FAIRY WINGS 空白の剣   作:月陰

2 / 2
第2話 遭遇

「これは……。」

 

 

 僅かに呆然としながら、ウォルは辺りを見渡した。

 

 人が多い。あちらこちらで声が行き交い、活気に満ちているのが見て取れた。

 パラミティアにいて長いが、これほどまともに機能している『街』を見るのは初めてだった。『希望の塔』周辺部は整備され始めているとはいえ、未だこの街の足元にも及ばないだろう。様々な業種の店舗がそこここに存在し、物流もそれなりの規模らしいことが見て取れた。

 近くにあった店先に売られていたリンゴを手に取ってみる。色は鮮やかで瑞々しく、ずっしりと重い。籠に山盛りのそれらは、どれも同じ品質のようだ。

 

 

「よお、兄ちゃん。いいリンゴだろう? 安くしとくぜ。今なら200Jだ。」

 

「そうか。これで200……何?」

 

 

 店主の言った値段、正確にはその単位に気づくと、ウォルはリンゴから視線を上げた。

 

「200、ジュエル? ギルじゃなくて!?」

 

「………。これ、使えるか。」

 

 

 驚くエコーの横で、ウォルは財布からギルを取り出す。頬を一筋流れた汗は、気温のせいではないだろう。

 

 

「? こいつは……。まさか、帝国の通貨か? 悪いが、ここじゃ使えねえなあ。換金するなりしてくれなきゃあ。」

 

「嘘!? ギルが使えないって、どうなってんのよ!?」

 

「どうなってるのって言われてもな。使えないものは使えねえよ。冷やかしなら行った行った。」

 

 

 半ば呆然とするウォルとエコーを前に、店主は追い払うように手を振ると店の中へ戻っていった。

 声もなくそれを見届けると、息をつき、二人はちらりと視線を交えた。

 

 

「……どうするの? この後。」

 

「まさか、所持金が使えないとはな……。いったん戻ろう。一応最低限の物は持っているが、いつセーラたちが見つかるかも分からなかったから、仕入れる前提だ。」

 

 

 そう言って、ウォルはテレポを使用しようとする。しかし、一向に発動する気配はない。いくらやりなおそうと、テレポ特有の光が現れる兆しはなかった。

 

 

「どうしたのよ。早く、テレポ使ったら?」

 

「いや、待て。……テレポが使えないんだ。」

 

 

 眉根を寄せるウォルを、エコーは数回瞬きして見つめる。そうしてようやく意味を認識したのか、一拍遅れてエコーは大声を上げた。

 

 

「えっ、ええええっ!? ちょちょちょ、ちょっと‼ どうすんのよ! テレポが使えなかったら、セーラたちを見つけても塔に帰れないじゃない! ここがどこだか分からないのに、歩いて帰れって!?」

 

「参ったな……。エコー。テレポが使えなくなるような、そんな妨害の気配はあったか?」

 

「そんなの、なかったと思うけど。今までにテレポが使えなくなったことっていうと……。」

 

「初めてモーグリの里に行ったとき、カオスに妨害されたこと。それと『破滅の戦士』の騒動でおれがオメガ村に向かう途中、エコー族に妨害されたことくらいか。どちらも急を有する場面だったが。」

 

「流石に、今は急を有するってわけじゃないわよね。緊急事態ではあるけれど。一体どうなってるんだか……。」

 

「とにかく、そうだな」

 

 

 ウォルは、眉根を寄せて首を振る。

 ギルならば、今までの長い旅の中で有り余るほど手に入れている。しかし、使うことができないのであればゴミも同然だ。

 

 

「……。どうするか……。」

 

 

 ひとまず、今確かなことは。

 現在このリージョンにおいて、ウォルは無一文という事実だけだった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「ちょ、ちょっと! 街の方は暑かったのに、何よ、この山!」

 

 

 街を出て、歩くことしばらく。ウォルとエコーは、ハコベ山にたどり着いていた。あの後街で情報収集を進め、『バルカン』なる魔物がいると聞いた場所だ。

 ウォル達がたどり着いた街『マグノリア』は、その文明度が示すかのように、ある程度は金銭が物を言う場所のようだった。手持ちにジュエルとやらがない以上、手に入れるしかない。しかし、そう易々と見合った仕事があるとも思えないし、塔に戻って物資を入手することもできない。そのため、とりあえずパラミティアと同じ方法で手に入れようと考えたのだ。要するに、魔物が落とす金銭目当てである。

 

 しかし山道を上る途中で冷気を感じたと思えば、突如眼前に現れたのは猛吹雪の嵐。その光景に、ウォルは半ば呆然とその足を止めていた。

 

 

「テレポで渡ったわけでもないのに、この急激な変化……。さっき抜かされた馬車がやけに早く引き返してきたと思ったが、これが原因だったか。ま、パラミティアらしいといえばパラミティアらしい。」

 

「もう、こんなところにバルカンがいるわけ!? もっと過ごしやすいところにいろっつーの!」

 

 

 そう言いながらも、エコーは『ウインターエコー』の姿になっていた。帽子に掛けていたゴーグルも装着し、吹雪に向かって叫んでいる。流石のエコーにも、この猛吹雪は応えるということだろうか。

 

 

「同感だ。とはいえ、また街に戻るのもな……。さっさと探して、ジュエルが手に入れられるか確認するか。」

 

 

 立ち止まっていても、何かがわかるわけではない。

ウォルは視界確保のために、ゴーグルのついた『伝説を継ぎし王子』にジョブチェンジする。そして、意を決すると吹雪の中へ足を踏み出した。

 

 パラミティアでも豪雪地帯に足を踏み入れたことは何度かある。しかし、それらはあくまでも晴天下の雪山だ。この環境下では、その経験も気休めでしかないだろう。

 

 

「それにしても、ジュエルねえ。ギルと同じなら、魔物が落としてくれると思うんだけれど。」

 

「わからないのか。」

 

「わからないわよ。ミッドガルとか、ザナルカンドとか、パラミティアと別の世界が繋がったことは何度かあったけれど。どこも通貨がギルだったわ。モガマルたちに会ったときも、魔物が落とすお金はそうだったし。いくらなんでも、世界の仕組みそのものが変わってるなんて。」

 

「ヴォイスを倒したうえで、このリージョンが開いたからなのか。それとも、テレポの時に聞こえた声の持ち主が何かしたのか。いや、どこかに連れてこられた?」

 

 

 このような事態になってしまうなど、考えられるのはそのくらいしかない。それにしては、あの声から害意のようなものが感じられなかったのが気がかりではあるのだが。

 

 

「こんなことなら、もっとちゃんと聞いておけばよかったかもね。」

 

「ただでさえ聞き辛かったんだ。ずっとあの空間にいる訳にもいかないし、今言っても仕方ないだろ。

 なんにせよ、情報が足りなさすぎるな。セーラたちのこともある。金の問題が解決しようとしなかろうと、いろいろと考えないといけないか。」

 

「大変ねえ。お金の問題って。」

 

「全く、金に追われるなんて碌なものじゃない。」

 

 

 凍りつくため息にも辟易して、ウォルはとにかく歩を進めた。

 

 

「ともかく、このまま歩いてもバルカンの痕跡を探すのは無理だ。……あの岩壁のところでいったん休憩するぞ。」

 

「あーあ、こんなことなら来るんじゃなかった! あの岩壁のところに住んだりしてないかしら。」

 

 

 ぼやきながらも、二人はかすかに見えた岩壁の方へと進んでいく。そしてようやくたどり着くと、そこは岩壁が遮っているのか、比較的吹雪が流れ込まない場所だった。今まで来た道を振り返ると、既に雪で埋め尽くされている。

 ウォルは、帰りはテレポを使おうと心に決めかけ、使えないことを思い出す。僅かに首を振ると、今は考えないことにした。

 

 

「とりあえず、ここから探しましょうよ。バルカンだって生きてるんだから、それなりの環境下にいるはずでしょ?」

 

「そうだな。それなら……。」

 

「……ああああああっ‼」

 

「?」

 

 

 その時、吹雪の轟音に混じって、上空から声が響いてきた。何事かと見上げれば、青年が一人、まっすぐに落下してきている。

 

 

「な、うわっ!?」

 

 

 避けるか受け止めるか迷う時間よりも、青年が落下する方が早かったらしい。最低限の受け身はとったものの、ウォルは真正面から青年と激突した。足元がそれなりに真新しい雪だったおかげか、多少のクッション替わりになったのがせめてもの幸運だろうか。

 

 

「いっつつつ……。うおっ、人―――!?」

 

「いきなり落ちてきて、第一声がそれかよ……。」

 

 

 ウォルを下敷きにしていることに気付いたらしい。青年が慌てて退くと、ウォルはため息をつきながら立ち上がった。

 

 

「ちょっと、大丈夫?」

 

「なんとかな。」

 

 

 駆け寄るエコーにウォルはそう返す。その横で、青年はエコーをじっと見ていた。

 

 

「? なんだこいつ。虫?」

 

「ちょっと! かわいいかわいいエコー様に向かって、虫って何よ、虫って!」

 

「ここらにはこんな虫がいるのか。」

 

「人型の虫がいてたまるかっての!」

 

「ナツー! 大丈夫?」

 

 

 その時、上空から翼を生やしたネコが現れた。

 ウォルは一瞬驚くも、妖精のトンペリやサボテンダーを思い出す。大方、あれらと似たようなものだろう。ネコっぽいものならばケットシーもいたことだし。

 そう片付けると、青年とネコに向き直った。

 

 

「ハッピー! 大丈夫だ。」

 

「おれを下敷きにしたおかげでな。」

 

「悪かったって。それよりバルカンだ!」

 

「! あんた、バルカンを倒しに来たのか。」

 

「おう! ……ん? お前も?」

 

「一応な。」

 

「お金が稼げないかな? って思ってね。」

 

「ってことはお前ら、商売敵じゃねーか‼」

 

「バルカンの依頼は、オイラたち妖精の尻尾(フェアリーテイル)に来てたはずだよ?」

 

 

 ウォルの言葉に、青年――ナツは大声を上げた。それに補足するように、ハッピーも口を開く。

 

 

「フェアリーテイル? あんたのいる組織か。」

 

「おう! 俺たちは、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士だ!」

 

「その妖精の尻尾(フェアリーテイル)のルーシィが苦戦してるけどね。」

 

「やべっ、忘れてた! 行くぞ、ハッピー‼」

 

「あいさー!」

 

 

 ハッピーに言われ、ナツは焦った様子を見せた。そのまま、翼を羽ばたかせたハッピーと共に上空に戻っていく。

 それを見届けて、ウォルは静かに岩壁へと視線を向けた。

 

 

「フェアリーテイルか。村の名前、ってわけでもなさそうだな。折角、ここについて知っている奴らがいるんだ。おれたちも行くか。」

 

「賛成! それじゃあ早速、行くとしますか!」

 

 

 幸いにも、ナツたちの姿が見えなくなった岩肌の場所――恐らく、露出した洞窟があるのだろう――は見えた。そこまでの足場もいくつか見受けられる。唯一の懸念としては吹雪いていることだが、慎重にいけば問題ないだろう。

 ウォルは『竜騎士』にジョブチェンジすると、洞窟に向けてジャンプした。

 

 

 




 今後の投稿について、活動報告にお知らせがあります。ご一読ください。


伝説を継ぎし王子:星のドラゴンクエストとのコラボで実装された。ドラクエⅡのローレシアの王子スタイル。ジョブタイプはレンジャー系。風・土・光のエレメントが扱える。しかし初ジョブチェンジの先がコラボジョブって……。

竜騎士:槍を扱う初期ジョブ。ジョブタイプは戦士系。火・水・土のエレメントが扱える。本来ジャンプは必殺技ですが、当小説では必殺技の他に単に跳ぶ程度なら使えるということで。

ウインターエコー:華麗なトリックでゲレンデの妖精を気取ります。
スキーヤースタイルのエコー。ポンポン帽子にスキーゴーグル。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。