、日が沈む直前だ。いきなり突入するのもどうかと思うので、近所の人に噂について尋ねる。

 

 通行者の老女が近所らしいので噂について聞いてみた。すると、

 

「ああ、あそこの家ねぇ。子がいるとわかった途端に夫が事故で死んで、大変な時に変な噂が立って可哀想だねぇ。少し前までは興味本位で多くの人が尋ねてきたんだよ。今はほとんど見ないがねぇ……え?昼間に外で見かけたかって?何度かあるけど……それがどうかしたのかい?」

 

 ということらしい。どうやらその妊婦は鬼ではないようだ。人が鬼を匿っている場合も無い訳ではないので、警戒を解くべきではないが、これは噂が根も葉もないという線が濃厚か。

 

 その妊婦が住む家を尋ねてみる。それなりに大きく、特に庭が広い家だ。亡くなった夫の稼ぎが良かったのだろうか。

 

「失礼します。鬼殺隊の不死川という者です」

 

「なんですか急に。きさつ……たい?」

 

 出てきたのは少しやつれて疲れた顔をした、腹が膨れた女だった。精神的負担からだろうか、髮の根本部分が白髪になっている。

 妊婦に追い打ちをかけるようで心が痛むが、これも鬼殺のためだと思い噂について言及する。

 

「この家の中に鬼が出るという噂がありまして……事実無根の噂かと思いますが、念のため家の中を拝見させて貰ってもよろしいでしょうか」

 

「またそんな噂を真に受けて……満足するまで見ていって下さい。鬼なんてどこにもいませんから」

 

 そういって家の中に入れて貰った。押し入れや床下等、日の当たらないところを隅々までを覗くも、鬼やその痕跡は見あたらない。

 

「やはり根も葉もない噂のようですね。失礼しました」

 

「お疲れでしょうし、お茶でも飲んで下さい」

 

 湯気のたつお茶を湯飲みに注がれ、出される。ここは好意に甘えて飲もう。

 

「ありがとうございます」

 

 熱い茶だ。冷ましながら少しずつ飲むと、だんだんと眠くなってきた。長時間歩いた疲れが出たのだろうか。こんなところで寝てはいけないが、眠気に抗えない。

 

[能力名【睡眠薬分泌】のラーニング完了]

 

 しくじった、と思った瞬間に意識が途絶えた。

 

ーーー

 

 胸に走るチクリとした痛みで目が覚めた。目の前には、俺に馬乗りになって包丁を構えている妊婦がいた。もう夜になっているようで、暗くてよく見えないが、見えたら血走った目をしているだろう、そういった雰囲気だ。

 

「な、なんで包丁が刺さらないの、どんな身体してるの、きさつたいって!」

 

 俺は縛られて、畳の上に転がされていた。そこまで丈夫な紐ではなかったのか、【怪力】と【野生の膂力】の重ね合わせでなんとか引きちぎれた。心臓を狙ったのだろうが、【分厚い皮膚】と【石の体】、【硬い骨】のおかげで胸部は掠り傷で済んでいる。鬼化無しの【治癒加速】でこの程度なら治癒できる。

 

「ひ、紐が……」

 

 妊婦の馬乗りから逃れ、包丁を奪い取る。それを妊婦に向ける。

 

「どんな事情があるかは知らねぇが、拘束させてもらう」

 

 そう言うと、妊婦は背中を向けて逃げ始めた。しかし相手は身重、すぐに捕まえられた。

 

 俺を縛っていた紐で妊婦を縛りつつ、尋ねる。

 

「何故俺を襲った。どうして人を刺すような真似をした」

 

 すると妊婦は震えつつ、自分の腹を庇うそぶりを見せた。

 

「答えろ!」

 

 妊婦はおずおずと答える。

 

「この子が……お腹のこの子が人の血肉が欲しいって囁いているの……人間の血肉じゃなきゃダメだって……だから代わりに私が食べて栄養を……」

 

 胎児だけ鬼になってるのか?そして血鬼術か何かで母親を操ってる?しかし、妊婦をこんな目に遭わせる鬼舞辻無惨、わかっちゃいたがイカれてやがる……

 腹の鬼だけ殺すにはどうしたらいい?おそらく人喰いとはいえ母親は人間だ、出来るだけ殺したくない。だが俺には無理だ。今持っている能力やその他の技能だけでは腹の鬼だけを殺すことは出来ない。

 今すべきことは、助けを呼ぶことだ。出来れば堕胎技術を持つ者を。

 珠世さん……ダメだ、この世界ではまだ接触してない。

 蟲柱……胡蝶しのぶなら可能か?そう思い、外で待機させていた榛に向けて叫ぶ。

 

「榛!今まで気絶していた!蟲柱を呼んでくれ、胎児が鬼だと伝えろ!」

 

「リョーカイ、蟲柱なら帝都にイル!数十分で来レル!」

 

 柱という言葉を聞いた途端、妊婦がびくりと震えた。いや、俺の目が正しければその腹が震えた、のか?

 

「柱……!そう、柱は嫌よね……どうすればいいの?……わかったわ」

 

 自分の膨れた腹に向けて語りかけ、その後、ぶるぶると腹部が震え、徐々に大きくなっていく。このままいけば腹が破裂してしまいそうだ。

 

「止めろ!死にたいの……いや鬼の胎児!親を殺したくはないだろう!膨れるのをやめろ!」

 

 しかし腹が膨れるのは止まらない。膨れた腹を球としてみると、その直径が妊婦の身長を越えた。なんたる人体の神秘だ、いやそれにしても異常だ、鬼が母胎の身体を柔らかくしているのだろうか。その直後、服と皮膚に切れ目が入り、その中から血塗れの子鬼が出てきた。

 

 子鬼の外見は、頭だけ岩ほどの大きさの赤ん坊のような生理的嫌悪感を催す見た目で、しかしその母親は愛情を感じているようだ。

 

「ああ……私の赤ちゃん……初めまして、ね……」

 

「そんなこと言ってる場合か!止血、どうにかして止血……!」

 

 止血をしなければと頭が一杯になっている俺に子鬼が襲いかかる。とは言っても体格の差は圧倒的だ。脚にかみついてきた子鬼を俺の足の肉ごと引き剥がし、そのまま【怪力】と【野生の膂力】の合わせ技による力業で遠くに投げ飛ばす。足の肉が食いちぎられて痛いが、【治癒加速】頼りで放置する。今はとにかく元妊婦、鬼の母親の止血だ。

 

「私の赤ちゃん……ど・・・・・・こ……」

 

 出血と痛みで気絶した母親の邪魔な上着を脱がし、夕方の家捜しで見つけた裁縫箱で縫ってみるが、不慣れなのと暗くて傷口がよく見えないのもあって、中々出血は収まらない。

 手を動かしながらどうすればいいか悩んでいると、ふと思い出した。炭治郎の顏に木の枝をくっつけて悪戯した場面をだ。あれ、止血にも使えるんじゃなかろうか。

 そう思いつくと、家の床から木の板を引っ剥がし、【根幹操作】で腹の形に合うように曲げて、母親の腹に沿わせて【肉木融合】を発動させる。

 手で触った感じでは止血が出来たようだ。傷口は完全に木材と融合している。

 

「ふぅ……」

 

 余裕が出来たので、蝋燭を探して明かりを付けよう……と思ったところで子鬼が再度現れた。いや、もう子鬼ではない。生まれたばかりの時は異様な頭の大きさとそれに付着するような小さい首から下の乳児の体。だが、頭の大きさはそのままに体がその頭に合うように変化していた。一言で表すと、巨大な大人の鬼になっていた。

 体長は30尺(9m)程。ただ肘をついて這っているので、高さは5釈(1.5m)程だ。

 庭で子鬼が徐々に大きくなっていたのには気配でなんとなく気づいていた。だが母親の止血を優先したのと、蟲柱が来れば鬼が強くなっても一瞬で終わるだろうという自信もある。いくら生まれる前に人間を食べていようと、生まれたばかりの十二鬼月でもない鬼だ。彼女なら簡単に倒せるだろう。

 俺の技量では首を切るのは難しいが、彼女が来るまで時間稼ぎさえすればいい。

 

「柱が来るまで遊んでやるよ」

「柱は嫌だ、柱は嫌だぁ……!お前を倒して早く逃げる……!」

「逃がすかよ!」

 

 巨大な腕での薙ぎや叩き潰しを躱し、【巨大腕】と【巨大脚】の出力を全開にする。これで俺の身長も十尺(3m)程になり、相手との体格の差異が小さくなった。それでも三倍はあるが。

 

 巨鬼が暴れたことで家が壊れつつある。母親が下敷きになるとまずいので抱えて外に出る。

 庭に出た俺は、俺と同程度の大きさの木を引っこ抜き【肉木融合】を発動させて手からつながる自分の一部とし、それを【根幹操作】と【枝葉操作】で形を整え、振り回しやすくする。

 相手は巨体だ、これを武器にしよう。

 

「……在舍衛國 祇樹給孤獨園……」

 

 念仏を唱えて感覚を全開にしつつ、膂力強化系能力も全開にして巨鬼に木を叩きつける。巨鬼は抵抗するが、何度も何度も叩きつけていると少しずつ怯むようになってきた。

 

「ぐぎゃ、助けて、おかあちゃん、助けてぇ」

 

 母親はあの出血量で、まだ意識が不明瞭な筈だ。助けに来ることはないだろう。

 怯んだ隙に【根幹操作】で木の幹を曲げ、巨鬼の腹に巻き付ける。そして枝葉から【養分吸収】の根を出す。この能力は指を吸収器官にしていた。枝から根を出すことも当然出来る。

 

 そして全力で鬼の力の源である血を啜りにかかる。鬼の養分が木を通して俺に渡ってくる。

 

[能力名【接触念話】のラーニング完了]

[能力名【巨体化】のラーニング完了]

[能力名【寄生】のラーニング完了]

 

 同時に、ついさっき取得したばかりの【睡眠薬分泌】で根の先から睡眠薬を分泌する。鬼に効くかどうかわからないが、できることはやった方がいい。

 

「ち、血が吸われてる……お前の仕業か!」

 

 木から血液が吸われていることに巨鬼が気が付き、より一層激しく暴れ回る。なんとか木の束縛を維持しようとしたが、千切られてしまった。

 束縛から解放された巨鬼は、母親の元に向かう。おそらく母親を喰う気だ。生まれて間もないということは、直接人喰いをしたことはない筈だが、母親に人を喰わせてたことは確かだ。母親を喰うことにも躊躇はないだろう。

 殺人・食人犯とはいえ人間だし、せっかく助けた命だ。奪われることは避けたい。食人により鬼が回復することもだ。

 

 巨鬼の足を掴み、全身の筋力を使って足止めをする。掴むというより、指をめり込ませるという動作に近い。めり込ませた指に【養分吸収】と【肉体操作権奪取】を発動して、体力を削りつつ行動を阻害する。

 

「待てコラ!逃げずに戦え腰抜け!」

 

 自尊心が高いようには見えないし効かないだろうが、つい挑発が口から出た。母親から搾取しつつ都合の良い時だけ助けを求める、父親と同類だがある種正反対の態度に苛立つ。

 操作権を奪えた相手の右腕で地面を掴み、歩みを少しでも遅らせる。

 

 しかし相手の巨大な身体がもたらす力は凄まじい。数十秒もたたずに巨鬼は庭の隅に横たわっている母親の元にたどり着く。

 

「母ちゃん、母ちゃん、あのお方も酷ぇことする。母ちゃんだけ人間だなんて。早く逃げて母ちゃんも鬼にしてもらおうなぁ。鬼になれば治るからなぁ」

 

 予想と違い、巨鬼は母親を喰う気は無いようだった。一瞬気が緩んで、手を離してしまった。母親も鬼にするなどとふざけたことを口走っていたのに。

 

 巨鬼は母親を両手で抱え、四つん這いから立ち上がって走って逃げ始める。

 その時、大きな陰が月明かりを遮った。

 

「あら、鬼は胎児だと聞いたのですけれど……生まれたてでもうこんなに大きくなったのですか?」

 

 蟲柱、胡蝶しのぶだ。思ったより少し……いやかなり早かったな。助かった。

 

「そして鬼喰いの隊士……あなたですか、妙に大きな鎹鴉を使って通報してきたのは。私はこの通り体が軽いので、掴まって飛んで来れました。まあ、少々目立ちはしましたが」

 

 蟲柱は榛の足に刀の鞘を掴ませてそれに懸垂をして(ハンググライダーのように)飛んでいた。榛は鞘を足から離し、蟲柱は地面に降り立つ。

 

「何だぁ、増援かぁ?母ちゃんを《鬼にする》助ける|邪魔をするなぁ!」

 

「助ける?母親は小康状態のようですし、病院に連れて行くなら私がしますよ?あなたは……まあ鬼殺隊の本分から言えば殺さなければならないんですが、条件を飲めば見逃してあげましょう」

 

「じょ、条件?知るかぁ!母ちゃんを俺と同じ、強い鬼にしてやるんだぁ!」

 

 巨鬼は蟲柱を蹴飛ばし、道を開けようとする。しかし当然の事ながら柱がその程度の攻撃を食らう筈は無い。するりとすり抜けるように躱した蟲柱は、そのまま日輪刀を抜き技を繰り出す。

 

[胡蝶しのぶは戦技【蝶ノ舞:戯れ】を繰り出した]

 

 ひらひらと鱗粉を散らして舞う揚羽蝶が幻視される技だ。その技により巨鬼の身体には大量の藤の花の毒が打ち込まれた。

 

「な、なんだぁ?チクっとしたがこれが攻げ……ぐが、足が、足が溶ける、溶けちまうぅ!」

 

 毒を打ち込まれた巨鬼の足から溶解し始めた。これが藤の花の効能、恐ろしくも頼もしい。

 鬼にしか効かないとはいっても俺は鬼喰いをしている、藤の花は口にしない方がいいだろう。

 

「巨体なので蝶ノ舞一度だけでは足りなかったようですね……おっと」

 

 蟲柱は巨鬼の手からこぼれ落ちた母親を拾う。俺は彼女に駆け寄り、母親を護ろうと巨鬼との間に立ちふさがった。

「うごぉおぉおお!母ちゃんをぉ、がえぜぇ、ぜぇ、ぜぇ」

 ゆっくりと、しかし目に見える速度で足を再生させつつ、巨鬼は真正面にいる俺を無視してその先の母親を抱える蟲に突進する。

 巨大質量の衝突、それを最初に食らうのは俺だ。避けることは出来ない。後ろには蟲柱と巨鬼の母親がいる。蟲柱は避けられるだろうが母親の方は無理だろう。

「胡蝶さん!デカくなります!」

 つい先ほど手に入れたアビリティ、【巨体化】を使う。【巨大腕】【巨大足】とも合わさって、俺の体長は一六尺半(5m)ほどにまで大きくなった。靴や服の四肢の部分はすでに千切れて邪魔になったので脱ぎすてていたが、これで服の大きさが完全に合わなくなり全裸になるしかなかった。夜で人通りも無いのが幸いだ。

 体に力が漲る、が、それ以上に体が重い。【巨大腕】【巨大脚】だけの時には無かった症状だ。体が大きくなる分動きが鈍重になるようだ。

 だが、体長が大きくなるということは筋肉量も多くなるということだ。各種膂力強化系アビリティもそれに乗算され、巨鬼の衝突に耐えられるほどの膂力を得た。

 巨鬼の体長は三十尺、常人の六倍程だ。誰かから聞いたことがあるが、長さが縦横高さ六倍になれば、重さは六掛ける六掛ける六倍となるらしい。計算は出来ないが、凄まじい質量の衝突だ。

 その衝突に、相手の腹を抱きしめて耐える。俺の膂力もまた速度や人間性を犠牲にして凄まじいものとなっていた。

 感覚を全開にして筋肉に十割の力を発揮させる。一歩も引かず、蟲柱と鬼の母親に体が触れることなく、耐えきった。

「なるほど、これほどまでとは・・・・・・鬼食いの力は凄いですね。私たち鬼狩りも鬼の力を利用するステージに来たのかもしれません」

 柱故の余裕だろうか、戦闘中に俺を研究者の目線で観察している。柱には余裕があっても俺に余裕はない。突進の衝突の直後で疲労している巨鬼を押さえ込むので精一杯だ。

「今!トドメを刺して下さい!」

「では、トドメは実験も兼ねましょうか」

 

 滑り込むような脚捌きで巨大化した俺の股を掻い潜りーーー全裸なので恥ずかしいとか言っている場合じゃないーーー巨鬼の脚に日輪刀を突き刺す。

 そのまま巨鬼の足下を擦り抜け、巨鬼の背後を取った。

「がぁ、母あちゃん・・・・・・邪魔だぁ、どけぇええ!」

 脚を突き刺されたことに巨鬼は気づかず、母親に向けて猛進を開始する。

「ぐぅっ・・・・・・行かせるか!!」

 三十尺と十六尺(9mと5m)、巨人同士のせめぎ合いであり、膂力は互角。

 取っ組み合いつつ頭突く、蹴る、脚を払う。相手は堅い体でそれを耐え、同じように反撃してくる。

「こ、胡蝶さん!援護、援護お願いします!」

「ああ、そろそろ『孵化する』頃なので離れた方がいいですよ」

「え?孵化?」

 ふと視線を声の方に向けると、潰れた家屋の屋根に鬼の母親を横たえて立っていた。

 視線を向けた隙に、巨鬼は俺を突き放し蟲柱の方に向かって駆け出していた。

 マズい。俺の失態だ。咄嗟に【石礫生成】を使って生成した石(とは言っても巨大化した俺のサイズに合わさったのか、漬け物石程度の大きさはある)を投げつける。頭に当たるが怯まず鬼は蟲柱の方に向かった。

 蟲柱はそれでも逃げない。手を柄に掛けてはいるものの、抜刀すらしていない。

「う~ん、もうそろそろだと思うのですけれど・・・・・・」

 そう、蟲柱が呟いた時だ。蟲柱にあと一歩で手が届きそうだった巨鬼が突然倒れ込んだ。

「ガハッ、カヒュ、ブロォオオエッ!」

 倒れ込んだ巨鬼は突然嘔吐した。

「うん、成功・・・・・・ですね!」

 成功・・・・・・?何の話だ?蟲柱は鬼を病にでも掛けたのか?

 よく見ると、吐瀉物は鬼の体内に戻ろうとして蠢いている。

 それも当然、吐瀉物はただのゲロではなく、血と胃液にまみれた蛆の大群だったのだ。

「蟲の呼吸 蛆ノ舞 寄食叢生とでも呼びましょうか。正確には型ではないのですけれど」

「胡蝶さん、これは・・・・・・?」

「ああ、もう元の大きさに戻っても大丈夫ですよ、鬼食いの隊士さん。これは私があなたの持ってきた鬼樹に影響を受けて作り出したものです」

 と蟲柱は蛆の大群を指さす。言われた通り小さくなったが服が無いことに気づく。榛を呼び、代わりの服を持ってきてくれと頼んだ。

 蟲柱はこっちに視線を向けずに語り続ける。

「鬼は他の物と融合すれば鬼ではなくなる・・・・・・ならば鬼を素材にして、鬼ではない鬼殺の道具を作ることが出来るのでは?という発想です。ここ数日で実験してみまして、試作品として完成したのがこの『鬼食い蛆』です。簡単に言えば鬼の血だけを啜らせて作った寄生蠅の卵ですね。鬼のような再生能力は無く、日光の弱点も無く、ただ一つだけ、通常の寄生蠅と違う特徴は、鬼の血肉を食らって爆発的に増殖することです。単為生殖ですらなく、分裂に近いですね」

 俺も鬼の力を使ってはいるが、鬼の力とは本来危険なものだ。大丈夫なのだろうか。

「危険性・・・・・・とかはあるんですか」

「もちろんありますよ。生態系への危険、人間への危険、変異の危険・・・・・・数え上げれば切りがありません。だから鬼食い蛆の母体を環境にばらまいて鬼を駆除しよう、なんて真似も出来ません。慎重に卵を保存・管理して、一匹一匹卵を打ち込んで、増殖した蛆は一匹残らず焼却処分する。焼却が出来ない森の中や水の中、人家の中では使えない・・・・・・正直言って、あまり使えない類の試作品ですね」

 

 話している内に、巨鬼の体が蛆に完全に食い尽くされていた。蛆と血だまりだけが残っている。蛆は鬼にとって危険な生物らしいので鬼食いをしている俺は近づかない方がいいだろう。

 隠の人たちが焼却用の油と俺の服を持ってきてくれたのでさっさと服を着て、鬼の母親は隠の人の一部が応急処置をし、蟲柱と隠の人たちの大勢が残った蛆の焼却作業に取りかかる。俺は鬼の母親の方で応急処置の手伝い等をやる。特に【肉木融合】の解除は俺しか出来ない。

 止血に使った木は本来異物であるので、外して糸でちゃんと腹の裂け目を縫合する。内蔵部分は何故か傷ついていなかったようだ。

「分裂した蛆も体の外に出ると衰弱して殆ど死んでしまうみたいですね。万が一焼却から逃れた蛆がいても安心ではあります。ところで、この鬼について詳しく聞きたいのですが・・・・・・元は胎児ということでしたよね?」

 作業をしつつ蟲柱は俺に説明を求める。

「ええ、胎児で人を食えないから母親に指示を出して人を食わせてたみたいです」

「母親の方が人を?血鬼術で操られていたのでしょうか?そうだとしてもーーーッ!?」

 突然蟲柱の話が途絶えたので振り向くと、蛆の群と油だまりがあって、蟲柱がいた。何も変なことはーーー

「血だまりが、突然地面に吸い込まれて消えました!血鬼術の予兆!警戒!」

 これ以上何が起こるというのだろうか。腰の、仮の日輪刀を抜いて隠たちと円陣を組み、傷の縫合途中の鬼の母親を護る。蟲柱は蛆の処理を中止し、地面を避けるように塀の屋根を駆けてこちらに向かっている。

 どこから来る、どこから・・・・・・あの母親に固執している巨鬼なら・・・・・・母親を直接狙う?

 振り向き、鬼の母親を見る。縫合が終わりかけていた母親の側に血だまりが湧き出ている。縫合している隠は未だにそれに気づいていない。

「母親を連れて逃げろぉ!」

 隠はこちらを振り向き、そして周りを見渡して血だまりに気付く。だがもう遅い。

 血だまりは母親の傷口の中に入り込み、一瞬にして腹を膨らませる。

「蟲の呼吸、蜂牙ノッ!?」

 蟲柱は鬼の母親の腹を突き刺そうとするが、それは母親の股ぐらから飛び出してきた乳児が蟲柱の日輪刀を手と額の角で角度を反らした。

。額に角の生えていること以外は普通の人間と変わらない、鬼の乳児だ。

「おぉおおおぎゃああああ!!!」

 乳児はドスの効いた低い産声を上げつつ、蟲柱の刀にしがみつきそれを全身の力でへし折ろうとする。

「させるか!」

 俺は仮の日輪刀で乳児の腕を切り飛ばし、掴んで全力で人のいない方向の塀に投げつける。投げ飛ばす途中で右手の中指を食いちぎられた。かなり痛い、今の再生力では部位欠損は治るだろうか。

「玄弥隊士!助かりました!戦闘続行可能ですか!」

「唾付けときゃ治りますよ!」

 強がりはするが投擲はもう出来なさそうだ。刀も強くは握れない。

「しかし、確実に蛆で食い尽くした筈、一体何故・・・・・・」

「柱の女。たしかに俺、いや俺の兄貴にして親父は蛆で殺されたぜ」

 ドスの効いた声、鬼の乳児は俺たちに一歩一歩近づきつつ蟲柱にそう言い放った。

「俺の前世である兄貴の血鬼術は、死後発動型(・・・・・)だ。知ってるか?記憶ってのは血に残るんだぜ?血統、そして血液になぁ!血液に精子の性質を持たせ、お袋の卵子に受精させ急速成長させる!血統と血液の記憶を血鬼術で増幅させた俺の記憶は完全に兄貴の記憶と同一だ。説明終了、殺すぞ!」

 鬼の乳児は弾丸のように跳躍し、蟲柱に向けて飛んでくる。【巨大腕】を最大出力にして腕を文字通り延ばし、乳児の弾丸跳躍を防ぐ。

 今度は左手の手のひらを食いちぎられた。だが俺も構わず巨大な掌で鬼の乳児を握り締め、乳児の脚を食い千切って嚥下し、地面に叩きつけた。

 

[能力名【再生加速】のラーニング完了]

[能力名【肉体圧縮】のラーニング完了]

[能力名【帯血記憶】のラーニング完了]

 

「何が殺すぞだぁ?もう一遍言って見ろ!いくら力が強くたって口が回ったってなぁ、質量不足じゃ意味ねーんだよ!前世の方が万倍強かった!」

 さらに【巨大脚】を発動させて踏みつけ、抑えておいて日輪刀を柄から引き抜こうとする。だが、その瞬間俺の視界が回転した。

「あ゛?俺の前世が、何だって?」

 投げ飛ばされたのだと一瞬気付かなかった。あの大きさで俺を投げ飛ばせる訳が無いと慢心していたのだ。だが違った。鬼の大きさに惑わされてはならない。

 受け身を取って立ち上がり、鬼の乳児を見ると両腕が異様に大きくなっていた。片腕で三尺と少し(1m)程のそれは即座に小さくなる。

「おぉまぁえぇの真ぁ似ぇ」

 そうだ。俺のアビリティである【巨大脚】と【巨大腕】、それをこいつは模倣し即座に活用したのだ。

 鬼の乳児は弾丸跳躍しようと脚を曲げーーーその一瞬の隙を背後の蟲柱に狙われた。

 

[胡蝶しのぶは戦技【蜂牙ノ舞;真靡き】を繰り出した]

 

 蟲柱はその刃で鬼の胎児に毒を注入した。

「クソッ、まだだぁ!」

 鬼の乳児は腕を巨大化させて振り回すが、ひらりひらりと蟲柱は躱す。やがて鬼の体は毒に溶かされ、血だまりの他に残すものは無くなった。

「ふぅ、少し焦りましたが、これでおしまいですね」

 いや、違う。復活は一度だけではない。今世のあいつからも【帯血記憶】というアビリティがラーニング出来てしまっている。それの意味するところは・・・・・・

 血だまりが再度蠢き出す。鬼の母親に向かって飛び込む。蟲柱は咄嗟に気付き、血液に刀を突き刺す。だが液体は切れない、そのまま血液は鬼の母親の胎内に入り、再度腹が膨れ上がる。

「何度も何度も・・・・・・女の胎を何だと思っているのでしょうか」

 女の股ぐらから胎児が出て来た。今度はそのまま急速に成長し、少女の姿となった。少女の鬼は当然全裸であり、短髪で牙が鋭い以外は普通の少女の姿だ。

 鬼の少女は母親を抱え、庭の外に駆け出そうとする。

「逃しません」

 蟲柱はその瞬足で鬼の前に立ちふさがる。俺も遅れて鬼の後ろに立ちふさがる。

「・・・・・・前前世の長男は母親に恩がある。十月十日もの間育ててくれた。同族食いという悍ましい真似までして育ててくれた」

「?何を言っているのですか?母親はあなたが血鬼術で操っていたのでは?」

「私にそんな力はない。自らの意志で彼女は禁忌を犯した。息子のために犯してくれた」

 確かに、俺を包丁で突き刺した時の鬼の母親は、鬼に操られている感じは無かった。だから何だ。鬼の母親は人間で、護るべき対象だ。罪は後で償えば良い。

「だから私は母を助ける。命を懸けてあなたを助ける。命捨ててもこの恩に報いる。だから・・・・・・降伏だ」

 え?これ今から再戦が始まる流れじゃなかったか?太陽が上るまでここで粘るしかないと思っていたんだが。

「柱には敵わない。母を助けてくれ。すべて前前世の私のためにやったことだ」

「こちらにも一つ条件があります。あなたのお母さん、今まで何人、人を食いましたか?」

「・・・・・・十四人と言ったところか」

「そうですかーーーじゃあ、その人数分の拷問をして、耐えられたら助けてあげましょう!」

 蟲柱ーーー胡蝶しのぶがそう言う。胡蝶さんの悪癖、『拷問に耐えたら助ける』だ。それが人間に対しても出るとは・・・・・・

「まあ、十四人分の拷問なんてとても鬼ではない体には耐えられないでしょうけど・・・・・・人を食ったんだから、仕方ないですよね?」

「ちょ、ちょっと待って下さい胡蝶さん!人間を拷問するって、本気で言ってるんですか?隊律違反ってレベルじゃ・・・・・・」

「いいですか、玄弥隊士。人間を食べる、という存在は、人間とは言わないんですよ。血鬼術で操られていたのでしたら情緒酌量の余地もあったのですけどね。あなたも肝に銘じておいて下さい」

 蟲柱の張り付いたような笑みにぞっとする。こういう人だったか?いや、こういう人だったのだろう。ただ、俺たち人間に対する態度と鬼に対する態度が違うだけで・・・・・・特に禰豆子と出会う前の蟲柱だ。何も不思議はない。

「それと・・・・・・胎盤を通じて人の肉の栄養を摂取した、あなたも拷問の必要がありそうですね」

「どうやら話は通じなさそうだ。母から聞いた、キサツタイは鬼を狩ることに執着する異常者の集まりだと。鬼を狩ることに犠牲も禁忌も厭わない狂気の集団だと」

「あなた方鬼側からしたらそうでしょう。そうでなければ鬼殺隊ではなくお助け隊を名乗っています。あ、ここ、笑うところですよ?」

 笑えねぇ・・・・・・なんとかして胡蝶さんを止めないと。ただ子供を育てただけ、とは言い難いが、同じ鬼舞辻無惨の被害者なのだから。

 頭を回せ。どうにかして胡蝶さんを止める方法を考え出さなければ。

「胡蝶さん、俺は拷問には反対です。鬼ではなく人をどうこうするのは鬼殺隊の領分を外れています。人が人を食ったんだから、警察に引き渡すのはどうでしょう」

「鬼殺隊の中にも正気があったか、柱だけが狂っているのか。二人だけではわからない」

 鬼の少女が口を挟む。

「お前はだぁってろ!」

 これで、どうだ?胡蝶さんを止められるか?

「そうですね、仮に母親を人と見なせば筋が通った理屈です。ですが、人食いですし、人間とはもはや言えない、といった見方もあります。その場合は鬼殺隊の領分ですね」

 やはり、だめか・・・・・・

「ですので、柱合裁判で決めることにしましょう!玄弥隊士ももちろん、証人として来て下さいね」

「助かった、のか?私は。我が母は」

 前から思ったが、鬼の少女は奇妙な口調だ。生まれたばかりなのに、どこでこんな口癖がついたのだろう。

 

 

 

 

 

「ああ、鬼のあなたは死んで・・・・・・いや、拷問して耐えられたら良いことにしましょう。この不死川玄弥隊士に生きたまま食われること。被害者一人一時間、合計十四時間耐えられたら、私の実験体として生き延びる権利を与えます」

 え・・・・・・?俺が拷問する役なのか?確かに鬼の踊り食いは得意だが、無抵抗の、生まれたばかりの、さらには女、と来た。これを食うのは相当ハードルが高いぞ?というかこれだけ並べたらとんだ畜生じゃねぇか!

「いや、無抵抗の相手を食べるのは流石に・・・・・・日輪刀を彼女に渡すので、それで自死してもらうってのはどうでしょう」

「食べなさい」

「いやだから・・・・・・」

「食べなさい。鬼喰いが鬼殺隊の戦力増強になるなら、食べない選択肢はないですよね?」

「いや俺が特例なだけで元々隊律違反・・・・・・」

「食べなさい」

「はい」

 ということで、鬼の少女を再生させつつ食べることになった。母親は隠の人たちが応急処置をしてから産屋敷邸に連れて行った。

 

《十七日目》

 家屋が潰れてそろそろ警察が来そうなので、蟲柱は近くの藤の家紋の家に俺と鬼の少女を連れてきた。ここで鬼喰いを行わせるようだ。抵抗した時のために蟲柱も来た。

「鬼喰いの準備はいいですか?では、ここから十四時間、休憩を除いてきっちり計りますので、捕食を開始して下さい」

 蟲柱は夜の十二時になった時計を見つめつつ、そう俺に命じた。

 それから十四時間は鬼の少女にとっては当然、俺にとっても苦行だった。

 日輪刀で鬼の体を捌く。この時鬼の頸を切らないようにする。

 捌いたら一口大に千切ってから口に入れる。マズいので出来るだけ咀嚼しないようにする。食べ終わったら鬼の再生を待ち、その後再度捌く。再生力が下がったら俺の血肉を少しだけ食べさせる。【治癒加速】と【再生加速】ですぐに治るため、これは蟲柱も許した。

 最初は鬼の少女も激痛で呻いていたが、途中から激痛を堪えつつ少しだけなら会話出来るようになった。

「名前は、何と言うんだ?」

「母は、基螺と名付けてくれた・・・・・・ぐっ!」

「母親は、どんな人だったんだ・・・・・・?」

「優しかった、少なくとも私に対してはそう話しかけてくれた・・・・・・あぎっ!」

 その間、休憩もせずにずっと蟲柱は冷たい目で俺たちのことを見ていた。俺たちは一時間ごとに休憩を入れていたが、胡蝶しのぶは黙って俺たちを監視していた。何を思っていたのだろうか。

 

 結果だけを記す。柱合裁判は明日だ。俺と基螺は捕食の拷問が終わった後にぶっ倒れて気絶した。

 

[能力名【鉄の体】のラーニング完了]

[能力名【死後に残る念:母胎回帰】のラーニング完了]

[能力名【記憶する遺伝子】のラーニング完了]

[能力名【血の受胎告知】のラーニング完了]

[能力名【胎内成長】のラーニング完了]

 

[不死川玄弥は職業【魔喰の戦士】を獲得した!]

 




無限列車編TV放送で鬼滅熱が戻ってきたので初投稿でした。
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