真剣で聖人君子(ではない)   作:ピポゴン

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火は消える瞬間が1番燃え盛る様に投稿スピードが速いです。がんばれーおれー


好物は刺身

島津寮で焼肉をするから俺も来ないか、と誘いがあったのが今朝だ。もちろん全く行く気にない。と断定しかけたときに、伝えてきた厨ニ病がポロっと言葉をこぼした。

 

「姉さんが川神院から肉パクってくるらしいから、時間は夜くらいになるけど」

 

非常に悩ましいところだ。焼肉をするならばどこか。以前言った通り、俺は貯金残高ならばそこらの学生など比較にもならないが、心配性な親により貯金に手をつけられない生活を送っている。ならばと、親からの仕送りもあるはずだが、それは俺から断った。親は全然甘えていいというが、この歳になって親に金をせびるほど情けない話もない。故に俺はバイトをして生活費を稼いでいる。だからといって接客業の様な、低賃金のくせ求められるサービスだけ一端なバイトなどするはずもない。そこらへんは要領よく稼いでいるので使える金はそこそこにある。ただ、焼肉の話に戻るが、1人で焼肉行く際に贅沢なところに行くかと聞かれれば、それも難しい話だ。

焼肉は好きだ。肉を焼くだけの飯は肉の品質がそのまま旨さになるため、他の味に口出ししてくる要因が極端に少ない。故に俺もそこそこ楽しめる。しかし安い店だとその肝心の肉の品質が限りなく落ちる。

川神院からパクってくるならば上質な肉だろう。あそこは育成に重きを置いている。品質の良い肉はそのまま良い栄養となる。

つまりこれは品質の良い肉が食えるがやかましい他のメンツがついてくるか、1人で焼肉が食えるが品質は悪いかの択になる。

これは非常に悩ましい。

 

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「それにしてもよくこんだけの量をパクってこれたよねえ…」

 

「今頃川神院では学園長が怒髪天に来てる頃だろうな」

 

「普通にどっかの法にひっかかんじゃねえか?」

 

「いいんだよ。院の物は私のもの。私のものも私のものだ」

 

「こんなにジャイアン構文似合う人見たことないよ…」

 

「なんだーお前ら。ぶつくさ言うなら肉やらないぞ。肉は用意した私と修吾と、妹特権でワンコで独占してもいいんだぞ」

 

「はい。なんでもないです。ありがとうございます」

 

「それにしてもしゅう兄もお肉買ってきてくれたんだね。お陰ですごい豪華になったよ」

 

選択を間違えた。結局悩んだ末、俺は肉の品質を取った。だが、蓋を開けてみればこの状況だ。肉を焼くどころか、その前に存分に喋り倒す現状。それと、俺が買い足した肉だが、お前らにやるつもりはないぞ。これは万が一肉が足りなかった時の救済処置として、俺が俺用に買ったものだ。少ない肉で多くの白米をつつくなんて慎ましい食い方、俺はしたくないからな。

 

「じゃあまあ、全員揃ったし肉焼くか!」

 

やっとか。焼肉するのにいちいちプロローグ挟まなくていいんだよ。

 

 

 

 

 

 

やはり、大人数焼肉などするものではない。

 

「しゅー兄。器空いてるよ。よそっとくからね」

 

「修吾。肉だ。ハラミが好きだったよなお前」

 

両サイドに陣取った川神百代と青インキャが俺の飯の面倒を見る。勘弁してくれ。俺は飯は自分のペースで食いたいんだ。飯に関しては俺はガチだ。例え世話を焼いてくれる人物がグラマラスエロお姉さんだとしても、飯では遠慮するだろう。

それと川神百代。俺は確かにハラミが好きだが、それは肉の品質の差がそこまで出ないから好きなのだ。良質な肉になればなるほど、脂身も旨くなる。ハラミがいつでも好きな訳ではないんだよ。

 

「余計なことすんな」

 

「ふふ。大丈夫私もちゃんと食べてるから」

 

「口に油ついてるぞ修吾」

 

「勝手なことすんな」

 

「はは。照れてるのか?」

 

まじでなんなんだこいつら。人数が多くテーブルがでかいことから、俺の位置からでは肉を焼いている鉄板にまではリーチが足りない。故に近場の臆病者や厨ニ病が焼いているのだが、それも勘弁してほしい。俺の肉に手をつけてないところを見るに、常識はある程度弁えている様だが、俺は肉は自分で焼きたい派だ。

 

「この肉もうやけてるよ。食べてない人ー」

 

馬鹿が焼きすぎだ。さっきの肉は焼かなすぎだ。だから大人数焼肉は嫌なのだ。折角うまい肉なのに、食う度に少しのズレを感じちまうだろうが。せめて近場に座っている帯刀インキャに焼かせろ。あいつならある程度上手くできるはずだ。

 

「あ、あの、後輩の私が焼きますので、どうぞ大和さんは食べることに集中を」

 

ほら、本人もこう言ってるんだから早く代われ。

 

「ありがとう黛さん。でも大丈夫。結構俺拘りある派だからさ。気にせず食べて」

 

ちっげえよ。遠回しにお前の焼きテクは駄目だから代われってことだろ。何が拘りある派だ。お前に0.1mm単位での焼き加減の判断つくのか?今どれくらいの質量の油分が肉から出たか目算できんのか?

 

「なら俺にやらせろ」

 

「しゅう兄。ありがとう。でもほら、前に麻雀の時助けてもらったし。それに、しゅう兄には色々と助けられてるからこんな時くらい俺にやらせてよ」

 

何がありがとうなんだ?強いて言うならすみませんだろうが。それと、麻雀の時の助けとは何のことだ。確かに最近こいつを交えて麻雀はしたが、あれがなんだ。この厨ニ病は捨て牌を弄ったりと色々とやっていたが、それで完成する役でも俺には到底及ばなかった。俺は相手が何するのも、やれるところまでやらす。当然だ。それでも俺には勝てないのだから。つまり、あの時も、それ以前も、俺はこいつを助けたことはない。さあ、これでお前が肉焼く権利を持つ免罪符はなくなったな。

 

「今まで助けたつもりなんてねえよ」

 

ので、さっさと鉄板ごとこっちに渡せ。

 

「ははっ。そうだね。しゅう兄はそう言うね」

 

そいつはそれだけ言うと黙々と肉焼きを続けた。……は?何が?

 

「ふふ」

 

「可愛い奴め」

 

そして肉を焼けなかった俺を嘲笑うかの様に、周りの奴が俺をみて微笑んでやがる。陰湿すぎるだろこいつら。

しかし、お前ら勝った気でいるんじゃないだろうな。ここは耐えの時期だ。まだ俺の買った肉は全て残っている。こいつらが落ち着いたら粛粛と焼いてやろう。

 

____________

 

クソが。最悪だ。腹いっぱいになっちまった。結局俺は自分の買ってきた肉に一度も手をつけることなく限界を迎えた。必要最低限のエネルギーで最大効率を発揮するこのハイスペックボディが、今回悪い方向に働いた。

大打撃ではないが、それでも割とな額を掛けたんだぞ。これじゃあ何のために買ったかわからねえ。

 

「このお肉食べていいの?」

 

「ああ。俺は満足した。腹減ってるなら食べていいぞ」

 

何でお前がそんなこと決めてんだ。ふざけんな。それは適当に取っておいて明日にでも

「わーい!しゅうお兄ちゃんありがとー!」

 

……まあいい。どうせ次の日になったら品質は落ちているんだ。消費するなら早いほうがいい。

 

 

 

________________________________

 

 

後日、また召集をかけられた。舐めるな。以前の焼肉で俺はほとほと懲りた。一度の失敗ですら珍しい俺が、2度同じ失敗をするわけがないだろうが。

 

「なんでも、あの後輩が焼肉のお返しに手料理を振る舞ってくれるそうだよ」

 

……なに?帯刀インキャか。ふむ。焼肉よりはマシな結末になるだろう。なんせ、今回は俺がわざわざ買いだすこともない。飯の種類上川神百代と青インキャがしつこく世話を焼いてくることもないだろう。

 

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どうやら今回は俺の予想は正しかった様だ。テーブルの上には新鮮な旬の食材を使った料理がズラリと並んでいる。一見しただけでわかる懲り様だ。

 

「わー。美味しい。黛さん。これ食材費大丈夫だった?相当買い込んでるみたいだけど」

 

そこで何品か手をつけた臆病者がそんなことを言った。アホかこいつ。見た目や味からこの辺の食材でないことは一目瞭然だろう。特に魚や野菜はその辺が出やすいのだ。つまり、これは十中八九贈り物だろう。そして魚の味や鮮度を見るに、北陸のものだ。多分身内かなんかからだな。

 

「いえ、これは父からの贈り物でして」

 

ほらな。この質の野菜と魚が売っているスーパーはこの辺にはないのだ。かなりいいものを使っている。

やはりこの帯刀インキャは料理に関してはかなり正解に近い。和食は洋食とは全く別のテクニックを必要とするが、よくおさえられている。揚げ物の加減も申し分ない。

しかし、この中で俺が1番気に入ったのは刺身だ。

刺身は好きだ。鮮度がそのまま旨味に直結する刺身は、焼肉よりもさらに味に口出す要因が無い。皆無と言っていい。故に俺は飯の中でも刺身はかなり好きな部類に入る。好物と言ってもいい。これだけの物を揃えられるのだ。育ちがいいのは明白だろう。

 

談笑しながら食べると言う、帯刀インキャに比べ育ちの悪さがあからさまな何とかファミリーの傍で、俺は黙々と箸を進める。

 

 

________________

 

「ああああの!!私も!その……。皆さんの仲間に入れてくださいお願いしますっ!!」

 

やがて食べ終えたと言うタイミングで、急に帯刀インキャが声を張り上げ土下座した。相変わらずのヤバ人である。そうだ。忘れちゃならないのが、こいつもその他女子勢と同じく性格難有り系女子だった。少し目を離すとすぐにやば行動を取る。油断も隙もあったものではない。

 

「どう思うしゅう兄」

 

なにが?何を求められた?この現状における感想を言えってか?この帯刀インキャがお前らの仲間になろうがならまいがどうでもいいに決まってるだろ。小山の大将としてお前が判断することだ。俺を巻き込むな。

 

「決めんのはお前だろ」

 

「はは。そうだよな」

 

それだけ言うと小山の大将は帯刀インキャに向き直り、何やら申し出を保留にしていた。

そもそも、俺は仲間という物を理解していない。それはこいつらに限ったことでなく、そう言った括りの必要性を感じないのだ。人との関わりが必要ないと言っているわけではない。

例えば鉄心老人やルー、釈迦堂は仇だ。過去の俺の仇。九鬼の上は上司。後輩は部下。九鬼英雄や葵冬馬は未来のビジネスパートナー。京極は知り合い。

この様に、関係性というのはそれに適した明確な言葉が既に定義されている。いはしないが、親しい関係ができたらそれを友人と呼ぶのだろう。つまり、仲間などという概念がフワフワした物は理解出来ない。

お前らの関係性はなんだと聞いた時、仲間だと答えられたら、具体的になんだと問いたくなる。それは友人とは違うのか。先輩後輩とは違うのかと理解に苦しむのだ。故に仲間などという言葉は、馬鹿が使う常套句だ。

 

「それにしてもまゆまゆ。お前相当強いだろ」

 

「い、いえ。私などまだまだです」

 

「軽くパンチするから避けてみろ。行くぞ!」

 

どう言った思考回路でそうなるのかわからない。言うと同時に川神百代は帯刀インキャにラッシュをお見舞いした。初絡みの奴に突然ラッシュなど、俺でもしないことだ。する場合は相手に何かしらの問題がある。

確かに、軽くと言ったように緩慢な拳だ。しかし凡人ではかわせないだろう。

 

「あわわわわわ」

 

帯刀インキャは拳の須くを躱し、時に逸らした。まあ、そうだろうな。しかし何があわわだ。躱すことなど容易だろうに。自分を卑下するというタイプの新しい煽りか?そういうのは全てにおいて頂点の俺がやるから嫌味になり、煽りになるんだ。さっさと過去のしがらみどもを倒し、「僕なんてまだまだです」という最大の煽りをお見舞いしてやりたい。

 

「な、なかなかだな」

 

「う、うん。やるわね」

 

「も、百代さん。急な殴打はびっくりします」

 

「悪いな。でも流石だ。実力はクリスより少し弱いくらいか」

 

は?何を言っているんだ。お前ら揃いも揃って節穴か。

俺は基本他人の強さに対して、どの程度強いのかなど興味のかけらもない。武術界にこの人ありと、頂点の座に居座る物は全員、俺か俺以外かに分けられる。…まあ何人かの例外はいるが、それもいずれは俺以外に分類してやる。俺の前ではほとんどの人間が多少の誤差でしかない。端数みたいなもんだ。

 

しかし、興味がないのとわからないは違う。俺に限って、実力の差異を読み取れないなどあり得ない。

武術において、実力が最も出るのはどこか。気。筋肉。段位。

どれも違う。答えは、所作だ。それは歩き方であったり、姿勢であったり様々だ。帯刀インキャをまじまじと見たことなどある訳もないが、重心の置き方と姿勢、歩き方を一目見れば実力を測ることができる。

帯刀インキャがクリスティアーネ・フリードリヒより弱いだと?仮にも武神などという大層な二つ名を持っておきながら、そのお粗末な観察眼か。

クリスティアーネ・フリードリヒでは、100度連戦しようとも、帯刀インキャには勝てない。それ程までにこの誤差は大きい。

 

「ここいらで自己紹介しとくか」

 

と、そんなうちに自己紹介に入った様だ。一体どういう順序で物事を運んでるんだ。馬鹿の思考は理解できない。

 

「川神百代3年、武器は拳1つ。好きな漢字は誠だ」

 

後特技はダル絡みも付け足しておけ。

 

「川神一子二年よ!武器は薙刀!勇気の勇の字が好き!」

 

ハキハキしてて偉い。元気が1番だからな。

 

「2年椎名京。弓道を少々。好きな言葉は仁。女は愛」

 

お前はもっとハキハキしろ。

 

「2年クリスだ。武器はレイピア。義を重んじる」

 

お前は知らん。というか、この自己紹介の形式はなんなんだ。武器と漢字て。それで何を紹介できるというんだ。つか好きな漢字の項目が当たり前の様に進行しているが、それはなんだ。そんなものあるもんか?漢字に好きも嫌いもないが。まさかこいつら、自己紹介の下になることを理解して予め考えてきてたな。狡い野郎共だ。

 

「黛由紀江です。刀を使います。礼を尊びます」

 

お前もか帯刀インキャ。好きな漢字など考えたこともないし、考えたところであるはずもない。ないが、強いて言えばなんだ。やはりあらゆる分野で最強という意味で"最"か。いや、語呂が悪いな。いや、絶対的存在故"絶"か。そこだけ聞いたら意味わからないな。ふむ。ここはやはり、頂点を意味する"頂"か。しっくりくる。これで行くか。いつでもいけるぞ。

 

「後はあのバンダナが風間翔一。私達のリーダーだな」

 

「弱々しいのが師岡卓也。優しくはある」

 

「むさ苦しいのが島津岳斗。頼りになる時が稀にある」

 

「んであれが直江大和。頭はいい」

 

「そして帝明修吾。所謂完璧超人だ。口数は少ないが優しい奴だから、困った時は頼るといい」

 

てめえ川神百代。何サクッと片付けてんだ。漢字の紹介させろ。考え損じゃねえか。いや、そもそも俺が一員の様に紹介されることがおかしい。馬鹿馬鹿しい事に思考を使った。さっさと部屋に戻るか。

 

「あいやまたれい男子諸君。女子が強い時代だからこそ男子が立ち上がる時。今こそ男子の強さを見せようぞ!」

 

「ほーう?面白い。それではその男子の強さとやらを見せてもらおうか?」

 

「ぐえ!」

 

「軍師が捕まった!」

 

「た、助けてくれ皆の衆」

 

なんだ。唐突に茶番が始まりやがった。

 

「撤退」

 

下らな。付き合ってられるか。さっさと戻ろう。

 

「情けない。何が男の強さ」

 

「仲間を助けようともしないのか」

 

………。その男の分類に、まさか俺も入ってやしないよな。こいつらが何を言われようが知ったことではないが、俺を含めての発言なら許せるはずもない。

 

「しゅう兄!助けてお願い!」

 

…しかし、コイツのお願いを聞くというのも尺だ。やはり関わらずさっさと戻った方が

 

「姉さんに対抗できるのしゅう兄だけだから!」

 

しょうがねえな。今回だけだぞ。

 

「ふ。やはりお前は来るか。修吾」

 

________________________

 

「修吾先輩は武を嗜んでいるのか?」

 

椅子からスッと立ち上がり、こちらを向いた修吾を興味深げに見て、クリスが言った。

 

「嗜むなんてもんじゃないぞ。警戒しないと一息にやられるぞ」

 

海を越え、海外にもその名が轟く武神。その武神が視線も逸らさず、全神経を目の前の男に注いでいる。ほんの戯れの気持ちで乗っかってみた事だが、クリスは己の血が滾るのを感じた。

 

「しゅうお兄ちゃんと立ち会えることなんて滅多にないわよクリ!」

 

「立ち姿から相当な腕前であることは伺えます」

 

「しゅーにい凄いから、遠慮せず思い切り打ち込んでいいと思うよ」

 

相手は生身だとか、そんな遠慮は一切必要ないらしい。己も認める武者達が一様に緊張感を張り巡らせる。戯れとは思えぬ、ピンとした空気が場を包んだ。クリスも武に身を置いた人物だ。先程までの少しの油断が嘘の様に警戒心を強める。

 

修吾が一歩踏み出した。その一歩で、クリスや由紀江は目の前の男が只者ではないと察した。最大限の警戒を持って、相手の一挙手一投足を全神経を注いで注視していなければ見逃すほど自然な歩み出し。

 

「ハッ!」

 

「てりゃ!」

 

クリスと一子の仕掛けるタイミングが重なった。クリスは上段蹴りを、一子は中段突きを放つ。鋭く、軽やかな一撃だ。

しかし、遠く及ばない。修吾は重心の移動とごく僅かな体勢の変化だけで、その二つをすり抜ける様に躱した。

 

「んなっ!」

 

「えっ」

 

見えていなかったわけではない。むしろ、見易かった。特殊な動きはしているが、速さ自体は日常の所作かの様に自然なもの。なのに、対応できなかった。

 

「速さ自体は二人の方が速かったよ。でも、しゅーにいはこっちの動き始めで先に行動してる」

 

「加えて、動作の中のほんの一瞬、どうしても行動のキャンセルが出来ないタイミングを縫って攻撃してくる。私にも真似できない神業だ」

 

見えているのに対応できない動き。実際に体験すると名称しがたい気持ち悪さを覚える。

クリスと一子を過ぎ、修吾がまた一歩踏み出す。

 

「ハント。えい」

 

「胸をお借りさせていただきます」

 

続いて由紀江と京が仕掛けてくるが、例の如く京は躱され、由紀江は拳をいなされ通り抜けられた。

 

「また触れなかった」

 

「凄い。これ程とは…」

 

百代の様な並外れた身体能力ではない。たった今自分達を、まるで散歩でもするかの様な気楽さで素通りしていったのは、究極にまで洗練された技術一つのみ。それは一体どれほど修練を積めば手に入るのか。どれほど隔絶した実力差があるのか。事前に修吾を良く知る京と一子に対して、クリスと由紀江の衝撃は多大だった。こんな人物が知らぬ所でまだ存在したなど、すんなり飲み込める程軽い事実ではなかった。

 

「流石だな修吾」

 

最後には、百代と修吾が向き合い佇む。百代の左手で襟を掴まれている大和も、その緊張感に喉を鳴らした。

なんだかんだで、百代と修吾の対決を見たことのあるものはここにはいない。どちらも推し量ることのできない、絶対的強者。

片や最強。片や完璧。その二者の立ち合いが、今、始まるのだ。

 

「彼の武神と立ち会うのかっ」

 

「お姉様としゅうお兄ちゃん!どっちが勝つのかしら!」

 

「気持ち的にはしゅーにいが勝って欲しいけど、こればっかりはわからない」

 

最早武士娘達は修吾を止めると言う当初の目的など度外視し、目の前の頂上決戦に夢中であった。

 

「ふー」

 

短く修吾が息を吐いた。百代は抑えきれない闘志が口元に現れた。

そして、

 

「せやぁ!!」

 

声を発したのは百代だけだった。よく見る、不良に絡まれた時の様な雑な殴打ではない。正真正銘武神の一撃。対し、修吾は空気の壁を突き破りながら迫りくるソレに、手の甲を横から合わせ受け流した。

まだ百代の拳が伸びきらないタイミング。拳を戻すには一瞬足りない、その極僅かな時の狭間に、今度は修吾が拳を出した。脱力からの急加速。その一突きは蝶の様に華麗だ。しかし込められた威力は蜂の様に鋭い。

堪らず百代は左手を大和から離し、ガードした。

その瞬間。

 

「今だ!」

 

この場にいないはずだった第三者のそんな声。同時に室内をモクモクと煙幕が包む。

 

「こら男ども!空気を読まないか!」

 

固唾を飲んで見つめていたクリスの集中力が一気に消し飛ぶ。

それに対して煙幕の中から返答が上がった。

 

「何言ってんの!この二人がこんな所で戦い始めて良いわけないでしょ!」

 

それはその通りだった。実は全員が心の奥底で思っていた。「え!?こんな所でこんな理由でやるの!?」と。二人を長年知るものからすれば、この二人のマッチは、武に携わったものならばいくら払ってでも見る価値のあるものだ。こんな所でヒョイと始めていいわけがない。それに、この二人が仮にヒートアップした場合、鉄心が飛んでくる数秒の間で周りの何もかもが消し飛ぶ。

そんなことはわかっていたのだ。しかし、彼女らはそれを止めるよりも、今目の前で起こることへの好奇心がかった。故に静観を決め込んだのだ。

 

「ありがとうしゅう兄!おかげで1番厄介な人から大和を引き剥がせた!」

 

その声で武士娘達は当初の目的を思い出す。ああそうだった。自分達は何故かはわからないが、大和を捕獲していたのだ。と。

 

早急に気配を探り、煙の中を蠢く者達へ正確に攻撃を繰り出す。その度に聞き覚えのある声で短い断末魔が聞こえるが、肝心の大和のものがなかった。

 

やがて煙が晴れた時、そこに大和と修吾の姿はなかった。

 

________________________________

 

危なかった。当初の目的を忘れ、ついやりあっちまう所だった。謎に茶々が入ったことにより興が削がれ辞めたが、川神百代の挑発めいた顔に苛立ち、拳を出しちまった。しかし悪いのは先に手を出したあいつの方だ。俺は悪くない。

それに、こんな場じゃ無いよな川神百代。俺がお前の上に立つのは、こんな場じゃ相応しくない。然るべき時に然るべき場所で、お前にリベンジを果たす。だから、それまで首を洗って待っていろ。川神百代。

 




毎度欠かさず感想をくれる方や、誤字修正をしてくださる方。感謝しています。
飯食うだけの会かと思ってたんですが、相変わらず主人公がよく喋ります。
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