俺だけレベルアップの仕方が違うのは間違っているだろうか   作:超高校級の切望

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黄昏の館

 黄昏の館。

 都市最大派閥のうち1つ、【ロキ・ファミリア】のホームだけあり、なるほど壮観だ。隣でベルがソロリソロリと逃げようとしていたのでアイアンに捕まえさせる。

 2メートルを超える漆黒の巨人に捕まったベルは今夜の晩御飯になる兎のようだ。

 

「し、旬さん〜、僕なんかがここに来るなんておこがましいですって!」

「じゃあ何時になったらふさわしくなるんだ?」

「え、えっと………アイズさんに、並んだら?」

「待てないね」

 

 そう言って歩き出す旬。アイアンもベルを抱えたまま歩き出す。

 

「うむむ〜………」

 

 ふと隣を見ればヘスティアも難しい顔をしていた。

 旬が昨夜手紙を見せても断る! などと叫ぶほど神ロキと相性が悪いらしいヘスティアだ。旬に通常じゃ起こり得ない速度で成長するベルには【ステイタス】を使いこなせる技術が必要だから、【ロキ・ファミリア】との接点はありがたいことだと説得されなんとか了承したものの、納得しきれていないのだろう。

 

「ここにヴァレン某が………ベル君は渡さないぞ!」

 

 どうやら納得しきれていないのは、そちららしい。何故こうもアイズとベルの仲を引き裂きたいのか………。旬にはコレガワカラナイ。

 アイアンが怖いのかすっかりおとなしくなったベルを連れ門まで移動すると門番がギョッ、とアイアンを見る。

 

「もう逃げませんからおろしてくださいよ………」

「はいはい」

 

 アイアンを影の中に戻し、旬は固まっている門番に手紙を渡すと、その手紙を見た門番はお慌てで走り去った。しばらくすると、Lv.4であろうヒューマンの男がやってきた。

 

「いやあ、お待たせして申し訳ないっす。自分、ラウル・ノールドと言います。今から御三方を案内するっすね」

 

 Lv.4とは、オラリオから見れば上位陣というのに、なんだろうか。目の前の彼から下っ端臭がする。頑張っているはずなのに大成出来なさそうな気配だ。

 まあ、この世界は強さが最初から定まった旬の世界と違い、努力で壁を超えることは出来るはずだから彼もまた強く先を願えばランクアップ出来るだろう。

 

「こちらです」

 

 ラウルが開けた扉の向こうは、面談室なのだろう。ソファーで挟んだ大きな机。部屋の奥のソファーにはフィン、リヴェリア、ロキが座っている。ロキは正確には背もたれに腰を掛けていた。

 

「お〜、よく来たなあ旬、後、ベルやったか? そんでドチビ〜」

「だぁれがドチビだこの絶壁めえ!」

「なんやとお!?」

「やるのかい!?」

「「上等だ、表出ろ!」」

「ロキ……」

「神ヘスティア」

 

 早速いがみ合った女神達だったが己の眷属の言葉にうぐ、と黙り大人しく席に座る。

 

「まずははじめまして、ベル・クラネル。改めて、ミノタウロスの件はすまなかった。【ロキ・ファミリア】を代表して謝罪させてもらう」

「い、いえそんな! 助けてもらいましたし!」

「助けたんだから危険に巻き込んでも謝罪しなくて良い、なんてことは無いんだよ。だというのに僕等は被害者を調べもせず宴を開く始末。本当に申し訳ない」

「そ、そんな……! 頭を上げてください!」

 

 トップファミリアの団長の謝罪に困惑してしまうベル。

 ハンター協会トップや五大ギルドのギルドマスター達に敬語こそ使えど話を聞かずに去っていく旬とは大違いである。いや、ハンター協会会長とは話はしたが。

 

「こちらとしては、何かお詫びの品を渡せたら良かったんだけど」

「う、受け取れませんよ!?」

「ああ、君がそういう性格だと聞いている。だから提案なんだが………僕等から技術を学ばないかい?」

「…………え?」

「それは、【ロキ・ファミリア】の財産の一つを渡すという意味かい?」

 

 ジトッとヘスティアが胡散臭げに睨むとフィンはやはり笑みを浮かべる。

 

「そういう事になるね」

「ええ!? そ、そんな、僕なんかが恐れ多い!!」

「そんな事はないさ。君は、もう10階層に到達したのだろう? それは、僕達の誰一人として成し遂げられなかった偉業だ。君の速度を間近で見せるのは、うちの団員にもいい刺激になると思う」

 

 どうやって知ったのか、ベルの到達階層まで知っているらしい。

 

「でも本命は、僕等と友好的な関係を築いていざという時に旬君の力を当てにしたいんだろう?」

「………流石、神には隠し事ができないか」

 

 フィンはそう言って肩をすくめる。

 

「僕は団長だからね。どんな事をしても、団員を守る義務がある。無論、僕達は最大派閥で、それを誇りに思っている。だが、極彩色の魔物、そしてそれを操るレヴィスと言う調教師(テイマー)………いや、怪人(クリーチャー)は別だ」

 

 なんでも、アイズが謎の人物から冒険者依頼(クエスト)を受け24階層に向かった時再び戦ったらしい。

 アイズもランクアップしていたが(魔法)を使わぬと言う制限をすぐに解かざるを得なくなり、魔法を使って漸く互角に持ち込めたらしい。

 そして、オリヴァスと言うその昔オラリオを恐怖で満たした闇派閥(イヴィルス)の生き残りがおり、その胸の魔石を食らう事で更に強化された。

 この事から、レヴィスもまた胸に魔石を持つとおもわれ、怪物の人の特性を持ち合わせた彼等を怪人(クリーチャー)と呼ぶ事にしたそうだ。

 

「よく逃げられたな」

「ベートが君に負けて以来、一人でダンジョンに潜り続けていてね。アイズとは異なる方法で、ランクアップしていたんだ。その上で、相手が爆発的に上がった力を使いこなせず辛勝………次会う時は更に強くなってると考えると、負ける気は無いが、多くの死者を出す」

「そんな危険な相手に僕の旬君を………他所の【ファミリア】を使おうってのかい?」

「「「─────っ!!」」」

 

 ヘスティアが神威を放つ。

 もとよりヘスティアはオリンポスと呼ばれる神々の集団の長の姉であり、司る権能の中に『不滅』も混じった天界でもトップクラスの神格持ち。

 神格よりも策謀により名を馳せているロキとは、本来格が違う。久方ぶりのその神威に冷や汗をかくロキは、しかし引くつもりはない。

 主神(おや)としてヘスティアの気持ちは十二分に分かるが、同時に主神(おや)として眷属(子供)達を危険から遠ざける術があるなら、逃す気はない。

 

「ああ、そうや。旬の桁外れの力でうちの子を守って欲しい」

 

 空気が変わる。誰もが言葉を失う程の威圧感に満たされた空間で、動いたのは旬だった。

 

「神ヘスティア、俺は別に構わない」

「旬君!?」

「強い相手。むしろ望むところだ……」

 

 レベルアップの糧となるし、なんならそのまま軍勢の強化にも使える。

 乗り気な旬を見て、ヘスティアははぁぁ、とため息を吐く。

 

「本人がこう言ってるなら、僕はもう止めないよ。けど、君達の目的が旬君だとしても鍛えると言った以上きちんとベル君とも向き合うんだ」

「勿論。そちらに手を抜くつもりはない」

 

 

 

 話し合いが終わり、解散。フィンとリヴェリアの案内の元、出口に向かう。と、不意にベルが視線を感じる。

 ここ最近、何者かに見られているような気がして感覚が鋭くなったのだ。そして、振り返り見つける。

 

「………あ!」

「あ!?」

「ん? ああ! ヴァレン某!」

 

 柱の影から顔を覗かせたアイズと目があったベルは、固まる。ヘスティアが恋敵の出現に敵意を醸し出す。

 

「あ、えっと………あ、あの…………」

「だああああああああ!!」

 

 可愛らしい白兎(ベル・クラネル)は逃げ出した!

 突然の事に、流石のフィン達もキョトンと固まり、アイズはガーンとショックを受ける。ヘスティアはそのまま逃げ切れと応援する。

 リヴェリアが正気に戻った!

 

「アイズ、追え!」

「───!」

 

 リヴェリアの言葉にアイズははっ! と正気に戻る。逃げていくベルの姿が曲がり角に消える。通りかかったラウルがうひゃ!? とスッ転ぶ。

 に、逃がすものかとアイズも駆け出す。物凄い速度だ。立ち上がろうとしたラウルが発生した風により再び転ぶ。

 Lv.1とLv.6。速度で、勝負になるはずが無い。壁を蹴りベルの前に降り立ったアイズはそのまま両腕を広げる。限界以上の速度を出したベルは止まることが出来ず、アイズの胸に飛び込み抱き締められた。

 

 

 

 

 

 翌日早朝、ベルは黄昏の館の訓練上で空を舞う。

 

「あ、ご、ごめん………」

 

 あの後ベルが【ロキ・ファミリア】から訓練を受けられると知ったアイズが、立候補したのだ。その結果、実践が一番という理由でアイズにボコボコにされている。

 

「あの、大丈夫……?」

「だ、大丈夫です!」

 

 フラフラになりながらも惚れた相手に情けない姿は見せたくないと立ち上がるベル。アイズはじゃあ、続きをしようと構える。

 

「やはり、駆け出しとは思えんな」

「大方10階層に行ったという話を聞いた時点で予測はしてるんだろ」

「まあね、確証はないというか、確信したくないというか………けどまあ、そういうスキルだろう?」

「確信したくないだと、何故だ?」

「そんなの簡単だろ。強くならなきゃいけないって思いが、劣るとか、偽物とか言われた気分になるからだ」

「はは、まあそのとおりなんだけどね……」

 

 そんな二人のやり取りを見つめる大人組(保護者達)3人。彼等は彼等で会話をする。

 

「ふっふーん! あんなに容赦しないなんて、さては脈がないと見た! って、ああ〜!? な、何してるんだいヴァレン某!」

「なななな!? こ、この、そこの無礼なヒューマン! 今すぐアイズさんの膝の上からどきなさーい!」

「アイズたーん! それうちにもやってぇ!」

 

 別の場所では主神2柱+αが何やら騒いでいる。アイズが気絶させてしまったベルの頭を己の膝に乗せたのだ。リヴェリアがため息を吐くと折角ダンジョンに潜るばかりだったアイズに訪れた変化の邪魔はさせぬと3人を捕らえ何処かに行った。

 

「ベル君の方は大丈夫そうだな。俺はもう行く」

「何処に?」

「ランニング」

 

 

 

 10キロ走り終えた旬は朝早くからやってた屋台のジャガ丸くん(塩味)を朝飯代わりに購入する。今日は特に予定もなく、ダンジョンでレベリングでもしようかとバベルに向かう途中、フェルズが現れた。

 

「待たせたね水篠旬。都市外に数ヶ月、外に出る申請が漸く済んだ」

「そうか、助かる……」

「このままエルソスの遺跡に向かうのか?」

「そのつもりだ」

「なら、このファミリアと合流してくれ」

 

 そう言って羊皮紙を渡す。片方ら地図で、片方は冒険者依頼(クエスト)の依頼書だ。要求冒険者は旬と………

 

「【アルテミス・ファミリア】?」

「都市外を活動するファミリアさ。時折、ランクアップの為にオラリオによる事はあるがね。その際に冒険者依頼(クエスト)を依頼したりする。そして、これを……」

 

 そう言って渡されたのは、水晶のついた首飾りだ。

 

「一々戻ってきてもらうのを待つのや、モンスターが現れたと聞けば移動する彼女達を追うのは効率が悪くてね。すぐに追えるようにあるアイテムを渡しておいた。これはそのアイテムの位置を教えてくれるアイテムだ」

 

 魔力を込めてみてくれと言われ、やってみる。光の線が虚空に向かって伸びた。

 

「その先に【アルテミス・ファミリア】が居る。彼女達、というよりは神アルテミスはアンタレスと因縁があるのでね。合流し、向かってくれ」

「わかった」

「馬は既に手配した。エルソスの遺跡までは、一ヶ月程───」

「必要ない」

 

 と、旬が飛び上がる。足元から影が溢れ出し、飛竜を形作る。

 

「空路で行く」

「そうか…………アンタレスは、古代力のあるモンスター。人を殺す為ではなく、滅ぼす為の強大なモンスターだ。健闘を祈る」

「ああ……」

 

 バサリとカイセルの翼が空気を捕らえ、一気に上昇する。そのままオラリオの外へと飛び出した。




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