感想に支えられています。
度々言ってはいるが、俺の貯金はそれはもう潤沢にある。暫くは遊んで暮らせる額だが、親の意向により学生の間は手をつけない様にしている。であれば、学生の間の最低限使える額は稼がねばならないわけで、しかしこの俺がたかだか時給1000円程度の接客業を今更する訳がない。
やるならば完全歩合制だ。その方が短時間で手際良く稼げる。そうなると俺のバイトは自ずと決まってくる。
一つは宇佐美の営んでいる何でも屋での外注だ。何でも屋という特性上定期的とはいかない筈だが、川神は叩けばホコリでもなんでも無限に出てくる街なので、ほぼ定期的に割りのいい案件が舞い込んでくる。大丈夫なのかこの町は。
もちろん割りがいいというのは俺でなければ言えないことだ。凡人では対処できないからこそ、それなりの額がついて依頼が来る。しかし、俺に対処できないことなどない。どんな案件でも秒で済ませば、時給換算で言えば九鬼よりも稼げる場合もある。
そしてもう一つ。
「帝明さん!お疲れ様です!」
「お久しぶりでございます帝明さん!」
「ああ」
俺は今、休日に九鬼本社に来ていた。入り口前の警備を担当している従者がハキハキと挨拶をし、お辞儀をする。ふむ、しっかりと上下は理解できている様だ。しかし、以前俺がいた頃と比べ、少し従者の実力が下がったか。いくら知った顔とはいえ、警戒心が浅い。付け入る隙をそう何箇所も増やすものじゃない。
そう、偶にしか入らないが、単価で言えば何でも屋とは雲泥の差であるこの依頼。
依頼内容は、端的に言えば従者の育成である。
「時間通りだな。…ふむ、鍛錬は毎日欠かさず行っている様だ。見ぬ間に少しでも腑抜けていたら串刺しにするところだったが、その必要はないらしい」
最悪だ。迎えがコイツか。相変わらず瞬間移動の様に現れるコイツ。今も昔も俺のストレスのもとの一因である金髪ちょび髭クソジジイだ。
なんなんだこいつ。1日100回は煽りを入れなければならないというカルマでも背負っているのか。串刺しにする必要がない?アホが。出来ないの間違いだ。お前と最後にやり合ったのは2年も前になるが、昔の敗北を忘れちゃいない。俺は毎秒大幅アップデートが来るんだよ。次にやり合った時こそ、必ず土をつけてやる。
つか、何故迎えがコイツなんだ。一応コイツ序列最上位じゃなかったか。最上位の仕事が迎えとか、暇なのか?知らんうちに実質リストラみたいなイジメにでもあったのか?だとしたら俺としては願ってもないほどのざまあみろなんだが。
「場所はいつも通り修練場だ。赤子どものウォームアップは既に済んでいる。貴様のウォームアップの時間も必要であれば取るが、いらないだろう」
それに関しては正しい。雑魚が相手だからとか、そんな理由ではなく、いや雑魚が相手なのは間違いないのだが、俺の身体は常にフルコンディションだ。常人が行う準備運動。筋肉をほぐし、腱を伸ばし、関節を柔らかくする。そんなものは俺に必要ではない。どんな時でも常に、例え睡眠中に爆撃に見舞われようとも最上の動きが出来る。それが俺だ。
エレベーターを降り、相変わらず無駄に広い施設を歩く。やがて、地下修練場についた。
「おや、来ましたね。お久しぶりですね修吾。今日はお時間をとっていただいてありがとうございます」
修練場に入ると、従者たちの視線がこちらを向く。その中の1人、クラウディオが話しかけてきた。クラウディオは物腰も柔らかく、嫌いではない。何度コイツ直属になれたらと思ったか。
「ようしゅう。久しぶり、でもねえな。学校で会うしよ。だがこうやって一緒に鍛錬をするのは久しぶりだな。今日こそ負かしてやるぜ」
「私らは久しぶりだな。今日こそ蜂の巣にしてやんぜ!」
「そうですね。もっと九鬼に顔を出してもいいんですよ。みんな喜びます」
対してコイツらは相変わらず人を舐めてるな。実力主義であるならばコイツら全員俺に敬語だろ。つかそうあるべきだ。
それにしても、
「お久しぶりでございます。今日は胸を借りさせていただきます」
「初めまして!シェイラちゃんです!噂はちょくちょく伺ってますよー!」
俺は先ほどヒュームに聞いた序列と従者を照らし合わせていく。どいつもこいつも、明らかに順位に対して実力が伴っていない。聞いた話、どうやら俺が抜けてすぐに、若手育成計画みたいなもんが立ち上がったらしく、若手の従者の順位が軒並み上がったのだ。なんで俺が抜けてから?嫌がらせか?
過去に俺がその順位にいた頃と照らし合わせても、誰一人俺に追随している奴はいない。まず己の戦術を隠そうともしていないフォルム。桐山で言うのならば露骨に足と腰回りに筋肉が偏っている。これでは蹴りに自信がありますと公言しながら歩いている様なものだ。
コロンボにしても、筋力が足らなすぎている。指標の全てではないが、戦闘力が順位にかなりの影響を及ぼす中で、この順位と筋力を照らし合わせると、単純な戦闘能力ではなく、何かしらの絡め手を使うのは明白だ。
何が来ても問題無い俺に対し、何をするのかを公言しながら攻撃を仕掛ける。言うまでもなく愚の骨頂だ。
腐れ皮肉アフリカ人のゾズマも足技や爆弾と言った絡め手を使う輩ではあったが、どれかに頼り切った戦術やフォルムはしていなかった。特技を伸ばすことと、それに頼り切るのとでは意味が大きく異なる。そこら辺をヒュームやクラウディオは教えていないのか。
「それでは鍛錬を開始します。想定状況は帝様に対する刺客の排除。従者後方に置かれたマネキンを帝様と仮定し、従者の皆様には修吾からそのマネキンを守っていただきます」
まあ実際こんなヨーイドンで刺客が正面切ってくるわけもないが、用は単純な戦闘訓練も兼ねてのものだろう。実際に九鬼帝に対する刺客を想定するのであれば、俺は姿を見せず、全員の気が逸れたコンマ0何秒かの隙を塗って攻撃するが。
「それでは始めさせていただきます。開始」
「ロックンロール!!!!」
言うと同時にコナーの銃撃が始まる。おい今少しフライングしてたぞ。
俺に降りかかるゴム弾の雨。だがその実、俺の身体に当たるルートを通っているものは極端に少ない。少し身体にひねりを加えてやれば更に数は減り、そこに歩みが合わされば、当たる玉は片手で数えられるほどにまで減る。そして、残ったものの一つを指で逸らせば、ビリヤードのように連鎖し弾き合い、やがて。
「うっそだろ。当たりもしねえって」
当たり前だ。俺はマシンガンを持つ相手を、自分の五感を遮断し無傷で制圧できる。つかした。
コナーが銃を持ち換えるその一瞬、俺の周囲には従者達が展開し、各々の攻撃を仕掛けてくる。
だが、その囲みの判断が一瞬遅い。それは確かに一瞬だが、俺からしてみればどうしようもなく長い時間だ。
さて、俺はマネキンを攻撃すればいいのか。
攻撃を繰り出すまでのそのラグ、完全に囲みきれていない隙を縫って、俺は一瞬でマネキンまで迫り、
スッ。
その首を手刀で撫でた。
ゆらりと揺れて、地面に転がり落ちるマネキンの頭。
「…そこまでですね…」
開始2秒と少しで、終了の声がかかった。
「だから俺は言っただろうクラウディオ。この条件では些か赤子どもに不利すぎると」
まあ、どの条件でやろうとも俺を相手にしたら不利になるんだがな。しかし攻め手に対し、何かを守りながら応戦するのは困難を極める。単純な実力がかけ離れている中で、そんな条件での鍛錬は成立しない。流石はブラック企業のパイオニア九鬼だ。
「各々が持ち味を活かそうとした立ち回りをしていました。そこは流石ですが、今回皆様に与えられた任務は護衛です。相手の実力に気が早やり、各々が制圧に意識を向けすぎていました。第一は護衛だと言うことを念頭に置いていれば、また違った立ち回りになったことでしょう。言うまでも無いですが、もしこれが実戦であったのならば、帝様は現在ああなっているということです」
クラウディオがマネキンの頭を指さす。全員沈黙を貫いていた。クラウディオやヒュームが醸し出す、そこはかとない失望感が余計に響いているのだろう。そう、これがパワハラのパイオニア九鬼だ。
まあ、俺は今関係ないしな。さて仕事は終わりだ。今日は早々に終わったな。やはり歩合制は最高だ。実力があればこんなにもすぐに終わるのだから。
今日はこの後何も予定を入れてなかったが、どうせ時間がたっぷり余ったのならばやりたいことでも探すか。
________________
「それでは、本日2度目の鍛錬を開始します。今回仮定する護衛対象は存在しません。単純な制圧訓練、つまり戦闘訓練ということです」
クソが。るんるんで帰る気だったのに、謎に第2R始まったぞ。このままじゃアレなんで第二回頼むわじゃないんだよ。俺仕事終わらしたろ。
「では始めます。開始」
おい絶対この分追加で払えよ。
始まると同時に、今度は顔面に対する静初の小刀による牽制。左右には桐山と忍足、背後にはコロンボが展開している。
忍足はクナイによる腹部への殴打。桐山は重心と筋肉から見るに、左足のハイキックだ。
そして背後に回ったコロンボ。この匂いはラトロトキシンか。なるほど。絡め手は毒だったか。
俺は毒が効かない体質だが、だからといって食らってやるわけがない。
正面に向かって来た小刀を躱す際に、こぶしで掠らせ軌道を変え、コロンボに向かわせる。そして忍足を掴み上げ、桐山のハイキックの軌道上に置くようにする。
「しまっ」
「きゃっ!」
「ぐっ!」
コロンボは小刀を間一髪で弾き、忍足は桐山の蹴りが当たり吹っ飛ばされた。
崩れた陣形を戻そうと静初とドミンゲスが駆けるが、まあ間に合うわけがない。
コロンボの前腕の橈骨を軽く叩き、同時に桐山の軸足の内腿に前蹴りを入れた。
「ぐっ」
「いっ!」
軸足の力が抜けた桐山だったが、膝を折る程度で崩れることはなかった。だが、そちらの足を軸にするのはもう厳しいだろう。足のスイッチをしている間にどうとでもできる。
対してコロンボの方はダメだな。かなりの激痛と痺れが来たろうが、獲物を取り落として仕舞えばトドメをさしてくださいと言っているようなものだ。まあ、こいつに関しては順位3桁で、なおかつ明らかに戦闘向きでなく暗殺向きだ。この場に駆り出されていること自体がおかしい。
コロンボと桐山をここでリタイアさせることは容易いが、変に瞬殺しすぎて、ほんじゃ第3R頼んますわなんてことになったらたまったものではない。ある程度満足するくらいには戦闘をしといてやった方がいいだろう。
と、直後に静初とドミンゲスが新たに陣形に加わる。少し離れたところから忍足とコナーがこちらに駆けてきている。桐山が軸足を切り替え、コロンボは叩かれたのとは逆の手に毒を分泌し始めた。
しかし、こいつら連携度が上がってきているな。初っ端の連携はひどいものであった。
実力差を人数がひっくり返すというのはイメージがつきやすいし、良く目にするものでもある。例えば10という戦闘力の人物に対し、戦闘力7の2人が同時に襲い掛かれば、ほぼ確実に勝てる。しかしこれは戦闘力がかけ離れていけばいくほど、そう単純じゃなくなってくる。仮に戦闘力10000の人間に対し、戦闘力1000の人間を12人当てたとする。結果は1000側の惨敗。それも絶望的な差でだ。しかし、6000の人間を2人当てたとすると、結果はわからなくなってくる。
総合の戦闘力が上回ってたとしても、単身での戦闘力が低い者達では、単純な足し算では実力差は覆せないと言うことだ。
ならばどうすればいいか。
「ハァ!!」
「ヌゥン!」
桐山は先程の失敗を繰り返さないために、中断の突き刺し蹴り。ドミンゲスは大振りのテレフォンパンチ。コロンボは麻痺毒を射出。静初は小刀による切り上げを仕掛けてきた。
そう。連携力を上げるしかない。お互いの邪魔をしない様に、しかし最高の攻撃を仕掛ける。偶には回避行動を潰すための置き攻撃も必要な時がある。自分ではなく、誰かが致命傷を与えるためにサポートに徹する。
タイミングをより緻密に、繊細に。まるで全体で1つの生き物であるかの様に動く。それが出来れば、ジャイアントキリングがあり得る。
この俺にすら、届き得る。
訳が、無いだろうが。
『がっ!』
半歩に満たないバックステップを踏み、行うのはミクロ単位の力のコントロール。
桐山の蹴りを静初へ。ドミンゲスのパンチをコロンボに。桐山の蹴りは静初の腹に突き刺さり、ドミンゲスのパンチは麻痺毒を打ち消し、コロンボの交差した腕に当たった。吹っ飛ぶ2人。
どう頭を捻っても、何を工夫しても、俺には勝てない。うさぎがいくら群れても、熊には勝てない。ましてや、相手は武の極地の俺だ。如何に完璧に思える連携をしたとしても、針の穴程の隙から致命的な損害を与える。もし無ければ作る。
今回の様に、本来ならばメリットになるはずの複数人が、俺にかかればデメリットと化す。
コロンボと静初はもうリタイアだ。
食らいつこうと忍足とコナーが合流する。
「火遁の術!」
「ロォォオック!!」
「レッグストライク!」
「ハァ!」
忍足が俺の眼前で爆破。自分や仲間が軽傷を負うより、外敵である俺を仕留めることを優先した一撃だ。
コナーは至近距離によるヘッケラーのモデルガンの乱射。
桐山は俺の頭部を狙う三日月蹴り。
ドミンゲスは麻痺していない方の腕の関節を外し、遠心力により振り回すぶちかまし。
威力だけで言うならば、1番高いのはドミンゲスだ。関節を外し、腕を三節棍の様に使用し、威力の乗った先端の拳をぶち当てる。
だが、お粗末だ。
そういうのはな、こうやるんだよ。
威力を出しすぎると最悪殺してしまうため、今回は肘先からにしとくか。
肘から先の骨に、硬度を保ったまま柔軟性を加える。瞬間的に腕を大きく振る。腰、胸、肩、肘は緻密な連携はさせていないが、それでも伝わってきた力が肘に直結する。
そこからは細胞単位の力の伝わり。細胞一つ一つが連携し、筋肉と骨が波打つ。
爆発的な力の濁流を、地面へと振り下ろし、衝突寸前、先端の指を翻した。
瞬間。
ズパアアアンッッ!!!!
解き放たれたエネルギーは、俺に肉薄していた全ての攻撃を弾き、囲んでいた奴らは遥か後方へと吹き飛ばされた。
通常これほどの威力を放てば、放った本人がまず無事では済まないのだが、ジェット機が自身のソニックブームで壊れない様に、ウルトラマンが自らの衝撃波で真っ二つにならない様に、俺の強度が無傷を可能にしている。この程度気でガードする必要もない。
しかし少々難点があるとすれば、服が衝撃に耐えられず、ある程度破損してしまうこと。今回は地面に放ったからこうなってしまう。本来は相手の方向に向けて放つため、毎度今の様に上半身をはだけさす訳では無い。
「そこまでです。お疲れ様でした。従者の皆さん。特に最後の攻撃を受けた4名は必ず救護室に行って治療を受ける様に」
本来ならばすぐに戦闘のフィードバックがあるはずだが、流石のクラウディオもちょび髭爺も治療を優先させるつもりの様だ。
と言っても、大半は気を失っているだろうから、言っても届いていないだろうが。
クラウディオが隅に控えていた従者2人を一瞥すると、従者は気絶している人員を運び始めた。
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戦闘後、クラウディオや金髪髭爺に聞かれた改善点を話し、現地解散になった。早々に金髪髭爺は次の仕事へと出かけていった。あいつ、俺と戦闘するの怖くなって足早に逃げたな。俺も上着の変えをもらって着替え、退出した。
仕事が長引いたのは面倒だったが、やはり一方的な蹂躙は楽しい。こう言うイベントは俺のストレス発散の為に定期的にやっておきたい。
「おー!修吾ではないか!久しいな!フッハハー!」
と、エレベーターを上り、また無駄に広い通路を歩いていると、正面からやってきた九鬼紋白と遭遇した。
マジで血は争えない。紋白と英雄と揚羽。この三兄弟はその性格から振る舞いから、全てが似ている。おまけに笑い方まで一緒だ。九鬼には笑い方のマニュアルでもあるのか?九鬼帝がこの笑い方をしないことから、九鬼帝自身が子供をマニュアルで育ててる説が濃い。
「お久しぶりです」
「うむ!!今日は従者達の訓練か。協力感謝する。しかし、だ。何故来るならば事前に我に連絡せんのだ!」
しないだろ。
「それで、従者達はどうであった?」
なんで俺が何度もフィードバックを言わなければならないんだ。まあ相手は九鬼の跡取りの1人だから、丁寧には扱うが。先程クラウディオに伝えた事をそのまま言えばいいだろ。
「距離が近かったです」
隙を与えない様に常に四人以上でマークしていたが、逆にそれが裏目に出ていた。お互いがお互いの攻撃の射程圏内ならば、少しズラすだけでそれは互いを潰し合う攻撃となる。もっと立ち回りを考えるべきだ。
「紋様を御守りするには足りないかと」
「ふむ…」
九鬼紋白は少し難しい顔で考えていたが、少しして顔を上げた。
「若手の従者達は粒揃いだ。きっと近いうちに相応の力を身につけるだろう」
そうか?見どころのある奴なんて特に見当たらなかったがな。
「しかし、それまで我を任せられないと言うのであれば…修吾。お前が我を守ってくれれば良いのではないか…?」
まあ別に悪い提案じゃないんだがな。給料は最高ランクだし。しかし、いかんせんブラック企業すぎる。いつ戻ってきてもいいと言われているんだ。金が必要になったら適当に戻るとしよう。なのでここは耳障りのいい言葉で誤魔化しておく。社交辞令という奴だ。
「光栄でございます。しかし未だ学業に身を割く時分。然るべき時に、まだ紋様の御心が変わらない様であれば、その時こそよろしくお願いいたします」
「うむ!我の心は変わらん!待っておるぞ!」
よし。とりあえずの保険はゲットだ。
将来なんの気力も湧かなかったとしても、とりあえず九鬼で時間潰しはできるか。
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九鬼ではここ数年のうちに、組織構成が大きく変動した。見込みありと判断された若者が軒並みその順位を大きく繰り上げ、今まで上位にいた老人達は、少人数を除いて順位が落ちた。中には首を切られたものもいる。
その人員の大幅な変動により、これまで他支部にいた従者が本社勤務になったり、また新人雇用が活発化した。
それにより本社の新参者が増え、これまでの九鬼を知っているものの割合は減った。
そしてそれ故に、新参者達の中ではある謎が広まっていた。
それは、日夜順位変動が巻き起こる九鬼の中で、全く動かない順位があること。
それ自体は珍しいことではない。現に0位のヒュームや2位のクラウディオ。マープルやゾズマなどは、若手育成計画が立ち上がるまで何年も、己の順位を不動のものとしていた。
では何が謎かと言えば、問題はその順位が空席であること。
序列5位。
若手育成計画の筆頭に立てられた忍足あずみ。老兵であるが圧倒的実力者のヒューム達を除けば、最高位に位置する序列である。
全員が野心を持ち、少しでも高い地位を手に入れようと邁進する中、その順位だけは2年以上もの間空席。
もっと謎なのは、それに対し圧倒的実力主義の序列上位陣が、当然の如く受け入れていること。更には従者外の、九鬼自体のトップ陣。九鬼揚羽、英雄、紋白、局、果ては九鬼帝に至るまで当たり前のこととしている。
まるで、そこに収まるべき人物がいないかの様に。
当然新人達からしたらそんなものは話題の種だ。
昔からの九鬼従者のトップ。若手育成計画の代表であるあずみという2つの異例を抜けば、実力的に実質トップ。
曰く、実力トップなどという明確な位置は設けず、従者の中で切磋琢磨し合えというメタファー。
曰く、実は組織内で存在しているが、隠密主体の従者の為情報が秘匿されている。
曰く、最下位の武田小十郎が実力を隠していて、本当は5位。
曰く、過去に5位だったものがあまりにも優秀で、その後釜が存在しない。
若手の従者達は各々の考察を語り、酒の肴にした。
「では、お二方は医療班として付き添いをお願いします」
それは、この日クラウディオにより、修練の医療班を任せられた2人も同様であった。
修練場につき、2人は少なからず驚嘆した。それは、修練場にいた者達の顔ぶれ故に。
若手の中なら文句なしの
序列1位 忍足あずみ。
戦闘の一点のみでその地位に座る
序列11位 チェ・ドミンゲス
若手トップ層の
序列16位 李静初
序列17位 ステイシー・コナー
足技だけなら達人クラスと言われる
序列42位 桐山鯉
入り立てで上記の者らより序列は低いが、実力ならば並ぶ
序列184位 シェイラ・コロンボ
おまけに重役の化け物ども
ヒューム・ヘルシング
クラウディオ・ネエロ
までも同席している。
一国をも滅ぼし得る戦力だ。主に重役2人がメインだが。
若手従者の2人は今回の詳細をそこまで知らないが、どうやら外部からの人間を招いた訓練らしい。
そこに少なからずあった違和感が、益々大きくなった。九鬼の訓練は、主に内部の従者間のみでやる。重役達が訓練に参加しないとしても、これほどのメンツを相手にできる人物はかなり絞られる。まず間違いなくマスタークラスでないといけない。
しかし、これまでそんな外部コーチのような者を九鬼が取った記憶はない。
九鬼は外部の者に腹を見せないからだ。
「そろそろ時間ですね」
クラウディオが懐中時計を開き、そう呟く。
少し間を置いて、修練場の扉が開かれた。
入ってきた人物に、2人は少しの間停止した。
スラっとした高身長に、俳優顔負けの美丈夫。その姿は、先程まで修練場にいたはずのヒュームが当たり前の様な顔で修練場に入ってくるという、謎現象にも勝る衝撃だった。
この人物が、今からここにいる猛者達を相手取るのか。
見た目は若い。若すぎる。ここにいる誰よりも。
入ってきた人物は、クラウディオにより修吾と呼ばれていた。
修吾は序列上位陣、自分達が話すたびに緊張する程の面々と、軽く挨拶をしていっている。まるで旧友、同僚、先輩後輩の様に。
殆どのものが親しげに話している。それは、若手従者の2人からしてみれば、なかなか見ぬ異様な光景であった。特に忍足あずみなどは、職務中は常に気を張っており、どこか人を寄せ付けない雰囲気があるのだが、今のこの光景からでは想像もつかない。
「では始めさせていただきます」
クラウディオの一声。途端に、先程までの空気が一転。現場に張り詰めた空気が充満する。2人は理解した。訓練という名目ではあるが、その実ここはまるで戦場。参加をしていない自分達でさえ、気を抜いたら命は無いと錯覚させるほど。
「開始」
クラウディオの声と同時に、ステイシー・コナーが銃を乱射した。ほぼ不意打ち。序列上位陣でさえ、備えていればいざ知らず、不意打ちによる銃撃を躱すのは困難を極める。
しかし銃撃が終わってみれば、そこには全くの無傷の修吾が立っていた。そこには弾があった形跡も、大きく動いた後もない。
状況により分かっていたつもりではあったが、この目で視認するとより深く実感する。
やはりこの男は尋常では無い。
そこからは、若手2人からは一瞬の出来事であった。
「そこまで」
何が起きたか一瞬理解できなかった。気付いたら先程まで修吾がいたところに従者が密集しており、しかし件の男はそこにはいなかった。
修吾はいつの間にかマネキンのすぐ側に接近しており、その首を落としていた。
寒気がするほどの実力。誰も彼も修吾の動きを視認できなかった。つまり、もしこのメンツの誰かに自分が命を狙われたのならば、気付くこともできずに命が絶たれているということ。そしてその誰をもってしても、修吾の動きに対応できないということ。
一体どれほど強い。ここは世界の九鬼、その本社。九鬼従者の上位陣は、そのまま世界の上位陣を指す。それに対し、これほどの実力差があっていいのか。
その答えは、次の瞬間には明らかになる。
第2ラウンドと銘打って、今度は従者部隊と修吾との純粋な戦闘訓練が始まる。
「開始」
そこからは到底一部始終を目で追えるものではなかった。辛うじて、要所要所の事実が受動的に目に入ってくるのみ。それはいつか見たバトルアニメそのものであった。
そしてその終わりは、唐突であった。
ズパアアアンッッ!!!!
耳をつんざく破裂音。鼓膜が張り裂ける気さえした。その瞬間4つの影が吹っ飛び、壁に激突する。後には、上半身をはだけさせた修吾だけが残っていた。
爆発物の使用。いや、そんな素振りや持ち物は一切なかった。ましてや、この男ほどの実力者がそのような者を所持しているのは違和感を覚える。
何かした。明確に何かは到底わからないが、この男は信じられない何かをしたのだ。
そしてその瞬間、若手2人は理解した。
この男だ。
2年以上もの間空席と言われる序列5位。その考察はさまざまなものが飛び交うが、その中に事実はあった。
この男が元序列5位。確かに、こんな化け物がいたのでは、後釜が存在するわけがない。いつか帰ってくるであろう男の為に、実質最上位の序列の席は用意されている。
修吾の後釜は、修吾しか存在しない。
明らかに時代の傑物たる人物。その男を前にして、負傷者を運び出す2人は、どうにかして連絡先欲しいなと思っていた。
マジでこの小説最古参読者勢が毎話欠かさず即感想くれるんですよね。もう3年経つこの小説。3年経って14話しか無いこの小説をずっと待ってくれている方々。誠にありがとうございます。
次は何年後だ!?(懲りない)