白兎と剣姫が恋をするのは間違っているだろうか? 作:ゆきうさぎ。
「ほう?上手くいったようだな?」
アイズが目の前のベルを抱きしめているとドアの方から声がかかってきた。
「り、リヴェリア…!?」
「ええ!?」
アイズとベルは真っ赤に顔を染めながらどちらからともなく互いにばっと離れドアの前に立っているリヴェリアに視線を注ぐ。
「いつから…見てたの…」
やっと口を開いたアイズがリヴェリアに質問を投げかける。
「お姫様は…待たせちゃいけないと思うんだ…のところからだな。」
リヴェリアは笑いを必死に堪えているのだろう。肩をプルプルと震わせ口に手を当てている。
「っ!」
アイズは耳まで真っ赤になってリヴェリアを睨み付ける。
「まぁそう怖い顔をするな。」
リヴェリアは笑いすぎてお腹が痛いと言わんばかりにお腹を手で押さえながら、もう一方の手でアイズを宥める。
「でも結ばれて幸せだろう?」
リヴェリアは笑いながらもそう続ける。恥ずかしさでアイズもベルも耳まで真っ赤になってぷるぷると震えている。その後、しばらくの沈黙の後口を開いたのはベルだった。
「お…お邪魔しましたぁぁぁ!」
物凄い勢いでリヴェリアの横を通り過ぎ、部屋の外へと出て行ってしまった。
「…っ!」
アイズが掴もうとしたベルの手は届かなかった。ベルは逃げてしまったのだ。アイズはそう思った。
「追いかけないのか?」
「私がいると…迷惑なんじゃないかな…」
アイズの顔は先ほどの幸せ絶頂の時の笑顔は消え去り、落ち込んだ表情になっていた。
「…せっかく想いを伝えられたのにな…」
アイズがぼそりと心の声をこぼした。今のアイズの姿はオラリオ最強と謳われる剣士である剣姫ではなく、1人の恋する少女なのだ。そんなアイズをリヴェリアは放ってはおけなかった。
(やれやれ…こんなのだからロキにママと呼ばれるのだろうな…)
そんな事を考えながらもリヴェリアはうずくまるアイズへと声をかける。
「ならベルが他の女の子と付き合ってしまってもいいのか?」
ぴくり。とアイズが反応した。やはりアイズはベルの話題となると反応するみたいだ。
「明日は遠征などもない休日だ。ダンジョンに潜らずにベルの様子を見に行ってはどうだ?」
「そんなの…ダメだよ。」
「何故だ?アイズはベルの彼女だろう。彼氏の様子を見に行く事は許されると思うぞ。」
「彼女…。」
アイズはその言葉をよく噛み締めてなにかを決めたような顔をした。恐らく明日ベルに会いに行くことにしたのだろう。
「では。私はそろそろ部屋に戻るぞ。アイズも遅くならんようにな。」
とわ言い残すとリヴェリアはいつも通りに執務室へと戻って行った。部屋に1人残されたアイズは考える。
「告白…嬉しかったな…」
ベルのあの表情。訓練をしてる時の真面目に取り組んでいる時とはまた違う「覚悟」を感じた。
「明日…会いに行ってみようかな…」
アイズはそうぽつりと言葉を零すと、目を瞑って眠りについた。
次の日の朝。朝とは言ってもまだ夜が明けて日が出たばかりの早朝。アイズは目を覚ましていた。
「あんまり眠れなかった…」
明日のこと…明日のこと…。と考えているうちに夜が更けてしまった感じだった。そんなアイズは物音を立ててファミリアのみんなを起こしてしまわないように注意をしながらとある場所を目指して館の中を歩く。そう。その場所とは…
「…リヴェリア…起きてる…?」
リヴェリアの執務室だった。1人では不安だったアイズはベルに会いに行く事を提案した張本人…リヴェリアに同行してもらおうと考えたのだった。
「アイズか?こんな朝早くに何の用だ。」
部屋の中からリヴェリアの声が聞こえた。毎朝こんな早くに起きているのだろうか…。
「入ってもいい…?」
「いいぞ。」
がちゃり。と扉を開けて中に入る。魔道書や本の数々が詰まった本棚が並んでいる。その中央に位置する机にリヴェリアは腰掛けてなにかを書いていた。
「それで何の用だ?」
アイズが部屋の中できょろきょろとしているとリヴェリアが本題を聞いてきた。
「…」
アイズは思わず黙りこくってしまう。だってベルに会いに行くから付いてきて。なんて恥ずかしくて言えるわけないじゃないか。
「なんだ。ベルか?」
「っ!」
またもやリヴェリアは昨日と同じニヤニヤとした笑みを浮かべている。私が困っているのがそんなに楽しいのか…。とアイズは心の中で悪態を吐く。多分口に出すと怒られてしまうだろう。
「会いに…行きたくて…」
「ほう?」
「ついてきて…欲しい…。」
ぽつり。ぽつり。と顔を真っ赤にしながら俯いて本音を語るアイズをリヴェリアは優しい目つきで見守っていた。それこそ初恋に戸惑っている娘を見守る母親のように。
「まぁいいだろう。」
「ありがとう…。」
リヴェリアがそう返すとアイズはとても嬉しそうに瞳を輝かせて顔を上げた。リヴェリアはどこかこの状況を楽しんでいたのだ。アイズはベルと出会ってから普段見せなかった表情をたくさんするようになった。強さを求めて戦い続けていたあのアイズが。
「で…こんな朝から行くのか?」
「そ、それは…」
「なんだ?会いたくてたまらないのか?」
「っ!」
リヴェリアはまたアイズをからかってみる。どうやら図星のようで耳まで真っ赤に染めたアイズはうずくまって顔を必死に隠している。
「まぁ今日も遠征はないしな。ゆっくり街を歩くのもたまにはいいかも知れんな。」
「うん…!」
アイズは無邪気な子供のような笑顔で笑った。…こんな笑顔見るの初めてだな…。と長い付き合いのリヴェリアでも見たことのない笑顔を。
「では。いくか。」
「…うん。」
2人は執務室の扉を開けて外に出ると。ベルの所属するヘスティア・ファミリアのホームである教会へと向かった。
教会の前に着き、ドアをこんこん、とノックする。返事が聞こえてこないのでドアノブを回して見る。するとドアはがちゃりと開いた。
「り、リヴェリア…」
「まぁ…入っても大丈夫だろう。彼女なんだしな。」
おどおどとするアイズをリヴェリアはいつもの調子で「彼女」という言葉をやたら強調しつつ先に促す。ドアを開けて中に入るとソファに寝転がって寝ているベルの姿があった。
「…っ!」
ただ。アイズの目線はベルではなく。違う場所へと釘付けになっていた。そう。それは…ベルの上に寝転がっている存在。…ベルのファミリアの神様であるヘスティアだった。
「ん…?」
ドアから差す日差しが眩しかったのか。ベルがもぞもぞと目を覚ました。暫くして自分のお腹の上で寝ているヘスティアを確認すると「か、神様…」と。多少呆れ気味にヘスティアを避けつつソファから降り立った。そして。ドアの前に立っている2人の姿を確認すると…
「え…ええええええぇ!?」
「ベル…おはよう…」
ベルは驚きのあまり後退りながら恐る恐る話しかける。
「な、なんでアイズさんとリヴェリアさんがここに…?」
「鍵が開いてたから…」
「じゃなくてっ!」
ベルはわたわたとしながら言葉を続ける。でもなにをどう言えばいいのか分からなくなって混乱してしまったのか、話せなくなったしまった。するとアイズの後ろにいたリヴェリアがため息をつき、やれやれと言わんばかりに話し始めた。
「私が説明しよう…」
するとリヴェリアはアイズとベルに聞こえるようにこう言った。
「アイズが彼氏であるベルに早く会いたくてたまらないが1人じゃ恥ずかしいから一緒に来てくれ。と頼まれたんだ。」
「「っ!?!?」」
その言葉がリヴェリアの口から紡がれた次の瞬間にアイズとベルの2人の顔が真っ赤になってあきらかに動揺が見えた。
「り…リヴェリアっ!」
「まぁまぁ。アイズ。本心だろう?」
またリヴェリアはニヤニヤとしている。本当にハイエルフなんだろうか…最近そう思うことが増えて来た。のはアイズの心の中だけの秘密である。
「あ、アイズさん…?」
戸惑ったベルがアイズに話しかけてくる。だが戸惑っているのはベルだけでなくアイズもなのだ。
「えっと…ね。ベルに…会いたくて…」
アイズは自分の頬がさっきよりも赤くなっているのを感じていた。もう顔の熱さと恥ずかしさで倒れてしまいそうだ。ただ、ここでなにか言わないと…と思った。その原因はリヴェリアの昨日のあの言葉だ。「ならベルが他の女の子と付き合ってしまってもいいのか?」と。
「あ、アイズさ…」
と。ベルがそこまで言った時。ある人物の声がベルの言葉を遮る。
「ゔぁ…ヴァレン何某!?」
その声の主はヘスティアだった。顔を真っ赤にして怒っている。ワナワナと震えてアイズをじっと睨み付ける。
「ボクのベル君を返してもらおうじゃないかぁ!」
そう言うと。ヘスティアは強引にベルを引っ張り抱きしめてしまう。
「か、神様!?」
その時のアイズはと言うと…嫉妬していた。むっとした表情でヘスティアとベルのやりとりを見ていたのだ。そんなアイズにリヴェリアがそっと耳元である言葉を囁いた。それは。昨夜と同じような言葉だった。「このままだとベルがとられてしまうぞ。」と。次の瞬間。アイズは自覚する前に体が勝手に動き出していた。
「え…?」
「…」
ヘスティアに抱きしめられていたベルの左頬に。アイズはそっと口付けした。そのあとはまるで時間が止まったかのように沈黙が流れる。そして…
「あ…アイズさん!?!?」
羞恥のあまり顔から湯気が出るんじゃないかと言うほどに真っ赤になったベルが物凄い勢いで後退りする。
「ゔぁ…ヴァレン何某ぃぃ!」
ヘスティアは怒り。ベルは照れる。そして当の口付けした本人であるアイズは数秒遅れで顔を真っ赤にして言葉にならないような事をもごもごとしていた。そんかアイズ達をみてリヴェリアは楽しそうに笑う。
それから暫く経って昼頃になった頃。アイズとベルは2人きりで話していた。怒り疲れてしまったのか。ヘスティアはソファの上でだらしなく寝ている。リヴェリアは用があるとかで先に帰ってしまった。
「あ…アイズさん…あの…さっきのは…」
「…ベルが浮気してたから。」
ベルが恐る恐ると先ほどのことを聞くとアイズは照れながらもそう答えた。
「う、浮気なんてしてませんよ!?」
その返答にベルは慌てて否定する。そんなベルを見てアイズはくすくすと笑っていた。そして。ベルが真剣な眼差しでこちらを見て、こう告げてくる。
「アイズさん。」
「ベル…?」
「ぼくは。アイズさんのその笑顔を守りたいです。」
と。アイズはこの少年と出会ってから自分が変わったのを自覚していた。幼い頃の自分とベルを重ねたり。自分の中の黒い炎を鎮めてくれたり。沢山の思いがこの少年に対して湧いてくる。でも。今もう一度自覚した。私は。
ーーーー私はこの少年が。ベルが大好きなんだ。
と。アイズは目の前の。自分だけの「英雄」を抱きしめる。ベルは最初は戸惑っていたけれど抱きしめ返してくれた。気づけば時刻は夕方。綺麗な夕日が窓から差し込み2人を照らしていた。
「…大好き。」
ふと。口から溢れたアイズのその言葉はベルに聞こえたのかわからない。けれど。それがアイズの本心だった。
(ずっとこの時間が続けばいいのにな…)
2人は今日沢山の事があって疲れたのか。そのまま眠りについてしまった…。
今回も再掲となっております!
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