深淵の狩人   作:宮条

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こっちモチベが凄い。


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実に騒がしい日だ。

雲一つ無い空にこれでもかと花火が打ち上げられている。この街が活気に溢れ、喧騒が絶えないのは日常茶飯事だが、今日に限ってはそれが異常な程に騒がしい。

 

「話には聞いていたが、まさかここまで賑やかになるとは……」

 

そう一人呟きながら、いつも以上に活気付いた街を見下ろす。

「復活祭…………か」

 

 

 

 

 

 

 

数時間前。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

復活祭。

復活といえば誰かが生き返るかのように聞こえるが、実際には大規模な葬式と言った方が良いのだろうか。リコとの会話から二ヶ月ほど経った時、アビスに潜っていた探窟家達がある物を持ち帰った。その現場には私もリコも居合わせており、そしてレグの姿もあった。

 

「調査隊が帰ってくるだけなのに大袈裟じゃないかな、ここの人達」

「それだけ探窟家は尊敬されてるんですよ、ヤーナムさん!」

 

深層から探窟家達が帰ってくるのを心待ちにした住民達がゴンドラ乗り場付近にこれでもかと集まっている。

誰も来ない昼下がり、妙に騒がしいと思って店の外に出てみれば探窟家達が帰ってくると聞きつけた人々が足早と集結していた、正直な話探窟家達が帰ってきた程度でその帰還をマジマジと観察する意味もないのでそのまま店に戻ろうとしたが、ちょうどその時にリコとレグに出会い、リコの強引なまでの誘いに根負けして今に至るわけである。

 

「あっ出てきたぞ!」

 

レグがそう言い指を向ける、その先には確かにゴンドラから続々と降りてくる探窟家達の姿があったが、ここからでは距離のせいで何をしているのか分からない。

 

「持ってきて正解だったな」

 

ポケットの内から古都でも愛用していた遠眼鏡を取り出し、右目に添える。

 

「あっハボさんだ、おーいハボさーん!」

 

隣で知り合いに気付いたのか、大声で探窟家達に呼び掛けるリコ。ハボというのは度々リコが話してくれる黒笛の探窟家だったか、遠眼鏡を頼りにそれらしい人物を探す。

 

(あれか?確かに纏う空気が他の者とは違うな………ん?)

 

狩人の感性でもってそれらしい人物に目星を付けたが、その手に持っている物に気付く。

 

「「笛?」」

「え?」

 

ほぼ同時にレグと同じ言葉が出る、そして笛という単語に反応したリコがレグに問い詰める。

 

「笛ってもしかして白笛!?」

「うん……白い笛だ」

「………………」

 

白笛、それを持てる物はこのオースの中では限られている。まず探窟家には五つの階級があり、最初はアビスに立ち入った事の無い人間に鈴付きという階級と文字通り鈴が与えられる。そこから見習いの赤笛、一人前の蒼笛、師範代の月笛、達人の黒笛と階級毎に所有する笛の色が変わっていく。笛の色はその者の階級を示すだけで無く、アビスに潜る際の限界深度にも関わってくる。赤笛であれば深界一層の更に上部にしか立ち入る事は出来ず、一人前とされる蒼笛も二層が限度、師範代の月笛からは三層まで立ち入る事が出来、黒笛であれば特例の際に限り五層までの立ち入りが許可されている。

 

そして白笛。

 

黒笛の先にあるその階級はもはや伝説であり、このアビスを巡る長い歴史の中でもその存在は数える程しかいない。

現時点で知りうる限り現役の白笛の探窟家は五人、全員が今もアビス内で活動をしている筈だ。つまりその中の誰かが白笛を地上に還したという事は、その者はアビスの深奥に辿り着き、絶界行を為したのだ。

 

「しかしあれは誰の物なんだ?白笛の正確な形状なんて覚えてないぞ」

「えっ?」

 

何故か自分の言葉に驚くレグ、妙なことは言ったつもりはないので気付かない振りをして遠眼鏡を弄る。すると少し前方の人混みから大声が飛んできた。

 

「おい、あれが誰のか分かったぞ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ライザだ、殲滅のライザだ!」

 

「「……………」」

 

「殲滅のライザ、物騒な名前だな……?」

 

初めて聞く名前に額面通りの意味しか受け取れなかったレグを他所に、私とリコに暫しの空白が生まれた。

 

「リコ?」

「…………お母さんだ」

「えっ?」

「ライザって、お母さんの名前だ」

 

殲滅のライザ、自分がまだここに来て間もない時もその名前は町中で聞こえた。

白笛の探窟家の中でも別格とされ、その破綻した性格と恐ろしいまでの探窟家としての才能をオースの人々に見せつけてきた偉人であり変人、実際どんな人物だったかはもう十年近く前の事なのであまり覚えていないが、その殲滅のライザの笛が地上に還されたという事実に面食らってしまった。

 

「確か……丁度十年前にアビスに潜ったきり帰ってきていない筈だったよね」

「はい、その時は私はまだ赤ん坊だったからあんまり覚えてないんですけど……リーダーが言うにはそうらしいです」

「ジルオさんか、彼は君のお母さんの弟子だったんだっけ」

「………………そうですね?」

 

何か違和感を覚えたのか、少し返答に間があったリコだったが、その違和感を探る前に目の前の群衆達が騒ぎ出し、祝いだ何だと暴れ出した。

 

「っと、まずいね……リコちゃん達は早く孤児院に戻った方が良いんじゃない?この騒動に巻き込まれたら面倒そうだよ」

「そ、そうさせてもらいます、早く行こうレグ!」

「あっ待ってくれリコ、まだここら辺の地形を把握してないんだ!」

 

そう言い残してリコとレグは人と人の間を縫ってすぐさま視界から消えていった。

 

「さてと」

 

自分もここを動かねば揉みくちゃにされるだろう、それに今日はここに来て初めて体験する行事が待っている、それに先んじてやるべき事がある筈だ。

 

「店、さっさと閉めるか」

 

 

 

 

 

狩りを忘れた狩人の何たる呑気な事か。

 

 

 

 




コロナ騒ぎであたふたしてますが元気にやってます。
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