ウォルの普段着は2部衣装である『暁の戦士』をイメージしてます。
それは、何気ないある一日だった。
ヴォイスとの戦いには、とりあえず一区切りついて。かつて『希望の塔』と呼ばれたここは、今では草木に覆われ始めている。
とはいえ、この場所は『大濁流』後の世界が区切りを迎えた、その主要舞台であったことには変わりない。塔の麓には幾つもの建物が建てられ、パラミティアでも有数の大きな街になっていた。
そんな街並みを遠くに眺めつつ。ウォルは、塔の頂上で何をするでもなく座っていた。
「どーしたのよ。ぼーっとしちゃって。」
「別に。今日やることは終わったし、どうしようかと思ってな。」
「そうねー。見回りついでに魔物退治したのはいいものの。後続のマーサリスたちは「後は我々にお任せを!」って張り切っちゃうし。ま、楽できていいんじゃない?」
エコーはそう言うと、すとんとウォルの肩に腰掛ける。ウォルは一瞥すると、また眼下の街並みに視線を戻した。
「あいつら、そんなに気を使わなくていいのにな。あれからもう何ヶ月も経っただろ。」
「だって、また君が拗らせたら大変でしょ。」
「むしろこういう状況は、あの状態になるのを助長させると思うけどな。」
「あら。だから私が一緒にいてあげてるんじゃない♪」
「そりゃどーも。」
ウォルが平坦に答えると、エコーはクスクスと笑い声を零す。そんな様子に、ウォルは肩を小さくすくめた。
背後の方から騒がしい声が聞こえたのは、その時だった。最早聞きなじんだその話し方にあたりを付け、二人は振り返る。
「どうした、エコ。」
「そんなに慌てて、何かあったの?」
「ありましたよ! お知らせせねばと思って、ようやくお二人を見つけたんですから! 探したんですよ~!」
こちらに飛んで来たのは、エコーと同じ顔·同じ声をした、赤いフードのエコー族。想像通り、『破滅の戦士』の騒動で出会ったエコだった。
ポンコツ気質の彼女だが、こちらを手助けしようとする意思は本物だ。エコのわたわたとした雰囲気に、ウォルは立ち上がる。
ヴォイスが消えた今、そう大きな危機が来るとは思えない。しかし、ウォルはこの場にいる一番の戦力だ。探してきたということは、何かあったのだろうか。
「それはそうと、大変なんです! セーラ様がいらっしゃらないんですよ‼」
「セーラ? 今はメイアと一緒に、オメガ村のあたりまで出掛けているはずだが。エコも聞いただろ。」
「数日かかるとは言ってたけど、まだ予定の日にちを過ぎたわけじゃないし。そんなに慌てることないんじゃない?」
「予定については、私も聞きました。ですが、用事ができてしまいまして。お呼びしようとしたところ、ソフィさんとグラフさんが暇だからと行ってくださったんです。」
「じゃあいいじゃない。そんなに不安なわけ?」
「不安ですよ! お二人が出かけたのは3日前なんですから!」
「何?」
その言葉に、ウォルは眉をしかめた。
確かに、ここしばらく二人の姿を見かけなかった。しかしヴォイスに翻弄されたとはいえ、あの二人も手慣れだ。何か頼まれごとだろうし、問題ないだろうと思っていた.
だが、目的地がオメガ村の周辺だというのならば話は別である。
「3日って、オメガ村よ!? 徒歩じゃなくてテレポで行ったのよね? 数時間もあれば、余裕で帰ってこれる場所じゃない!」
「だから心配なんですよ! また、何かあったんじゃないかって……!」
「あんたは探しに行ったのか。」
「いえ、私はまだ……。だって、私までいなくなったら貴方たちにお知らせできないじゃないですか!」
「それなら、もうちょっと早くに教えてほしかったんだけど……。まあ、ソフィたちに気付かなかった私たちにも問題があるわね。」
エコーは首を振ると、ひゅるりと飛んでウォルの顔を覗き込む。
「それで?君はどうするの。」
「……ま、最近退屈してたんだ。面倒だが、丁度いい。行くぞ、エコー。準備はいいか。」
「そんなの、とっくにできてるっつーの! 君のことだから、また飛び出すことになるんだろうなーって思ってたのよね。」
「そりゃどーも。そういうわけだ、エコ。おれたちもオメガ村に向かう。あいつらを連れ戻すから、待っててくれ。」
「……わかりました。どうかお二人とも、ご無事でいてくださいね! セーラ様たちのこと、お願い致します。
あ、でも私もただ待ってるわけにはいきませんから! オメガ村と離れた場所を探ってみますね。このあたりも安定してきましたし、遠征です、遠征! きっと、お助けできる人々もいるはずですから!」
「やる気だな。マーサリスは、俺たちがいないときのまとめ役を任せてるから……。イースやケイたちと相談してくれ。あいつらなら大丈夫だろ。」
「おっまかせください! それでは!」
エコはそう元気よく答えると、光を残して消えていった。言葉のままに、イースたちの元へと飛んで行ったのだろう。
「それじゃ、おれたちも行くか。」
「そうね。オメガ村へ、れっつらごー♪」
エコーはそう言って、腕を大きく振り上げる。ウォルも頷くと、テレポを発動させた。
◆◆◆
パラミティアの表面を繋ぐ翠の光で満ちた通り道。数えきれないほどのテレポで、見飽きた光景だ。ただ、最近は塔の近くで過ごしていたからか、ほんの少し懐かしい感じもする。
「それで、オメガ村についたらどうするの?」
「ひとまずは、村に行ってセーラたちがいないか確認する。聞きこんでもわからなければ、次はメイアのいた洞窟だな。パラミティアを何か所か回ると言っていたが、始めの行き先がそこだったはずだ。なにかしらの手がかりはあるだろ。」
「とりあえず、そんなところが妥当かしらね。その後に関しては、わかったことから考えればいいし。」
エコーはそう言って、頷きかえす。
「それにしても、セーラたちって鍛錬してくるって出かけて行ったのよね?」
「それに加えて、折角なら塔の周辺に住まないかって勧誘だそうだ。ヴォイスが消えて、雑な物語を作る奴もいなくなった。ロール主義と自由主義の物語、は途中で打ち切られたらしいし……。おれたちが知らないだけで、無茶苦茶にされた奴らがいるんじゃないかってな。
近頃は塔の整備で忙しかったが、久々に顔出しもかねて、村に帰る話だったはずだ。」
「じゃあ、君も久々の帰省ってわけね。ねえねえ、折角だし、お世話になった人たちにご挨拶を……。」
「待て。」
「何よ。ちょっとからかっただけ……。」
「声がする。」
「!」
周囲に素早く視線を巡らせるウォルに気付き、エコーも辺りを見渡した。
翠の光に、違和感は感じない。
実体がない相手か。はたまた、隠れているだけなのか。
『…………け…。』
そして呼吸音すら聞こえそうな静寂の中、二人は僅かながらも声を捕らえた。
「聞こえた! けど、声が小さい……!」
「おまけにノイズが酷いな。一体、何を言ってるんだか。」
眉を顰めながらも、ウォルは耳をそばだてる。未だ誰かも分からぬ声は、先ほどから続いているようだ。そのどれもが内容を掴めないが、何かを伝えようとしているのは確からしい。
「あんた、誰なんだ。おれたちに何か用か?」
『………っ……! ……す、………!』
「………。エコー、わかるか。」
先ほどよりも強くなったものの、やはりその内容はうかがい知れない。ウォルは匙を投げて、エコーに視線を向けた。
「ここまでひどいと、流石にちょっとね。何かしら……。助けを求めてる、とか?」
『! ……し……、た………‼』
「……当たりか?」
「どうする? どこの誰かは知らないけれど。この子のこと、助けであげる?」
今までとまた違った反応に、ウォルは腕を組む。その様子を見かねて、エコーは声を掛けた。しかし、ウォルはすぐさま首を振る。
「断る。本当に、助けてほしいのかも分からないんだ。何を言っているのか分からないんじゃ、おれにはどうしようもない。そもそも、もし本当にそうだとしてうさんくさい。」
「うわ、即答。かわいそうだとは思わないの?」
「全く思わないな。」
「かわいげがないなあ。まあ、言いたいことはわかるけどね。姿も現さずに助けてほしいのなら、もっと具体的な情報をくれないと。」
『声』に向かって、エコーは声を上げる。そうこうしているあいだに、テレポの出口が見え始めていた。
「ま、ついた先でそれらしい奴を見かけたら、助けることもあるかもしれない。一応、探してみるか。」
「随分遠回りな言い方ね。もっとハッキリ言ってあげたらいいのに。」
「会うかどうかもわからないからな。ほら、つくぞ。」
ウォルがそう言うと同時に、目的地に着いたらしい。テレポの回廊を抜けて地面についたのを確認すると、ウォルはあたりを見渡した。
「さて。肝心のセーラたちだが、ど、こに………。」
その途中で、ウォルの声が喉元から止まる。エコーはそれを見て揶揄おうと口を開きかけるも、ウォルと同じことに気が付いたらしい。その口を、そっと閉じた。
「………。ねえ。ちょっといい?」
「何だ。」
「……村って、まさかここのこと?」
周囲をぎごちなく見つめた後、一点を見つめながら、恐る恐るエコーが尋ねる。そんなエコーに、若干声を強張らせながらもウォルが答えた。
「………。そんなわけないだろ。そもそも、村じゃない。」
「じゃあ、どこよ、ここ?」
立ちすくむ二人の眼前には、見るからに大規模な街がその姿を見せていた。
進行上今後出るかわかりませんが、作中名前等が出てきた人々。
マーサリス:『希望の塔』に集まった人々のリーダーだった男。当小説では、ある程度ソフィやセーラたちも自由にしてもらいたいと、事件の後も塔の責任者的役割になっている。
エコ:エコー族の一人。残念なほどポンコツだが、旅後半ではそれなりに戦闘補助もこなしていた。実際ストーリー上で有能な動きもチラホラと。ポンコツさ故かエコー族(ヴォイス)の企みを聞かされておらず、終始セーラたちのために動いてくれた。
妨害されながら『破滅の戦士』を追う途中、ウォルが「頼りにしてるぞ、エコ」って言うシーンが好きです。
イース、ケイ:ウォルが滞在していた、オメガ村の自警団の二人。イースが魔導士で、ケイがレンジャー。ヴォイスの企みが忍び寄る前からイースはレインボーエレメントを送ってくれたりと結構優秀だった記憶。とはいえロール主義思想が入ってきた後の自警団三人は色々と凄いことになっていたので、潜在能力はどちらもなかなかだったと思う。元ブランクだったんじゃないかと思うんですが、どうなんだろうか。
ヴォイス:メビウスFFにおける黒幕。姿を持たず、声のみの存在。DFF等での光の戦士ボイスだが、本当に中の人同じですかレベルに胡散臭く耳に触る声だった。2部の最後、そしてバトルタワーイベント『ヴォイス・アンコール』を経てその戦いを終わらせることとなる。