登校をクソ早くしているのに、百代には探知され、挙句何とかファミリーの奴らも変態大橋で何やらかんやらしているうちに合流してきやがる。これじゃあ意味ねえじゃねえか。
ならば喧嘩なぞ買わなければいいという話だが、これは数少ない俺の癒しなのだ。弱者に圧倒的武を振るう。これ以上に幸せなことがあるか。とまあ、いつもご機嫌で出ていくのだが、最近ではそれもストレスの要因になることが多い。それは何故か。
「さっすが武帝様!今回もカッコ良かったです!!」
「武帝殿のあの足捌き。畑は違えど拙者も見習うところが多い次第です」
「カッコよかったじゃないのー武帝ちゃん。今夜どう?」
これだ。通学中なのに囲まれる俺。それ自体はいいのだ。偶にエロい女混ざってるし。ならば何かといえば、この、"武帝"呼び。
おいふざけんなよ。なんで川神百代が武神で俺が武帝なんだよ。神と帝て。完全に下に見られてるじゃねえか。しかも語呂も悪いし。あんな火力ブッパより俺が下だと?クソが。鉄心の許しさえありゃ今すぐどちらが下か教えてやるものを。
加えて、
「なー修吾ー。さっきの乱闘で私疲れちゃったにゃーん。おぶってくれてもいいんじゃにゃいかにゃん?」
首に手を回しすだれかかってくるこの女。川神百代。この滲み出る余裕感が気に食わない。
この何年間で川神百代は驚異的な発育を遂げた。見た目は俺の好みのボンキュッボンドストライク。だが、この性格がいけない。性格はデッドボール寸前のボールだ。性格だけは何年経っても成長しないらしい。
というか、纏わりついてグダグダすんじゃねえ。俺はさっさとこの場から離れてーの。じゃねえと
「しゅーにい今日もとってもカッコよかった。あ、襟少しだけ乱れてるよ。直すね。ん」
「しゅーにーおはよう。学校まで一緒にいこ〜」
ほら詰んだ。またいつものパターンだ。俺の右側にピトリと身を寄せ、彼女ヅラで襟元を直してくる青インキャと、左にサッと回り込み、俺の左手を強引に握る白インキャに捕まった。
「お疲れーしゅう兄。相変わらずモモ先輩としゅう兄の戦いは相手が可哀想になるね」
「もう早速来てるよ…。メールラッシュ。そろそろ断るのも面倒くさくてさ。しゅう兄の連絡先渡したりしたらダメ?」
「ダメだよ大和。そういう尻軽女はしゅーにいが嫌いなタイプだから」
「そうだぞ弟。余計なことするなー」
「ちぇっ」
「いーなーしゅう兄モテモテでよお!おい大和!何人かくらい俺に回してくれよ!出来ればエッロイ見た目のお姉さんタイプ!」
「では私もよろしいですか。私は誰でもいいので」
「却下だ。それにガクトはあり得ないとして、葵は紹介されなくても引くて数多だろ」
うるせえええ!
詰みの理由はこれだ。捕まったら話は早く、ぞろぞろと何とかファミリーの連中が集まってくる。強いて言うならば、葵冬馬、井上準、白インキャの3人はまだいいのだ。葵冬馬は医者の息子であり、将来もその後継として確約されている。仲良くしといて損はない。それに、九鬼英雄と仲が良い。付き合っていくならばこういう人間だ。ただ、こいつの偶に向けてくる怪しい視線だけはずっと慣れない。
だが、この何とかファミリーはこの歳になってもまだ将来性が見えない。俺が言うのもなんだが、お前ら大丈夫なのか。
「しゅーにー。ボク新しい紙芝居作ったのだ。後で読んであげるね」
「おやユキ。新作ですか。私達も一緒に拝見しても?」
「もちろん。冬馬と準にも見せてあげる」
目まぐるしく移ろう会話。というか、冷静に考えてみろ。俺一言も喋ってないぞ。いい加減壁と会話すんのやめろ。いや話す気もないんだが。
そうこうしているうちに学園に到着する。下駄箱からは、やっと少ない俺の時間が確保される。
俺が川神学園へと入学してから割り振られた教室は1-Sだった。そしてあの川神百代は1-F。同じ学園という絶望的な縛りはあるが、それでもクラスを分けられたのは非常に大きい。と、入学して間もない頃は思ったものだ。しかし、それは大きな間違いだった。
「それでな、じじいが言うんだよ。お前はもっと精神鍛錬を積むべきだーって。全く、いい歳して女子高生のブルマ追っかけてる奴が言うことか?」
休み時間の度に、周りの目など気にすることなく3-Sへ来ては俺の席の前を陣取り、こうしてくっちゃべる川神百代。これは俺が入学してからほぼ毎日と言っていいほど続けられた。
3-Sは基本的に好かない。Fなど比べるまでもないが、SクラスはSクラスでプライドだけ増長した無能どもが蔓延っている。こいつらの何がタチ悪いって、分野によってはワンチャン俺に勝てると思っている点だ。これからの日本を担うお前らと、これまでもこれからも世界にナンバーワンとして君臨する俺が同列なわけがないだろうが。
そんなプライドの塊であるSクラスの奴らが、本来Fクラスの川神百代の入室を是とするわけがない。が、
「むー。無視するなよー。うりゃ」
この鬱陶しくも俺の頬をついてくる川神百代には、なんのお咎めもなしである。だから嫌いなのだこいつらは。長い物には巻かれるタチなのが見て取れる。だが、先ほども述べた通り、俺がこのクラスを好かないのは基本的な話である。一応例外は存在する。
「それぐらいにしておけ。帝明が困っているぞ」
「お、京極か」
こいつだ。唯一の例外、京極 彦一。そこまで話す間柄ではないが、他と比べれば比較的話す方に入る。というのも、こいつはこのように、俺が厄災に絡まれているときに助け舟を出してくれる。良いところの出だが、根拠のないプライドは持たず、思ったことはいいことも悪いことも口に出すたちだ。どうやら奴の言葉には魂が宿り、ある程度の影響力をもたらすようなので、積極的に喋るようなタイプではないのだが。
「修吾は困ってなんかないぞー。こいつはいつもこんな感じだ」
いつも困ってるんだよ。
「ふむ、なるほど。しかし、もうそろそろ授業も始まる。すぐに戻ったほうが良いのではないか?」
「本当だ。こんな時間か。じゃあ修吾、また後でな」
とまあ、こんな感じで追っ払ってくれるのだ。少しは感謝もするものだ。
サッと立ち上がり、教室を出ていく。それに次いで、先程まで何処ぞに座っていた元々の席の持ち主が戻ってきて腰掛ける。このモブAも可哀想なもんだ。言う度胸がないこのモブに同情はできないものの、確かにこいつは川神百代の被害者と言えよう。
「ふ、ふふ。ほのかに香る残り香。いい」
いや、そんなこともないようだ。気持ち悪こいつ。
「帝明。余計なことをしたか?」
俺が全力で引いていると、横で立っていた京極が声をかけてくる。
「いや、んなことねえ。毎度悪いな」
「なに、同じ学び舎に通う学友のためだ。気にするな」
授業は下らない時間だが、自分1人の時間と考えると嫌いではない。予鈴がなり、京極も席へ戻った。
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「しゅう兄!ちょっと手伝って欲しいことがあるんだけど」
安らぎの時間である授業を終えるとすぐにこれだ。教室に入り、俺の席まで進んできたなんとかファミリーの臆病者がそう声をかける。厄介なのは川神百代だけではないのだ。俺の休み時間は毎度なんらかの要因によりほぼ潰される。休み時間だつってんだろ。休み中だ帰れ。
「実は賭場でイザコザが起きててさ」
よしいこう。賭場は好きだ。1度仕事でラスベガスに行った時はカジノを赤字にしてやった。それに、金が制限されている俺にとっては学園の賭場は荒稼ぎできるパラダイスに等しい。入りたての頃は良く顔を出したものだが、2年に上がる頃には誰も俺とやることはなくなった。もっと馬鹿に気づかせないように上手く立ち回るべきだった。
しかし、この要請が入ったということは、相手は既に確約されている。どんな勝負でも受けよう。
俺は席を立ち、別棟の賭場に向かった。
「やった!ありがとうしゅう兄!」
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ことの発端は2-Fの福本が賭場で大負けしたことから始まる。本人曰く、賭場で2-Sの不死川心に大敗した挙句、散々口汚く罵られたので仇を取って欲しいとのこと。本来ならば賭場での負けなどは摂理なのだが、その際Fクラスのことも酷く言われたらしく、懲らしめるために大和と師岡に要請が来たという形だ。
福本に連れられ、大和が訪れた賭場では、件の不死川心が上機嫌に麻雀を打っていた。
「やい団子女!さっきはよくもやってくれたな!」
先程大敗した時の情けない泣き面とは打って変わり、大和を連れてきたことで福本は強気に出る。
「んん?なにやらキーキーキーキーうるさいと思ったら、さっき此方に負けて尻尾巻いて逃げた山猿ではないか。どうしたのじゃ?金融機関にでも行ってリベンジしにきたのか?おっとすまん。山猿に金を貸す数奇者の金融機関など、あるはずもないのじゃ」
にょほほほほと高笑いをする不死川を見て、大和は予想以上の煽りに呆れていた。
顔を真っ赤にした福本が負けじと好戦に出る。
「そーやって調子に乗ってられんのも今のうちだ!次こそ絶対ヒーヒー泣かせて、許してください何でもしますからーって言わせてやる!」
いうと同時にグッと大和の袖を掴み前に出す。大和としても、ここまでいいように言われて引く気もさらさらないので、されるがままである。何かあった時のサポート係として師岡も同行していたのだが、すぐ合流するとだけ言い残し、駆け足で何処かに行った。ので、1人での参戦である。
「なんじゃ、同族の敵討ちか。山猿は仲間意識だけはあるのう」
「そんじゃ、その山猿にあんたが負けた時は、あんたは山猿以下ってことになるなあ」
大和が煽り返す。途端に不死川はその視線をキッと険しくした。
「此方が山猿以下じゃと!?卓につけ!高貴なる此方にそのような舐めた口を聞いたらどうなるのか、思い知らせてやるのじゃ!」
大和は肩をすくめると、席につく。勝負は変わらず麻雀だが、麻雀は打つにしても最低三人必要だ。1人は佇んでいる男でいいとして、4麻を打つならもう1人は欲しいところである。誰かいないかと大和が賭場に視線を巡らせた時、
「おーい大和」
入り口からよく知った声が響いた。
「モロ。何処行ってたんだ?」
モロは大和に呼びかけた後、大和の問いかけに応えるように入り口から体を退かした。奥から出てきたのは、帝明修吾であった。
「しゅう兄!」
大和は驚きと同時に、少しの憂いがあった。それは、手間をかけさせてしまったなという思い。今回もそうだが、師岡は事あるごとに修吾に頼る癖があった。あの完璧超人だ。なんでもどうにかしてくれる安心感はあれど、今回は大和は自身の力で解決したい所存であった。故の複雑さである。
とはいえ、嬉しいのは事実。修吾が来たことにより、大和は絶対の安心を覚えた。
「にょわわわわわ。てててて帝明修吾なのじゃ…。賭場に何の用があるのじゃ…」
対して、修吾が現れてからの不死川は面白いくらいに動揺していた。目は点になり、カクカクと揺れていた。
師岡に案内されるまま修吾は歩を進め、卓につく。
「ひっ!まさか一緒にやるというのか?こ、此方は別に山猿に喧嘩を売られたからこてんぱんにしただけで、帝明君と戦うつもりは微塵も」
「どうした不死川。あれだけ大口叩いておいて、しゅう兄が現れた瞬間随分と弱気じゃないか。まさか、高貴な御身分で、勝負から逃げる訳じゃないよな?」
余裕がなくなった不死川を場に止める為、大和はあえて煽る。
「な、何を!いいのじゃ。帝明君には悪いが、高貴な此方に負けはないのじゃ!やってやるのじゃ!」
(そうじゃ。いくら武帝といっても勝負は麻雀。武力は全く関係ないのじゃ。麻雀なら東大卒と毎週打っておる此方に1日どころじゃない長があるのじゃ!)
不死川が良く賭場に訪れるようになったのは1年の終わり頃のこと。故に、知らない。修吾が、この男が賭場でどれ程かっさらっていったのか。
「悪いねしゅう兄。わざわざ借り出しちゃって。勢いで麻雀になっちゃったけど、しゅう兄って麻雀できたっけ?」
「問題ねえ。麻雀でもポーカーでもブラックジャックでも、何でも持ってこい。なんなら100%の運ゲーでもいい」
「聞く必要なかったね」
大和は今まで、修吾が出来なかったものを見たことがない。完璧超人とは彼の為にある言葉だ。器用貧乏ではなく器用万能。そんな彼に出来るかなど愚問であった。
先程目についた暇そうな生徒を1人巻き込み、4人揃った所で勝負は開始した。
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(やっぱおかしいよなあ…この人)
勝負は進み、不死川と生徒Aの親が過ぎ、修吾に親が回ってきて暫く、大和は状況を見てそう思った。麻雀は殴り合いのような単純な実力差だけの話ではなく、そこに運も多少絡むものである。如何に修吾と言えども、一生自分の望む牌が引けず、また落ちなければ、負けはしなくとも勝ちはない可能性がある。しかし、この男、開始2回を速攻ツモ上がりし、自分に親を回してからはツモ上がりか不死川へのロンを繰り返している。
麻雀が上手いのは間違いない。現に状況により鳴きを使用したり、門前で上がったりと使い分けをしているのはわかる。ただ、それ以上に運が良すぎる。最初の運ゲーでもいいという発言はこういうことかと、大和は実際に見て分かった。
「う、うう。此方が…」
不死川はロン続きで余程ビビっているのか、安牌を切るのに必死だ。あれではまともに役を揃えるのは厳しいだろう。だが、大和は観察してて思うが、修吾が特段おかしいだけで、不死川もやはり強い。言うだけはあり、まともにやり合えば大和とて勝てるかはわからない。しかし、大和はこの卓を通して不死川の人間性の弱点を見抜いた。大和の強い点はまともにやりあわないところにある。
(このままだと不死川は負けるが、俺も大差ない結果になっちまう。そうなれば不死川は負けたのはしゅう兄にであって山猿ではないとかいいそうだ。最後に何か、明確に不死川を負かす必要がある)
大和は策を練り、実行する。十中十修吾にはバレるであろうが、修吾ならば見逃してくれる算段で動く。
狙うはスピード重視の、しかし安上がりではない徹底的勝利。となれば、役は必然的に見えてくる。不死川と、念の為生徒Aにバレないようにイカサマをしていく。
そして、
「ロンだ。大三元」
「にょわああああああああ!!」
修吾に気をつけ過ぎて、こちらに意識が向いていないことが幸いした。イカサマで聴牌まで持っていき、不死川が落とした白にロンをする。これにより不死川が飛び、修吾が一位で大和が二位となった。それも、ビリの不死川と圧倒的差である。
「そ、そんな。帝明君にだけでなく、山猿にも…。う、うう、覚えておるのじゃああああ!!」
マニュアル通りの三下セリフを吐き、不死川は賭場を後にした。きっちり精算は済まし。残った生徒Aにはマイナスにならないように精算をした。大部分は修吾が持って行った訳だが。
「しゅう兄、ありがと。見逃してもらえたおかげで見返すことができたよ」
大和の感謝の言葉に修吾は何も返さず、スッと席を立ち去る。この男はいつもそうなのだ。困っているときに駆けつけ、鮮やかに解決すると恩を着せることなく、まるで感謝の言葉などいらないと言ったふうにすぐに去る。故に憧れる。この学園には、修吾に感謝しているものが沢山いる。
「やっぱすごいねしゅう兄。大和もお疲れ様」
「サンキュー大和!見たかあの女の去り姿!あんな高慢な女がにょわー!って言って泣きながら去ってったぜ!でも、あれはあれで良かったなあ」
師岡と福本に労いの言葉をかけられながら、大和はもう一度修吾に感謝した。
この作品は地の文のほとんどが主人公主観です。故に実はそこに主人公の主観や感情が多大に入り込んでおり、信憑性は必ずしもあるわけではないのです。故に初期と比べて変化していることや、行動と地の文が矛盾していることがあります。でもそれは読者の皆様に読みながら気づいていただきたいので、いつかのタイミングで書こうと思っております。