早朝になり、目が覚める。身体を起こそうとして、すぐさま違和感を覚える。っち、今日はこの日か。
「んぅ」
視線を横に移すと、青インキャが俺を抱き枕のようにして寝ていた。これは週に何度か起こる謎現象だ。この青インキャは何故か事あるごとに俺の彼女面をしているが、たまにこの様に倫理的にありえない行動をする。こういった事があるたびに、俺は青インキャに止めるように伝えているが、その度に「いけず」と言い、改善される見込みが一向にない。無敵かこいつ。
サッと緩い拘束を抜け、身体を起こす。起きる様子のない青インキャを見下ろす。
服装はTシャツにショートパンツとラフな部屋着だ。ショートパンツからは肉付きの良い素足があらわになっており、生地の薄いTシャツは腕に挟まれた胸をこれでもかと強調している。
確かに、見た目はいいと言える。俺の好みはボンキュッボンのエロい年上なのだが、こいつのスタイルもかなりエロいと言えよう。例えば酔ってる時に同じ事をされたら、間違って手を出してしまうくらいの可能性はある。こいつもストライク圏内なのだが、やはり性格が難ありだ。何故こうも、俺の周りの女は性格に難を抱えているのだろうか。
手短に着替え、青インキャを残し部屋を出る。外に行くにはキッチンを経由する必要があるのだが、そこでは既に後輩の帯刀インキャが料理をしていた。
「あ、ししゅうごさん。お、おおおはようございます!」
こいつも難あり系女子の1人だ。こいつ、人と話す時に高頻度で謎言語を発するのだ。加えて、
「きょ、今日はいつもより少し遅いんですね。はっ!今の発言ではまるで私がいつも修吾さんの起きる時間を把握しているやばい後輩のようでは!?」
「大丈夫だまゆっち!まゆっちはいつもここで料理してんだから起きる時間くらい把握しててもおかしくないぜえ!」
「で、ですよね松風」
この様に物に擬似人格を付与し1人で会話する事が多々ある。やばい。人生柄多種多様な人物を見る機会は多かった。しかしこのタイプは初めて見る。忍足あずみもかすってはいるが、あれは単純に二面性という奴だ。これとは根本が違う。
しかし、この帯刀インキャには多少なりとも評価する点がある。それは料理が限りなく正解に近いという事。正確に言うと、俺の好みである正解に近い。
「ああああの!えっと…その……あの…。これ余り物で作ったお弁当です朝の鍛錬にどうぞ!い、いえあの!余り物とは言ってもしっかり作っていていらないものとかでは」
また謎言語を喋っているが、俺は弁当を受け取る。メインはおにぎりか。俺は他人が握ったおにぎりは基本受け付けない主義だ。他の料理ならまだしも、他人がベタベタ触ったものなど食いたくないと言うのが人情だろう。
しかし、先程言った通り、この帯刀インキャは料理のセンスだけは俺と酷似している。だから受け取る。
「ありがとな」
「いえ…その…。どう…いたしまして」
こいつと喋るならば通常の3倍は時間が取られると見ていいだろう。なので返事は聞かず野外へ出る。とは言っても庭だが。
朝露で湿った草を踏み、深呼吸を一つする。そして普段最低限にしている気配察知を全開にした。俺の今の気配察知の練度だが、暫く前から他の追随を許さないレベルにまで到達している。広範囲の生物ならば全て知覚できる。そして、いつか気づいた事だが、それを詰めていくと新たな領域に足を踏み入れる。
知覚領域を狭めていき、そこに気を張り巡らせる。気を薄く伸ばして体積を増やし広げてると言うイメージだ。こうする事で何が出来るか。簡潔に言うと気配だけでなく、領域内の全ての生物、物体の動きが知覚できる。これはどういうことか。
俺は歩き出し、側にある木まで近づくと、徐に手を出した。すると、少し後にそこに葉が一枚降りてきた。
つまり、どれほど領域を狭めるかによるが、半径5メートル程なら、石ころの個数、木に付いてる葉の枚数、果ては葉についている露の状態まで把握できる。そろそろ離れるであろう葉を把握することなど容易いということだ。
この領域を形にするのも、凡人には、いや、そんなものではない。歴史上例えどんな天才がいたとしても到底不可能だろう。気は身体を離れるとかなりの速度で霧散していく。川神流に川神波などがあるが、あれは霧散していく気を、その消費スピードを上回る勢いで次から補わなければならないので、大量の気を消費する。また、気を留めるのも並の天才では無理な話だろう。川神百代はそれを宇宙まで飛ばすが。
そして、気とは体外への放出と、体内への留めの両立が非常に難しいものである。川神百代の人間爆弾が本人も傷つく様に、気を放出する際、気によるガードなどは弱まる。川神百代はその辺が粗雑なので、皆無と言ってもいい。俺ならばそれを最大効率で行えるが、それでも通常より自身の気の巡りは疎かになる。
完全に見えるこの領域も、上記の二つの弱点が存在する。霧散していく気を最低限留めてはいるが、それでも無くなっていく気を補うために放出し続けなければならないので、気の消費量が半端ではない。また、その間俺自身の防御力は通常より落ちる。
「…ふう」
と、そのうち疲労感を感じてくる。体力とはまた違ったスタミナの消費だ。これも当たり前のことを当たり前にこなすだけなので技とは呼称しないが、この訓練を始めて暫く経つ。精度は回数を重ねるたびにますます上がっていくが、気の総量が一向に増えない。ただバカスカ気を使っていれば増えるというものでもないらしい。そこらへんは何処にも書いてなく、また考えても答えが出ないので俺の課題となっている。
「きついな」
暫く経って、大分気も切れてきた。訓練をやめ、帯刀インキャの弁当を食う。ふむ、やはり飯は美味い。俺ならばという改善点が非常に少ない。早々に弁当を食ったら次はランニングに出かける。
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「では入れ、転入生!」
「グーテンモルゲン。諸君」
『お、おっさん!?』
この日、以前から噂されていた転入生がFクラスに来るということで、朝からFクラスは浮き足立っていた。それもそのはず。聞いたところによると転入生はドイツのリューベックから来るらしい。女子は金髪爽やかイケメンを想像し、男子は金髪グラマラス美女を妄想し、それぞれ期待に胸を膨らませた。
しかし、梅子に言われ入ってきた人物を見て、全員が一様に驚嘆の声を上げた。それもそのはずである。
入ってきたのは、彫りの深い顔に白髪を携え、軍服を着こなしたナイスミドル。
要素が多すぎて多角的なパンチを喰らった気分であった。
「え、て、転入生って…このナイスミドルが!?」
発したのは師岡であった。本人はあまりこういう場で出しゃばって喋る気質ではなく、個人的には呟いたくらいの気持ちであったが、そこに多大な驚嘆が乗っかった為、存外大きな声となってしまった。
「ほお、嬉しい事を言ってくれるね少年」
そしてそれはこの初老の軍服にも聞こえていた様で、答えが返ってくる。
「しかし安心したまえ諸君。私も人生を通して学び続ける身であるが、転入生は私ではない。さて、そろそろくる頃だろう」
白髪軍服が腕時計を確認しそう呟く。次いで、窓側の生徒が声を上げた。
「おい!馬!」
訳の分からない発言だったが故に、殆どの生徒が外に目を向けた。目に入るのは広々とした校庭…を、馬に乗りながら突き進んでくる1人の人物。
「クリスティアーネ・フリードリヒ!推参!!」
その人物は器用に馬を乗りこなし、高らかとそう宣言した。
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どうやら、2年の代に転入生が来たらしく、その転入生が決闘をするというので、興味本位で観察しに来た。決闘というと殺伐として聞こえるが、これは別の呼び方で歓迎制度といい、交友を深めると言った感覚で決闘をする。つまり殺伐としている。
かくいう俺も川神学園にきてから一度だけ歓迎という物をやったことがある。心は全く歓迎などしていないが、体良く武力を振るえる口実を用意してもらえるのは便利ではあった。その歓迎だが、やった身からすると何が歓迎なのかはさっぱりわからない。俺がやられる立場だったとして、まったく有り得ない事だが例えば俺が負けたとして、はい歓迎ですなどと言われたらキレる自信がある。あの時川神百代に歓迎なぞ言われなくてよかった。自分でもどうしてたかわからない。
「東、川神一子」
「はい!」
「西、クリスティアーネ・フリードリヒ」
「ああ!」
「いざ尋常にはじめぃ!!」
西の方が転入生か。まさか国外とはな。戦闘スタイルと見た目からして西洋であることはほぼ確実だ。そして相手は一子か。苗字こそ川神だが、実子ではない。詳しい事は知らないが、養子として引き取られたそうだ。
「えい!!」
「やぁ!!」
一子が薙刀で上段切り下ろしを仕掛け、転入生の方はそれを逸らし突きをいれるが、それもまた一子の薙刀の持ち手の部分で防がれる。ふむ、見る価値のない戦いだな。そもそも観戦した理由が転入生の実力を測るためだが、そんなものは
2人の実力は拮抗してはいるが、一子の重心に違和感を感じる。何やら体に負荷をかけながら戦っていることは間違い無い。試合に手を抜いて挑むなど、愚の骨頂だ。そういうのは俺のような真の最強だけがしていいことだ。拮抗した相手にハンデを背負って戦っているので、この試合は一子の負けの線が濃い。しかし、心情でいえば応援はしたい。一子は可愛い。タイプで言えばお話にもならないが、所作がいちいち可愛いのだ。故に勝って欲しいというのが本音だが。
「うぐぅ!!」
「そこまでぃ!クリスティアーネ・フリードリヒの勝利!」
まあ、こうなる。実力差が裏返りうるのはどう言った時か。諸説ある。弱い2人こそ裏返りやすく、強者2人の立ち合いでは数ミリの実力差が絶対となる。またはその逆か。
時と場合によるなど、議論がされていたこの議題に俺が終止符を打つ。答えは圧倒的に後者だ。俺は別格として、達人同士こそほんの何かのズレで少しの実力差は裏返る。
つまり何が言いたいこと言うと、一子と転入生の、この2人如きの実力では、実力差は埋まらないのだ。
眼前では負けた後に自爆する黒幕が如く、含みのある笑いを仕出す一子。そして腕をまくりつけていたリストバンドを外した。凡人からすると、そこそこの重さのものをつけていたようだ。再戦を希望した一子は、しかし鉄心により却下された。
「うー、お姉様としゅうお兄ちゃんが見てたのに負けちゃったわ」
「最初っから全力出さないからだぞーワンコ。勝てない相手じゃなかった」
「これも鍛錬だーって思ったんだけど…。しゅうお兄ちゃんはどうだった?」
俺にも振られるか。どうだったとはつまりアドバイスを求められているのだろう。通常アドバイスなんて物を人にすることはない。当然だ。なんで俺が人が成長する手助けをしなきゃならない。俺は得るものはないのに、相手は得るものがあるなど、そんな不公平な話はない。逆なら歓迎だが。
しかし、一子相手ならば話は別だ。吸収できるかは別として、改善点を言うのになんの憂いもない。
「レイピア使いはスピードに特化している傾向にある」
おっと、つい喋り過ぎたな。突きは速いくらいで纏めて良かったな。長々と話すと返って伝わりにくい。
「えっと…つまり?」
と、このように理解されない場合がある。
「突きは速いってことだ」
ちゃんとアドバイスするのも一子くらいだ。当初の目的は果たしたことだし、俺はそろそろ教室に戻ろう。
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「あ、行っちゃった」
「え、なになに?どゆこと??」
修吾が一言二言喋り去った後、取り残された一子は頭上にハテナを浮かべていた。
「突きが速いのはそりゃ知ってるけど。転入生の突きは特別速いってこと?」
修吾は武の、いや全ての天才だ。それは地上最強と思われる姉に技術のみで対抗出来る程。その修吾に実戦を見てもらうという、破格の高待遇の機会はそうそう無い。故に絶好の機会だと思いアドバイスを求めた一子だが、返ってきた答えは余りにも短く、意図を読み取れないでいた。
「うーん、つまりだな。突きに特化したレイピアに対し、薙刀はリーチは長いもののスピードでは及ばない。試合中では顕著には出なかったが、もっと緻密なやりとりを行う際は、さっきの様な大振りを前提とした立ち回りはやめた方がいい。ってところだろうな」
あまりにも端折った言い方に、修吾と同じ次元にいる百代が言葉を足した。
「なるほど!流石お姉様だわ!私ちっともわからなかったわ」
「凹むことないよワンコ」
まだまだ修吾と百代に対して差がある様に感じた一子は少しシュンとする。それに京が頭を撫でながら言った。
「しゅー兄完璧だけど、口数少ないから教えるのには向いてないから」
励ましも兼ねての謎の彼女面である。
「まあな。修吾は無口だからな。口で伝えるより行動で示す派だ。そこがこう、なんともキュンとくるんだが」
「ザ背中で語るタイプだよね」
「背中で語る?しゅうお兄ちゃんは背中で喋れるの?」
『……』
あと少し放置していたら、百代と京での修吾の女アピール合戦が始まっていたが、一子のアホ発言によりそれは始まる前に終戦した。
短いですが、原作でどうしても踏まなければならないイベントは最低限だけ押さえていくつもりなのでこうなっちゃいます