俺だけレベルアップの仕方が違うのは間違っているだろうか 作:超高校級の切望
「な……何を、やめなさい! 今すぐに!」
エルフの店員、リュー・リオンは【ロキ・ファミリア】所属の【
ベートの為ではない。いや、彼とて客だが、リューがやめるように言ったのは旬のためだ。友の為に怒るのは、彼女から見ても好ましく思える美点である。しかし、ベート・ローガはLv.5の一級冒険者。殆どのものがLv.1のまま進めぬ中Lv.2になれば小規模ファミリアなら団長になれる。大規模でも、Lv.4がトップだろう。
そんな、通常ならファミリア団長クラスの猛者達すら補欠幹部にしかなれぬのが大規模にして最強候補の一つ、【ロキ・ファミリア】。その幹部を務めるベートは素行にこそ問題はあれどその実力は本物。少なくとも、この店の店員で勝てるのはミア一人しかいない。もし乱闘になれば、この街に来たばかりらしい旬では手酷くやられるだろう。相手が酔っているのもタイミングが悪い。酒は人から理性を簡単に奪う。
「げほ! かはっ……………! っ、てめぇかあ!」
旬が手を下ろすとベートが床に落ち、咳き込みながら立ち上がり酒と首を絞められた事により赤くなった顔で憤怒の表情を浮かべ旬を睨む。
「てめぇ、俺が誰だか解ってんのか!?」
「解ってるさ。上層に中層の魔物を逃して大多数を死の危険に晒しといて、反省もせず宴を開いた挙句お前等の過失が原因で死にかけたベル君を笑った【ロキ・ファミリア】だろ?」
ふん、と冷たさを孕んだ旬の言葉に、【ロキ・ファミリア】の面々の反応は様々だ。言われても仕方ないと肩をすくめる者、痛いところをつかれたと苦笑する者、気まずそうに顔をそらす者、知ったことかと怒りを顕にする者。ベートは、最後の反応だ。
「ああ? ベルだあ………? ああ、ひょっとしてトマト野郎の名前かぁ? ハハ、何だよ。お友だちを侮辱されて怒ったかあ? だがよお、悪いのは雑魚のくせにダンジョンに潜ったてめぇのお友だちだろうが。何度でも言ってやるよ、ああいう奴が俺達の品位を下げるんだよ」
「ならば私も何度でも言おう。その口を閉じろ、ベート。彼の言うとおり、我々の落ち度だ」
ベートの言葉に反応したのは一際美しい容姿をしたエルフの女性だ。魔力量だけ見ればS級に匹敵するかもしれない。この世界の魔法は強力なものほど長い詠唱が必要になるので、最上真などに比べれば脅威は劣るだろうが。
とはいえこの中ではかなり強い。幹部で間違いないだろう。事実、彼女の言葉にベート以外に敵意を見せていた者達は気まずげにしている。
「黙れババア。救えねえ奴を擁護して何になるってんだ、何度も言わせんな。ゴミはゴミだ。雑魚が強い奴に何言われても、黙るしか出来ねえなら冒険者なんて辞めちまえば良いんだよ!」
「ベート! いい加減にしろ!」
とうとう女性が立ち上がる。が───
「それに関しては俺も同意してやる」
他でもない旬が、ベートの言葉を肯定した。ベートはあぁ? と眉を釣り上げ旬を睨む。媚を売りに来たとでも思ったのだろうか?
「強ければ優位に立てる。弱ければ見下され、あっさり切り捨てられる。強い弱いってのはそういうもんだ。弱い奴が何を言おうと強い奴は気にもとめない」
だけど、と更に付け足す旬。
「ベル君が冒険者の品位を下げるという言葉を、冒険者に相応しくないという言葉は撤回しろ」
「はっ。そりゃトマト野郎に言わせろよ、まあ無理か。文句一つ言えず逃げちまう弱虫だからなあ! ギャハハハ────ハグ!?」
ゲラゲラ下品に笑うベートだが突然口でも押さえられたかのように黙る。口元の空間を指でかき、憎々しげな視線を旬に向けた。
「ベル君はお前よりよほどマシだ。弱い事を否定出来ない、今何を言っても結局口だけになってしまう、それが解ったから黙ってダンジョンに向かった。お前みたいに見下すだけ見下しておいて上を見ずあぐらをかいて酒を飲む犬っころより百倍マシだ」
「ああ!? 誰が犬だてめぇ!」
狼人にとっては犬扱いというのはかなりの侮辱だ。ましてやベートはプライドが高い。名も知らない雑魚に見下される事を嫌う。
詰め寄ってくるベートに対して、リューが友を思った青年の為にせめてもの抵抗として間を割って入るが、旬はリューの肩に手を置き後ろに追いやる。
「お前だよ」
「っ! 死ねやあ!」
ベートが旬に向かって爪を伸ばす。先んじて悲鳴が上がる。誰もが旬が死、もしくは重傷を負う姿を予想した。だが───
「っが、あ……!?」
その手はあっさり掴まれ旬の拳がベートの腹にめり込む。旬が腕を振るうとベートはまるで紙くずのように吹き飛び店の扉から外に出ていく。
「これ、飯代と迷惑料」
「え、あ………」
誰もが呆然とする中旬はリューに金の詰まった袋を渡し、店の外に出て行く。
食事中、酔っていたのもあり腹を殴られた衝撃で胃の中のものを吐き出すベートは混乱していた。ベートはLv.5。それも【ロキ・ファミリア】幹部。酔っていようと、腹にものが詰まってようと、ベートに吐き出させる事ができる者などそうそういない。
思いつくのは同じ【ファミリア】のガレスや、ヒリュテ姉妹程度。ベートにダメージを与えられる存在は、少なくともそのレベルの実力者のはずだ。そして、ならば名が知られぬ筈がない。しかしベートはその男を噂ですら聞いたことが無い。
「何もんだ、てめぇ………それだけの力、どこに潜んでやがった」
「つい先日オラリオに来ただけだ。知られていないのも当然だろ」
オラリオの外から? ありえない。オラリオの外には強力なモンスターがいない。必然的に強い恩恵持ちが育たない。育って3、超低確率で4。そんな存在が、オラリオのLv.5に拳でダメージを与え、投げ飛ばすなど出来るはずが無い。
「適当なことほざいてんじゃねえぞ!」
「本当だよ。つい先日恩恵を刻んだばかりだ」
恩恵を刻んだが、恩恵は受けていないが。とはいえその言い回しでは当然旬がLv.1と言ったと取られる。
「まともに答える気はねえってわけか」
「答えてやってるさ。まあ、お前と問答する気はないがな………俺だって人間だ。知人が侮辱されれば怒りもわく………で、なんだっけ? 弱い奴は強い奴に何言われても仕方ない? なら、俺がお前に怒りをぶつけようと後で文句言うなよ」
言外に弱者扱いされたベートは当然キレた。酔いは吹き飛んだ。油断もしない。本気で潰しにかかる。
漸く我に返り慌てて飛び出してきた【ロキ・ファミリア】の面々。彼等が止めようとするよりも早くベートは駆け出す。派閥内において最速の彼を、この距離で止められる者はいない。せめてもと制止の声が響く中、ベートは後頭部を踏みつけられ顔面を地面にめり込ませた。
「…………え」
そう呟いたのは、果たして誰だったか。ベートを叱っていたエルフの女性かもしれないし、アイズかもしれない。ベートを押さえつけていたアマゾネスの可能性もあるし、リューかもしれない。或いは、全員か。
ベートはピクリとも動かない。気絶したのだろう。【ロキ・ファミリア】の幹部を、こともなげに倒した。何者だ、とざわつく住民を一瞥した旬は、アイズと目を合わせる。
「…………ベル君は君のことを怖がってないよ。謝りたいなら、今度会いに来るといい」
「あ、えっと………はい」
それだけいうと、旬は彼等に背中を向ける。誰も何も言えない中、声をかける者がいた。
「待ってくれ………」
「………まだ何か?」
「君の言うとおり、ミノタウロスの件は我々の失態だ。被害者を放っておいて、宴を開いたことを謝罪しよう。その上、ベートの暴言………こればかりは謝罪しようがない」
「…………それを許すか許さないかは、最終的にベル君が決めるので、俺はこれで失礼します」
「今度、改めて謝罪したい。所属を教えてくれないか?」
「…………………」
声をかけてきたのは緑髪のエルフ。彼女から敵意は感じない。【ロキ・ファミリア】の面々、特にエルフからは若干不満を感じ取れるが。
「【ヘスティア・ファミリア】」
「はあ!? ヘスティアやとお!? あんのドチビ、いつの間にかこんな眷属を………!」
「ロキ………」
旬の言葉にロキと呼ばれた神が反応した。どうやらヘスティアと仲はあまり宜しくないようだ。彼等のやり取りから見てファミリアの指針の決定権は神ではなく上位3名、特にその内の2名にあるようだが、神の言葉とて無視できぬものだろう。忠告はしておくか。
「神ロキ、神ヘスティアと仲が宜しくないようだが………今回を理由に騒ぎ立てるようなら、俺もそれなりの対応を取らせてもらう」
『スキル∶殺気』を使用します |
「「「────っ!?」」」
その場の誰もが息を呑む。押し潰すような威圧感。夜の闇が、魔石灯に払われたはずの影が濃くなったかのような錯覚を覚える。
体が重くなる。
「お、おお〜。解った解った………しゃーない。今回はうち等が悪いしなあ。せやけどなあ、うち等やって都市最大派閥。今回はお互い手打ち……あんま、力で解決、なんてしないほうがええで? オラリオは兄さんが思っとるより魔境やからなあ」
「………………肝に銘じておこう」
『スキル∶隠密』を使用します |
その言葉を最後に旬の姿が闇に溶けるように消えていった。
Lv.5を圧倒する身体能力。魔法かスキルかは不明だが一方的に干渉し人一人を持ち上げる力に、姿を消す異能。オラリオでもトップクラスの実力者だろう。そんな彼が零細の【ヘスティア・ファミリア】に?
ヘスティアの善性は知っているが、何かあるのではと疑ってしまう。一番の謎は………
「恩恵を刻んだばかりっちゅー言葉に、嘘がなかったことやな」
ロキの何気ない言葉に再び騒然とする酒場。アイズは旬が消えた場所を、じっと見つめる。恩恵に依存しない力。もし、それが解れば……
「にゃー、とんでもない奴だったにゃ〜」
「特に最後のあれ………あんなの暗黒期でも味わったことないよ」
店が閉じ、店員達は思い思いに旬の事を話す。彼女達は少し特殊な事情があり、かなりの実力者が揃っている。中にはかつて暗殺を生業としていた者もいる。
都市の外から来た者達は、都市に来たばかりの頃オラリオの冒険者を甘く見て痛い目にあった経験があるが今回の旬の放った威圧感は彼女達でも味わったことが無い。
「ですがあの怒りは友を思ってのものだった。悪人ではないでしょう」
「とかなんとか言って、リューもビビってたんじゃないの?」
「? そのような事はありませんが……」
「だってリュー、肩掴まれてたのに動けなかったじゃない。普段なら拳が先に出るのに」
エシルの人気が桁違いだ!?
100超えたのでとりあえず終了
感想お待ちしております
俺だけレベルアップの件の女性キャラを出すなら
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エシル(悪魔娘)
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