ハイスクールEvolution   作:アイリエッタ・ゼロス

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取引と別れ

「はぁ....エボルトの遺伝子無かったら流石に死んでたな」

 そんな事を呟きながら、俺は一人家に向かって歩いていた。会長にある程度の

 治療を受けた俺は事後処理を会長に任せて先に帰っていた。

 

「(今回の一件で色々と事が進んだな。後はあの件を済ませれば終わりだな....)」

 そう思っているうちに、俺は家に着いた。俺は家の鍵を開けて冷蔵庫を開き店の地下に

 向かった。

 

「ただいま」

「っ! おかえりなさいませ、創二様」

 地下のリビングには髪を下ろしたグレイフィアがいた。

 

「....グレイフィアだけか?」

「はい。他の皆様は既にお風呂に入って就寝されました」

「そうか。エボルトは?」

「エボルト様ならお部屋の方に」

「わかった。今日はお疲れさん。グレイフィアも早く休めよ」

 そう言って、俺はエボルトの部屋に入っていった。

 

「帰ったぞ」

『お、随分と遅かったな』

「会長の治療受けてたからな。まぁ受けなくても傷は治るけど正体がばれないように

 するためにはな」

『そうかそうか』

「お前の遺伝子無かったら今回は流石に死んでたな」

『そりゃ殺す気でやらないと計画が破綻しちまうからな。まぁ死なねぇから安心しろ』

「わかってる。....それで、ギャー助の方はどうにかなるか?」

 そう言った俺の視線の先には手術台の上で眠りについているギャー助がいた。さっきの

 戦いでギャー助は俺の必殺技を受け爆発したが、実際に爆発を起こしたのはギャー助が

 吹っ飛んだ場所であり、ギャー助自身は必殺技を受けただけで爆発を起こしていなかった。

 実際、爆発が起こった寸前にエボルトがギャー助を回収したため、まるでギャー助が爆発で

 死んだと思わせるために俺とエボルトは一芝居打っていたのだった。

 

『お前の必殺技でスマッシュの部分は崩壊してる。ガスも抜いて神器も抜いてあとは記憶の

 改竄だが....本当に良いのか? お前の記憶も全部消しちまって』

 エボルトは確認するようにそう聞いてきた。

 

「あぁ。....その方が、ギャー助にとって幸せだと思うからな」

 俺は少し寂しい気持ちもあったが、ギャー助の今後の事を考えてそう言った。

 

『....そうか。わかった』

 そう言って、エボルトはギャー助を煙で包んだ。そして、十分ほど経つとギャー助を

 包んでいた煙は晴れた。

 

『記憶は消して別のものに書き換えた。じゃ、準備しろ』

「あぁ」

 俺はトランスチームガンにウルフロストフルボトルを挿し込んだ。

 

ウルフ....

 

「蒸血」

 

ミスト・マッチ....ウ・ウッ・ウルフ....ウルフ....ファイヤー!

 

『よし、じゃあ行くか』

 エボルトはそう言うと、ギャー助を担いで辺りに煙を撒いた。

 

 ~~~~

 

 煙が晴れると、俺達はどこかの森の中にいた。

 

『なぁ、今更なんだが取引相手って誰なんだ?』

 俺は森の中を歩きながらエボルトにそう聞いた。

 

『そういや言ってなかったな。取引相手はこの吸血鬼の幼馴染だそうだ』

『ギャー助の? お前、どうやって調べたんだよ?』

『世界を回っている時にちょっとな。それと、グレイフィアが冥界で調べてな』

『....相変わらず、人が知らない所で手回ししてんな』

『当然。俺は最高のショーが見たいからな。そのためには打てる手はすべて打つぜ』

 そう話していると、突然辺りが霧に包まれた。

 

『っ!』

『安心しろ、敵じゃねぇよ。この霧は取引相手様のものだ』

 そう言いながら、エボルトは霧の中を歩き出した。そしてしばらく歩くと館のような建物が

 ある場所に出た。そして、その館の周りにはエボルトが造っていたハードガーディアンがいた。

 

『お前、このガーディアンって....』

『俺が造ったやつだ。取引相手はちょっとしたお尋ね者でな。前金としてガーディアンを

 渡しといたんだよ』

『お尋ね者って....大丈夫なのか?』

『あぁ。お尋ね者って言っても、悪いことをしたお尋ね者じゃねぇからな』

 エボルトはそう言って、館のチャイムを押した。

 

『....はい』

『どうも。約束通りギャスパー・ヴラディを連れてきた。それと、リーダー様を連れてきた。

 開けてもらえるか?』

『っ! わかりました』

 声からして取引相手は女の子だった。そして、館から金髪の女の子が出てきた。

 

『よぉ、ヴァレリー・ツェペシュ』

「....本当にギャスパーを連れてきてくれたんですね」

『取引は取引だからな』

「そうですか。....取り敢えず、中へどうぞ」

 そう言うと、金髪の女の子は門を開き館の中に入っていった。

 

『行くぞ』

『....あぁ』

 俺はエボルトについていき館の中に入った。館の中自体は綺麗で一人で住むには十分な

 広さだった。そして、俺とエボルトはソファに座りギャー助を机を挟んだ向こうのソファに

 座らせた。そして、取引相手の金髪の女の子はギャー助の隣に座った。

 

『そいつの悪魔の記憶は全部消した。神器も抜いて今の状態はただの吸血鬼だ』

 エボルトはソファに座った金髪の女の子にそう言った。

 

「....そうですか。ありがとうございます」

『これも取引のためだ。....これで、こっちは契約を果たしたことだ』

「そうですね。それじゃあ、約束通りコレを」

 そう言うと、金髪の女の子は机の上に聖杯のような物を置いた。

 

『確かに受け取った。これで取引は完了だ。じゃ、俺は先に帰るぜ。創二、最後に

 別れの挨拶ぐらいしとけ』

『ちょ....! おい! 先帰んな!』

 俺はエボルトにそう言ったのだが、エボルトは無視して先に帰ってしまった。

 

『あんの野郎....!』

「少し良いですか?」

 俺がエボルトのいた場所を見ていると、金髪の女の子が話しかけてきた。

 

『何だ?』

「あなたが組織のリーダーでギャスパーを助けてくれたんですよね?」

『....まぁそうなるが。それがどうかしたか?』

「....改めてお礼を言わせてください。ギャスパーを助けてくれて、どうもありがとう」

 そう言って、金髪の女の子は立ち上がり頭を下げてきた。

 

『別に礼を言われるほどの事はしてねぇよ。ギャー助を助けたのは、あくまで俺の計画を

 進めるための過程で偶然起きたことだ。....だから、まぁ頭を上げてくれ』

「....彼が言っていた通り、優しい方なんですね」

 頭をあげた金髪の女の子は笑っていた。

 

『(アイツ何言った....)』

「そういえば自己紹介が遅れましたね。ギャスパーの幼馴染のヴァレリー・ツェペシュと

 申します」

『そういや俺も名乗ってなかったな。石動 創二、ファウストのリーダーだ』

「創二さんですか。良い名前ですね」

『そりゃどうも』

 俺はそう言って、ギャスパーの方を見た。

 

『ヴァレリー、あんたギャー助の幼馴染って言ったか』

「えぇ、そうですよ」

『そうか....俺にとって、コイツは可愛い後輩なんだよ。まぁそのことをギャー助は

 忘れてるんだけどな』

 そう言いながら、俺はギャー助に近づき頭を撫でた。

 

「そうなんですね....」

『まぁギャー助のためだからな。....そういうわけだから、どうかギャー助の事をよろしく

 頼む』

「....はい。お任せください」

『頼んだ....じゃあ、俺ももう行く』

 そう言って、俺は部屋に入る扉に向かった。

 

『....じゃあな、ギャー助』

 俺は部屋から出る時、最後にギャー助の顔を見てそう呟いた。そして館から出て俺は

 ヴァレリーに連絡先を書いた紙を渡した。

 

『何かあったら連絡してくれ。力になれることだったら協力する』

「ありがとうございます。では、私からはこれを」

 そう言うと、ヴァレリーは一枚の紙を渡してきた。

 

『これは?』

「吸血鬼領にある隠し通路です。エボルトさんに渡せば役に立つはずです」

『そうか。ありがとな』

「いえいえ。では、また会う日まで」

『あぁ、じゃあな』

 そう言って、俺は辺りに煙を撒いてこの場から姿を消した。

 

 

 


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