「戻りました~」
千歳さんに案内してもらい、舞鶴支局、通称”赤煉瓦警備隊”のオフィスに足を踏み入れました。ここに来るまで駐車場兼倉庫と化していた一階部分を通り過ぎましたが、置いてあるもの・・・・・・例えば千歳さんの車の横に止められたこの国ではあまり見かけない国産のピックアップトラック。通勤用でしょうか。日向さんとも足柄さんの趣味とも違います。まぁ、よしんばそれはういいとして、問題はその横でしょう。無理矢理押し込められた様に見えるヘリコプター。横須賀にもいろいろ変わったものが置いてあると思っていましたが、ここはそれ以上のようです。
「お世話になります。横須賀から・・・・・・」
パンッ。挨拶をしようとしたら、炸裂音が響き、頭の上から金銀華やかな紙テープが降ってきました。
「ようこそNSCI舞鶴支局へ!」
炸裂音に身構えましたが、愛宕さんの大きな目が野分をしっかりと捉えていました。手にはパーティー用のクラッカー。何故でしょう。何も言っていないのに、はい、死んだー、と言わんばかりに勝ち誇っているような気がします。
「ぱんぱかぱーん・・・・・・じゃないんですね?」
少し仕返ししてみました。その瞬間、愛宕さんの目つきが一瞬鋭くなりました。この感じ、日向さんのものとも足柄さんのものとも違います。どちらかと言えば、陸奥さんのそれに近いと思います。あの纏わり付くというか、見透かされているようなそんなねっとりとした視線。おそらく野分はやってしまったのでしょう。
「あら。いきなりご挨拶ね。そういう子、いじめ甲斐がありそうで嫌いじゃないわよ?」
やっぱりどとらかと言えば陸奥さんですね。
「・・・・・・帰りたい」
歓迎されているのでしょうが、きっとここは横須賀以上にきつくなるのが目に見えています。
「それは無理よ。うちも人員不足でね。やっと来てくれた優秀な人材は手放したくないの」
「野分はそれほどではありません」
「そんなことないわ。あの翔鶴さんを悩ませる程ですもの。うちにはうってつけの人材だわ」
愛宕さんはそういい、野分の両肩に両手をおいて顔をのぞき込むように見ました。どうしてでしょうか。この陸奥さんを思い出す感じ。まるで見定められているかのような、このねっとりとした視線。思わず目を逸らしてしまいました。
「そんなことよりも」
しばらく見られていると、愛宕さんがクスッと笑ったような気がしました。頭をポンとなでられ、千歳さんの方を見ました。
「さっき木曾ちゃんから応援要請があったわ。来て貰ってそうそう悪いけど、仕事して貰うわ。一緒に来て頂戴。千歳さんはバックアップをお願いね」
「了解しました!」
千歳さんはそう言い、野分にタブレット端末を渡してきました。
「これに必用な情報は送るわ。たぶん愛宕さんのことだから、のわっちの装備は既に揃えてあると思う。とりあえず身分証と必用なものを持って出向いてもらえる?」
「わかりました・・・・・・」
まだこちらでの生活基盤も何もありません。あるのは艦娘時代の記憶だけ。せめて今日だけはゆっくりしたかった。そう思うとため息しかでませんでした。
ーーーー
「これ、愛宕さんの私物なんですか」
「そうよ~。自前よ~」
愛宕さんはそう言い、水色の国産ピックアップを爽快に運転しながらそう言いました。確かに、金髪でスタイルもそれなりの愛宕さんが運転するとさまになりますが、ここは日本です。舞鶴です。明らかに浮いているのは確かです。
「少し時間あるから説明するわね。後ろにある段ボールの中を見てもらえる?」
愛宕さんにそう言われ、少し身を乗り出して後ろの席にあるダンボールに手を伸ばし、中を少し漁ると冷たくて固い何かが手に触れました。それを取り出すと、愛宕さんは話を進めました。
「最近、舞鶴にそういった品物が入ってくるようになったの。今、私たちはそれを追っているわ」
「武器の密輸ですか」
「武器だけならいいのだけどね。こんなものが入ってきてるということは他にもイケないものが入ってきててもおかしくないわ」
「なるほど・・・・・・」
となれば、向こうもそれなりの装備を保有していることになります。交戦規定が通用しない相手、野分達が脅威だと思えば遠慮無く発砲してくる人たちを相手にするわけですか。きちんと体調を整えて、必用な装備をしっかり点検してからお仕事がしたいですね。今日みたいな日は勘弁して欲しいです。
「もしかして、眠たい? 少しでも寝ておく?」
「少し眠たいですが、大丈夫です。それよりも話の続きをお願いします」
野分は千歳さんから渡された端末でいろいろ過去の資料を読んでいましたが、いまいち内容が伝わってきません。自分たちだけわかればいい。そんな感じで書かれた報告書です。
「あら。帰りたいと言っていた割には随分と仕事熱心ね」
「知らないと怪我じゃすまなそうですからね」
「大丈夫よ。そうならない為に守ってあげるから」
「それはどうも。一つ聞いても?」
「どうぞ?」
愛宕さんは何でも聞いて頂戴と言わんばかりに胸を張りました。それだけ自信があるということでしょうか。どこが、とは言いませんけど。
「押収品リストにある、特殊火器ってなんですか? 他の項目はちゃんと名称で書いてあるのに、毎回出てきますよね、この単語」
「猟銃、拳銃、短機関銃、自動小銃、散弾銃に含まれないものよ」
「狙撃銃とか……っですか?」
「まぁ、狙撃銃もどこまでを狙撃銃というかで悩ましいわ。それに、その項目に含まれているはロケットランチャーとか、機関銃とか、そういった大型火器も含まれているわ。最近だとミニガンを押収したわ」
「ミニガン?」
ミニガンってなんでしょうか。よく女性の泥棒さんが忍ばせている拳銃のことでしょうか。確かに携行性が高くて隠し持たれていたら厄介ですが、それは拳銃の部類じゃないでしょうか。とりあえず、後で調べるとしましょう。送られてきた資料をあらかた読み終えた野分は、一つため息をついて目をもみました。
「状況がかなりまずいということはよくわかりました。そして愛宕さん達のチームが頑張っていることも・・・・・・ですが・・・・・・」
「もちろんここに流れてくる全てを押収出来ているわけじゃないし、さっきも言ったけど人手不足なの。だから優秀な人材を寄越すようにずっと言ってきたわ。そしてようやくラブコールが実ったわけ。期待しているわ」
「出来る限りのことはしますが・・・・・・これだけの量を使うとなると、相手は単なる戦争を求めているわけじゃなさそうですね。それが誰かは解っているんですか?」
「阿武隈旗艦、第一水雷戦隊よ」
思わず言葉を失うとはこのことでしょう。悪い冗談にしか聞こえない。けれど、愛宕さんの目にはふざけている様子は一切ありません。一つ、大きな深呼吸をして、気持ちを落ち着かせました。