親に虐待を受けてニンテンドースイッチを買ってくるまで帰ってくるなと言われたネット小説サイトで1ヶ月以内に日間ランキング入りを目指す作家志望TS転生者ウロボロ以下略先生とその編集の話 作:各是ライト
頭尾香椎は作家志望TS転生者である。前世の貞操観念なぞもう覚えてない。
元彼、現彼女は、読まれている本をインプットしてみるよう言われた→
じゃあ、両性具有童貞聖母触手宇宙人を書いて保護しよう(なんで??)→
それより、目の前のあなたを保護します理由はもちろんお分かりですね。
この超然絶後の理解不能な三段論法的イケメンオーラにアテられた彼女。
彼女は現在、担当編集である政弦マトエの家(そこそこよさげなマンションの一室)に転がり込み与えられた課題をこなすために日夜小説に励んでいる。
雨の日も(←確定で傘が壊れるのでアンテナとして使う)。
風の日も(←何故か最近は帽子を奪うのがブームらしい)。
嵐の日も(←やっぱりくそほどいつも天気悪ない?)。
親の虐待がヒドイ日も(←捜索願がまだ出てないことから、お察し。ここいる?)。
安心できる寝床を獲得した、彼女は来る日も行く日(現在、三日目。言い過ぎでは?)も小説を投稿し──。
──てはいなかった。
何故なら、マトエの家に住む条件として香椎は宇宙人を題材とした小説の執筆を
ぶっちゃけ宇宙人以外は書く気がなく、人間などもってのほかである彼女ってこれは耐え難い拷問である。
転生者特有の常人ならざるメンタルがさせる
「ふふっ」
編集者らしく、リビングの壁を覆うほど本棚が並び、そこに納まりきらない本が雑多に転がる室内で。
彼女はほくそ笑みながら、今自身が過去書き上げ投稿し、誰の目にも留まらず消えていった(現実は非常である)小説を読み返していた。
理由は単純。彼女が禁止されているのはあくまで、宇宙人を題材とした小説の執筆。
つまりは、新しく書くことが禁止されたのであって、過去の作品を改稿することは禁則事項に当らないのだ(現在審議中)。
「……ふぁぁあ」
密かな完全犯罪(完全かはともかく、犯罪ではない)を練っていると、染物だという茶髪を揺らしてマトエが起きてきた。
目が細められた上での緩慢な動作は一見すると不機嫌そうに見える。
始めは自身のテリトリーに異物が入って内心では激怒していたのかと思ったが、どうやらそうでないようだ。
が、単にマトエは夜型人間で朝に弱いだけである。
普段食事の際も慎ましやかに開けられる口を大きく開いた欠伸で確信した。
「おはようございます。マトエさん。朝ご飯出来上がってますから、食べますか? 一応洋食と和食両方用意してますけれど」
いくら頭尾香椎といえれど何もなく住まわせてもらうことには気が引ける。
なんだかんだと言って子供を一人家に置くというのはそれだけで職業として成立するほど面倒なことである(例え放置であっても)。
だからといって、香椎に他に行く当てがあるとは言い難い。
入魂の一作を書くために、基本友人関係も切り捨ててきたし(ボッチの言い訳)、今世の親類縁者は顔さえ知らない。
路銀も限られているし、児童養護施設となると
というわけで家事などに微力ながらも助力することで、存在価値を作ることにしたのだ。
「……かふぇいん」
「ああ、カフェオレですね。今すぐに用意します」
なんとか食卓には到達したがそこで死にかけている姿に苦笑しつつ、香椎はマグカップに粉末を入れ、お湯を注いでかき混ぜる。
そして、仕上げてとして牛乳で割る。
前に目覚ましにはブラックコーヒーの方が向いているだろうと思って入れみれば、彼女は猫舌であった。必然牛乳で即席である程度温度を下げなければならない。
これを、二回から三回繰り返してようやく政弦マトエの認識下での一日が始まる。
「ああ、ウロボロ先生ですか。おはようございます」
「おはようございます。朝食は和食と洋食どちらがいいですか?」
「じゃあ、洋食で」
「そればかりですね」
「片手で食べられる方が効率的でいいんですよ」
言いつつ彼女は差し出されたバタートーストを片手でつまみながら、スマートフォンをいじくる。新着メールの確認が起床後の日課であるのだ。
その様子から、社会人って忙しないな、と香椎は食事中のマトエの髪を背後から梳きながら思った。
「なんていうか、ウロボロ先生って意外に女子力高いですよね」
「んー意外って言われるは普通に心外なんですけれど」
「いや、まずペンネームの時点で女子力の欠片もありませんし、お洒落とか料理とか、小説を書くこと以外に興味があるのが意外でして、それに──」
──話を聞く限り、そういう技能が成長するような生育環境に身を置いてないようですし。
寝起きのせいか、そう続けそうになってしまい、慌てて口を閉ざす。
そもそもからマトエが踏み込んでいいのか判断に困る領分のことであるし、起き抜けにする話では絶対にない。
「それに?」
「いえ、なんでもありません」
とりあえず粗雑に誤魔化す。
ただ、やはり不自然さは残ってしまったようでバタートーストをもう一枚用意する香椎は大きく首を傾げている。
「そうですか?……まあ、正直小説を書くこと以外にあまり興味ないのは反論しません。白状すれば料理や化粧なんかは小説のために学びましたし」
だからだろうか、彼女の格好は常に質素だ。
過ごしていた環境もあるのだろうが、そもそも洒落っ気が感じられない。
常に結っているツインテールも単に伸びた髪が邪魔なだけなのだろう。
「あの宇宙人小説のどこに活かすような要素はあったんですか?」
「全てですよ。料理も化粧も文化です。様々な文化を深く理解し分解し、それを適切な配列で適度な加工を施すのが異文化を空想することですから」
「やっぱり、そこに帰納するんですね」
しいたけみたいに瞳を輝かせて語る異文化を構成することについて語る香椎。
この三日間で一番いい笑顔で、筆舌し難い辟易とした心境に陥ってしまう。
「それはもちろん。それが私が生きる理由ですし。でも、実践経験はほぼゼロだったんですが、こうしてやってみないと見えてこないものもあって興味深いです」
特に味覚や嗅覚、それと触覚なんかがそうだ。
視覚情報と聴覚情報は図書館にあるもので比較的容易に実感できるが、これらはそうもいかない。
どんなに食い入るように熟読しても本は本でしかない。
本は触っても本の感触であるし、嗅いでも本の匂いであるし、食べても本の味である(こちらは実践済み。司書の方にたらふく怒られた)。
「そんなので、よくできますね」
「手がちっちゃいのはタイピングの時では少し困りものなんですが、この身体はそこそこ手先が器用なようでして、案外と何とかなります」
この身体という表現に違和感を覚えたが、マトエの寝ぼけた頭は聞き流した。
ウロボロ先生が胡乱な発言するのはいつものことである、その一つだろう、と。
そんな感じで食事を終えたマトエに三度目になる化粧を施して、二人の朝は過ぎていく。
終始和やかに、香椎のこれまででは考えられないほど。
「それでは、いってきます。何かあれば、スームかメールかでどうぞ」
チャリン、とマトエは車のカギを揺らした。
車離れが進んでいる最近の若者にしては珍しい(転生者特有の上から目線)車による通勤をしているらしい。
理由を聞けば、大学生のときレース漫画に憧れて、という浅いもので、なんだか笑ってしまった。
これが家付きカー付きババ抜きというやつだろうか。
香椎はそんなくだらないことを思った。
本は食べても本
香椎もかつて文学少女らしく食したことがあるらしい
そのためインクよるの味の違いが分かるようになった
図書館の本でやるな
家付きカー付きババ抜き
1960年代の流行り言葉(死語)
意味は割とそのままで家と車を持っており、姑となる母親既にいないという、若い女性が結婚相手の条件として使っていた
ちなみにマトエの両親は普通に健在、ここでは一人暮らしであることを表す
解説をする振りをして香椎に割と普通に暴言を振りまく。
これいる?
失踪する理由が思いつかなかったので失踪します