たまーに感想を読み直すんですが、ほんともう何年いるんすかっていう古参がちらほら。
こんなありがたいことはないですねほんと。
さて、前回が6/15で今回の更新が6/19。
おお、3日ぶりに見える。これは更新強者。
……まじすんませんて。ちょっとちょけただけじゃないですか…。
安らぎを欲している。
思えば俺の日常生活は地獄の日々だ。
寮にいる時間と学校にいる時間。この1日を占めるほとんどの時間が俺にとっては憂鬱を極める。では、たまの休日を誰もいないどこか遠くへ行こうとすれば、それすらも逃がさないとばかりに煩わしいシガラミ達がまとわりついてくる。くろいまなざしか。
以前から考えていたことがある。
何か一つでも、心身を休めストレスから解放されるルーティンが欲しい。
これは主に、趣味などで実現可能だろう。
だが、趣味はすぐに見つかるものではない。とりあえずやってみればいいなんてよく言われるが、俺の場合ほとんどのものは趣味ではなく作業になってしまう。
ゲーム。
アクションゲームは理論値を出すものであり、心理戦は相手の思考が手に取るようにわかる。
映画鑑賞。
落ち着いて1人で映画に集中できる時間がほとんどない。
山登り。
論外。
上記より、趣味を満喫するのもある程度の能力的欠落がないとダメなことを知った。
そもそも、趣味を享受できる時間が充足しているのであれば今より幾分かマシなはずなのだ。
安らぎを欲している。
つまり、趣味を見つけることは現状困難であり、そもそも趣味に十分に割ける時間がないことすら問題なのだ。
改めて考える。俺の解決したい課題の本質は何か。要は安らぎなのだ。そこに手法などの邪念はいらない。つまり1人の時間を確保することが最優先。
そして、その時間の確保がネック。
俺の1日の予定の中で唯一邪魔される可能性が極端に低いのはどこだ?
答えはすぐに出た。鍛錬の時間だ。
鍛錬の時間を削るわけではない。ただ、時間を長く確保して仕舞えばいいのだ。
特にランニングの時間が狙い目だ。
ランニングに出掛けて、どこか静かなところでゆっくりする時間を取ろう。そうしよう。
この程度で1日のストレス収支をどうにかできるとは思っていない。ただプラマイちょっとマイナスくらいには抑えられる可能性がある。
そう決意した日から、俺はランニングの時間を多く取ることにした。
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1日目。
上手く行った。
俺の思惑は不自然なほど綺麗にハマった。
具体的に言うとランニング中に隙を見て河川敷で睡眠を取ってみた。めちゃくちゃ快眠だった。時間もコントロール出来るため不自然ではないくらいで起きることができる。
2日目。
上手く行った。
漠然とした不安があったのだ。
何かにこの幸福を壊されるのではないかと。しかし、何も起こらなかった。
2件青インキャと馬鹿から着信が来ていたが、当然の如くスルーした。
3日目。
上手く行かなかった。
しかしイレギュラーだ。
睡眠中、身体が先に察知し身を躱してから目が覚めた。そこには金髪ちょび髭クソジジイがいた。とうとう俺に恐怖を抱き寝込みを襲うとこまで来たのかと思ったが、要件があるとのこと。
どうやら九鬼の新プロジェクトの一環で、ここ川神の治安改善をしているらしい。まだまだ治安が悪いところもあるそうで、俺には独自で動き協力しろとのことだ。まあ全くする気はないが。
要件だけ言うとクソジジイはジャンプして去った。
………寝込みを襲ったのと関係ねえじゃねえか死ねクソが!!!
4日目。
俺はもう何かに憑かれてるのかもしれない。
やっと得られた至福の時間でさえ、イレギュラーによって邪魔される。
昨日はまだちょび髭ジジイの介入であったから自分の中で落とし込むことができた。何故ならちょび髭ジジイは頻繁に絡んではこないからだ。要件がないのに毎日会いにくるタイプでもない。
なのに。
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睡眠中、身体が反射で反応し身を翻す。次いで意識が覚醒し状況を知覚する。
昨日に続きまたかと内心毒吐くが、目の前にいたのは金髪クソジジイではなく、青髪ロングの巨乳女だった。
青巨女は先程まで俺が寝てたところをエアハグする形で寝そべっている。
「ZZz」
最初はどういう意図かと思ったが、鼓動や呼吸からみて寝ている事は確実なようだ。
となると経緯はさっぱりわからないが、悪意からくるものではなく本当に偶然接触してきたのだろう。
ふむ。ルックスは悪くない。身体つきもいい感じでエロい。
もしこいつが睡眠中に抱き枕のように俺を抱こうとしたのなら、それを甘んじで受け入れるのも悪くない。
が、今回の主旨は安らぎだ。俺は他人がいる空間で寝ることが好きではない。増してや接触されながら安眠をするなどもっての外だ。不可能と言ってもいい。
と言うことで、いい機会ではあったが俺は場所を移すことにする。
川沿いを軽くジョギングし、俺はいい位置を見つけまた睡眠を図った。
__________
「っち」
睡眠中、またしても接触を図ってくる何かしらの気配を感じ、反射で身を起こす。
今度はなんだと、イラつきの最中原因の元を見ると、そこには先ほどの青巨女がいた。
……なにが?
こいつは先程撒いたはずだよな?
どういうことだ。もしや意図的か?
俺は女を注意深く観察する。
「ZZz」
……間違いなく寝ている。これは……まさかタイムリープか。つくづく川神は変な場所だと思ってはいたが、まさかタイムリープまで起きるとはな。
…いやそんなわけないな。携帯が指す時刻も、俺の体感も、太陽の位置も、先程から時間が経っていることを証明している。
ということは、新手のメリーさんか。
メリーさんだって近づく際には一報入れると言うのに、最近の怪異はなんて礼儀がないんだ。そういう常識のない行動は、俺のような常識から逸脱する実力があって初めて成り立つ。
お前にそんな実力があるか?俺と同じ領域にいると自負できるか?
そんなわけがないだろう。あまり驕るのもいい加減にしたらどうだ。
っと、危なかった。キレかけるところだった。
というか、まだ俺を追跡して来たわけではない可能性が残っている。何故ならば俺とこいつは初対面。そして接触を図り何か能動的にしてくることもない。俺を目的としているのであれば俺が起きたタイミングで何かしらのアクションをとってくるはずだ。
となると、考えられる可能性は単純なルート被り。川上に行くルートと、こいつのルートが奇跡的に被っているのだ。
仕方ない。こう言った状況で俺が折れるのは非常に癪だが、そろそろ時間もなくなって来ている。最後の安らぎタイムを求めて、ここは俺が引き下がり川を下ろう。
俺は足早にその場をさり、川下へと向かった。
__________
「っちぃ!!!」
再三にわたって、またしても俺は睡眠から強制的に意識が引き上げられる。
目下には青巨女。
やってしまったな。
ことここに至って偶然は無理がある。目的はわからない。わからないが、この女は確実に恣意的に接触してきている。寝込みを襲うわけでもなく、起こして用件を伝えるわけでもない。経験上こういう手合いは確実にヤバ人だ。本来関わるのは非常に面倒だが、このまま放置してると俺の精神が崩壊するまで付き纏わられかねない。ここはしっかり精算しておくべきだろう。
「おい。起きろ」
「ん〜〜?」
非常に眠たげに目をこすりながら起きる青巨女。人の睡眠は妨げておいて、良いご身分だな。
「何が目的だ?」
「え〜?」
この距離で聞こえてないわけないだろうが。スッと答えろ。
「……あ。君ー気持ち良さそうに寝てた子だよね。君見てるとさー私も日向ぼっこしながら寝たくなってくるんだよね〜」
はいヤバ人でした。もちろん回答になっていない。寝たくなったのならどっかで寝てれば良いだろ。
「でもなんでだろ。すぐ目覚めちゃって、起きたら横に君がいないからさ〜。また散歩してたら君がいて、寝て、の繰り返し」
それをストーカーと言うんだ。
「俺は誰かと寝ると安眠できない」
「でもくっついて寝るとあったかいよ?」
なるほどな。会話ができない。そもそも同じ言語をかいしていないやつに物事を伝えるのは困難を極める。そもそもこいつの保護者はどんな教育をしているんだ。人の睡眠を邪魔してはいけないなんて当たり前に習うことだろうが。
「えー、でも師匠はお前は好きに振る舞ってろーっていつも言ってるよ」
毒親が。なるほど。悪いのはそいつだ。こんなものを社会に放り出すな。どうせどうしようもないやつなんだろうな。
「うーん。あんまよく知らないけど、なんか自由にやってるよー」
どうしようもないやつだな。
別に世界のどこかにいるクズのことなどどうでも良いが、本来なら一言、場合によっては一発ぶちかましてやりたいところだ。
「兎に角。俺は誰かと睡眠する趣味はない。今後は見つけたとしても添い寝するなよ」
もうほぼ時間もない。帰宅するとしよう。
朝から最悪な出だしだ。今まで何とかファミリーが人生における安らぎの障害だと思っていたが、第三者まで介入してくるとなると、等々運命力を感じる。世界そのものが、俺を邪魔しようと画策しているようにすら思える。
良いだろう。世界が嫌がらせをするのであれば、俺は世界にすら打ち勝とう。運命力など、この俺の前では全てが必然に淘汰されることを教えてやる。
……と。
「おい」
「んぇ?」
一度立ち止まり背後を向く。そこには何食わぬ顔の青巨女がいた。
「何故ついてくる」
「私も帰ろっかなーって。すぐそこだし」
青巨女はそう言って眼前を指差す。直線上を辿るとそこは橋の下だった。
ほう。なんだ、すぐそこなのか。であれば話は変わってくる。面倒臭いからそこまでの労力はなかったが、帰り道のすぐ寄れる場所にあるのであれば、保護者とやらに対面も可能であろう。
「俺も行こう」
「およ。ついてくるの?いいよー」
用があるのは保護者にだがな。
橋が近づくにつれて、俺は妙な違和感を覚えるようになった。それは、先ほどからオンにした気配探知からくるもの。
確かに橋の下には人がいる。いるが、そのうちの一つがどうにも気になる。こういう時に俺のハイスペックボディが裏目に出る。俺の脳は基本全てを記憶することが可能だが、根底でどうでもいいと思っている物事などは急に全く記憶しなくなる。ただ、その俺ですらなんとなく何かを感じているということは、余程のことがあった相手ではないのか?
ふむ。だがこの分だと思い出すより姿を拝む方が早そうだ。
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「うーい!山菜とってきたぜー!」
「山なんてどこにあんのさ天。それは野草っていうんだよ」
「俺の方はブラックバスが2匹取れたぜ。大漁ってやつだ」
「俺はさっき助けたばあちゃんからもらった餅があるぜ」
「思いの外豪華になったじゃないか」
橋の下では如何にも終わった奴らというような形の男女が鍋を囲っている。
そこに俺を抜かして少し前を歩いていた青巨女が合流した。
「やっほーみんなー」
「遅いじゃないか辰。材料揃ったから料理しとくれよ」
「うちもう腹ペコだぜー」
わかってはいたことだが、こいつらが青巨女の家族で間違いないらしい。よく宇佐美の依頼で親不幸通りに赴くが、そこにいる連中と同様の人間性をこいつらに感じる。
が、俺の目に止まるのはその中の一人。
「ん?なんだい辰。知り合いでも連れてきたのかい?」
「おいおい。偉く綺麗な顔してんじゃねえか。兄ちゃん。俺らになんのようだ?」
俺が九鬼に身を置いていた3年間。任期を終え、久しぶりに川神院に顔を出した時確かにすでにいなかったが、こいつこんなところで何してやがんだ。
昔と変わらず、そいつの気怠そうな目がはじめてこっちを向いた。必然、目が合う。
「お?おうおうおう!修吾じゃねえか!?久しぶりだなぁおい。こんなとこで何してやがんだ」
「こっちの台詞だ」
釈迦堂刑部。かつて川神院の師範代であり、相当土をつけられた癪に触るおっさんだ。
「なんだ師匠の知り合いか。誰こいつ」
赤髪ツインテールの女が親指で俺を指しなが釈迦堂に聞く。なんだこのクソ礼儀知らずなガキは。さっき青巨女も師匠と言っていたが、つまり釈迦堂はこいつらの保護者で間違いないのだろう。どんな教育してんだこいつ。
「まあ、昔の弟子みてぇなもんだ。んで、何の用だ。久しぶりに稽古でもつけてほしいのか?」
………稽古?稽古って、稽古のことか?………あぁ!?舐めてんじゃねえぞ草臥れた汚ねえおっさんが!
「……っ!!」
「うぉっ!何だこいつ急に」
「Zzz…」
「おっと。急に臨戦態勢か。どういうつもりだ?」
俺の逆鱗に触れたことを理解したのだろう。寝ている青巨女と釈迦堂以外の奴らが咄嗟に身構える。釈迦堂は明確に構えることはないが、重心がやや右足に移った。
なんだ?構えを取らなくていいのか?その程度の備えで、この俺とやるつもりか?
昔ならいざ知らず、現在の絶望的な実力差を教えてやろうと踏み込もうとした時、気配探知に新たな気が引っかかった。
……っち。何の用だ。つかどんだけ暇なんだこいつ。
「俺からの依頼だ。九鬼の新プロジェクト、武士道プランの実施によって、町の掃除をしている。つまり、貴様らのような歯を剥き出しにした連中は対象者というわけだ」
「うわっ!どこから現れやがったジジイ!」
「今日は随分と賑やかじゃないか」
この金髪ちょび髭ジジイは急に現れることに美学でも感じているのか?格好いいとでも思っているのか?年甲斐もなく痛々しい野郎だ。
「仕事の早さは相変わらずだな修吾よ。釣れた獲物も大物ときてる」
何の話だジジイ。今から釈迦堂刑部をボコす予定だ。何でもかんでも首突っ込んでくんな。
「あんた、確かヒュームとか言ったか」
「久しいな釈迦堂よ。かつての貴様は才能に溢れ、誰もが将来を期待する若者だった。だが、今の貴様ときたら。いかに巨大な原石だとしても、磨かなければ雑多な石と相違ない」
「こちとら不良なもんで。んで、あんたが相手か?」
「言っただろう。俺は修吾に依頼した身だ。九鬼が望むことは一つ。まっとうな職につけ釈迦堂」
んなことどうでもいいんだよ。あまり長いようだと不意打ちするぞおっさん。
「嫌だね。縛られて生きるなんてごめんだ」
「では実力主義と行こう。修吾」
は?なんだその感じ。お前に言われずともやる気だったのに、今やったらお前の命令で動いたみたいになるじゃねえか。死んでもごめん被る。釈迦堂刑部は確かにムカつくが、今のでお前へのムカつきがやや勝った。
やるなら自分でやれ。
「爺さんよ。俺にとやかく言うよりそいつに苦言を呈したほうがいいんじゃねえか?昔より気もさほどデカくなってねえしよぉ!」
はい殺す。昔のままで安心したよ釈迦堂。さぞ殴りやすそうだ。
「何なら弱くなってねえかァ!?修吾!」
上等だよ。一人目のリベンジマッチはお前で決まりだ。
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「オラァ!!リングゥ!」
ダンッ!と地面を踏みしめ、釈迦堂が輪っか状の気の塊を放つ。
体外の気を、形を維持したまま放出する。言葉にすれば簡単だが、中身は絶大な気の奔流。
暴れ回る暴力的な気を、霧散させずに体外へ放出することは、正しく絶技と言える。
ガードすれどもダメージは少なからず発生する。釈迦堂は修吾の回避パターンを読み、対応できるように足を踏み締める。が。
「ふっ」
修吾が短く息を吐き、リングに手刀を放つと綺麗に両断された。
本来であればリング内部の気が抑えを無くし爆発する。だが、2つに別れたリングはそのまま修吾の両サイドを通過した。
「あ?」
ただの気の放出を必殺に至るまで高めた絶技。それが両断されるなど、釈迦堂にははじめての経験だった。
冷や汗が釈迦堂の額を伝うなか、修吾が一歩、足を出す。
相手の技巧は今目撃したばかり。釈迦堂は修吾に対する警戒心を最大限引き上げ、細心の注意を払いその挙動を注視する。
が。
「うぉ!?」
気づいた時には修吾は目前にまで迫っていた。
スピードではない。確かに修吾はここまで歩いてきた。
だが、それを見逃した。
いや、それも正しくない。見てはいたが、認知できなかったのだ。
修吾が下げていた拳を釈迦堂に向け加速させる。
この段階で知覚できたのはまさに幸運。
釈迦堂はギリギリで、自分の腹部に迫る拳をガードした。
「があっ!」
気で覆った自身の腕に突き刺さる拳。
依然として修吾から感じる気の量は自分より圧倒的に少ない。だが、その威力は致命の一撃になり得る。
ガードの上から叩きつけられた衝撃に、釈迦堂が飛ばされ後退する。
「はぁはぁ。んだよそれ。得体が知れねえな」
武の天才、を上から嘲笑うほどの規格外の才能を持つ釈迦堂。
もし、その才能と同等の、いや同等以上の才能を持つものがいたとしたら。
もし、その怪物が、寝る間も惜しむほどの狂気的な鍛錬を積み続けたとしたら。
こうなるのは必然なのだろう。
修吾は、まごうことなき極致へ既に足を踏み入れている。
「はっは!」
釈迦堂の口から笑いが出る。ずっと長い間忘れていた、ひりつくような高揚感。
こんなにも楽しくてしょうがないことを何故忘れていたのか。
「可愛くねえ弟子だぜ全く!」
駆け出す釈迦堂。
二蹴りで修吾まで肉薄し、ラッシュを仕掛ける。
風を切り裂く音を轟かせながら襲いかかるそれらを、修吾は躱し、後退し、ずらしながら回避していく。
当たるようで当たらない。
届くようで届かない。
まるで幻影に殴りかかっているかのような手応えのなさに、しかし釈迦堂は焦ってはいなかった。
武を極めたが故に備わった、修吾の癖。
当たっていると見間違うほどのギリギリの回避。そこをつく。
ラッシュの中で、釈迦堂は瞬時に左手にリングを生成。拳を回避しようとも、リングは拳より範囲が広い。掠りでもすれば勝負を決める一撃にもなり得るだろう。
「オラァ!!」
リングを携えた左手を修吾の顔面に向け高速で放つ。本来は隙を見て決め手としたかったが、残念ながら修吾に隙らしい隙は存在しない。
なので、無闇に放つ。だが、またギリギリで回避しようものなら大ダメージだ。
が、釈迦堂がその拳を放つと同時に、修吾はスウェーをしながら釈迦堂の懐へ入り込んだ。
リーチを見誤った釈迦堂の拳は修吾の顔面を遠く外れる。
呼吸を読まれた。武の技巧は先ほどの一合で理解したつもりだったが、修吾の実力を形成するものはそれだけではなかった。
どのタイミングで相手が仕掛けに来るか。我慢が切れるポイントはどこか。その全てを修吾は相手の細胞の動きから知覚する。だが、それらを最大まで秘匿し、隠し通したとしても、修吾には通じない。
視線一つ、攻撃の威力の微差に至るまで把握し、最後は相手の動きを直感で読み切る。
長らく見ない間にいつの間にか身につけていた悪魔的な読みの技術。
「っ!!」
驚愕する釈迦堂は、しかしその頭脳を高速で回転させていた。
自身の必殺は潰されたが、間合いが潰れたのは相手も同じ。この至近距離で攻撃に威力を乗せるのは難しい。
ならばガード上から攻撃を喰らい、その衝撃を利用し距離を取ろうと思考する。
が、
トン…。
修吾は拳を釈迦堂の胸に添える。
戦闘中とは思えぬほど、あまりに静かな挙動。
苛烈な戦闘に突如出現したその空白は、その場からも一瞬音を消し去った。
風に揺らされる草原の音すらうるさく感じる静寂。
修吾が大きく足を持ち上げた。
「ほんと…可愛くねえ…」
釈迦堂が小さく呟いたその刹那。修吾の足が勢いよく地面を踏み締める。
ダンッ!!!!!
瞬間周囲すら揺らす轟音と振動が響く。
足を地面に打ちつけた衝撃はそのまま修吾の体を伝達し、その過程で猛烈に加速していく。
「ぐああ!!!」
そして、当てられた拳から釈迦堂の身体へ破壊の嵐をお見舞いした。
内部で荒れ狂う衝撃に、釈迦堂は吹っ飛ばずその場で仰向けに崩れ落ちた。
「んだよ…。無茶苦茶強くなってんじゃねえか…」
力を振り絞り、不器用な男がかつての弟子に最大の賛辞を送る。
意識が途切れる中、背中越しにこちらを一瞥し、去っていく修吾の姿が目に焼き付いた。
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すっきりした。だが、想像以上ではなかったな。
過去に辛酸を舐めさせられた相手だ。もっと清々しい気持ちを想像していたが、いかんせん弱すぎた。こいつ、最後に見た時と変わってない。というか、弱くすらなってるだろ。
「ご苦労だった修吾。後の話は俺が受け持とう」
去り際、金ジジイを通り過ぎる時に声をかけられる。
ほんとムカつくなこいつ。
だからお前がそういうとお前の部下みたいになるだろ。ふざけんな第2ラウンドはお前か?
「……かつての師弟の真剣勝負に、依頼という不純物を入れてしまったことは謝罪しよう。だが貴様らの様な実力者が道端で急に戦闘を始めてはならないこともまた事実。九鬼からの依頼という形であれば、問題にはなるまい」
俺は常々思うんだが、「謝罪しよう」とか「謝罪する」って謝罪してないよな。何言うてるかわからんが、謝罪の気持ちがあるなら頭下げるのが道理だろ。お前人生で頭下げて謝ったことあんのか?ないだろ。だから偏屈なジジイが出来上がったのか、偏屈だから謝罪しなかったのか。
…まあとりあえず成り行きとは言え釈迦堂刑部を下したのは良いといえよう。
本来の想定した安らぎはなかったが、多少はいい気分で帰宅できるな。
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朝の一件のおかげで、俺の気分は多少ましの中登校した。
弱いとは言え、そこら辺のチンピラよりは強い。故に暇つぶしにもちょうど良かったし、長年の鬱憤を晴らせたことも素晴らしいといえよう。
「返済の催促メールがこんなに沢山…。まだ期日じゃないのに、せっかちなんだよなー。あんま急かすなよー」
ここ数ヶ月で1番いい1日のスタートだった。金髪ちょび髭ジジイはムカついたが、差し引きしてもいい朝だった。
「なあ修吾ー。次何でも屋のバイトあったら誘って欲しい。ちょっと返済が危ない」
だから、多少の事なら許容できる。
俺はいつもより機嫌がいいからな。
「ふふっ。おいー。何無視してんだーこいつめー」
例え、やっとの昼休みに屋上の貯水タンクの上で優雅に読書しようとしてたところを、川神百代が隣にきてずっと嫌がらせをされたとしても。
例え、風の気持ちいい屋上なのに横にくっついたこいつのせいで暑苦しかったとしても。
全然、気にする事ではないのだ。
「うちの学校ってマンモス校の割には屋上とか人いないよなー。しかも貯水タンクの上って、よく見つけるもんだ」
……つかこれ常人だったら絶対腕痺れてるからな。寝そべりながら片手で読書は割と面倒だ。
なんでこいつといいくっ付く癖があるんだ?
四六時中人とくっ付くなんて俺でなくとも人間皆嫌なもんだろ。絶対俺がマジョリティだろこれ。
「……人目、無いな…。」
ふと川神百代が体制を変えた。
横目で確認すると、触れ合う程の至近距離で顔がこっちを向いている。
何故こんなにも顔もスタイルもいいのに、お前は俺の宿敵なのだろうな。
「なあ、修吾…」
ふと、俺の携帯が振動する。本を置き、空いている手で来ていたメールを開いた。すぐ横で川神百代も当然の様に画面を覗き込む。
『よ、帝明。
また一件頼みたいバイトがあるんだが、今日時間あるか?』
送信主は宇佐美か。
昼休み終了まではまだ時間がある。向かうか。
「くっそぉ。髭め…」
と言うわけだからいい加減どけ。
_______________
屋上からその足で第二茶道室へ向かう。
川神百代は俺の背中に乗っかっている。子泣き爺か。
スライド式の扉を開け、広いのにこざっぱりしている室内に入る。
「お、帝明。早いな」
「やあしゅう兄。そして姉さんも」
中では宇佐美と厨二病が将棋を指していた。
「朝ぶりだな弟よ。後髭」
「えぇ…。なんか冷たく無い?おじさん傷ついちゃうな…」
ここ第二茶道室は宇佐美が私物化している空き教室だ。九鬼からの依頼がない時は何でも屋からの依頼でバイト代を稼いでいるので、俺も割と通っていたりする。
「帝明も来たし、依頼内容の話に移りたいなーなんて」
「だめだよ。早く次の手指して」
「まぁ、そうだよねえ…。いつも悪いな帝明、もう少し待っててくれ」
「ごめんねしゅう兄。すぐ勝つから」
「おっと。そう簡単にはいかせねえぜ」
おいふざけんなよ。お前から依頼内容スッと聞けた試しねえじゃねえか。
っち。手持ち無沙汰だ。雑魚同士の戯れみたいな将棋でも眺めるか。
適当に畳に座り、盤面を眺める。
……もう詰めろじゃねえかよ。さっさとしろ。
「修吾は将棋やるのか?私は難しくてさっぱりだが」
「正直勝負にならないレベルで強いよ。前に髭先生と対局した時なんか4枚落ちでボコボコにしてたもんね」
「4枚落ち?」
「ザクでガンダムに勝つみたいなもん」
「ただのザクでか!」
おい喋りながら打つなよ。ミスってんじゃねえか。
「あれは凹むよ。ほんとできない事ないのお前って」
ないね。俺から言わせればなんでこんな簡単なゲームでそこまで手こずるのかがわからん。
偶々だろうが、宇佐美は現状の最善手を打った。おい、これまた伸びるだろ。
「おや、これ結構いいんじゃない?」
「やるね。ごめんしゅう兄もうちょっとかかりそう」
おい昼休み終わるまでに終わるんだろうな。
「うーんわからん。私は寝る」
少しの間理解しようとしたのだろうが、脳のキャパを超えた川神百代が俺の膝を枕にして睡眠に入る。
限られた昼休み。
屋上に行けば川神百代に付き纏わられ。
茶道室に行けば面白味のない将棋を見せられ。
挙句再度川神百代に密着される。
………今日プラマイ大マイナスだろ。
本来修吾は、心を許していない人間の接触を許容しません。
都合により釈迦堂とヒュームの掛け合いを原作より早めてます。
さて、さてさてさて。
やっと次回、Sに入れます。
マジ長かった…。
やっと書きたかった本筋書ける。
もうね、原作とかね、忘れたよね。
原作強者の読者達。助けてね。
後これを読んでいただいたすべての読者へ。
まじこい流行れええええええ!
再熱しろおおおおお!
書いてくれてもええんやで