というか俺今5つの小説が同時進行していて、一つ一つの執筆が亀より遅いんです。生き方下手すぎる。
べるぜバブの方にもコチラの小説を読んでいる方からチラホラ感想が来ていまして、執筆再開し始めてます。
やはり感想は偉大。古事記にもそう書いてある。
唐突だが、俺の1日のスケジュールをざっくり公開する。
早朝、5:00に目が覚める。そこから1時間半鍛錬。もちろんやりたいわけがない。川神百代やらなんやらを打倒する為に仕方なくやっている。早朝に起きるのも、もう少し遅いと俺の朝食の時間に寮の人間が起きてくるからだ。
7:00。奴らが起きてくる前に寮を出る。道中出会う雑魚敵に度々絡まれる。
8:00。煩わしい奴らが川神橋で合流。
以後学校中は休み時間は川神百代が襲来。昼休みは稀になんとかファミリーが絡んでくる。
18:00 帰宅。以後寝るまでなんとかファミリーが絡んでくる。
ディストピアだ。普通の人間だってここまで1人の時間がないとストレスで精神がおかしくなりそうなものだ。ましてや俺は1人の時間が大切であり、邪魔してくるのは俺の人生において全くの無益のボンクラどもだったりする。このままでは俺は鬱病まっしぐらだ。そんな俺は偶にある雑魚ボコしイベントでストレスを発散するしかない。しかし、それも積み上がる膨大なストレス量に比べれば、微々たるものだ。おまけに、最近雑魚敵を相手にするのが日常になりつつあり、ストレスの軽減度合いが減っていっている。
これは非常に良くない。
早急に解決策を講じなければ。
八方塞がりな現状に見えて、一応の大まかな算段はつけられる。
一つは新たな癒しを見つけること。
これはもし見つけることができたら非常に俺の精神衛生上良い。一般的に鬱病や認知症回避には、何か趣味となるものがあればいいとされている。
しかし、これは長期的にみたら非常に有効な策と言えるが、短期での解決策とはなり得ない。加えて、新たに趣味を見つける労力は想像を絶する。基本俺はなんでも出来てしまうからだ。
そこで考えたのがもう一つの策だ。こちらは単純。長期的な解決こそできないものの、短期間で見たならば効力がありそうだ。
つまり、日常生活で1人の時間が取れないのならば、日常外で無理やり休みを取ってしまえばいい。
それができないから困っているのではないか。いや、それは少し違う。
何故ならば、何者にも縛られない、素晴らしい時間がやってくるからだ。
ゴールデンウィーク。
全ての学生、社会人にとっても至福の時間だろう。しかし断言できる。世界で一番この時間を重宝しているのはこの俺だ。週に必ず訪れる休日程度では、あのなんとかファミリーを撒くことはできない。まじであいつらはエンカウントしたら終わりの概念能力者なのだ。まるでデウスエクスマキナだ。
そんな即死イベント持ちの奴らも、流石にプチ休暇まで俺をハントすることは叶わない。
フラッと何処かへ行って仕舞えば、1人の休暇の始まりだ。まさに黄金体験。ゴールデンとはよく言ったものだ。
さて、そうと決まれば実行あるのみ。俺は放課後に早々に寮へと戻り、いそいそと旅路の支度を始めた。寮ならば本来なんとかファミリーの接触は必須だ。もしこんな支度をしているところを見られたら、あれよあれよと旅行先までついてくるだろう。ノートリアス・B・I・Gかあいつら。
しかし現在ならば大丈夫。この時間、この瞬間だけは俺の世界に静寂と平穏が訪れるのだ。何故ならば、今日この日はなんとかファミリーが廃ビルに一同に会してるらしい。奇跡だ。つまり俺の支度が誰かに発見されることもないわけだ。
小〜中サイズのアタッシュケースの荷物をまとめ、まだ暗くなりきっていない外に繰り出す。気分はウキウキだ。
さて、どこへ行こうか。
俺は基本好きなとこは特にないのだが、ことここに至って1人の恋しさを知った。1人になり、落ち着いて優雅に過ごしたい。ならば自然は必須だ。そうだな。森林浴なんかがいい。昼は木々に囲まれ、夜は温泉宿にでも泊まって露天風呂で一杯。いいじゃないか。
となると温泉が有名なところがいいな。まあ北西か北東に向かえば温泉なんかはいくらでも名所があるだろう。考えのは後ででとりあえず出発するとするか。
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軽くジョギングをしたので、その日の夜には目的地周辺までつくことができた。このまま目的地までノンストップで行ってやろうかと思ったのだが、俺はその思考に待ったをかけた。何もこんな日にまで効率重視で動くこともあるまい。近場のバス停に目を止めてみれば、奇跡的にもう少しでバスが来るみたいだ。こういう無駄な時間を過ごすのも、旅の醍醐味だろう。
やがて定刻通りにバスは来て、俺は乗り込むことにした。乗客は俺しかいないようだ。流石田舎だな。運転手は帽子を深く被り、全くこちらを見向きもしない。愛想もクソもないな。そこは田舎であれよ。
そういえば、この旅に九鬼帝や葵冬馬、ハゲや白インキャを誘おうかとも思った。何故なら、奴らは風間なんとかの奴らとは違い、将来が確約されたメンツだ。仲良くしとくことに越したことはない。
しかし問題点一つ目として、まず十中十で忍足がついてくるだろう。ただでさえ仕事中鬱陶しかったのに、プライベートでも上司の相手とか嗚咽モノだ。
そして第二に、そもそも俺は1人の時間が欲しいのだ。そこにメンツの良し悪しは存在しない。ビジネスライクを振り撒くのもストレスなのだ。
まあ、上記の理由から俺はやはり1人を選択したわけだ。
と、そんなことを考えているとバスが停留所で停車する。俺の目的地ではない。ふむ、こんな時間にこんな所で乗り込む奴もいるのか。俺は視線を窓の外に向ける。が、誰もいる様子はない。
しかし、何処にいたのか、1人の髪の長い女が乗り込んできた。格好は所々が汚れた白のワンピース。ワンピースのくせに華やかさがひとつもない。しかも裸足だ。その女は金を払うわけでもなく、一直線に歩いてきて俺の後ろに座った。
こんだけ空いてんのにわざわざ俺の後ろとか、社会性無さすぎるだろ。
バスは何事もなかったかのように出発。そういえばこのバス、バス停の名前を一度も言わないな。まあ夜だしオフモードなのだろう。
かなり時間が経ち、やがて目的地のバス停についた。ふむ、たまの旅くらいこういう無駄な時間があってもいいな。
俺は荷物をまとめて席を立とうとする。そういえば、あれから一度も振り返っていないが、乗ってきた女も一度も降りていないということは、ここが目的地なのだろうか。と、ふと気になったところで、
「やっぱり見えないか」
すぐ後ろでそんな声が響いた。俺は振り返ったが、そこには誰もおらず、しかしシートはびしょ濡れになっていた。
流石田舎だな。
ともかく、俺は早々に降りて、先に見える宿に向かった。
「あら、ようこそお越しくださいました!大変だったでしょう?この時間バスもタクシーも出てないから」
よく喋る女将だが、それを抜けばとてもいい宿だ。内装も綺麗だし、なんといってもあのパンフレットの温泉が素晴らしい。やはり、温泉といえば箱根だろう。
「それにしてもお客さん惜しいわね。さっきまでお客さんだけだったんですが、つい先ほど明日から団体客の予約が入りましてね」
まあ、大浴場に人がいるのは少し嫌だが、そこまで贅沢も言ってられない。時間をうまくずらせば十分だろう。
通された部屋も申し分ない。近場には川が流れ、空気も澄んでいる。
今日から俺の素晴らしい3泊4日が始まるのだ。
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……なっ。あっ。がっ。
なっ…マジなんなんだ…。
何故バレ…いや、違う。何故いるんだ。
「お前は本当に可愛いな。偶に茶目っ気を出して。なんだ?驚かしたかったのか?」
「しゅーにいが珍しいくらいにはしゃいでんのは分かったけど、どうせなら一緒に行きたかったよ?今度からは私にだけでも声かけてね」
「前日乗り込みすんなら教えてくれよなしゅう兄!!俺も行きたかったのによー!」
「昨日全く顔出さないし、連絡も取れないからどうしたのかと思ってたけど、流石にこれは考え付かなかったなあ」
「しゅう兄ってたまに凄い行動力あることするよね」
アガ。あり得ない。あり得ない。
マジ…あ。な、え、マジなんなんだ。そういえば昨日女将が言ってた団体客って、こいつらのことだったのか。マジなんなんだ?GPSでも埋め込まれてるのか?いやしかし俺の身体に何かしているのであれば、例え砂粒1つ程度の大きさでも気付くはずだ。ということは、携帯端末に何かされたのか?いや、買った時から重量は増えていない。システム的なものか?一度ハッキングしてみるか?
「でも実際びっくりしたな。キャップが当ててきたのは昨日だろ?一体いつの段階で情報を得たんだ?」
は?何被害者ズラしてんだ。逆だ。一体どの段階で俺の情報を得たんだ。両親にも場所は伝えておらず、電車などの交通機関も使ってない。ましてや気などはオフにしている。特定されるはずなどないのだ。…いや、今は原因の特定よりも目先の解決だ。幸い部屋は別だ。最低限の安らぎをそこに求めれば精神的に壊滅は
「あらま、お知り合いで前泊でしたの?ではお部屋一緒にしておきますね」
女将いいぃぃ!!!
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とりあえずまず1日を通してわかったことがある。それは、こいつらに落ち着いた旅など不可能ということだ。部屋を無理やり一緒にされてから、俺は出来る限り1人の時間を作ろうと奮闘した。しかし、その悉くを邪魔された。
窓際で風を感じながら読書をすれば、川神百代が横にもたれかかってくる。
外を散歩しようとすればアホどもが探検と称してついてくる。
川辺で釣りをすれば青インキャがピタリと寄り添ってくる。
こんなのは俺の理想とした休日ではない。俺が追い求めたものは1人の優雅な時間だったはずだ。しかし蓋を開けてみれば常に誰かと一緒のアンハッピーセット。しかも極め付けはこれだ。
「自分はお前のいちいち狡いところが嫌いだ。色々と大義名分を打ってはいるが、正直しゅう先輩のような本物の義に生きるものと比べると言い訳にしか見えない」
「自分の大切なものを守るためだ。義を通すだけでは守りきれないものもある。結局のところクリスが掲げているものはただの詭弁だ。耳障りのいい机上論を述べて悦に浸っているだけだ。誰も彼もがしゅう兄の様に完璧なわけじゃない」
こいつら、まさかの旅行中に揉め始めたのだ。普通の思考回路があったらまずそうはならない。勝手に俺の旅行に陣取り始めて、挙げ句の果てに揉め事を起こすなど、いったい俺になんの恨みがあってするんだ?
「しゅう先輩はどう思う?」
「しゅう兄の率直な意見が聞きたいんだけど」
知らねえよ勝手にしろ。つかその隙を見て人を巻き込む根性をどうにかしろ。そんなもんはなんとかファミリー同士で仲良くやってろ。
「認めさせる相手は俺じゃねえだろ」
「……確かにそうだ」
「どうやら一度決着を付けなきゃいけないみたいだな」
つか周りのやつもいい機会だみたいな顔してんじゃねえよ。組織はお互い補い合えないならば組織である意味がないんだよ。そんなんだからお前ら将来性皆無なんだ。
俺は何やら話しているなんとかファミリーを置いて1人早風呂へと行った。
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次の日、俺は流石に現状に耐えかね、早朝にそそくさと外出した。当たり前だ。奴らが起きてくれば昨日の二の舞。またチープ・トリックの如く付き纏われ、俺の1日が無駄になる未来しか見えない。
暫くぶらぶらと歩きやることを探したが、こういう時過去のクローン組と過ごした離島での経験が役立つ。自然に囲まれ、他は何もない様な簡素な所ではやることは基本的に決まっている。
俺はそこら辺から材料を集め、簡易的な釣竿を作る。
そう、水辺なのが幸いした。水辺ときたらとりあえず釣りだ。俺は離島にいた時の暇な時間の過ごし方といったら基本鍛錬か釣りだった。しかし、釣りが好きなのかと問われればyesとは言い難い。結局魚の動きを理解し、水の流れを理解し、魚の好みを把握していればただの作業に成り果てるだから。なので俺にとっての釣りはあくまで暇な時間の潰し方と言った認識だ。
しかし、少し時間が経ち、それすらも邪魔する輩が出てきた。
「おい貴様。ここで何をしている」
川魚を釣ってはリリースし、釣ってはリリースしを繰り返していたところ、背後から声がかかった。まあ、この森に散らばる20人の気配は感じてはいたが、歯牙にかける程でもないので無視をしていた。が、その羽虫程度の奴等の中で、少なくとも1番気の多い奴が話しかけてきた様だ。近づいてきてはいるなと思っていたが、振り返る労力すら使いたくなかったので確認しなかったのだ。しかし、明確に話しかけられるとは少し予想外だ。
振り返り、そいつの形を確認する。
深紅のロン毛に、眼帯に、軍服。そしてトンファーを所持している。
そうか。
俺は首を戻しそのまま釣りを再開する。
「こちらの問いが聞こえなかった様には見えませんでしたが。ここら一帯は我々猟犬部隊がテリトリーを張っている。偶然ならば悪いが、運が悪かったと思いなさい。即刻ここから立ち退きなさい」
淡水魚は淡水魚で中々に処理が面倒くさい。俺は食い物の中なら刺身がダントツで好きだが、川魚は刺身に向いていない為、食すのに適さない。勿論捌いて火にかければ十分に食えるが、その手間と得られるメリットを足し引きした際に、メリットが手間を超えて来ないのでやっていない。
「貴様。聞こえなかったではすみませんよ。最後の忠告だ。即刻ここから立ち退きなさい」
となるとやはり海の方が釣りは適しているかもしれない。海は純粋に釣りを楽しみ、川は釣りをしながら場の雰囲気を楽しむ様な感覚だ。俺でいう純粋に釣り楽しむというものの中には、偶には魚を食うことも入っている。海の魚は偶に寄生虫などが潜んでいるが、そんな下等な虫如きが俺の目を掻い潜れるわけもなく、一振りで全てを取り除ける。
と、そんな思考をしていた最中に、背後で人が踏み込む振動が発生した。その振動は微弱だが、この俺の触覚には対象との距離、一撃に込められた威力、速度などを雄弁に伝えてくる。
ヒュオッ!!!
次いで、気流が動き、何かが背骨のやや右に突きを放ってきた動きを知覚する。気流の動きにより得物のリーチ、鋭さ、距離がより明瞭になる。
そして、俺のシャツを押しながら背中の皮膚に当たる感覚。踏み込みの段階で躱す事など容易だが、例え皮膚まで到達してようと、この程度で俺に攻撃を当てるなど不可能だ。
俺は当たると同時に、座っていた状態から身体を捻り、背後からの得物、トンファーの突きを前方に受け流した。
俺と突きを放ってきた赤髪が向かい合う。
ほう、少し予想外だ。大抵の者なら勢いに引っ張られ川に落ちていてもおかしくない。しかし、目の前のこいつは重心の置き方を少しは心得ているのか、体勢は傾きつつも大きく崩れることはない。
まあだからと言って、人が折角見つけた貴重な1人の時間、メタルスライムよりもレアなこの時間を邪魔したことを許そうとは思わないがな。
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「なっ!!」
あまりの驚嘆により、赤髪ロングの眼帯女、マルギッテから思わず声が漏れる。
自分の尊敬する上司であるフランク中将の娘、敬愛するクリスが学友と旅行すると言うので、フランクの命もあり、その護衛として部隊丸ごと旅行先に乗り込んだ。現在マルギッテは護衛の一環として、周辺の警戒を行なっていたところだった。とはいっても、警戒対象は主に熊などの野生生物。なので、見回り中に偶発的に目にした青年など、はなから眼中になかったのだ。
威圧感を持って立ち退く様に言う。が、意外だったのはこの青年が一度振り返った以降、こちらを見向きもせずに釣りを続けたことだ。歳で言ったらクリス達とそう変わらないが、クリス達が行動しているのはここから川をかなり上ったあたりである。学友であるならば1人でここにいるのはおかしい。
それに、自分の威圧感を持ってしても全く反応することのないその背。その不可解さにより、なんでもなかった青年への警戒心が微かに上がる。
少しでも懸念があるならば、やはり野放しにはして置けない。
それは軍人としての常識と、過剰なほどのクリスへの愛に満ちたマルギッテの行きすぎた行動だった。
尚も返答のない青年に、言葉での警告を止める。呑気に釣りを続ける青年の背に、トンファーによる突きを繰り出す。急所を外す様に、しかし生半可ではない威力が込められた突きは、青年を容易く突き飛ばし、流れる川へと落とす。
その筈だった。
「貴様、一体何者だ」
放たれた突きは、まるで中空に放ったかの様に完璧に受け流された。確かに背に放ったのに、何も触れた気がしなかった。
凡そ、人の動きに思えなかった。
普通の、気の抜けた様にすら見えた背中から一変、こちらに向き直る端正な顔立ちの青年。
油断していたわけではないが、警戒心をマックスまで引き上げる。
強い。
青年、修吾が全く隙の見えない佇まいのまま、初めて口を開く。
「まずお前が誰だよ」
「…。ドイツ軍特殊部隊所属。マルギッテ・エーベルバッハ。警告は先程行った故、貴様を不穏分子として排除させて頂きます」
「人の時間邪魔してんじゃねえよ」
この際誰かはどうでもよかった。こちらの問いに応えないのは確認済み。ならば最悪の場合この青年が危険分子だった時のリスクを排除する。
マルギッテはジリジリと間合いを詰める。わかっている。無駄なことだとは。どの角度から攻める想定をしてみても、一切の隙がない。ならば、せめて一蹴りで間合いを詰めることができる距離まで近づく。幸いトンファーにより僅差でこちらの方が間合いは広い。故にギリギリの間合いを見極められれば戦える。それに、相手は背後がすぐ川な為、闘いながらの後退の選択肢がない。戦闘において、明確に選択肢を排除できるのは圧倒的アドバンテージとなる。
間合いが縮まり、縮まり。
(ここ!!)
マルギッテが地を蹴って接近する。修吾との距離が一瞬にして縮まるが、修吾が構えを取る素振りは見えない。
ギリギリこちらが有利な間合い。それをモノにしたマルギッテは手首でトンファーを回転させ、先端を修吾の顎に放つ。岩をも粉砕する威力だが、マルギッテは修吾を相手にそんな懸念をしている余裕はなかった。
先端の速度は常人が視認できない程だ。
しかし、その一撃は、修吾の顎を擦り抜けた。いや、マルギッテからそう見えただけだ。正確には、直撃の寸前微かに顎を上げただけ。掠りそうなほどギリギリの回避であった。
驚嘆はしたが、隙を見せるわけにもいかない。マルギッテは攻撃のブランクが空かないように、左右で猛攻を仕掛けた。一瞬でも隙を生んで仕舞えば、そこでカタが付いてしまうと直感で理解していたからだ。
そして、その判断は正しい。
相手が修吾という事に目を瞑れば。
後退という選択肢を封じられて尚、修吾に攻撃が当たることはなかった。速度の速い攻撃は、いかに重さが乗っかっていようと外部からの力に容易く影響される。
マルギッテの放った攻撃は、その悉くが修吾の添えられた手によってあらぬ方向へと飛んでいった。
「はあっ!!」
焦りによりマルギッテがこの攻防で1番の威力をのっけた打撃を放つ。それは、どうにか修吾に隙を生ますための攻撃。だがそれは、相手が修吾だということを考慮すれば、あまりにも安直で、危険な選択だった。
放たれた突きに、修吾の手が添えられる。しかし、修吾はそれを逸らすわけでも、増してや止めるわけでもなかった。修吾は逆に威力をのっけたのだ。渾身の力を乗っけた突きに、更に外部からの力が加わる。
加速したその攻撃は、目的を外れ大きく空振りをした。予想外の威力に引っ張られ、マルギッテの芯が大きくブレる。
瞬間、マルギッテを凄まじい悪寒が襲った。と、同時に、
ズガンッ!!!!
凡そ人が出したとは思えない程の音と共に、猛烈な衝撃がマルギッテを打った。トンファーでのガードが間に合ったのは完全に奇跡だ。偶々打たれる場所に置いてあっただけ。それがなければ、マルギッテはこの一撃で沈んでいた事だろう。
その余りの事実にマルギッテは冷や汗をかく。実力の高さは覚悟していた筈だった。しかし、現在修吾が放った一撃。マルギッテが知っている、世の達人の必殺の一撃の威力だった。しかしそれらは、明確に技として確立されており、その一撃を放つのは完璧なる型の一致が必要となるので、当たり前に時間を有する。
それを、世の中の誰よりも最短に、正確に。血の通っていない様な完璧な動き。まるで理論値そのままの動きをしたかの様な正確性だった。
「…っぐ!」
ガードした左腕に鈍痛が走る。後どれほど機能するかわからない。
マルギッテは状況を整理しながらも、目の前の修吾から一瞬も目を逸らさなかった。
が、
「ぐあっ!!」
瞬間、マルギッテの腹に衝撃が走った。
(な、何が…っ!!)
混乱の中、マルギッテはそこで初めて気付く。マルギッテのすぐ目の前には修吾が立っており、衝撃の走った腹には修吾の拳が突き刺さっていた。
視認すら出来ない速度。いや、そうではない。マルギッテには確かに見えていた筈なのだ。しかし反応できなかった。反応しようと思えなかった。
例えば鳩。例えば羽虫。人間がただ近くを通るだけでは反応すらしない。しかし、これがもし人間が意識を向けたとすると、生物は途端に回避行動を取る。人間も同じだ。
戦闘中、果ては日常の中でも、人間は無意識に対象からの意識を察知している。だが、もし意識を向けずに、純度100%の自然体で近づくものがいたのならば、鳩や羽虫と同じ様に、人は反応ができない。
つまり、目の前の修吾は、意識的に超自然的無意識を作ることができる。
なんという脅威的な精神コントロールか。
明確に見える、敗北のイメージ。だが、敬愛するクリスの安全のために、負けるわけにはいかない。
(奥の手でしたが、仕方のない)
マルギッテは力を振り絞り修吾から距離を置くと、自身の眼帯を取った。
「Hasen jagd」
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「Hasen jagd」
やっと見つけた俺の1人の時間を不躾にも邪魔してきた目の前の赤髪女がそう言った。
おい。お前今ウサギ狩りって言ったろ。確かに聞いたぞ。誰がウサギだ?まさか俺じゃないよな。この期に及んで自分が狩人の位置にいると思っているとか、そんなわけないよな。
「確かに貴様の、いえ、敬意を評して貴方と呼びましょう。貴方の武術は底が知れない。断言できる。私が今まで見たどの武人よりも緻密で、正確で、美しい。しかし、今の私は先程までより3倍は強いと思いなさい」
嘘ではない。確かに眼帯を外してから気が若干大きくなった。身体能力は3倍とまではいかないが、身体能力の向上は戦闘力の大幅な向上につながる。元々そのカラクリには気が付いていたが、俺はやれることはなんでもやらせ、その上で叩き潰すタイプだ。なので、今回も自由にさせてやる。
「貴方の技術は確かに神がかり的だ。しかし、運動能力までそうと言うわけではない。今の状態の私ならば、少なくとも身体能力は貴方を大幅に超えている」
なるほどな。確かに一理ある。俺の戦闘中の身体能力は、21歳男の平均的なそれと同等にしてある。今のこいつの身体能力と比べると、いや、先程までのこいつと比べてもかなり劣る。こいつはあの攻防の際にそれに気がつき、勝機があるとすればそこだと結論を出したのだろう。
はあ、なんて哀れなんだ。身体能力ならば俺を超えられる?バカが。元々俺は
まず気に食わないことが、身体能力さえ覆せれば、この俺に勝機があると思ってしまっているところだ。こう言う手合いには、何をしても及ばないと武を通して分からせるのが一興だ。
だが、今回はもっと許せないことがある。それは、身体能力ならば俺を超えられると思っているところだ。慢心を通り越して傲慢。
特段こいつに恨みはない。いや、多少なりともあるが、いつの日か俺に土をつけたあいつらほどじゃない。しかし、その傲慢さは許せない。
お前が身体能力に一抹の希望を見出し、そして縋ると言うのならば、身体能力のみでそれを超えてやろう。お前のその傲慢、上から叩き潰してやる。
俺は佇まいを直す。それは改善ではなく改悪。隙だらけの棒立ち。これが案外難しいのだ。俺の身体は放っとくと勝手に最善の佇まいを選んでしまう。それを意図的に解除するのだ。誰だって意識して同じ方の手と脚を出して歩くのは難しいだろう。
「……くっ!!それは侮辱ですか!!」
「どっちが。俺からすりゃお前の方が侮辱している」
「……後悔なさい」
それも、お前の方がだ。
先程までより少し速くなった女が俺に突貫してくる。ほらな。傲慢だ。先程の間合いコントロールはどうした。こちらが構えを解いたとしても、武を封じたとしても、それでもお前と俺との差は絶望的だ。
突っ込んでくる赤髪女はインパクトの瞬間を今の俺の位置にしている。だから、俺は型もクソもない動きで赤髪女に接近し、ボディに横払いの蹴りをお見舞いする。
「なっ!ぐぁっ!!!」
赤髪女は当然の如く弾き飛ばされる。先行で動いた訳ではない。後出しで、先に攻撃を当てる。それも赤髪女より遥かに出が遅い大振りの蹴りでだ。
技術も何もない。ただ純然たる身体能力。速さと言う一点のみで、不恰好なキックをお見舞いしてやった。
「そんな……まさか…。貴方はどこまで」
どこまでもだ。まだまだ序の口だが、本気を出して仕舞えば何か起こったかも分からないうちに殺してしまう。ので、大体こいつの2倍ほどの身体能力に固定している。
「腹だ。ガードしろ」
咄嗟にトンファーをクロスしガードしようとする女。俺が言ってからの行動だが、俺も駆け出している。俺の拳を出すのと、ガードが間に合うのはほぼ同時。それほどの差がある。打ち出す拳はただのテレフォンパンチ。当然だ。この状態で武まで並列したら内臓にダメージを与えてしまう。関節の連結はせず、1番威力の乗るタイミングは意図的に避け、素人の様な拳を放つ。
だが、それでも十分だ。
「がああ!!!」
女の両腕は弾かれ、トンファーが宙を舞う。勢いは殺しきれずに数メートルは後ろに吹き飛んだ。
「こんな…ことが…。まさに…怪…物…」
理解したか。何に縋っても無駄だ。身体能力も、武術も、過去俺に土をつけた何人の足元にも及んでいない。増してや、俺はそいつらをとっくに凌駕している。ああすれば勝てるとか、こうすればもしかしたらなんて、あるはずがないんだよ。
煩わしい奴はそのまま意識を手放した。
何はともあれ、一件落着だ。
冷静に考えるとこれは大分理不尽だった。俺は1人の時間を求めただけなのに、この赤髪女はなぜかそれを邪魔してきたのだ。俺が人目を忍んで釣りをしていることに、外野にとやかく言われる筋合いはない。公園とかでここは自分の縄張りだと主張する奴と同じくらいやば人だ。
まあいい。多少時間は無駄にしたが、1日はまだまだ長い。俺は釣りに戻るとしよう。
と、そんな時、1人の足音を感知した。探知を切っていたので少々気付くのが遅れたか。
「はあ…はあ…。あれ、しゅう兄?そうか、ゴールのお出迎えはしゅう兄か…」
……どこまで…お前らはどこまで俺の邪魔をすれば気が済むんだ?シフト制か?俺の邪魔をするバイトでもしているのか?
探知をオンにすれば、ここに複数の人間が集ってきている気配がする。まさか、あいつらなのか。そんな、まさか。
これは…夢だ…この俺の貴重な時間が潰されるなんて…… きっと…… これは「夢」なんだ……。
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もちろん夢ではなかった。
どうやら厨二病とクリスティアーネ・フリードリヒはなんらかの勝負を経た末に和解したようだった。赤髪眼帯女の交代制で俺を邪魔してきたこいつらは、しかし一件落着の様な雰囲気を醸し出している。
そいつは良かったな。ところで、俺のゴールデンウィークがもう後半戦に入り、終わりかけてるんだが、誰か責任取れる奴いるか?
俺の精神は限界を突破し、今は一種の落ち着きを見せている。ことここに至って、冷静に気になるんだが、お前らは1人の時間とかいらない人種なのか?その方が明らかに人間的に欠陥があると思うんだが。
まあいい。結果的に1人の時間はあまり確保できなかったが、自然は堪能できた。これならばゴールデンウィーク明けのあのデススパイラルもなんとか乗り越えられる………
訳ねえだろふざけんな。自然でまったりできると思ってた故に、そのギャップでいつもより一層疲れた気がするわ。本当に最悪だ。多分今俺は世界で1番可哀想だろう。このゴールデンウィークは俺にとって謂わば生命線だったのだ。
何故なら、九鬼から最近ある話を聞いた。全貌はまだ不確定要素が多すぎる為伝えられていないが、それでも俺の日常を、ただでさえ侵食されて濁り切ったこの俺の日常を、更に妨害し得る可能性のある話だ。それに備え、少しでも英気を養っておかなければならなかったのだ。
なのにこいつら…。
「どうしたんだ修吾。ほら、お前刺身好きだろ?アーンしてやる」
「しゅうお兄ちゃん!私の走り見てくれた!?」
「しゅーにい。私頑張ったんだ。色々話聞いてほしいな」
「しゅう兄ほんといつもどうしてベストな場所にベストなタイミングでいるんだろうな。誰かしゅう兄にゴール地点伝えたか?」
「いんや!朝には既にいなかったからな!俺はてっきりモロが伝えたと思ってたぜ」
「あはは。伝えてなかったけど僕は知ってたよ。しゅう兄なら必ず最後を見届けるところにいるってね」
「しゅう先輩。どうやらマルさんと揉めた様だが、勘違いだった様だ。迷惑かけて申し訳ない」
「わ、私今回何もしてないです…」
「しゅう兄。俺、勝ったぜ。柄にもなく熱くなったけど、やばそうな時はしゅう兄の背中を思い浮かべたんだ」
うるせええええええ!!!!
プロット?うちにはないよそんなの。