コロナで弊社もzoomを導入したんですが、今日の会議で決まったこととは次の会議の日にちのみというね・・・
マクベス家という純血の一族が魔法界には存在する。かつては繁栄した一族だが、現当主の事業失敗により先祖が蓄えた資産の多くを失った一家だ。
事業を失敗させた当主は多くを失ったが、プライドだけは以前のまま持ち続けていた。その証拠に、貴族同士のパーティーには必ず現れた。マクベス家は未だ健在である、ということを知らしめたかったのかもしれないが、結局は他の純血貴族達の笑い者にされ、恥だけかいて帰る。そんなことを幾度も繰り返している情けない男だった。
そんなマクベス家とその当主だが、ここ数年はパーティーにめっきり顔を出さなくなっていた。多くの貴族達は、ようやく分を弁えることを覚えたのだと笑っていたが、一部で闇の魔術に傾倒しているのでは、という噂がたった。
もともと純血貴族の多くは元死喰い人だ。多かれ少なかれ闇の魔術に傾倒している者も多い。しかし、そんな彼等が噂するのだから、かなり本格的な研究をしているのでは?と魔法省内で疑惑を呼んだものの、マクベス家の人間が死喰い人であったことはなく、闇の帝王に与しなかった男が今更闇の魔術に傾倒するのは考えにくい。と擁護する声も多数出たが、結局、火のないところに煙は立たないとして、魔法省の闇祓い達によって屋敷の捜査が行なわれる事になった。
人里離れた山奥にマクベス家の屋敷は存在する。峻厳な山に囲まれた広大な敷地の中には幾つかの離れと庭園がある。春になれば美しい花々が咲き誇る庭園は何代か前の当主と夫人が手塩にかけて育てたものだ。その美しさに感銘を受けた当時の魔法大臣が、娘の結婚式の会場に選んだほどである。
そんな歴史ある庭園を眺めたあと、キングスリー・シャックボルトは、玄関にて一人の少年に出迎えられていた。
「ようこそ、Mr.シャックボルト。父がお会いになるそうです」
マクベス家の一人息子である少年だとキングスリーは記憶していた。といっても事前に渡されていた資料を見ただけで、名前と顔以外は殆どなにも知らないが。
しかし、なかなかに良い面構えをしていると思った。多くの純血貴族のお坊ちゃん達とは違い、見下すような視線ではなく、かと言って媚びている訳でもない、きちんと真摯にこちらと目を合わせている。それに加え、成長の邪魔にならない範囲で鍛えられているのが分かる引き締まった体と、鮮やかなブルーの瞳は、誰であれ好感を感じるだろう。
「ミスター?」
「ん?あぁ、これは失礼」
ここには捜査をしにきたのだから引き締めねば。と頭を軽く振って切り替え、ジュードの後に続いて屋敷に入った
豪勢なシャンデリアのある玄関ホールを抜けてしばらく廊下を歩いていると、ふとおかしなことに気付く。
シャンデリアや高価な絵画などあるにはあるのだが、他の純血貴族の屋敷に比べて調度品が圧倒的に少ないのだ。
「あぁ、父がその…失敗を、したときに殆どの調度品は売ってしまったのです。使用人も皆、屋敷を去りました。残っているのは僕ら家族3人と屋敷しもべだけです」
でも、そのお陰でこうして高名な闇祓いの方とお話し出来たのですから悪い事ばかりじゃありませんけどね。
そう言ってにこやかな笑顔を浮かべる少年にキングスリーは思わず目頭が熱くなる。
なんと良い子なのだろうか。マクベス家の当主に良い噂はあまりないが、どうやら子供の教育に関しては天賦の才能があるらしい。
「お待たせしました。こちらで父がお待ちです」
恭しく一礼するとジュードは来た道を引き返した。
あんな子供を育てられるマクベス家当主が闇の魔術に傾倒しているなどとてもではないが思えない。
しかし、仕事は仕事。適当に話を聞いて帰るとしよう。そう思い扉を開き、応接室へと入る。
「やぁ、こんな遠い所までよく来られましたな、Mr.シャックボルト」
入り口の正面に配置されたデスクに腰掛けていた男はにこやかな笑みを浮かべながら両手を開き、キングスリーを歓迎した。
「いえ、とんでもありません、Mr.マクベス。あの噂に名高い庭園を見れただけでも足を運んだ甲斐がありました」
「それは重畳、先祖も喜んでいることでしょう。…して、今回の用向きは?」
穏やかな口調のままだが、その目は細くこちらの腹の底を見透かすようだった。
「実は、魔法省内部で貴方が違法とされている闇の魔術の研究を行なっているのではないかと疑う声がありまして」
それを聞いた時、エドワードはひどく落ち込んだように見えた。
「なるほど…純血のパーティーには必ず顔を出していた私が顔を出さなくなったことで違法研究を疑う者達が現れたと…」
「…しかし、私としては貴方がそのようなことを行なっているとはとても思えません」
キングズリーの発言にエドワードは困惑を隠せずにいるようだった。
「なぜです?たしかに私は『例のあの人』に与しませんでしたが、だからと言って…」
「ジュード君…でしたかな?御子息を見れば分かります。あのような立派なお子さんを育てられる様な方が、違法研究などするはずがない」
エドワードはしばらく目を白黒させ、口を震わせていたが、そのうちデスクに肘を付き、目頭を抑えた。
「あの子は私などには勿体無い息子です。事業に失敗し、他の貴族からは笑い者にされていた私を妻と共に懸命に支えてくれた。昔の様な何不自由ない生活は送らせてあげられないというのに、我侭の一つも言わない。私は思ったのです、…つまらない見栄やプライドを守るためのパーティーなどよりも一秒でも多くの時間を息子と共に過ごしたいと…」
目に涙を溜めながら語るその姿にキングスリーは無責任に疑惑を囃し立てた貴族共を怒鳴りつけたかった。この男の何処を見て闇の魔術云々を抜かすのか。お前達の方がよっぽど怪しいではないか!と。
「Mr.マクベス。私には子供はおりませんが貴方の気持ちはよく分かります。今回の件は私が責任をもって間違いであったと報告します。ですのでどうか…」
「…申し訳ない。息子には頭が上がりませんな、二度も救われるとは…」
エドワードの言葉に二人して苦笑し、キングスリーは席を立った。
そろそろお暇致します、と述べたキングスリーにエドワードも、玄関まで送ると申し出た。
つい先ほど通った廊下を、二人は和やかに話ながら歩いていた。
「父上!Mr.シャックボルトはもうお帰りに?」
玄関から出ようとした矢先にホールに飛び込むようにしてジュードがやってきた。
色々と話しを聞きたかったらしいが、生憎とキングスリーも次の予定が入っていると説明すると、残念そうではあったものの、直ぐに諦めてくれた。
息子の肩を抱き、見送ってくれたエドワードの顔は、噂で聞いていた情けない男とはまるで違う顔だった。
門を出たところで姿現しを使い、魔法省に帰還したときにふと、そういえば奥方は留守だったのかと思ったが、まぁいいかとそのまま仕事に戻った。
「いつまで触っている、気色悪い」
ジュードが凍てつく様な声色で吐き捨て、エドワードは吹き飛ばされた。柱に激突した衝撃で頭から血を流すのも省みずに、跪く実父に2、3発魔法を撃ち込む。襤褸雑巾のように宙を舞い、床で蹲る父親の背中を踏みつけ、失せろと命じる。すると虚ろな目をしたエドワードは床に頭を擦りつけるように一礼すると、寝床としている物置へノロノロとした足取りで戻っていった。そんな父を一瞥して小さく鼻を鳴らすと、かつての父の部屋―というより歴代当主の部屋だが現在はジュードの私室になっている―に戻った。
「んー、完全に君の演技を信じ込んでいたね、後は彼が勝手に疑いを晴らしてくれるさ。まぁ実際、闇の魔術の研究なんてしていないのだからね。あ、そうそうさっきフクロウがこんなものを持ってきたよ」
豪華な革張りのソファに腰掛けながら紅茶を飲むオブシディアンはジュードに一枚の手紙を差し出す。その手紙には獅子、蛇、穴熊、鷲が描かれた封蝋がしてあった。そうだな、悪魔と契約している子供がいるだけで研究なんてしてないさ。と嘲る様な笑いを浮かべていたジュードが手紙の封蝋を破くと、封筒に入っていたのは、ホグワーツへの入学許可証だった。
「ジュード・マクベス殿、貴殿のホグワーツへの入学を許可いたします。…いよいよだな、オブシディアン」
ジュードの言葉にオブシディアンは飲んでいた紅茶を置いた。
「いやぁ、ここ最近はずっと屋敷に閉じ篭ってたから心配してたよ、契約を忘れたんじゃないかってね」
ワザとらしく伸びをしてみせながら立ち上がるオブシディアンの言うとおり、ジュードと契約してから二年近く経ったが、その間にやったことといえば、エドワードに『服従の呪文』を掛けて支配下に置き、使用人達を解雇したぐらいだ。それ以降ずっと、ジュードは屋敷に籠ってオブシディアンから魔法の手ほどきを受けていた。
「退屈させたのは悪いと思ってるさ。だけど仕方ないだろ?この能力を使いこなさない内から表に出ればすぐに尻尾を捕まれる」
そういったジュードの目は、先ほどとはキングスリーを迎えた時とは違い、どこにでもあるような茶色だった。
契約によってジュードが得た能力は二つ。
一つは自身に敵意を持っているかどうかをオーラによって判別する力。ジュードに対して敵対心をもっている相手ならば赤色に、疑心を抱いている相手ならばオレンジに、信頼を向けている相手は緑色に、それ以外の相手は白く見えるといった力だ。
しかし、この悪魔に言わせると精度はそれほど高くなく、敵対心というのが嫉妬なのか、明確な殺意なのかは分からないらしい。
もう一つが、俗に『魅了の魔眼』とよばれるもの
目に魔力を込めると発動するこの力は、目を合わせた人間を魅了する効果がる。といっても洗脳というほどではなく、あくまでジュードに対して好感や尊敬を覚えるといったぐらいのもので、お世辞にも強力なものではない。
発動した際には目の色が鮮やかな青色に変化するこの能力によって、父親の無罪を信じてしまうほどにキングスリーの好感を得ていたのだった。
「分かるだろう?今すぐ好き勝手できるような能力じゃないんだよ」
「理解はできるけど、やっぱり私は退屈が嫌いさ。だから、ジュード、そろそろ教えてくれないかい?これからの計画を」
嫌らしい笑みを浮かべたオブシディアンに対して、ここ最近すっかり移ってしまった悪魔らしい笑みでジュードはこれからの展望を話す。
「ホグワーツを手に入れる」