真剣で聖人君子(ではない)   作:ピポゴン

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今回みたいに主人公視点と他者視点で話を区切る場合は、それぞれのタイトルが主人公視点と他者視点に対応します。

こんな投稿頻度なのは最初のうちだけね


やはり義務教育に生物飼育は必要

 よく考えてたら俺は川神百代に負けてないのかもしれない。いや確かにあの時負けたは負けたが、武術の腕は拮抗していた。じゃあ何故負けたかと言えば、それは体力の差である可能性が高い。んでもそれはあいつが武術をやっているという基礎があったから生じたものだ。センス、才能、パワー、スピード、才能、才能。全て俺の方が優れている。多分。それはもう負けてないと言っていいんじゃないか?むしろ勝ってるだろそれは。が、次に戦うときはあいつの心を折るために完勝してやることに決めている。体力の差で負けたのなら、まずは体力をつける。それ以外に化け物の鉄心や師範勢に勝つために思いつく限りの修行はやろう。思い立ったが吉日だ。早速明日からジョギングでもするか。

 

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 と思ったが、今日のジョギングはやめておこう。何故かって、別に俺の意思が弱いとかじゃない。朝からめちゃめちゃすごい台風が来てんのよ。こんなん神がジョギングとかやめときって言ってるようなもんだろ。はい、しませんよジョギング。ぶっちゃけだるいしなぁ。うん決めた。

と、テレビを見ようとした時、同じリビングにいた母さんが喋りかけてきた。

 

「しゅう君?お友達から電話が来てるんだけど…」

 

 よし、ジョギングに行こう。男が一度決めたことを投げだしてはいけない。すぐ行こう。本当にすぐ。俺に友達なんてものはいない。それなのにそんな電話がかかってくるなんて嫌な予感しかしない。しゅう君はたった今出かけてしまいました。

 

「あら……。ごめんねー、えっと、大和君?しゅう君なんだか慌てた様子でどっかいっちゃったみたい」

 

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 うわー、外やべー。牛とか飛ばされてっけど、なんでこの街は警報とか出さんのかね。異常事態だろこんなの。超人スペックの俺からすれば微風程度だが、凡人君達にはさぞ危ないものだろうに。しかしやっぱり雨に濡れるのは不快感がすごいな。適当に走ったらすぐ帰って風呂にでも入ろ。この風じゃ家に何か被害出てないかとか気になるしなー。

ほら、今だってでかい看板が俺に向かって飛んできた。じゃかあしいねん看板ごときが。適当に蹴り飛ばしておく。雨は嫌いだけど、ここまで大規模な台風だとちょっと興奮するよね。

 

「しゅ、修吾!!やっぱり来てくれたのか!」

 

「え!?修吾さん!?大和がいうには家にはいなかったって…」

 

「俺はわかってたぜ…。来てくれるってな」

 

 ………ん?え、誰だこいつら。

 

「修吾!わかってるとは思うが手伝ってくれ!私とお前で飛来物からこいつらを守るぞ!」

 

 ………っあー!川神百代は分かっていたが、こいつらあれか。あの将来性皆無集団か!!なるほど前からグループの過半数は馬鹿だとは思っていたが、凡人のくせにこんな台風の夜に出歩いてる所を見るとまじで救いようがないな!んで、何してんだこいつら。

 

「頼む!もってくれよ竜舌蘭!」

 

 本当に何してんだ。でかい植物になんかしてんのか?あ、台風から守ってる系?謎の慈善活動。立派だねー。と、そんなことを思ってる間にも角材やらなんやらは飛んできてるわけで、俺は特に意味もなく蹴ったり殴ったりして逸らしていた。

 

「よし!終わった!!」

 

 あ、割とすぐ終わんのな。んじゃ、俺ジョギング再開しよ。と、軽めに走り出したわけだが、何故か馬鹿2人と厨二と臆病者ががついてきている。

 

「そっちは頼んだぞ修吾!」

 

川神百代はそれだけ言い残すと何人かを抱えて走り出した。え、何が?よくわからんけど何かを頼まれるのはまじでごめん被る。無視してジョギングジョギング。

 

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 次の日、俺は好奇心から昨日のよくわからん植物を見に行くことにした。昨日は興味なかったのであまり見ていなかったが、確か相当でかかった気がする。まあこれで行って枯れていたら多少萎えるが。が、実際その場に向かうと枯れていることよりよっぽど萎えた。将来性皆無集団がその植物を中心にワイワイやっていた。あんま好きじゃないんだよなーこいつら。遠目でそいつらを見ていたらこっちを向いた百代と目があった。うわ、見開いた。駆け寄ってきた。

 

「おーい修吾ー!お前家に電話しても出ないから困ってたんだぞー!」

 

そりゃそうだ。母さんと父さんは今外出中。俺は基本電話には出ない主義だしな。番号確認くらいはするけど。まあお前らからの電話はまず出ないから安心しろ。

 

「もうちょっとでみんなで迎えに行こうかって話してたんだ」

 

これからは必ず電話出るから安心しろ。つか、俺ん家しってんのお前だけだよな?おい絶対教えるなよマジで。分かってんだろうな?

 

「勝手なことするな」

 

「なんだよーその言い草ー。照れるなよー」

 

あ、脳回路終わってる民。まあいい。遠目でもあのでかい植物の見た目はわかった。もちろん俺は目もクソいいからな。大して綺麗でもないあの植物の葉緑体の個数すら見えるぜ。嘘だけど。とりあえずもういいし帰ろ。

 

「じゃあ写真撮るぞ!」

 

が、何故か俺は襟を掴まれ引きずられていく。何してんのこいつ。キレ散らかすよ?

 

「はい。じゃあとるわよ!3.2.1!」

 

「修吾は私の横だぞ!ほらくっついてやる!嬉しいだろ!」

 

横が相変わらずうるさいけどここは無視。

おい、折角撮るなら映えさせろよ。そこら辺うるさいぞ俺は。日光の関係から、俺は正面に対しちょっと斜めを向く感じで、いやいっそ横顔にしちゃうか?50度から55度とかがベストか?

 

「うんうん。いい写真だわ」

 

確認させろおばはん。

……うーん、いややっぱ43.7度がベストだったか…。これは映えてないな俺が。まあ、俺が持つわけでもないし、ネットにあげるわけでもないだろ。どうでもいいか。さ、帰ろ帰ろー。

 

「よーし!じゃあこのまま隠れんぼでもするか!」

 

おう、楽しんでくれ。じゃあな。

 

「もちろん修吾さんもですよ!」

 

「偶には遊びましょうぜ!」

 

アホか。俺とお前らで遊びになるわけがないだろ。俺は弱い者いじめは趣味じゃ…いや趣味だけど。うーん、趣味といえば趣味だなぁ。うーん。うん。まあ、うん。いっか!弱い者いじめしよー。

 

やるやるー俺もやるー。

 

 

 

 

 

 

 

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あの台風から少し立って、最近学校では飼育体験なるものが開始された。飼うのは魚。基本的に俺はこう見えて動物が好きだ。なんなら人間より好きまである。何故かって、だって奴らは基本人間より弱い生き物である。どんな生物も本気になった人間には勝てない。今回飼う魚という生物は特にいい。あいつら下手な動物みたく反抗してこないのだ。いつも川神勢からマウントを取られている身としては、自分より圧倒的に下の存在と一緒にいることは心の安らぎなのだ。それはもう素晴らしいと思わないか?

と、ここまで俺は動物が好きなのに……。なんで飼育するのが一年下の代な訳?

 

 

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こうなりゃ仕方ないと、俺は放課後みんなが帰ったタイミングで魚が飼育されているクラスへ赴くことにした。水槽は教室の1番後ろのロッカーの上に置かれていた。ふむ、いたいた。優雅に浮かんでやがる。やっぱり魚ってのは何考えてるか分からんわ。そこがいいんだが。

俺は適当な椅子を一つ拝借し、水槽のすぐ近くに座った。することといえば単なる読書である。魚はほぼほぼ関係ないが、これでいいのだ。あー、日頃のクソマウンティング野郎共への憎しみが浄化されていくようだ。

と、そこで俺は水槽のやや右に、壁に貼り付けられた紙を見つけた。そこには世話焼き当番表と書かれており、3人の名前が乗っている。ふむ、日にちによって当番を変えているのか。まあ、せいぜい長生きさせてほしい。

 

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最近では放課後にチャッピーの元へ向かうのが日課になりつつある。チャッピーとはもちろん魚の名前。俺命名である。毎回行ってもやることは変わらず、ただ静かに読書をするくらい。が、今日は本当に気まぐれに餌でもあげてみたくなった。水槽の横にあった餌を適当な量振りかけようとする。が、

 

「あ、あの。魚への餌やりは決まった時間にやると決まっているので……その…」

 

やや後方からそんな声がかかる。振り返るとそこには1人の女が立っていた。あまりに周りに無関心すぎて気づきもしなかった。青髪に蒼眼。辛気くさそうな雰囲気を持つこいつは誰だろうか。十中八九この教室の人間だが、もちろん名前を知っているわけではない。違うクラスだし。つか同じクラスのやつの名前すら知らないし。

 

さて、俺の嫌いなことに実は意見されるというものがある。何か行動を起こそうとした時に意見されるのは若干腹立つのだ。が、今回チャッピーの健康を考える上では確かにあげない方がいいだろう。

気に食わないが仕方ない。俺は餌の蓋を閉じて、元の位置に戻した。そして俺も元の位置に戻り読書を再開した。

 

「クスッ」

 

するとその青髪の笑う声が聞こえた。消え入りそうに小さな声だったが、俺は聞き逃さなかったぞ。何笑ってやがんだ。馬鹿にしてんのかこの野郎。俺はその意を込めてそいつを睨む。

 

「あっ。いえ、なんでもないです」

 

するとそいつはビビったのかそそくさと教室を後にした。ふん。最初っからそうしてろっつんだ。

 

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………また居る。あのさぁ、なんでそう毎日毎日いるわけ?別に人がたくさんいるわけでもないのに教室の隅に座って静かに本を読んでいるそいつ。他でもない、あの青インキャである。

最初は気にもとめていなかった存在だが、一度注意されてから妙に俺の視界に写り込むようになった。原因はわかっている。俺に注意した挙句、勝ち誇ったかのように微笑したこいつがイラつくのだ。

 

「あっ…」

 

そいつはこちらに気づくと一瞬本から目を離し、そして本で顔を隠すように再び本へと視線を戻した。まじなんなんだこのインキャ。俺とチャッピーの空間に居座ってんじゃねえよ。俺はといえばいつもと変わらず、不本意ながらも適当な椅子を取って来てチャッピーの横に座り読書を開始する。

静まり返った空間には俺とインキャのページをめくる音、そして水槽に設置されたポンプの音だけが響く。そんな状況で俺はひたすら読書をしながら、しかしある事が気になって文字を追っていた視線をある方向に向けた。

 

そういや、このクラスにはチャッピーに餌をやる係の当番表があった筈だ。ここ最近俺は毎日来ているが、どうにも3人と言う単位で餌をやってるのを見た事がない。

………おかしい。もう1度餌やり当番表を見る。ふむ、やはり3人でバランスよく曜日ごとに分かれているはず。まさかこいつら…いやまさかな。

 

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大切な存在というのは、失って初めて気がつく。そんなものは馬鹿の理論だと思っていた。しかし、確かに俺はその日初めて気がついた。大切な物の存在に。

 

今日もいつもと何ら変わりのない日常。チャッピーのいる空間でゆっくり本を読む。何ら疑いなく、いつものようにチャッピーのいる教室に歩を進め、たどり着いた時、俺は信じられないものを目にした。

何故か普段より多く残っているクラスのガキ共。その奥の水槽に、チャッピーはいなかった。それどころかその水槽は、生き物の血で濁っていた。

 

「クスクス…。あーあ、椎名が飼ったせいで魚が死んじゃったねー」

 

「ほら、椎名さんが餌やってたじゃない?さかなも椎名菌に感染しちゃったんだよ」

 

「えー怖ーい。絶対移されたくないー」

 

クラスで女がそんなやりとりをしている。俺の止まっていた思考がゆっくりと動き出した。

 

「……おい」

 

「??はーい……ヒッ」

 

話していた女の1人に声をかける。

 

「お前、知ってる事全部話せ」

 

 

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女共から話は聞いた。なんかチャッピー以外の知らんやつの名前が出てきたが、そんな情報はどうでもいい。チャッピーは殺されたのだ。クソ野郎共に。俺はそのクソ野郎共がどこにいるかを聞き出し、速攻で現場に駆けつけた。

 

「やっぱりこいつ死んだほうがいいんじゃねー?」

 

「あ、それ賛成〜。死ねよ、お前」

 

「しーね」

 

「「死ーね」」

 

『死ーね』

 

そこには大勢のガキがいた。もっと少人数かと思ったら、こんなにグルがいやがったのか。そいつらはある方向に向かって大声で死ねを連呼している。その方向に視線を向けると、そこには不自然に盛り上がった土と、そこに刺ささった木の板。見ただけでわかる。あれはチャッピーの墓だ。何故かそこに見覚えのある青インキャもいるが、今はそんな事どうでもいい。

 

こいつら、自らの手でチャッピーを殺した挙句、死んだチャッピーにまだ死ねとほざいてやがる。

 

殺す。

 

「お前ら、何してんだ?徒党を組んで、なんの罪もなく、手も足も(物理的に)出せない奴を傷つけて楽しいかよ」

 

クズ共が。

次の瞬間、俺は手当たり次第に奴らを殴り飛ばした。弱者に一方的に振るう武は楽しい。しかし、今の俺にはそんなことはどうでもよかった。ものの十数秒で周りには死屍累々が築き上げられた。

全てを殴り飛ばした俺は、気づけばチャッピーの墓を背にして立っていた。

 

チャッピー。

 

「…ごめんな。お前が辛い思いしてるの、知ってたのに」

 

おかしいと思ってた。餌やり当番は3人いるはずなのに、みるのはいつも決まった1人。チャッピーは餌を貰っていなかったのだ。辛かったろうに。腹減ってただろうに。

チャッピー…、俺は、

 

「俺は、ただ黙ってお前と同じ空間にいて、静かなお前の隣で読書するあの時間が、好きだったんだ」

 

大切な存在というのは、失って初めて気がつく。俺にとってチャッピー、お前は大切な存在だったんだな。

 

「俺は気付いた時にはいつもおせーんだ。ごめんな。助けてやれなくて、ごめん」

 

せめて、安らかに眠ってく「そんなことない!!遅くなんてない!!」

 

うわびっくりした。なんか後ろで大声出されたんだけど。首を少しだけ動かして後ろを確認すると、どうやら青インキャが喋ってるっぽかった。

 

「全然話せなかったけど…、伝わってたよ!全部、伝わってた!」

 

え、お前に何がわかんねん。チャッピーに伝わってるわけないだろ。あいつ間抜けな魚だぞ。話さなかったもクソも、言葉通じねーし。

と、そんなことを思っていると青インキャは俺の腰に抱きついてきた。そしてあろうことか啜り泣き始めた。

 

「うぅ…ありが…とう…っ!」

 

……え、なにこいつ。

 

 




京の語り的な感じで回想に突入したけど、流石にこんな痛々しい語り方はしてないよ。もっとフランクに言っているはず。

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