真剣で聖人君子(ではない)   作:ピポゴン

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はやーいはやーい


新環境における精神疲労も考慮すべき

摩耗する…。

 

「おい帝明。お前英雄様が次に出向く取引先の情報のまとめ終わらせとけよ」

 

んなもん、10件先まで終わっとるわ。そこに山のように積み重なってる資料だよ。

 

「帝明。九鬼と昔から付き合いの長いセラトミック社だが、最近何やら後ろ暗い組織と癒着関係にあるという噂がある。一回洗っといてくんねえか?」

 

なんだそれ。今気づいたのか。棚の上に崩れた紙束があるだろ。その上から34枚目に内部情報が載ってるよ。

 

「修吾。世界飛び回ってるからって疲れてねえだろうな。これからあたいと鍛錬だ。行くぞ」

 

おい嘘だろ。今南米で明日東洋だぞ。九鬼本社ならまだしも何でこんなとこまで来てそんなことしなきゃなんねえんだ。無理すぎるわ。

 

「しゅう。とりあえず今日の分は終わったな。飲み行くぞ。あ?未成年だ?関係ねー関係ねー。いつも速攻で寝やがって。たまには付き合え」

 

ふざけんな。睡眠時間もう4時間きってんだろ。明日九鬼のお得意さんとこだろ。ベロベロで行けってか。おい、引っ張んな。

 

 

精神が…摩耗する…。

英雄の所に配属されて忍足の下についてからというもの、今まで通り世界を周りながら実戦経験を積む毎日、かと思いきや、それプラスでデスクワークが増えた。もはやデスクワークというよりかデスワークだ。偶の帰国時には相変わらずマープルとクラウディオの座学だ。そして合間があろうものならヒュームと鍛錬。最近になってゾズマとかいうアフリカ人も鍛錬をつけるとか言い出した。

なんだ?ヒュームとやってる俺を見たことないのか?悪いが俺は老ぼれの暇潰しに付き合い接待するなどという作法は心得てない。足技が得意だか何だか知らんが、んなもんは上から叩き潰せばいいだけだ。

 

 

クソが。また負けた。

だが僅差だ。純粋な肉体勝負ならかなりいい線行っていた。だが懐中に入り致命の一撃をくれてやろうとした瞬間に後ろから爆ぜた衝撃を喰らった。一瞬前にゾズマがしかけた火薬だ。一瞬唖然とする俺にアイツは一言、『誰も肉体だけの勝負などとは言っていない。戦場でも言い訳できるとは思ってなかろう?』だとよ。

なるほど。よくわかった。お前は殺す。後九鬼はそろそろ人事を見直せ。こんなしょうもない奴らばっか雇うんじゃねえよ。

 

 

____________________

 

 

そういえば、九鬼に入って一年半が経ったが、明確に俺の後輩と呼べる奴らが入った。

 

「マジでファック!なーにが"遅い。気の緩みが作業に出ているぞ"だ!ノルマこなしてんだからいいだろーが!」

 

「っけ。全くだ。あたいの所にもなんかっちゅうと顔出しては小言言ってきやがって。そんな暇があんなら仕事しろってんだ」

 

「仕事より私語とは、いけませんね。ふふ」

 

「李。お前の上はクラウディオでいいよなー。わたしんらの上はあのドS金髪ちょび髭オヤジだぜ?やってらんねえよ」

 

「そういやしゅう。お前は英雄様のところに来る前まではヒュームに付いて世界を周ってたんだろ?よく耐えれたな」

 

「マジかよ!?私それ初耳だぜ!ロックだな…」

 

今もなおバーで日頃の鬱憤をマシンガントークする3人。忍足は俺の上司だが、その他の2人が俺の後輩ということになる。

 

1人は金髪ツインテきょにゅーのステイシー・コナー。日頃のテンションは非常にウザく、ロックとファックが口癖の品のない女だ。見た目で言ったらかなり好みなのだが、その煩さと偶に見せるフラッシュバックでの病みが面倒くさい。俺はメンヘラは好きではないのだ。

もう1人は黒髪のショートとセミロングの間くらい普通乳の李・静初。落ち着いてはいるが無口というわけではない。顔だけで言ったら端正なのだが、偶に見せる親父ギャグが非常にウザい。俺はつまらない女は好きではないのだ。

 

「あんなスパルタ親父のところで1年間も世界周ってたんだ。そりゃ英雄様の護衛の任にもつかされるわな。んで、実際どうだったんだ?ヒュームのところは」

 

「………」

 

「…思い出すのも嫌ってか」

 

ん?なんだ?俺に話振ってたのか。急に振ってくるんじゃねえ。全く聞いてなかったわ。毎度無理矢理連れてこられてはいるが、俺はこの時間マジで無駄だと思ってるからな。

 

「ふふ。よく頑張りましたね」

 

「んな落ち込むなって!私が励ましてやろうか?」

 

よくわからないうちに静初からは頭を撫でられ、コナーには肩を組まれ顔に胸を押し付けられた。

そう、見てわかると思うが、こいつらは俺が先輩であるにも関わらず全く敬意というものがない。入った順ではなく年齢で上下が決まるような害悪企業でいいのか九鬼。実力でいってもそうだ。こいつら2人、忍足もそうだが、経歴で言ったらどこぞの軍人やら暗殺者やらと肩書きは一丁前だが、俺からしたら凡人に毛が生えた程度だ。つまり、こいつら2人は年齢以外俺に優っている所はない。なのにこの態度だ。

俺は側にあった酒を適当に一杯煽った。

 

「お!そうだそうだ!嫌なことは酒で流し込むに限るぜ!」

 

「とことんお付き合いしますよ。しゅう」

 

「あたいも明日はオフだからな。いいぜ」

 

嫌なことは今この瞬間なんだよ。

 

 

_______________________

 

九鬼に入ってから2年が過ぎた。今の所の俺の序列は101位。おい!もう1声!いや、もう100声!人間関係は相変わらず。そしてヒュームへの連敗記録も相変わらず更新し続けている。ここまでくるともう負けることに何も思わなくなる…なんてのは負け犬根性がついた奴だけだ。明らかに回をおうごとに奴と俺の差は縮まっている。縮まってはいるのだが、後少しが永遠に感じる。まるでアキレスと亀のようだ。この攻略法はもうジョジョ6部を見るしかないのではないか。

 

だがこの期間で確かに変わったことも存在する。それは九鬼の顔の帝や、跡取りたる英雄、揚羽、紋白と関係を深められたことだ。これは俺が九鬼に入ってから1番大きい功績と言える。世界の九鬼とここまでコネクションを持てたのだ。勝ち組ルート確定だ。

まあ俺はどこで何やっても勝ち組だろうが。

それと、修行のメニューが変わった。俺の修行は今まで実際に型を染み込ませる反復運動から、それを頭で理解するだけの座学に変わったが、事ここに至ってとうとう身体トレーニングだけになった。筋力や柔軟性などはやらなければ身に付かないものであるのでしょうがない。だが、技術に限っては最早吸収することをやめた。

それは何故か。簡単である。技などというものは存在しないことが分かったからだ。川神流を筆頭に、その他の流派は全て技や型が存在する。しかし、身体の動かし方を細胞一つに至るまでに把握できれば、出来ないことは何もない。戦闘中に、その時々の最善を導き出し続ければ、そこに流派などは関係ないのだ。川神派は気の放出をコントロールするだけ。無双正拳突きも富士砕きも、要は拳の突き方がわかっていればただのパンチに成り果てる。つまり俺は全ての技と呼ばれるものがただの身体の動かし方の違いという結論に至ったわけだ。

が、そこで少し驚いたことがある。俺が最善の身体の動かし方をして思ったことは、川神流にかなり近いことだ。流石は凡流の中でも抜きん出た存在なだけはある。川神流は現存する流派の中では最も最善に近い。だがまあ、それでも最善には届いてないわけだが。

 

______________________

 

何ヶ月かに一度あるくらいの呼び出しをくらった。相手は九鬼の重役達。序列二桁以下の中でも、その最上位の存在達だ。その中の殆どはもちろん俺より能力が劣る。武力で言ったらまだ及ばない老害もいるが、仕事の能力で言ったら俺は一桁にいてもおかしくない存在だ。つか一位さっさとよこせ。

厳しい作りの部屋では端的な内容が伝えられた。俺にしては珍しく少し理解に時間がかかった。

内容は離島にいる偉人のクローンのお付きだという。

……とうとう頭をやったかマープル。と思ったが、場にいるメンツの表情は真剣そのもの。全員厨二病を拗らせた訳でもなさそうだ。つーことは、ガチだ。

クローンについて聞いて思ったことは一つ。

何余計なことしてんだこいつら。俺が地上頂点でいいんだよ。何それぞれの時代の頂点持ってこようとしてんだ。鬱陶しいだけだろ。何がしたいかわからないが、偉人を復活させようとした時点でお前らは過去に負けたんだ。

俺は違う。面倒だが、どの世界の、どの時代の偉人でもなんでも持ってこい。証明してやる。地上ではない、史上でも俺が頂点であるということを。

 

 

________________________________

 

ヘリやらフェリーやらで移動すること何時間。途中の移動は俺が個人でしたのでだいぶ時間を巻いた。

離島で何してるんだ?無人島生活か?と思っていたが、ついてみるとまあ島自体は田舎だが普通に人もいて、学校もあるようなところだった。だが、件のクローン達が住んでいるところは人気のない静観な場所だった。

 

何やら自然が豊かな道を気をたどって歩く。4つの気は平均してまあまあ高い。中でも1人の気はいい線行っていた。だが、これで偉人とは拍子抜けだな。

そんなこんなで奴らの居住地へと着いた。

 

「あ!来たみたいだ!」

 

4人中3人はどうやら鍛錬をしていたらしい。内1人の刀を帯刀したやつがこちらに気づき反応した。

 

「へー。九鬼からは新しく執事が来るとしか聞いてなかったけど、随分若いんだね」

 

「気をつけろ。まだ素性が判明したわけでもあるまい。俺たちを狙う組織の人間であると言う可能性もある」

 

「え!?そうなのか!?」

 

早くも3人中2人は大体わかった。アホと厨二病だ。錫杖を持った女は眠たげな目。

それぞれの得物から一通り武を嗜んでいるのはわかるが、1番大きい気の持ち主はこいつらではない。俺は3人から目線を外す。

 

「もー。この燕尾服は間違いなく九鬼の人のでしょ!ちゃんと挨拶しないと!」

 

パタンと読んでいたであろう本を閉じると、1人のロングヘアーの女が近づいてきた。

 

「でも、本当に若い!九鬼からはちゃんと手練れの人を用意するって聞いてたから、どんな人が来るかと思ったけど、びっくり!私達とそんなに変わらないよね!」

 

にこやかに話す女だが、気の大きさと、先程まで鍛錬をしている3人のそばで本を読む程の余裕さから、やはりこいつらのドンであることはわかる。

その女とアホ女が一声かけると、それぞれ自己紹介をしてきた。

なるほど、弁慶に与一に義経か。源氏と言えば勉強してないものでも知っている名だろう。だが、この葉桜清楚とは誰のことだ。クローンは確かに4人と聞いた。誰かはその場で聞けばいいと言われたが、どこの歴史にも葉桜清楚という偉人は存在しない。俺が言うのだから間違いはない。

偽名か。まあどこの誰であろうと俺には関係ない。必要なのは勝利だけだ。

 

「こんにちは。従者の帝明修吾です。よろしくお願いします」

 

順位は伏せておく。舐められたら腹立たしいからだ。

 

「これから一緒に生活するんだ!敬語はよしてほしいと義経は思う」

 

お前は敬語使え。

 

「…ああ。それじゃあわかった。改めてよろしく」

 

「ふふ。うん。そっちの方が似合ってる。いいお友達になれそう」

 

なれないぞ。なる気がないからな。

とりあえず今日のところは挨拶も済ませたしとっととホテルに行こう。

 

「そうなの?一緒の家に住むもんだとばかり思ってたけど」

 

終始緩くそう話す弁慶。いや、嫌なんだが。俺は誰かと一緒だと安眠できないタイプだ。仕事とプライベート一緒にされてたまるか。ということでお暇するわ。

 

「待ってくれ。じゃあ夜ご飯だけでも一緒にどうだろう!」

 

「お、それはいいね。客人がいると夕飯が豪華になる」

 

ふむ。定時にはまだ時間がある。飯食って仕事したことになるなら丁度いいか。食ってくか。

 

「よーし!じゃあ頑張っちゃお!」

 

そういうと葉桜清楚は家へと向かっていった。

 

 

________________________

 

そういえば、俺の学校のことなのだが、本来義務教育期間だが、九鬼での教育で義務教育期間のものはとっくに終えている。更にはマープルからのだるい教えと自習で、もはや大抵の科目ならば極めたと言える域にいる。だからこちらにきてもわざわざクローンと同じ学校に行くことはないのだが、仕事の一環として通う必要がある。面倒なことこの上ない。だがそれでもヒュームや忍足のところにいた時よりはだいぶマシだ。仕事量の温度差で風邪を引きそうなくらいだ。

が、遠い日にヒュームや川神百代を筆頭に、復讐することを誓ったことを忘れてはいけない。俺は暇さえあれば自己鍛錬に励んだ。そして学校が終わってからは、無いよりはマシということでクローン組と鍛錬を積む。

今はその真っ最中だ。

 

「はっ!せや!」

 

義経が模擬刀にて蓮撃を繰り出す。なるほど。悪い速度ではないがまだまだ足りない。無手と武器あり。一見するとどうしようもなく崩せない差に思えるが、自分の身体の動きと相手の呼吸をミクロ単位で理解できれば、その程度のリーチ差は容易に覆せる。どころか、こちらの土俵で戦えば、逆に武器有りの方が不利になりうる。

相手の呼吸とリズムを乱し、縫うように接敵して拳を放つ。本来防ぎ用のないタイミングなのだが、流石に多少心得があるだけはある。義経は無理に両腕を戻しギリギリでガードした。だが、その反動が祟って次点の動きだしがワンテンポ遅くなる。俺にとっては詰みに等しい隙だ。だが、攻めない。何故ならそんなことをせずとも既に相手は負けを認めたからだ。

 

「ぐ…う。やはり修吾さんは凄いな。こちらの刃が後一歩届かない。だからといって更に一歩詰めるとカウンターを貰う」

 

達人ともなれば自分のリーチを把握できないことはまずない。だからズラす。基本相手の刀は俺には届かない。スピードではなく、足運びによってそれを可能にする。だが、それを続けられた相手は、そのずらしを読んでもう一歩踏み込む。と同時に俺も踏み込む。要は懐に入り込むのだ。刀や槍などは懐に入ればないも同じ。後はどうとでもだ。

 

「にしても凄いねえ。まさかウチの主が手も足も出ないとは」

 

そりゃそうだ。なんたって相手は俺だからな。飲み込む速度は流石に凡百とは違うが、それでも俺の成長速度には敵わない。何故お前らが過去に英雄として名を残せたと思う。それは同じ時代に俺がいなかったからだ。

 

「みんなー。そろそろご飯だよー」

 

そうこうしているうちに葉桜から呼びかかる。クローン達と鍛錬をするようになってから少し経つが。未だに葉桜が鍛錬をしているところを見たことがない。基礎トレーニングレベルはやっているようだが、それも基礎の基礎といった感じだ。なのに相変わらず気で言えばクローンの中で1番に大きい。やはりこれらの行動は余裕から来るものか。どちらにせよ、あまり図に乗らない方がいい。俺からしたらお前ら4人はどんぐりの背比べ程度の違いしかないのだから。

 

毎度のことで、夕飯は一緒に食う。というのも、実質的な定時の前に出てくるのだ。仕事内容が飯を食うことだと思えばこれ以上に楽なことはない。

 

「今日は修吾くんの好きなハンバーグだよ」

 

厳密に言えばここで出てくるものの中で好きなだけだ。俺はもっと高級なステーキやらイタリアンやらが食いたいのだが、こんな離島じゃなかなかに準備が難しい。なので肉の品質の差をある程度カバーできるハンバーグがマシなのだ。

 

「与一。その目玉焼きいらないなら私が貰うよ」

 

「あっ!そりゃないぜ姉御!」

 

「弁慶!はしたないぞ!」

 

にしても、こいつら本当に歴史に名を残す英雄なのか。ただの中坊にしか見えないんだが。飯すら黙って食えないとは、源氏というよりかは原人だな。

不満げな那須与一を見て、ちょうどいいと思う。俺はこのハンバーグの上に乗っている目玉焼きが好きではない。卵自体は嫌いではないのだが、半熟目玉焼きは基本食わない。

適当に目玉焼きを那須与一に渡してやる。

ほら、これでいいだろ。黙って食え。

 

________________________

 

休日にも、俺の仕事が解かれることはない。平日は学校にいればいいので時間を潰せるが、こうも投げ出されるとやる事がなく困る。それもそのはず、俺はこの2年以上激務に身を置いてきた。故に何もない日に対する耐性が薄れているのである。将来のためとは言え、社畜根性が備わってきているのはいかがなものか。ここいらで暇な日の時間の使い方に慣れておかなければならない。

俺は即席で作った釣竿を手に海岸へと向かった。偶には1人でゆったり釣りもいいものである。

 

____________________

 

という俺のプランは、あっさり打ち砕かれた。

 

「にしても、よくそんなに釣れるね。前に私が興味本位でやったときには餌ばっか持ってかれたもんだけど」

 

釣竿を持って数分歩いたあたりで、まさかの人物に遭遇した。基本休日には部屋でダラダラ過ごすことを信条にしている筈なのに、今日に限ってタイミング悪く出てきたのは、俺の横で一升瓶を持ちながら欠伸をかく、武蔵坊弁慶である。

 

「お、また1匹上りー」

 

ここは鯵の群生地だ。時々メジナなんかも釣れるが。釣りを餌を入れたらあとは待つだけだと思っている奴らはど三流だ。魚には、いや魚に限らず生物には呼吸がある。それが理解できる俺からすれば魚に上手く餌を食わせることなど雑作もない。

ほら、また1匹だ。

 

「凄いね。醤油持ってきて大正解。出来れば捌いてくれると嬉しいんだけど?」

 

なるほど。ついてきた理由はそれか。何の理由もなしに外に出るなんて事こいつがするわけないよな。抱えた一升瓶からお猪口に注ぎ準備万端になっている弁慶。そんな弁慶に俺は魚を放り投げ、空中で刺身にした。ついでに弁慶の前にあった大きめの石を横に切っておく。空中で一口サイズの刺身になった鯵は、そこらの皿より綺麗に平らになった石の上に並んだ。

 

「いいねえー」

 

流石に箸は持参していないのか、武蔵坊は醤油を垂らした刺身を指で摘むとパクりと食べた。ズボラだな。

 

「くぅー!やっぱり魚は鮮度だね。酒によく合う」

 

そして持ってた一升瓶からお猪口に酒を注ぐとクイっと飲み干した。そういうのは持参してるんだな。ほら、満足したならどっかいけ。

 

「まだ沢山あんじゃん。ね、もうちょっとだけ」

 

おい枝垂れかかってくるな。幸い俺は釣りが目的であって食うこと自体は二の次なので、やることは気にしていない。適当に何匹かやったらどっか行くだろ。

ほらよ武蔵坊。

 

「うわー最高っ。でもその武蔵坊ってのやめてよ。弁慶の方で呼んで」

 

え、別にどっちでも良くね。

 

「良くない。武蔵坊って可愛くないじゃん」

 

そんなことを気にするやつには思えなかったがな。弁慶だって可愛くはないと思うが、本人の希望ならいいだろう。

 

「ほら、しゅうも飲みなよ。いつも働いてるんだから偶にはいいでしょ?」

 

いや、早くどっか行って欲しいんだけど。

 

________________________

 

しばらく生活してて思ったことだが、葉桜はどのタイミングでも鍛錬というものをしない。それどころか武術をやっていれば意図的に隠そうとしなければ出てくる日常の癖も、あいつからは感じない。どういう意図だ。奥底に隠すようにしてある気と関係があるのか。葉桜がもし実力を隠しているのならば、これほどまでの徹底ぶりはなかなかだ。源氏組は現に気付けていないだろう。だが、相手が悪かったな。俺にはどんなに隠そうともお見通しだ。

 

「あ、しゅうくん。そこの調味料とって」

 

そんなことにも気付いてなさそうな葉桜は現在、謎に俺と料理を作っている。

……こいつ、仕事の範囲内なら何お願いしてもいいと思ってないか?2年半エリート会社の超エリートとして働いてきた俺だが、ここにきて一つ決定的なミスを犯したことを悟った。それはクローン組のお目付役を任命された時、詳細に仕事の幅を明確化させなかったことだ。付き人というのが、どこまで従事しなければならないのかがわからない。これ幸いと思い切り手を抜きたいところだが、そんなことをして今までの成果やら築き上げてきたものが下方修正食らったら溜まったものではない。故にこの葉桜の料理を一緒に作ろうという謎のお願いも断れないのだ。

 

料理は好きだった。一時期ハマり色々な料理をマスターし、またアレンジを加えて楽しんでいたが、ある時から正解がわかってしまい、そこからはただの作業になった。人の好みにより左右するが、調味料の黄金比、特に俺の好みに合わせたものは0コンマ数mgまで調整できる。料理が楽しむのにも、ある程度までの才能まででいいのだなとわかった。

 

「みんな今日も疲れてるだろうし、いっぱい作るぞー」

 

葉桜は一般的に料理がうまいのだろう。手際の良さや調味料の塩梅でわかる。だが俺が見ているとどうしても数gのズレを感じてモヤモヤする。まあ、その程度の味の違いにわかる奴も稀有なので杞憂ではあるが。

 

「しゅうくんはさ、味が濃い方が好みかな?」

 

「いや、適量が1番だ」

 

「ふふ。一緒。しゅうくんと結構いるけど、料理の話をするのは初めてだね」

 

知らね。俺は記憶力は全人類でトップを自称しているが、興味のないことは記憶しない主義なのだ。

 

「なんか、凄く長いこと一緒にいる気がするけど、実はまだ一年も経ってないんだね」

 

「そうだな」

 

本当にその通りだ。長すぎる。あと何ヶ月この生活なんだ…。以前の業務に比べて悪くはないが、それでもやることが明確化されていない仕事というのは、やることが決められた激務より精神を消耗することがある。

 

「そういえば、しゅうくんはさ。その、料理が出来る女性とかって、どう?」

 

そりゃ出来ないよりは出来る方がいいな。出来ることによってマイナスはないだろう。だが、この"どう?"という抽象的質問には困るな。普通に「いいと思う」としか感想がないので、適当にそう返しといた。葉桜はそれを聞くとこちらを見ずに「そっか、そっか。ふふ。いや、何でもないよ」とアタフタしながら料理を続けた。返されて困る質問なら最初からしないで欲しいが。にしても、今日はやけに眩しい夕焼けだな。窓から入った夕焼けは、葉桜の横顔を真っ赤にしていた。

 

______________________

 

久しぶりの連絡業務でクラウディオと話した。俺の序列は今39位だそうだ。大分上がったな。まあそれでもまだ妥当ではないのだが、序列が2桁になってからは以前のようなペースでは上がらないと思っていた。何故そんな上がり方をしたのかクラウディオに聞くと少し困ったような顔で笑いながら言った。

どうやら俺が抜けた後の本部での仕事の停滞具合で評価されたらしい。なるほど、クラウディオが言いにくそうにするわけだ。評価を成果からではなく抜けた穴で判断するなど、天下の九鬼からしたらありえないミスだ。

以前から薄々感じていた、高位の老人どもの若者嫌いがそのミスを誘発したのだろう。それに気づいたら少しは人員構成を見直すことだ。これを機に若者にでも実権を握らしたらどうだ。若者つか俺に。その意図を遠回しにクラウディオに伝えておいた。

それとこの業務の任期もそろそろだそうだ。以前飛ばされる時はかなり急だったからな。事前に言ってもらえるとこちらも動きやすくなる。

なんだかんだ言ってもう一年が経つのか。最初は仕事としてでしかなかったアイツらとの絡みも、もう終わるとわかると少し感慨深いものが………あるわけないな。冷静に田舎すぎた。都会人はよく田舎に住みたいとかいうが、それは都会に住んできたが故の一時の儚い夢でしかないことがよくわかった。お陰でこの一年で俺の娯楽はすっかり自然との戯れしか無くなった。心残りがあるとすれば2ヶ月前に釣ったチャッピー2の産卵が見れないことくらいだ。業務が終わったら早く都会に戻りたい。

 

 

________________________

 

業務が終わり、別れることをアイツらに伝えた。反応はそれぞれだったが、弁慶でさえも別れを惜しんでるのには少し驚いた。

 

「そうかよ」

 

与一に関してはそれだけ言うと部屋を出て行ってしまった。愛想もクソもねえやつだ。少しは別れを惜しみやがれ。

はあ…。業務の終わりは近いが、まだ俺はこいつらの付き人だ。このまま放置するわけにもいかないか。

俺は与一の後を追っかけ部屋を後にした。

 

 

 

「与一君、悲しそうだったね」

 

「与一は与一なりにしゅうに懐いてたからね。学校でのいじめがあった分、拠り所にしてたんだろう。普通に泣きつけばいいのに」

 

「与一は不器用だからな。しゅうにいさんならわかってるはずだ」

 

 

________________

 

「ここか与一」

 

「…なんだよ。お得意の気配察知で位置でも割り出したのか」

 

「必要ねえよ。何かあると決まってここくるだろお前」

 

「……っけ」

 

夕陽が見える丘に2人は並び立った。与一は不器用で、誰かに悩みを打ち明けるなど素直なことはできない子供だった。学校などで何かあった時は、決まってこの丘に来て海を眺めていた。そんな与一に修吾が黙って隣に立つことも一度や二度ではなかった。

 

「学校はどうすんだ。兄貴はこっちのには進学しねえんだろ」

 

「ああ。あっちに戻ってする」

 

「そうかよ。せいせいするぜ。もともと九鬼からきた執事の1人だしな」

 

与一は表情を見せることはなかった。2人の間にまた沈黙が流れる。それを破ったのは修吾だった。

 

「与一。俺はお前らのことを一度も特別だと思ったことはねえ。クローンだろうと何だろうと、俺からすりゃあお前らはただの年相応のガキだ」

 

与一は壁を張った。自分と修吾は元々それ以上の関係ではないと、思ってもないことを口にした。だが、それを破ったのは修吾だった。多くは語らない修吾が口にしたのは、聞こえ方によっては酷い物言いであるが、与一には全く違って聞こえた。

もともと人と違う出生の与一はどの環境でも馴染めなかった。そう生まれたことを後悔などするはずも無いが、そのズレは与一の心に鉛としてまとわりついていた。だが、修吾はそれを取っ払った。出生など関係ない。与一と自分はただの対等な人間だと、そう言ったように与一は感じた。

 

「なんだそれ。自分だって俺らと一個しか変わんねえじゃねえか」

 

修吾はいつもそうだった。多くは語らないが、一言で与一の悩みをとっぱらう。

今のもそうだ。別れを惜しむ与一に、修吾は執事とクローンの関係ではない、対等な関係だと伝えた。それは、例えこの任期が終わろうとも、変わることのない関係の証明だった。

ならば、と与一は腕で目元を擦った。もう別れの言葉は貰ったのだ。不安や寂しさはない。何故なら離れても何も変わることはないからだ。

 

夕日に照らされた二つの影は、その日があたりを照らし終えるまで、動くことなく海を見つめていた。




次回から原作突入かなあ!何も考えてないから長くなるなあ!
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