Re:Demonslayer 両断から始まる鬼食い転生記   作:砂漠谷

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《十九日目》~《二十六日目》

《十九日目》

 基螺を連れて、鱗滝左近次の所に向かう。炭治郎が持つものと形は同じ杉の箱を、基螺のために藤の紋の家の人が作ってくれていたが、基螺曰く「息が詰まること土中の如し、狭きこと牢屋の如し」と言ってどうしても入りたくないと主張されたため、日中は基螺を宿で休ませつつ(鎹大鴉の榛に監視させている)、俺はその近くで鍛錬とアビリティの実験。夜間に進むことになった。

 

 それにしても基螺の頸は本当に斬らなくてもいいのだろうか。蟲柱は拷問を通じて許してもらったし、おそらく鬼を赦す裁量を蟲柱は与えられているからこそのあの言動だと思うのだが、他の柱は赦すだろうか・・・・・・

 

 そんなことを考えつつ、藤の紋の家の近くで売っていたカブトムシとクワガタムシを【融合】で一つにする。カブトムシの角が尻に生えたクワガタ虫になった。喰っても特に何も得られなかった。

 次は近くの山で捕まえた蛇と鼠を【融合】で一つにする。だが不可能だった。

[対象の系統差が術者の力量を越えています]

 系統差、ということは、蛇同士でなら可能なのだろうか、と思い試したら上手くいった。二股の頭を持つ蛇。放置してみると、お互いを威嚇しあい、最終的には片方の頭が片方を食いちぎって殺した。それで死ぬようなこともなく死んだ方の頭を引きずって這って山の中に消えていった。

 最後は猫二匹。これは町でペットとして売っていたものだ。これも不可能だった。

[対象の高等性が術者の力量を越えています]

 今度は高等性が原因で不可能だったようだ。それにしても、術者の力量次第では人間同士でも融合させられるのだろうか。我が事ながら末恐ろしい能力だ。

 

 

《二十日目》

 

 夜は【悪鬼の尽きぬ体力】任せで基螺と一緒に全力で走る。

 日が上る前に次の宿に着き、泥のように眠る。

 正午過ぎに起きて鍛錬、疲れたらアビリティの実験を行う。

 今日試したのは【接触念話】と【帯血記憶】だ。

 【接触念話】の方は簡単。相手に触れると相手と念ずるだけで会話が出来る、という効果だ。自分の思考を伝えるだけではなく、副次的な効果として、相手の思考をーーーほんの表層だけだがーーー読み取ることが出来る、ということがある。この念話で嘘を吐いたり事実を隠したりするのは、訓練すればやれなくはないだろうがかなり難しそうだ。お相手は基螺でした。

 【帯血記憶】とは、自身の血液に自分の記憶を込め、相手に摂取させることで記憶を読み取らせることが出来る、というものだ。アビリティの熟練度によって記憶の密度は変わるようで、今の熟練度であれば湯飲み一杯程の血液に数日分の記憶を宿らせることが出来るようだ。同じく実験の相手は基螺。

 

 《二十一日目》

 

 ようやく狭霧山についた。鱗滝左近次と炭治郎には前日に事情を記した手紙が送られていたようで、だいぶ歓迎してくれた。

 鱗滝さんは注連縄と紙四手を持って山の奥の儀式場めいた場所に基螺を連れて行き、暗示を掛けてくれた。これを一週間程やらなければならないようで、しばらく基螺を鱗滝さんのところに預け、その後は蟲柱の所に戻って新しい毒のための被験体をやるようだ。死ぬような毒は投与しない、と蟲柱は約束してくれたし、基螺も母親の身柄が鬼殺隊次第ということなら仕方がない、と納得した。基螺は少々殊勝過ぎじゃないだろうか。記憶を継いでいるとはいえ、少女態の基螺は何をしてもらったという訳でもない筈だ。親というだけでそこまで尽くすのは理解出来ない。

 

 炭治郎と稽古をする。木刀での仕合だ。呼吸を使われても膂力や体力は俺の方が上だが、水の呼吸独特の受け流す技術が半端じゃない。それに型を使われると瞬間的な威力で上回られてしまう。勝率は二割と言った所だ。俺はアビリティは身体強化系のものしか使っていないから他のものも使えばどうなるかわからないが。

 

《二十二日目》

 他のまだ実験していないアビリティの一部ーーー巨人態の基螺から手に入れた【寄生】、そして少女態の基螺から手に入れた【死後に残る念:母胎回帰】【記憶する遺伝子】【血の受胎告知】【胎内成長】等は倫理的な問題があり試せない。【鉄の体】は単に【石の体】の上位互換。体表に金属光沢が出来るということもなかった。おそらくこの鉄というのは単に硬度を表しているのだろう。【肉体圧縮】、これは試していてかなり面白かった。発動すると体長が数分の一になり、しかし体の硬度や膂力、敏捷性は数倍までに跳ね上がっていた。一部だけ圧縮することも出来るようで、制御に手間取ったものの、【巨大腕】と【巨大脚】との併用で、通常の大きさだがその強度は通常の十数倍という四肢になることが出来た。これを制御に手間取らずに戦闘時でも動かせるようになればかなり無惨戦に役に立つだろう。

 

《二十三日目》

 ようやく刀が届いた。炭治郎と俺の日輪刀だ。炭治郎のそれは抜刀すると黒く染まったが、俺のは色が変わらなかった。・・・・・・まあいい、分かっていたことだ。貰ってそのまま喰うのを忘れていた猩々緋鉱石も喰っておく。

 

[能力名【陽光吸収】のラーニング完了]

 

 日の光に当たると体がポカポカして少し元気になる程度の能力だった。体によく分からない力が満ちている気もする。【光合成】と併用すると短時間でかなり疲れが取れた。【光合成】は体表が緑になるため常用出来ないが、【陽光吸収】は常用しておこう。

 鬼殺隊から借りていた中古の日輪刀は、本来は返さなければいけないのだが、これも喰っておく。バレたら俺の日輪刀を返上すれば良いだろう。

 

[能力名【適性診断】のラーニング完了]

 

 このアビリティは対象の適性や将来性が分かるというもので、【人物鑑定】の下位互換かと思いきや、そうではなかった。【人物鑑定】の対象は人間に限定されているが、【適性診断】は人間だけではなく鬼や獣、さらには無機物の適性も分かる。

 たとえば禰豆子は鬼なので【人物鑑定】は出来ないが、【適性診断】を通して見ると

[適性:蹴り(特大)日光克服(大)血鬼術(中)等]

という適性を見る事が出来た。前世の最盛期禰豆子と大きく変わらない。

 

《二十四日目》

 

 炭治郎の鎹鴉が北西の町に向かえと叫ぶので、俺も同行することにした。榛は狭霧山にいる基螺の監視に当てて、俺と炭治郎、禰豆子の三人で行くことにする。

 

 道中、禰豆子には呼吸法を教えないのか、という話題になった。鱗滝さん曰く、呼吸の力で暗示が解ける可能性があるから、決して教えるな、だそうだ。

「でも俺は禰豆子が暗示に掛かってるのが嫌なんだ。鬼だから仕方ないのは分かるけれど、禰豆子は暗示が掛かっていない状態でも俺を守ってくれた。禰豆子は鬼になっても自分の考えで人々を守れる筈だ。今禰豆子が言葉を喋れなかったりあまりはっきりと物を考えられないのは暗示のせいだと言うし、いずれ暗示が不要だってことを鬼殺隊に示さなきゃいけない」

 それには俺も同意する。 

 だが、暗示が原因で言葉を喋れなくなったり物を考えられなくなる、だと?それは初めて聞いた。禰豆子が普段ムーとしか言わないのは竹を加えていたからだと思っていたが、暗示が原因なのか・・・・・・では基螺もそうなるのか?

 長いつき合いではないが、基螺がそうなるのを想像してゾッとした。だがその一方で納得する自分もいた。

 基螺は禰豆子とは違う。彼女は、母親を唆して人を喰わせたという記憶を持っている。本人ではなく前前世の話であることを考えてみても暗示するのは仕方がないとも思える。

「ああ、そうだな・・・・・・基螺も暗示を掛ければそうなるのか。あいつは仕方ない部分もあるが・・・・・・」

「人喰いの母親から生まれたんだって話は聞いたけれど、親と子供は似ていても違う。彼女もいずれ暗示を解く許可を貰えたら良いと思う」

 

 などと話している内に、北西の町に着いた。

 炭治郎はこの町で初めて異能の鬼に出会ったらしい。三人に分裂して地中に潜る血鬼術を使う鬼だと聞いた。

「なぁ、炭治郎・・・・・・あれ?」

 俺が前を歩いていたせいか、気がつくと炭治郎は、やつれて顔に殴られた跡のある男の人と一緒に離れた所にいた。

 鬼の詳細について伝えないと、と思い炭治郎の所に駆けようとするが、ふとお館様に言われたことを思い出す。

 無惨に異変を悟られてはならない。ここにも鬼がいる。もし血鬼術を事前に知っていることが相手の鬼にバレて、そいつが無惨に情報を持ち帰ったらマズい。

 知らないフリをしておこう。俺は炭治郎に別行動をするとだけ告げ、情報収集をする。だが炭治郎のように鼻が利く訳でも善逸のように耳が良い訳でもない俺は情報収集がはかどらず、そのまま夜を迎えた。

 

 町の中をうろうろしていると、炭治郎の大声が聞こえた。

「玄弥!鬼だ!鬼が現れた!こっちだ!」

 途中の塀などを飛び越え、走って声の場所に駆けつけると、似たような姿をした三体の鬼が炭治郎と女性を抱えた先ほどの男の人を囲んでいた。

「三体!禰豆子とお前と俺!一人一体で対処するぞ!」

 俺はそう叫び、一番近くにいた二本角の鬼に殴りかかる。

 鬼は俺の拳を地中に潜って回避し、背後から現れて俺の足首を掴む。

 地中に引きずり込まれそうになるが、咄嗟に日輪刀を抜刀して相手の手を切り捨てようとする。は俺が抜刀している間に手を離し、退避していった。

「抜刀にも時間がかかる愚図がァ!俺たちの邪魔をするなァァ!」

 鬼は背を丸め、力を溜めてから解放するような仕草を取った。それと同時に地面の闇が大きく広がり、俺の足下を完全に覆った。

 咄嗟に跳んで回避しようとするも、闇の広がる速度は俺の回避速度を大きく上回り、結局俺は闇の沼の中に取り込まれてしまう。

 俺が飲み込まれた闇の沼の中には、被害者の遺物だろう着物が数種類浮かんでおり、そして二本角の鬼もその中にいた。

「窒息してさっさと死ねェ!愚図がァ!」

 ・・・・・・確かに、ここは空気が薄い。だが、試しに【エラ呼吸】を発動してみると、かなり楽になった。水というか泥の中と似たような空間なのだろうか。

「な、なんだ、その首のエラは!お前本当に人間か!」

「手前ェ、鯨って知ってるか?船くらいデケぇ生き物なんだが、なんでそんなにデカくなったか分かるか?分かんねぇよなァ!」

「何の話だァ!!お前、なぜ脱いでいる!この美食の空間、闇の沼を汚すなァァア!」

 服をてきぱきと脱ぐ。途中で鬼が泳いで突撃してきたが腕で弾く。

「硬ァ!?」

 【石の体】【鉄の体】【分厚い皮膚】【硬い骨】【巨大腕】【肉体圧縮】・・・・・・防御に関わる常時発動させているアビリティだ。この数のアビリティで容易に鬼の爪は弾けた。

「水の中じゃ浮力のお陰でデカい体を支える為の力が要らねぇからだよ!全部の力を攻撃に使える!【肉体圧縮】解除ォ!」

 脱ぎ終わって、ふんどし一丁になった俺は機会を見計らって【肉体圧縮】を解除する。その直後、俺は十七尺(約5mちょい)程にまで巨大化する。

 そう、俺は常時【巨体化】【巨大腕】【巨大脚】を使用した上で【肉体圧縮】を使用していた。その結果、高密度な肉体を持つが体長は六尺程という状態になっていた。甘露寺さんの肉体に近いだろうか。最初は肉体が爆発しそうになるほど制御に手間取ったが、徐々に出力を上げる事でなんとか実現出来た。

 そしてその状態から【肉体圧縮】を解除すれば、予備動作無しで瞬時に巨大化出来る。服が千切れるのは困るのでこうして事前に服を脱がなければならないのが短所ではあるだろうか。

 鬼が近づいてきた瞬間に巨大化した俺は、小さな畳ほどの大きさの掌で鬼の首を掴み、そのまま頭を二口程で噛みちぎった。

 

「・・・・・・!!!」

 

 頭を喰われたため声無き声しか出せない鬼の胴体も、西瓜を丸飲み出来るような口で噛み砕き、咀嚼し、嚥下していく。

[能力名【三位一体(トリニティ)】のラーニング完了]

[能力名【闇沼ノ異界】のラーニング完了]

[能力名【高速遊泳】のラーニング完了]

 喰い終わったら、視界を求めて何とか地上に脱する。

 巨体のまま外に首だけ出すと、禰豆子は一本角の鬼から女性を抱えた男の人を守っていた。だが禰豆子も一本角もどちらも鬼であり、格闘戦では決め手に欠けた戦闘になっていた。

 そして炭治郎は見あたらない。おそらく三本角の鬼に闇沼に連れ去られたのだろう。

 あの程度の鬼一体だけなら沼の中でもおそらく炭治郎は大丈夫だろう。問題はこっちだ。双方が決め手に欠ける戦いでどちらが不利かというと、当然守る相手のいる禰豆子が不利だ。こちらに加勢すべきだろう。

 

 ついさっきラーニングした【闇沼ノ異界】を発動し、地中に再度潜って泳いで近づく。沼の拡張速度は鬼が使っていたものよりも遅く、少し時間は掛かったが、一本角の鬼の真下に到達出来た。

 今度は沼の奥深くまで潜る。かなり深い沼の底まで到達した所で、【高速遊泳】を全力で使って巨体のまま地上に突進する。【高速遊泳】は全力で使うとかなり速度が出たが同時に体力も消耗するようだ。

 禰豆子から一本角が少し距離を取った瞬間を狙い、二本角の足裏に向けて張り手をぶちかます。一本角は空中一〇尺(3m程)まで吹き飛ばされた。

 巨体のまま上半身だけを沼から出し、親指と人差し指で日輪刀を摘まみ、落下してくる一本角の頸に向けて狙いを定める。

 だがその日輪刀は禰豆子の蹴りによって吹き飛ばされた。

「ムー!」

 禰豆子の様子を見るに、どうやら新手の鬼と勘違いされているようだ。巨体故に強く握っていた訳ではなかったため日輪刀は弾かれてしまった。

「禰豆子!俺だ、玄弥だよ!」

「ム?」

 【肉体圧縮】を発動し、徐々に俺の肉体を元の大きさに戻していく。【肉体圧縮】は解除は一瞬だが発動には少し時間が掛かるのだ。

「ムム、ムムムムムム・・・・・・ム?」

 混乱した表情で禰豆子は、地面に落下した後闇沼に潜って距離を取った一本角の鬼と俺を交互に見比べる。どちらも闇沼に潜っている。俺は全裸のため、腰から下を闇の沼から出す訳にはいかない。いざという時までは。

 そして俺の日輪刀は・・・・・・一本角の鬼の側に落ちていた。それを一本角の鬼は拾う。

 俺の呼吸の適性の無さ故に、何色にも染まっていなかったその日輪刀は、どす黒く濁った蒼色(・・・・・・・・・・)に染まっていた。

 

「ハハハハハハ、なんだこれは!面白い玩具だなぁ!色が変化して行きやがる!」

 その瞬間、俺の中で何かがキレた。

 あそこまで追い求めた日輪刀、刀鍛冶の里の人が俺の為に作り上げてくれた日輪刀を・・・・・・!

「返せやゴルルァアア!!」

 全力で【高速遊泳】を発動し、一本角を追いかける。だが鬼はそれ以上の練度の速度で泳いで逃げる。

 一本角が逃げ、俺が追いかける、だが追いつけない。

 俺の体力が【悪鬼の尽きぬ体力】込みでも限界に達したころ、かなり遠くまで来てしまった。山の麓か?鬼は余裕の表情で五十尺(15m)程の高木の枝の上に座っている。

「これを持てば呼吸?とやらが使えるのか?そういえばあのガキは変な呼吸をしてたな、ヒッヒッフー、違う、コォオオオ、違う、ヒュウゥウウ、こうか?」

「ゼェ、ゼェ、それを今すぐ止めろ、そして死ねェ」

「ヒュゥウゥウウ、ああ、頭が冴える呼吸だ、思い出した。人間の頃、お前らみたいな変な服を来た女を一族総出で襲ったんだ。だいぶ味方は死んだが捕まえて、何でそんなに強いのか吐かせたよ!呼吸のお陰なんだってな!俺以外は嘘だと思って更に拷問を続けたが俺は違う、そいつを観察してどういう呼吸法をしているのかそいつが死ぬまでに覚えた!だが鍛える前にこうして鬼にされちまったんだが・・・・・・今は違う。沼に長時間潜れるように肺を変質させてるのが良かったみたいだなぁ。今の俺は呼吸の天才だよ!」

 喋り終わった一本角は木の枝から落下する勢いで俺に向かって剣撃を放つ。

 剣撃は川の濁流を思わせる力強さで俺の頸を狙う。咄嗟に両腕で防御したが、代わりに両腕が切断されてしまった。【治癒加速】と【再生加速】、それに鬼化状態の再生力で十秒程で回復するだろう。

「フン、頸ごとは斬れなかったか。次は頸を斬ってやる」

「うるせェよ塵がァ!」

 俺は【闇沼ノ異界】を解除し、巨体のまま地上に上がる。ここまで来て全裸だのを気にする余裕はない。そして鬼が先ほどまで座っていた木に治りかけの腕で触れ、【根幹操作】と【枝葉操作】を組み合わせて五十尺(15m)程の木を槍状に変形させていく。

 17尺(5m)の俺と五十尺(15m)程の木の槍。少々つりあいが悪いが、武器としては十分だろう。

「テメェを挽き肉にして食ってやる!」

「ハハハ!どっちが鬼殺隊かわからないな!」

 

 槍を横に振り回し、一本角に叩きつけるが回避される。だが【枝葉操作】で鋭い枝を槍から飛び出させ、手傷を与える。

「チィ、潜るか」

「やらせねぇよ!?」

 地中に潜る暇を与えないよう連撃。ぬるぬるとどじょう掬いのように躱されるが最後の大上段からの叩きつけは相手の右脚を叩き潰した。

 再生される数秒の間に槍から枝を飛び出させ、相手の傷口に刺し、【養分吸収】で相手の再生を遅らせる。更に傷口を抉るために枝を延ばそうとするも、一本角は脚ごと枝を切り捨てて左脚で跳んで逃れた。

「ここで逃げ切れば俺は十ニ鬼月にもなれるかもしれない!二本角と三本角もあの世で喜ぶだろう!お前に喰われる訳にはいかないんだよォ!」

 そうだ、二本角と三本角。俺もアビリティ【三位一体】を獲得した筈だ。今ぶっつけ本番で発動するしかない。

 発動すると、俺の巨体がずるりと分裂して、人格も三つに分かれた。本能的に、俺が三人で三人が俺だと、一人でも欠けたら俺ではない別の俺になる、と悟った。言葉にはしづらい感覚だが腕や脚のように気軽に使い捨てには出来ない存在なのだ。この分身は。

 だが一人も死なせずにこいつを殺せば何の問題も無い。俺達は近くの高木を先ほどと同様に操作し、一人二本の二刀流、合計六本の高木の槍で一本角を囲んだ。

「「「シネ」」」

「チィ、クソ!お前一体何故俺の真似をしやがる!俺の真似が出来る!」

 お互い邪魔しないようにしつつも俺達はひたすら一本角を叩き続ける。

 だが当たらない。膂力は十分だが、巨大化が原因か、速度が足りない。ぬるりぬるりと避け続けられる。

「ハン!二度も当たるヘマはしないぞ」

「おい、どうする!このままじゃこっちの体力の方が尽きるぞ!」「一人圧縮するぞォ!」「おう!」

 一人は後方に下がり、二人掛かりで攻め続ける。当然こちらが減った分相手の余裕が増える。相手は闇沼に潜る隙こそ無い物の、こちらの脚元を沼でぬかるませてきた。だがなんとか二人で支え合い、連撃を続ける。

「だいぶ呼吸にも慣れてきた。型ってモンを一丁使ってやろうかなァ!」

 一本角は闇沼に日輪刀を浸け、振り上げて沼の闇をこちらに飛ばしてくる。沼の闇は地面から分離するとすぐに大量の土塊となり、こちらの頭に直撃した。

「・・・・・・で、これが何だって?」

 土塊が直撃した程度で巨大化した俺はびくともしない。だが常人がこれを食らえば土に埋もれ、一時的に身動きが取れなくなるだろう。

「泥の呼吸、壱の型、泥裡土塊・・・・・・失敗っぽいな。そんじゃあ弐の型!」

「させるかよ!」「オラァアア!」

 二人で叩く、が柔らかいゴムのような感触がそれを阻む。

「弐の型、泥亀」

 沼の闇が刀を覆い、すっぽんの甲羅のような楯となって俺たちの打撃を防いでいた。槍が弾かれ、その隙に一本角の鬼が次の型を出す。

「参の型、泥火山!」

 刀を地面に浸け、そのまま一回転してから斬り上げた。地面から吹き出した泥の濁流が俺たち二人の足下を崩す。その隙に一本角は闇沼に潜り逃走を再開する。

「クソッ・・・・・・」

 だが、後ろの草むらの中から声が聞こえてきた。

「圧縮完了したぞ!」

 これが決め手だ。これで決めれないとより多くの犠牲者が出てしまう。

 闇沼に半身を浸け泳いでいる一本角に向けて、【石礫生成】で作った直径一尺半(約50cm)程の小岩を投げつける。

 そこに常人の人差し指程の小さな俺をしがみつかせて。

 

「チッ!鬱陶しい!四の五の言わず陸の型ァ!泥龍・大決潰!」

 

 一本角が闇沼に一端身を沈め、出てきたのは泥の龍。水分量が多く殆ど水に近いそれは、小さな俺と小岩を吹き飛ばすのにあまりにも容易い濁流だった。

 だが、俺には川を上る鮭から手に入れたアレがあった。

(【逆流遡行の心得】発動)

 逆流をどうやって遡ればいいのか、どの道筋を辿ればいいのか、どうやって向かい風ならぬ向かい水を自身の推進力と変えれば良いのか。手に取るように分かる。あまりにも限定的なアビリティだと思ったが、ここで力を発揮した。当然【高速遊泳】も発動して濁流を物ともせず俺は小岩を離れ一本角に近づく。

 

 小岩は吹き飛ばされ、満足げに一本角は闇沼に潜る。その陰に小さな俺は潜む。

 大きな俺二人は小岩や木の槍を投げ続ける。一本角は距離を取って安心したのか回避を気にせずに泳ぎ続ける。木の槍や小岩が掠めるもすぐに再生する。

 だがその掠めた傷口に俺は延ばした神経を侵入させた。【肉体操作権奪取】だ。徐々に肉体操作権を自分の物にし、だが気づかれないようにその権利を行使しない。

 大きな俺二人の投擲が届かなくなった頃、肉体操作権が完全に俺の物になる。意志でこれは抵抗されるため、気づかれないように一瞬だけあくびをさせ、その瞬間に俺は口腔内に入る。

「ふぁあああ、そういえば欠伸なんて何年ぶりッ・・・・・・オエェッゲホゲホ」

 鬼の胃の中に入った俺は【寄生】を発動し鬼の臓器と一体化する。

「・・・・・・石でも口の中に入ったか?よし、あのお方ーーー無惨様に会って十ニ鬼月にしてもらわないといけないな。その前に腹ごしらえをッ・・・・・・ウッ・・・・・・腹が減った・・・・・・かなり喰った筈なのに・・・・・・」

 無惨にこいつを会わせて無惨の予定が少しでも狂うと浅草にこなくなる。そもそも腹ごしらえなんてさせてたまるか。

 【養分吸収】を全開にして鬼の栄養分を俺のものにする。

「腹が・・・・・・腹が減った・・・・・・この際十六の女で無くても良い・・・・・・誰か人を喰わなければ・・・・・・」

 一本角は人里に近づく。こいつを餓死させるか、こいつが人を喰うか。前者が早いことを祈りながら養分を吸収し続ける。

 

[能力名【沼の呼吸】のラーニング完了]

[能力名【異常発達肺胞】のラーニング完了]

 

「ガァアアアアア、グワァアアアア」

 完全に暴走状態に入った。まだ人里には到達していないようだ。血鬼術は解除され、周りの物を破壊し続けている。良し、このままいけば・・・・・・

「鬼にした覚えの無い巨大な鬼が暴れていると聞いて来てみれば・・・・・・以前鬼にした忍者か。自分を大きく見せる血鬼術でも身につけたのか?」

 

 どこかで聞き覚えのある声だ・・・・・・そうだ、前世のあの上弦の壱戦で聞いた無惨の声・・・・・・鬼舞辻、無惨?

 無惨なら・・・・・・殺したい気持ちは満々だが、浅草決戦の前だ。絶対に感づかれてはならない。

「ゴァアアアア、ッグ」

「煩い、少し黙れ」

 

 一本角の体内に無惨の血液が流れ込んでくる。それを【養分吸収】で吸収しすぎないように避けつつ【養分吸収】を俺の生命を維持するための最低限に絞る。無惨の血を吸収しすぎると無惨と念話が繋がってしまうことが分かっているからだ。

 

[能力名【血中魔力操作】のラーニング完了]

[能力名【呪術:眷属呪殺】のラーニング完了]

 

 吸収しすぎないように避けても、二つもアビリティをラーニングしてしまった。

「アグゥアアアッ・・・・・・む、無惨様!?」

 無惨の血の栄養により我を取り戻した一本角は無惨に気が付く。

「尋ねるが、巨大な鬼は何処に行った?」

「巨、巨大な鬼・・・・・・?あいつは人間、だったと思いますよ、妙に血鬼術臭い術を使ってましたが」

「ふむ、では異能の人間か?確か産屋敷に客人が海外から来たというが、そいつか?鬼殺隊は異能の人間を毛嫌いしていた覚えがあるのだが・・・・・・まあ数百年前の話だ。それで、何処に行った」

「えっと、確かあの近くだったと思いますが・・・・・・」

「案内しろ」

 マズい、マズいマズいマズい!残り二人の俺どころか炭治郎と禰豆子まで殺されかねない!頼む、退避していてくれ・・・・・・!

 

「ふむ、誰もいないな。では、お前は引き続きその巨大な人間を探索しろ」

「はっ。そこで相談なのですが、私を十ニ鬼月にして頂けないでしょうか」

「ああ、いいぞ。・・・・・・これでお前は十ニ鬼月だ。名は・・・・・・独攫(どっかく)とするか。では、その巨大な人間を見つけたら私の名前を誰もいないところで呼べ。見つかるまでは決して呼ぶな」

 血を少し分け与えられて一本角ーーー独攫は十ニ鬼月と言われた。十ニ鬼月ってそんなに簡単になれる物なのか?下弦の何とも言われていないし。適当こいてるだけじゃないのかこの無惨。

 そう言って無惨は姿を消した。これは浅草決戦まで【寄生】を解けないな・・・・・・

 

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 二人組の玄弥side

 

 俺たちは小さい方の俺を投げ、あいつが寄生したことを確信した後、【肉体圧縮】を再度発動し、通常の大きさに戻っていた。

 俺たちは一人になろうとして【三位一体】を解除しようとするも、解除出来ない。どうやら俺が三人同じ場所に揃っていないと解除出来ないようだ。二人分の服が無かったので一人の服を分けて下半身を隠し、炭治郎に合流するために町の方に移動する。

 

「げ、玄弥が二人!?一体どっちが本物なんだ?」

「「どっちもだ」」「沼の鬼は三体いただろ?」「そいつの能力を手に入れてな」「俺たちはそのうちの二人だ」「取り敢えず町に行って服を買わせてくれ」

「そ、そうなのか・・・・・・相変わらず玄弥の能力は常識の外にあるな・・・・・・」

 

 そこから一刻(30分)程すれば町はもう夜明けであり、呉服屋も早いところは開く時間だったので、そこで安物の服を購入する。安物とは言っても襤褸を着るという訳には行かず、手持ちの額が足りなかったので炭治郎に少し貸してもらった。後で鎹鴉経由で返す予定だ。

 

「かくかくしかじかで、逃した一本角の沼鬼は俺が体内に潜んで何時でも殺せる状態にある筈だ。分裂した俺たちは念話とかが出来る訳じゃねぇから、実際のところどうなのかは知らんが」

「うちの禰豆子が、済まなかった・・・・・・!玄弥を鬼と勘違いして攻撃してしまうなんて!」

 炭治郎は頭を下げる。

「「いいぜ別に」」「日輪刀を奪われたのは癪だったが、それは別に禰豆子のせいじゃねぇしな」「強いて言うなら事前の情報共有が足りなかったってことが問題か」

「ありがとう、玄弥。それにしても、二人が同じ顔というのは目立つんじゃないだろうか。顔を隠すのに丁度良いお面を持っているから、それを使うと良い」

「「ああ、助かる」」「隊服を着ていない方の俺が付けることにするよ」

 

 そう言って狭霧山から見て北西の町を後にした。

 

《二十五日目》

 

「カァ、カァ。次の任務は浅草ァ!浅草に鬼が出ているとの噂ァ」

 炭治郎の鎹鴉がそういって飛び立つ。俺は炭治郎に耳打ちした。

「炭治郎。次の任務、鬼舞辻無惨が出てくるかもしれない」

「何だって!?」

「秘密だ。お前の嗅覚で是非鬼舞辻無惨を見つけだして欲しいとお館様ーーー鬼殺隊の指導者からの伝言だ」

「・・・・・・わかった」

「それと、もし戦闘になった場合にはそれには参加しないこと」

 だが、憎しみを押さえ込んだ無表情で炭治郎は返した。

「それは承知出来ない。無惨は必ずこの手で殺す。その戦闘に参加しなければ俺の生きている意味の半分は無くなってしまう」

 これは、説得しても意味が無さそうだ。こちらが譲歩するしかない。

「わかった。だが戦闘行為は柱の支援に留めてくれ。決して先陣を切ったりするな」

「・・・・・・ありがとう」

 

 お面を被った方の俺は一足先に浅草に行き、珠世さんの探索をしておく。見つけるのは難しいが、愈史郎の血鬼術は無惨戦に有効だろう・・・・・・というか必須に近い。お館様も探してみるとは言っており私服の隠を十数名程派遣しているので、人海戦術に俺も参加する。

 

 独攫に寄生した俺は身を潜め、ただひたすらに感づかれるのを防ぐ。人を喰うと鬼殺隊にバレかねないということで、幸いなことに人里離れた山奥で呼吸の鍛錬をしている。鬼は意図的な肉体の変異は起こせる物の、超再生が起こらないため鍛錬に肉体的な意味はない。だが技術は違う。技術は鬼でも訓練次第で身につけることが可能だ。行動の最適化と言っても良いだろう。

 

《二十六日目》

 

 運命の日だ。

 昨日の夜明け間際に、ようやく愈史郎を見つけることが出来た。

方法はこうだ。珠世という名前は無惨に知られているから使えない。警戒されるかもしれないから他者に尋ねるということも出来ない。俺も珠世と愈史郎という名前は無限城で知らされただけなので顔を直接知っている訳ではない。炭治郎からは鬼とは明かされなかったが少年と女性であるということは聞いた。

 だから夜の間に、少しでも怪しいなと思った人物にひたすら【人間鑑定】を掛け続ける。【人間鑑定】は人間にしか効果が無いため愈史郎と珠世には聞かない筈だ。無惨にも効かない訳だが、無惨は大人の男の姿をしていると聞く。その姿の男には【人間鑑定】を掛けずに少年と若い女性に絞って掛け続ける。他の隠も少年と若い女性の瞳孔を確認し続けた。

 ようやく愈史郎に会って、今までの経緯を説明すると、一応は納得してくれて、直接戦闘には参加しないが不可視化の効果を持つ“目くらましの札”も百数十枚ほど生成して用意してくれた。ただし珠世と鬼殺隊を決して接触させないように条件付きで。

 

 これを昼間に目立たぬ格好で結集した柱達に配る。一部の柱は髪色も目立つので、そういう人は髪を結って頭巾を被っている。柱と最上級の隊士である甲以外は足手まといであると判断され浅草から離れているらしい。その数、柱を含めて54名。彼らに二枚ずつ、一枚は予備として“目くらましの札”を配布し、残りは炭治郎と禰豆子のために取っておく。

 

 浅草に来た炭治郎と隊服の俺はお面の俺と合流し、夜を待つ。




泥の呼吸のネーミングは変更するかもしれません、ダサいので
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