俺だけレベルアップの仕方が違うのは間違っているだろうか   作:超高校級の切望

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謎の女

 30階層は下層と呼ばれる領域。並の冒険者ではまず単身では近づかない。第2級冒険者でも、Lv.4でなければ殆ど来ないだろう。

 そんな階層で、走る黒い巨大な影。タンクと言う名の旬の影の軍勢の内一体だ。名前持ち(ネームド)は現在4体のみ。ナイト級という、一定値以上の強さを得たランク、A級覚醒者上位に匹敵する強さを持つタンクはこの階層では敵なし。殆どのモンスターは逃げるか、向かってきても瞬殺される。

 通路が広くなって来たから彼に乗ることにしたのだが、正解だった。

 道中なぜか中層のモンスターの筈のアルミラージと言うウサギ型モンスターが「きゅっ!?」と悲鳴を上げて頭を抑え姿勢を低くしていた。やけに人間臭い動きだったが何だったのだろうか?

 

「と、ここか………」

 

 やがて大きく開けた場所に出る。モンスター達の栄養となる液体が出ると聞いていたが、モンスターの影はない。だが、大量の灰がある。

 モンスターの死骸があたり一面を覆っていた。特に食料庫(パントリー)を照らし、栄養となる液体をみ出す食料庫(パントリー)の中心地たる石英(クォーツ)の周りには一際巨大な灰の山。

 複数のモンスターのものではないだろう。大型、それも超大型のモンスター…………。

 

「…………『起きろ』」

 

 

 

 

 18階層。階層全体がモンスターの生まれぬ安全区域(セーフティゾーン)である現在確認されている唯一の安全階層(セーフティポイント)

 緑の森林が広がり、草原もある。そして湖畔には大島が浮かんでおり、なんと街まで存在する。

 旬はその街で宿を取ることにした。因みに街の名はリヴィラの街。

 

「思いがけない収穫だった」

 

 

        『アイテム∶精霊胎児』

入手難易度∶A

種類∶消費アイテム

 

モンスターに食われダンジョンに取り込まれた精霊種の力の欠片。

魔石は存在せず、モンスターに寄生させ魔石を与え進化を促すことで『精霊の分身(デミ・スピリット)』を生み出す

 

 クエスト達成に必要なアイテム、『精霊の分身の魔石』。文献を調べても『穢れた精霊』も、『精霊の分身』も一切謎のままだったがようやく手掛かりを得た。

 とはいえこちらは依頼品。力の欠片ということはまた目にする機会もあるだろう。その時は完成品であることを祈ろう。

 

「と、ここか………ええっと……昨日予約してた者だが」

「……………」

 

 一見ふざけたような内容に、店主は目線だけである席を指定する。旬がその席に座ると店員に何かを命じる。外に出て行ったことから、荷物を受け取るという運び人でも呼びに行ったか。

 適当に腹に詰めていると褐色肌の犬人(シアンスロープ)の女性がやってくる。感じる力はC級覚醒者程度だが、歩く音がしない。暗殺系………というよりは斥候だ。

 

「─────」

 

 周りに聞こえない程度の声で、ボソリとフェルズから聞いた合言葉を言う女。旬は女に『精霊胎児』を渡す。これで今回の仕事も終わり。食事を終え、店から出る。

 宿はどこか安いところ………できるだけ、宿の()()()が安いほうが望ましい。もしくは人気のない場所。

 

「おい、そこのお前………」

「……………」

「私を買え」

 

 その言葉に振り返ると、ローブを頭からかぶった女だった。兜を脱がすまで性別がわからなかった何処かの悪魔と違い、ローブ越しでも解るプロポーション。

 周りの男達が羨ましそうに旬を見る。

 

「聞いているのか」

「おいおいなんだよ姉ちゃん、こんなところで体売ってんのか? なら俺が、そんなひょろっちい奴より金積んでやるぜ」

 

 旬が話しかけ女に対して、宿を何処にすべきか考えていると酔っ払った男が女に近づく。女が舌打ちしたのを見て、旬は仕方なく女の肩を掴み引き寄せ、女に伸ばされた男の手を掴む。

 

「ああ?」

「この女は俺が買う。悪いが次の機会にしてくれ」

「おいガキ、てめぇあまり舐めた口聞くと────っ!?」

 

 『殺気』は発動しない。ただ、少し睨むだけだ。だが、男は顔を青くして固まる。

 

「おいおいどうしたモルド〜、ビビってんのか〜?」

「っ! う、うるせえ!」

 

 仲間のからかうような声に我に返った男は腕を振り払うと早足で去っていく。

 

「おい、この辺にいい宿を知らないか?」

「あ〜、この辺ならヴィリーの宿だな。あっちだ……」

 

 街の住民に宿の場所を尋ねる。ちょうど人の気配が殆どないので、丁度いいとばかりに旬はそちらの宿に向かう事にする。

 

「行くぞ」

「………ああ」

 

 旬が肩から手を離し歩き出すと女もその後に続く。

 たどり着いた場所は洞窟をそのまま宿にしているらしい。店主は獣人。彼がヴィリーだろう。客は、いない。

 

「らっしゃい」

「貸し切りで頼む」

 

 大量の魔石の詰まった袋をカウンターに置くとおお、と嬉しそうな声が返って来て、しかし来た客が男女であると気付きチッ、と舌打ちしてくる店主。

 ここにいる時点で冒険者だから、正規の宿などに比べガラが悪いのは仕方ないとしてもあんまりな対応だ。

 

「貸し切りにでもなんでもしてくれ。あーあ、やってられっかちくしょう!」

 

 そう言うと出ていった。酒でも呑みに行ったのだろう。貸し切りなので部屋は適当に選び、ベッドに腰をかける。

 荷物をそのへんに置くと女の視線は一瞬だけそちらに向いた。

 

「お前もさっさと脱げ」

「あー………こういうのは初めてでね、勝手がわからないんだ」

 

 スルリとローブを脱ぎ捨て艶めかしい肢体を顕にする女。赤く、長い髪がするりと解ける。顔は、かなりの美人だ。身体付きも並の男なら貪り付きたくなりそうなほど。旬が何もしないのを見ると目を細め、押し倒す。

 

「ならばされるがままにしていろ」

 

 獲物を甚振る猫のように、嗜虐的に目を細める女。白魚のような指が這うように旬の頬を撫でる。

 

「悪いが、それは無理だ」

「何───っ!? ぐ、が……!」

 

『スキル∶支配者の手を発動します』

 

 旬の言葉に女が僅かに目を見開いた瞬間、女性の喉が見えない手に掴まれたかのように歪む。

 触れることなく事物に影響を与える、マナ消費なしのアクティブスキル。女は何が起きたか分からず混乱しつつも旬を睨みつけてくる。

 

「お前の狙いは、30階層のあれだろうな。なら、聞きたいことがある。『穢れた精霊』は何処にいる」

「────っ!?」

 

 旬の問いかけに何故そのことを知っていると言わんばかりに目を見開く女。再び睨みつけてくる。

 

「…………?」

 

 その反応に、旬は違和感を覚える。目の前の女は確かに旬に殺意を抱いている。だというのに『システム』が一向に『緊急クエスト』を発行しない。旬に殺意を抱いている者が入るのに発行してこないなど、それこそ相手がモンスターの時ぐらいだ。この女、何者だ? 強さとしては、Sに近いA級といったところか。

 

「話すと、思うか」

「なら死ね」

「────っ!!」

 

 旬が女に向かって拳を振るう。咄嗟に腕を交差させガードしようとしたが意味はなく、腕を圧し折り腹に拳がめり込む。壁を砕きながら吹き飛ぶ女。

 思っていたより、硬かった。もう少し強めに殴っても良かったか。その場合宿が完全に崩落し、街にもっと被害が出ていたかもしれないが。

 

「…………」

 

 宿から出ると顔を狙い瓦礫が飛んでくる。飛んできた瓦礫を弾き、女を見れば確かに折ったはずの腕が治っていた。

 

「ちぃ!」

 

 実力差は明確。それでも、向かってくる女。よほど『精霊胎児』が大切なのだろう。振るわれる拳は、一撃一撃が冒険者にとっても必殺の一撃。耐久と力の値が高いが、それでも旬より下だ。速さも、力も。

 全てガードし、膝で脇腹を蹴り吹き飛ばす。

 

「なんだなんだ!?」「すげえ音がしたぞ!」「あっちだ!」

 

 と、バタバタと慌てた足音が聞こえてくる。騒ぎになり過ぎたか。

 

「……………!」

「逃がすか!」

 

 地面を砕く勢いで踏み込み駆け出す女。人質でも取るつもりなのか集まっきた冒険者達の元に向かい、小柄なアマゾネスの少女の腕を掴むと、踵を返し旬に向かって振り下ろす。

 

「ひ、いやぁ!」

「チッ!」

 

 衝撃が逃せる様に優しく受け止めるも、明確な隙が生まれる。女はその隙を逃さんとばかりに旬の顔を殴りつけ、骨が砕ける音が響く。

 

「づぅ!?」

 

 しかしそれは女の拳。旬は頬に触れた拳を掴むと女を投げ飛ばした。理外の膂力により一気に街の外まで吹き飛ばす。途中いくつかの家が巻き込まれて壊れた。

 

「あ、あの………ありが………」

 

 アマゾネスの少女の言葉を無視して旬も飛び出す。街の外で体勢を整えていた女に向かって、足を落とす。女がぎりぎり避け、地面が砕ける。

 

「っ! 貴様、何者だ。Lv.6、7………いや、もっとか」

「それはこっちの台詞なんだがな………お前、何者だ? 名前は」

「名前だと?」

「お前を手に入れた後、名付けるのが面倒なんだ」

「手に入れる、だと? ふざけた事を………!」

「…………?」

 

 何故か怒りが増したような?

 まあ別にどうでも良い。殺して終わりだ。

 

「───!?」

 

 と、まさにその瞬間だった。旬に向かって高速で矢が飛来する。咄嗟に受け止める旬だったが冷気をまとった氷の矢は旬の腕を凍らせる。

 

「何………?」

 

 矢を放った存在をすぐに見つける旬。だが、本来ならあり得ない、いるはずがない存在に一瞬思考が固まる。

 

「おおおっ!」

「───!!」

 

 女が全力の蹴りを放つ。下から上へと押し上げるような蹴りに踏ん張りが効かず、吹き飛ばされる旬。地面に足がつくと同時に駆け出そうとすれば二人の間に無数の氷の矢が突き刺さる。

 

「…………レヴィスだ」

 

 その時点で旬の興味は女から失せていた。そんな旬を横目で見た女は、撤退しようとしていた足を止め、呟く。

 

「お前は私が必ず殺す」

 

 今度こそ撤退を選ぶ女、レヴィス。追うべきかと思った瞬間再び矢が飛来する。今度は複数。イベントリから『カサカの毒牙』を取り出し全て叩き落とす。矢を放った影は、既に消えていた。旬は忌々しげに舌打ちをした。

 おそらくこの階層に残っていれば、再び襲撃してくるだろう。その時を待つことにする。リヴィラの住人は、当然街を半壊させた旬が戻ってくると睨んできたが大量の魔石やドロップアイテム、事前にフェルズから貰っていた前金を渡すと掌を返して手厚くもてなしてきた。




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