ねむの蕾   作:味わいミルク

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遭遇

さて、どうしたものか。ターゲットであるゴン=フリークスの監視を始めて三日目。ボクは重大な選択を迫られている。このままゴンの監視を続けるか、それとも強引に保護をするか。まったく、迷い犬の捜索にでも来た気分だ。

 ……もしかしたら昨日までが上手く行き過ぎたのかもしれない。目撃情報を頼りに張り込んだ広場でゴンとその仲間を発見し、24時間の徹底マークのおかげで彼らがヨークシンに来た目的や動向も探り出せた。ただ一つ問題があるとすれば、ボクの体が大分限界を来していることだろう。そういえば今日は朝から何も食べていない。

 

 ……とりあえず現実に戻ろう。いや、出来ることなら目を逸らしたいんだけど。たった今ターゲットの命が今まさに危険にさらされている。もちろん他人事じゃない。ついでに言えばボクの命も風前の灯である。事の発端は今日の昼頃、突然どう見てもタダ者じゃない2人組をゴン達が尾行し始めた所から始まった。ボクの主観から言えば、ゴン達が追っているのはかなりヤバい奴らだ。まず、一つ一つの動作が素人のソレではないこと。そして身に纏うオーラが追跡者の実力を遥かに上回るものであること。平時なら極力関わりたくない相手だが、監視対象を放っておくわけにもいかない。

 汗ばむ額を拭うついでに、ちらりとゴンの姿を視界に捉える。前を歩く2人組を建物の上から追っているようだ。周りを全く気にしていない様子から、恐らく自分がどれだけ危険なことをしているのか分かっていないらしい。近くの草むらに潜むもう一人の仲間も、まだこの状況に気づいていない。

 

 呆れたものだ。本当に気づいていないのだろうか?……自分達が「二重尾行」をされていることに。

 

 これはただの推測だが、二重尾行をしている人間も怪しい2人組の仲間だろう。先程から背中に感じる気配は2人組と同じものを感じる。つまり相当な実力者であるというわけだ。そして偶然なのかこちらも2人組。計4人の敵を相手にしていることになる。少なくともこのまま追跡を続ければ、待っているのは捕縛か死の二択だろう。

 

「……どうする?」

 

 ぽつりと自分自身に問いかけてみる。迷っている間にも2人組は人気の無い路地へと入っていく。そしてそれを愚直に追う追跡者。……ボク自身の選択肢は二つ。任務を放棄してこの場から離脱すること。ボク1人なら確実に逃げられるだろう。そしてもう一つ。この状況の中で自分の身を危険にさらしてまで彼らを助けること。

答えは簡単だ。ボクはそっとその場を離れ、草むらの中に身を潜めた。視界からゴンの姿が消える。そして気配を殺したまま、身を屈めてゆっくりと足を進めた。ボクが進路を変えたことは、後ろの追跡者には既に気づかれているだろう。しかしここまで来てしまった以上もう関係ない。

 

「……キミ、大人しくしてね」

 

 茂みに隠れて移動していた小さな追跡者の口を塞いで囁く。一応念のため、首元にはサバイバルナイフを突きつけておいた。驚いて下手に騒がれると困るからだ。突然身動きを封じられた少年が殺気を滲ませた目でボクを見る。冷静すぎる対応にこちらの方が驚かされたが、頬を伝う汗と握り締めた手の震えだけは隠せなかったようだ。彼の緊張を和らげるために、なるべく優しい声で淡々と事実を告げる。

 

「キミとお友達は二重尾行されている。恐らくキミ達が追っている2人組の仲間だろう」

 

 少年が大きな目をさらに見開いた。やっぱり気づいてなかったか。

 

「ボクは君達の味方だ……だから今からキミとお友達をここから逃がす」

 

 ボクを見る彼の目に、疑いの色が浮かぶ。……まあこんな状況じゃ当然か。サバイバルナイフを首元から離して、口を覆っていた手も外す。これで無駄に抵抗でもされたらボクの逃走計画は台無しだ。信用を得るための一か八かの賭け。しかし彼がボクに発した言葉は予想だにしないものだった。

 

「分かった、アンタを信じるよ」

「……よし、今からボクがキミ達を抱えてここから逃げる。キミはただ大人しくしていてくれ」

「オレ達を抱えて逃げる……?そんなこと」

 

 彼が何か言うより早く、ボクは少年を抱え上げて草むらから飛び出した。異変を察知した前の2人組が一瞬にしてボク達の姿を捉える。いち早く飛び出したチョンマゲの男があっという間にボク達との距離を詰めた。

 

「……追いつかれるッ」

 

 抱えている少年がボクの腕を強く掴んだ。しかし振り向いている余裕はない。コンマ数秒遅れてもう一人が、そして背後の追跡者達の気配が近付いてくる。絶体絶命。後ろのチョンマゲの叫び声が随分近くに聞こえる。

 

―――――チョンマゲの抜いた刀がボクの首筋に届く寸前。視界に再びゴンの姿を捉えた。仲間が捕まったと思ったのだろうか、ボクの腕の中の少年を見て飛びかかって来る。

 

姿くらましの白(インビジブル・ホワイト)

 

 

 刹那、指の先から放たれたオーラの玉が頭上で弾けた。光がお互いの姿を包み隠し、チョンマゲの刀は虚しく空を切る。ボクはというと向かってくるゴンの鳩尾に容赦なくカウンターをかまし、空いている方の手で気絶した彼をキャッチした。

 

「くそッ!何なんだよ!何も見えねえッ!」

「落ち着きな!敵はまだ近くに……」

 

 後5秒程で辺りを照らす光も消えてしまうだろう。怒り狂う敵の声を背中に、全力疾走でその場を離れた。

 

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