シルバーエデン   作:グランド・オブ・ミル

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第一章はパインパートです。


第一章
第一話 少女探偵


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「高度に発達した科学は魔法と変わりない。」

 

 大昔に誰かがそんなことを言っていた。ボクらが普段何気なく使っているテクノロジーの数々は、確かに魔法そのものだ。神がいると大真面目に信じていた時代の人達が見たらひっくり返って驚くだろう。

 

 けどこの言葉には疑問が残る。逆はどうなるのだろう。高度に発達した魔法は科学となりえるのだろうか。答えは否だ。魔法はどこまでいっても魔法でしかない。

 

 そもそも魔法とはどういうものか。それは”魔素”と言われる原子によって引き起こされる事象の総称だ。魔素は周期表の原子と全く違う性質を持っている。炭素もなく火を燃やし、空気中の酸素と水素から水を作り出す。その辺の物質から電子を放出させることで電気を起こし、光子を捻じ曲げて闇を作り出す。

 

 科学だけでは想像もできなかった事象を起こしてしまうのが魔素であり、魔法だ。噂に聞けば、人類の最終兵器である核兵器さえ無効化してしまう理論さえ発表されたらしい。

 だから結局のところ、科学と魔法は二分化されるべきではなかったのだ。その二つが噛み合うことで人類はより高い文明を築くことができる。

 

 だが、魔法には一つだけ大きな欠点があった。一度製品化されてしまえば誰でもその効果を発揮できる科学とは違い、魔素を操る能力は大きく才能に左右されるのだ。

 

 例えば今ボクの目の前を走り去った魔素エネルギーと電気エネルギーのハイブリッドカー。あれは運転手が魔素を扱う才能に優れていれば、従来の電気自動車に比べて燃料代を50%も節約できるのに対して、ボクのようなそんな才能を持たない者が乗れば、ただただ馬力が5割減の欠陥車に成り下がる。

 

 魔素を自由に扱える”新人類(魔法使い)”達は、魔素を「原子力以来の革命」とか、「夢のエネルギー」とか祭り上げているけど、ボクはそうは思わない。

 

 高度に発達した科学に魔法という新しい概念が混入した世界。ボクのような”旧人類(一般人)”には生き辛い世の中だ。

 

「お~い!」

 

「ん?」

 

 近所の河川敷近くの本屋、そのT字路の横断歩道で信号待ちをしていると、明るくやかましい声が聞こえてきた。小さい頃に見ていた幼児向けアニメのキャラクターのような何とも言えない声。振り向くと猫とコウモリを組み合わせたような手のひらサイズの生き物がパタパタと飛んできていた。

 

「やっと見つけたよ~!」

 

「ドン君、どうしたの?」

 

「どうしたのじゃないよ! また散歩?」

 

 この妙な生き物の名前はドン。鈍くさくてやたら壁や天井に頭をぶつけていたから付けた名前だった気がする。

 魔素が発見されてから、それが生物に及ぼす影響を調べる実験が盛んに行われた。初めは厳重に管理されていた動物実験は徐々に外へ漏れ出し、魔素によって特異的に変異した生物が増え、現代ではドンのような不思議な生き物も珍しくない。

 話に聞けば、遠くの南の孤島には、龍のような巨大生物も目撃されているらしい。

 

「いつも言ってるだろ! 外へ出るときは一言言ってくれって! 探偵事務所の探偵がいつもいないんじゃダメじゃないか!」

 

「うるさいなぁ、今に始まったことじゃなし。」

 

 プンプンと怒るドンのお小言をボクはいつものように頭をかきながら聞き流した。

 今ドンが言った通り、高校を卒業した後ボクはしがない探偵として働いていた。大学に行く気がなかったというのもあるが、ボクは昔から観察力に秀でていて高校の頃から女子高生探偵としてそれなりに注目されていた。卒業後自立しても生計を立てられる見込みがあったので、無理に大学へ行って大卒の肩書を得なくてもいいと判断したのだ。

 ちなみに探偵といっても、連ドラのようにドヤ顔で犯人を指差したりしない。事件に関わる時は捜査官の人の助手のように気づいたことを報告するだけの地味な仕事だ。普段も普段で近所のネコ探しや浮気調査の尾行などをやっている。

 

 非常に地味だがボクはそれで満足している。こんなボクの能力が人の役に立ち、そこそこの報酬がもらえてそこそこの生活ができればそれで十分だ。事件を華麗に解決とか、謎の組織との長い戦いとかは、某眼鏡がよく似合う少年探偵に任せておけばいい。

 

「それで何? 依頼でもきたの?」

 

「そーだよ! 依頼だよ! それも依頼人がすごいんだ!!」

 

 やけに興奮した様子のドンは、肩から下げたポーチからニュッと依頼書を取り出した。明らかに依頼書がポーチに対して大きすぎるが、これは魔素の影響で生まれた不思議生物ドンの固有能力だ。ドンは質量・大きさ関係なくものをポーチにしまうことができる。収納容量に限界はあるものの、長期移動の時などには便利な力だ。

 

 ボクは依頼書をドンから受け取ると、確かにその依頼人の名前に息を呑んだ。

 

「パルム・ヴァレンタイン………」

 

 この国の事業の約半分に関わるというヴァレンタイン財閥、その次女の名前だ。品行方正の淑女として知られる彼女は第二王子の婚約者でもあり、とても一探偵の自分が接点を持てる相手ではない。

 

「何かの間違いじゃないの?」

 

「でも宛先は確かにうちの事務所だし、間違いないよ」

 

 依頼書をじっと眺め、ボクは手に顎を当てて考えた。怪しいのだ。色んな事件に関わっていればこのような大物と関わりを持つことは考えられる。事実、ボクと同じ探偵の友達は主に芸能界の人達を専門に仕事をしていて、何人かの大物芸能人と友好関係を築いている。

 

 だが、ボクは先述のようにこれといって華やかな活躍をしてきたわけじゃない。そんなボクにいきなりパルム嬢のような雲の上の人から依頼されたりするものだろうか。

 

「……まぁ、行くしかないかなぁ」

 

「そうだよ! 何だか面白そうだし、行ってみよう!」

 

 何にせよ、依頼があった以上は行くべきだろう。それにドンの言うように、不安はあるものの、どんな依頼なのか興味がある。ボクは依頼書をホットパンツの後ろポケットにねじ込み、駅へと向かった。

 

 

 

 

 

 

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