赤煉瓦警備隊   作:草浪

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第1話

あの事件からどれぐらい経ったでしょうか。

野分達の上司が関与した不祥事。その責任を取らされる形での謹慎処分。あの翔鶴さんのことです。事実上での解雇に近いでしょう。

七係そのものは残りましたが、もう日向さんも足柄さんもいません。そして、野分も。

 

「…………コンビニぐらいやっていてもいいじゃないですか」

 

京都駅。時刻は朝の五時半。

容姿端麗、振りまく笑顔には愛嬌もあって優しい翔鶴さんですが、内面は日向さん以上に何を考えているのかわからない人です。

 

「辞めるなんて……そんなこと言わないでください。それなら私と一緒に来て頂けませんか?」

 

そう言われて渡されたチケット。

野分は見たことのないチケットでしたが、行き先に京都駅と書いてあったので、舞鶴に異動になることはすぐにわかりました。

その後の辞令。三ヶ月間だけの異動人事。足柄さんも佐世保へ。足柄さんは横須賀になんて、翔鶴さんの下で働きたくないからと帰ってくるつもりは無いらしいく、佐世保で立場を確立させたら野分を引き抜いてくれると約束してくれました。

言われた時は、冗談にして流そうと思いましたが、今なら「お願いします」としっかり頭を下げてくればよかったと後悔しています。

野分に渡されたチケットは夜行バスのチケットでした。三時間で来られる道のりを九時間以上かけて来たので、シャワーを浴びてフカフカのベッドで寝たいのですが、そうも言ってられません。

 

「……暇ですね」

 

スーツケースに座り、携帯でここから先の経路を調べます。ここからあと三時間。乗り換え駅に到着するであろう時間の少し前にアラームをセットしておき、車内では景色ではなく、バスよりも広い座席での睡眠を楽しむことにしました。

 

「とりあえず、チャージだけはしておきますか」

 

 

ーーーー

 

東舞鶴駅。

到着した事を車掌さんに教えられ、眠たい目を擦りながら駅のホームに降りました。

 

「考えてみれば、列車で舞鶴まで来たことはありませんね」

 

艦娘時代、移動は殆ど航路でした。

それを考えれば、自分の力で移動しない分、今回の旅は楽だったでしょう。ですが、野分も現代に生きています。それに楽も知っています。

例えば、これ。交通用ICカード。これがあればスムーズに改札を……

 

「改札がありませんね」

 

京都で改札を抜けた時は確実にピッとやっています。それに、その間で一回も改札の外には出ていないので、無賃乗車はしていないはずです。駅員さんが不思議そうに野分を見ていますが、野分は悪いことも変なこともしていないはずです。

 

「すいません。改札は……」

 

野分がそう言うと駅員さんは野分の手に持つカードを見て申し訳なさそうな顔になりました。

 

「すいません。ここはIC未対応なので……キャンセルしますのでカードをお預かりしてもいいですか?」

 

「そうでしたか……お願いします」

 

カードを渡し、処理をして貰う。しばらく待っていると、先程の駅員さんがカードを返してくれました。

 

「京都駅からですね。2070円、現金でお願いします」

 

なるほど。現金払いなのですね。

野分のお財布には……やはり、三千円しかありません。さきほど、カードに二千円ほどチャージしましたからね。細かい方は大丈夫、お札が全て崩れることはありませんが。

 

「……これで、お願い、します」

 

昨今の小学生のお財布よりも軽い野分のお財布は今日一日もつのでしょうか。

不安しかありませんが、最悪どこかコンビニで降ろせば大丈夫です。

そんな野分を見ながら笑いを堪えている銀髪の女性。

 

「わざわざ遠方からご苦労様」

 

「千歳さん。ご無沙汰してます」

 

似たような髪の色をして、この身長差。側からみたら姉妹に見られそうですが、その方がかえって都合がいいようにも思えます。

 

「本当に久しぶりね。とりあえず、暑いからさっさと冷房の効いたところに行きましょう」

 

「わかりました」

 

千歳さんが乗ってきたであろう車、黄色いナンバープレートということは軽自動車なのでしょう。

トランクを開けると後部座席は倒され、野分のスーツケースが収まるスペースは確保されていましたが、重たそうなペリカンケースがいくつも乗っていました。

 

「散らかっててごめんねー」

 

「いいえ。慣れてます」

 

「横須賀の方ってもっとスマートなイメージがあったのだけど違うの?」

 

「スマートではなかったです。オフィスも他の部署に比べたら狭かったですし。まぁ、人数も三人でしたけど」

 

「なら、オフィスの広さだけなら勝てるかなぁ……」

 

そんな雑談をしながら、窓の景色を眺めていると、何となく野分の知っている舞鶴に近づいてきました。

 

「野分さんは元々……」

 

「はい。ここにいました。あと、野分で大丈夫です」

 

「のわっちって呼んでもいいのかしら?」

 

「足柄さんですね」

 

「それはどうだか」

 

千歳さんの含み笑いを見る限り、恐らくは足柄さんが絡んでいるのでしょう。あの人の場合は問答無用でのわっちでしたが、この人は許可を得るだけまだ常識人なのでしょう。

しばらく走らせていると、千歳さんは赤レンガの倉庫が並んだ観光地の方へ曲がりました。

 

「曲がるのはもっと先じゃ……」

 

「いいえ、ここよ」

 

関係者以外立ち入り禁止

如何にも厳重そうに見える一つの赤煉瓦倉庫。

千歳さんはその前に車を止めると、倉庫の扉を開けました。

 

「ようこそ海軍特別犯罪捜査局舞鶴支局……赤煉瓦警備隊へ」

 

これは横須賀時代よりも辛くなる。

野分の直感がそう告げています。

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