オリジムシ愛好家の述懐   作:糖分99%

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※このSSには主に感染生物に関する独自設定がございます。ご注意くださいませ


孵化する鼓動
1.ファーブルというオペレーター


「クオーラ、重装兵がそちらに三体行った!スカイフレアを向かわせるからそれまでブロック頼む!」

「テキサスは武装戦闘員が見えたら剣雨を使用後即時撤退!ホシグマと交代してくれ!」

「流れ者は全員片付けた?了解。プリュムは即時撤退。スカジをホシグマの援護に向かわせる。同時にサイレンスはドローンを近くに飛ばしてくれ」

「怪鳥の処理が終わったエクシアは引き続きその場で援護を頼む」

 

 鍛えられた鋼が装甲を削る音。

 迸るアーツが炸裂する音。

 風を切るドローンのプロペラ音。

 軽快なバーストの音。

 力尽きた者の最期の呼吸音。

 

 多種多様な音という音が支配する戦場の最中、フードを目深に被る男が無線機を使い、戦場に立つオペレーターに指示を飛ばす。その肩や胸ポケットには『ロドス』の名とエムブレムが刺繍されていた。

 ロドスは今の文明を支える『オリジニウム』の長期接触によって発症する不治の病『オリパシー』の治療及び根絶と、感染者に関する問題全ての解決を事業とする『武装した製薬会社』である。

 そしてこの男こそ、ロドス内三大権力者の一人であるドクターである。

 記憶こそ失ったものの、その指揮能力は顕在で、感染者で構成されたテロ組織であるレユニオンの構成員達を的確な指示で捌いて行く。

 やがて、行動可能なレユニオンは誰一人として居なくなる。

 

 レユニオンの物量を物ともしないドクターの素晴らしき采配。

 強大な敵に打ち勝つオペレーター達の素晴らしい戦闘力。

 動かぬレユニオン達の山がロドスの強大さを嫌でも見せつけてくる。

 

 ああ、しかし。

 それだけでは無い。

 彼らが強大な力を持つ理由は、彼らだけによるものでは無い。

 戦場の華たる彼らに隠れる者達の力でもあるのだ。

 

 戦場跡地で各オペレーターに事後処理を指示するドクター。

 一通りの指示が終わると『私』に話しかけてきた。

 戦場での覇気に満ちた冷徹な声ではなく、親しみを持った、まるでご褒美を期待する少年のような声色で。

 

「どう?いい感じに撮れてる?」

 

 回収した撮影用ドローンの映像データを端末から睨みつけるように見ていた私は顔を上げる。

 そして力強くサムズアップして見せる。

 

「ええ、バッチリです!質の良い作戦記録を期待していてください!」

「そうかそうか!それは良かった!これでオペレーター達の教育も捗るよ。毎度のことながらありがとう、ファーブル」

「いえ、これも仕事ですから!」

 

 感謝の言葉にそう返すと、ドクターはサムズアップを返して現場指示を出すために去っていった。

 それを見送った私はすぐさま作戦記録との睨み合いを続ける。

 この作戦記録は編集されてそのまま『作戦記録』としてロドス内部で販売される。その映像記録はオペレーター達の教材として消費される。つまるところオペレーターの強化に使われるのだ。

 

 そう、私は華に隠れる裏方。そしてロドス行動隊の縁の下。ロドス行動隊記録編集部、そのカメラマン兼ディレクターである。

 

 

 

 しかして、私にはまた別の側面がある。

 

 現場でできる編集と整理を終え、癖のある前髪をかき上げる。

 サルカズである私の頭には一対の角が生えているのだが、同族と比べて細く、しかも無数の節があり、曲がる為、まるで昆虫の触角のようになっている。なので前髪と一緒に角が後ろになびく。

 戦場の熱気で汗ばんだ肌をタオルで拭うと、端末を仕舞い、その両手に軍手をはめる。そして小高く積まれた死体の山の内、感染生物であるオリジムシβが積まれている山を漁り始める。

 目的はまだ生きているオリジムシの保護だ。

 このオリジムシはオペレーターによって傷つけられたもの。つまりはロドスに敵対したオリジムシである。

 ではなぜそんな感染生物を保護するのか?

 そう質問されたなら私はこう答える。

 

「オリジムシが好きだからだ」

 

 そもそもオリジムシは本来野生生物である。それがなぜレユニオンと共にロドスに襲い掛かるかといえば、レユニオン側の術師によって操られているだけ。つまるところ、このオリジムシ達はレユニオンの戦いに巻き込まれた被害者ともいえるのだ。彼らに罪などない。

 そんな訳でまだ息のあるオリジムシなどの感染生物や猟犬を保護してはロドスで治療している。

 なお治療及び飼育費はロドス持ち。レユニオン側の感染生物対策の為の研究という大義名分のもと資金を分取っている。あくどい?せこい?ちゃんと研究しているから貰った資金分の仕事はしているよ。

 

 前置きが長くなったが、わたしのもう一つの側面。それは感染生物研究者。

 ……もしくは単なるオリジムシ愛好家である。 

 だからこそ『ファーブル』という太古の博物学者の名前をコードネームとして貰ったのだろう。

 そんな私がカメラマンもやっている理由は、幾多ものフィールドワークで鍛えられたカメラワークを評価されたが故。……あと感染生物研究だけでは十分なお給金をロドスからもらえないからだ。つまるところ感染生物研究はロドスにおいて窓際部署なのだ。そもそも製薬会社だから仕方ないね。

 

「………さて、こんなもんかな」

 

 まだ息のあるオリジムシを探した結果、4匹ほど見つかった。コンテナ一つ入れて有り余る程度。

 そして隣のケージには猟犬が1匹横たわっている。

 

「治療して半分が生き残れば良い方かな。猟犬のほうは……難しいかな」

 

 感染生物以外にもレユニオンに使役される猟犬も保護しているが、その飼育は困難を極める。

 ただ操られている感染生物と違い、猟犬は訓練を受けている。訓練を受けられると言うことはつまりレユニオン側と信頼関係ができている、と言うことだ。治療しようとしても暴れて治療できず、かと言って麻酔をして耐えられるだけの体力もない為、なす術なく亡くなったり、治療できても拒食状態になって衰弱死したり、そうでなくともストレスで長く生きられないことが殆どで、保護犬のうちロドスで心身共に健康に過ごしているのは極々僅かで数えるほどしかいない。

 それでも保護するのは、かつてカズデルの生態学者であった責任感からか。

 

 オリジムシが入ったコンテナと猟犬が入ったケージを台車に置き、映像データが詰まった端末とドローンをケースに入れて背負う。

 

「ではドクター、お先に失礼します」

「お疲れ様。良い作戦記録を期待しているよ」

「ええ、任せて!」

 

 ドクターと軽く挨拶を交わした後、黒く、簡素で小さなアーツロッドを起動する。

 すると自身の周りを黒いドームが覆い、外の景色を隠す。

 そのドームが弾けるように消えた時。外に広がる景色は見慣れたロドス内の自分の研究室だった。

 私達サルカズはアーツの適応力が高く、アーツの扱いに長けている反面、大半がオリパシーに罹患している。私も例外ではない。

 しかし、私のアーツの適応力はサルカズの中では低い。そんな私に唯一持つことが許された力が『ポータル』だ。

 簡単に言えば瞬間移動。それだけ聞けばもの凄く便利に見えるが、自分とその周囲しか移動できない、ポータルは自分の周囲と自分が行ったことのある場所にしか開くことはできない、ポータルが開いている時間はあまりに短いので移動できるのは自分の周囲だけ、一度ポータルで移動するとものすごく疲れる、など制限も多い。

 当然、移動直後の私にはどっと疲労感が押し寄せてくる。

 しかしだからと言ってへばっている場合ではない。私の手には五つの救うべき命があるのだ。

 すぐさまコンテナとケージを診療台に置き、消毒液やガーゼ、その他特殊な薬品を複数用意する。

 

「ファーブル、いるかしら?」

 

 と、ここで扉をノックする声と私を呼ぶ声が聞こえる。

 どうぞ、と扉に声をかければ、優しくドアが開けられる。と同時に、甘く優しい香りが部屋に漂う。

 そこにいたのはいくつかの瓶を抱えたヴァルポの調香師、パフューマーだった。

 

「戦闘が終わったって連絡が来たからそろそろくる頃合いだと思って。薬草、用意してきたわ」

「いつもありがとう、本当に助かるよ」

「いいのよ、同じ生き物を愛でる同志でしょ?水臭いこと言わないの」

 

 そう言ってパフューマーはテキパキとなれた手つきで保護した猟犬の傷口の消毒を行う。

 パフューマーはその名の通り調香師で、ロドスの一角にある『療養庭園』なる温室を管理している。そんな彼女が私の趣味とも言える感染生物や保護犬の治療に手を貸してくれるのは、やはり彼女の言う通り同じ生物を、自然を愛する者同士であるからだろう。

 先程感染生物研究は窓際部署と言ったが、理解を示してくれる人は確かにいるのだ。

 ……このまま理解者を増やしていけば、ロドスももう少し費用を回してくれるんじゃなかろうか。

 そんな邪念を追い払いつつ、私はオリジムシの治療に専念する。

 オリジムシはカタツムリとよく似た軟体生物だ。殻どころか柔らかい体すら源岩によく似た材質で覆われているとは言え、傷口に直接消毒液を塗るのは、ナメクジに塩をかけるも同義だ。なので独自調合した、オリジムシの体液とほぼ同じ成分の液体で傷口を洗う。

 そしてヒビの入った殻を源石を材料とした、これまた独自開発の保護器具で塞ぐ。

四体に同じ作業を施したあと、個別のケージに入れ、高カロリーな餌と源岩を混ぜた飼料を与え、安静にさせる。

 パフューマーに任せた猟犬の治療も終わったらしく、栄養剤の注入も終わっていた。

 しかし注射の際に一切声をあげなかったあたり、相当衰弱しているように見える。パフューマーの努力が水の泡とならないことを祈るばかりだ。

 

「こっちは終わったわ。……この子は今夜が山かしらね」

「この子達も半分は生き残れないだろうね。………はぁ、好き勝手命を弄んで……」

 

 私がロドスに入社した理由は、感染生物を操り先兵にするレユニオンへの怒りだった。

 レユニオンが感染生物の命を弄んでいる。その事実を知らなければ、今頃龍門の大学でのんびりとフィールドワークに勤しんでいた事だろう。

 レユニオン許すまじ。その思いを胸に、レユニオンに対抗する組織の力になろうと、このロドスの門を叩いたのだ。

 

 唇を噛みしめ、ゲージの中のオリジムシと猟犬を見つめていた。

 すると、コツン、と膝に軽い衝撃を覚える。

 見ればそこには、人の腰程の高さのある、巨大な岩の塊のようなものがいつの間にか鎮座していた。

 そしてその岩はもぞもぞと私にその体を擦り付けるように動いている。

 

 信じられないかもしれないが、これもオリジムシだ。かつて私がカズデルの生態学者であった頃から共にいた相棒、『ジャン』である。

 元は単なるオリジムシαで、膝上程度の大きさしかない標準的な大きさだったのだが、私が甘やかしたせいかどんどん大きくなり今に至る。オリジムシはどうやら栄養に困る事のない飼育下ではこんなにも大きくなるらしいが、それがあまり知られていないのはひとえに感染生物を飼育しようという変人がそうそういないからだろう。

 

 こんなになるまで育てたせいか、ジャンは『私』をしっかり認識しているようだった。こうやって体を私に擦り付ける様子は甘えているようにも見えなくもない。

 とはいえオリジムシの知能の高さはどの程度なのか、まだはっきりとはわからない。少なくとも人間を含めた物体の認識はできていることは確かだろう。

 そして『私』が餌を与えてくれることもまた、理解しているようだ。

 

「よーしよし、お留守番ありがとうねぇ!はい、オヤツ」

 

 そう言って取り出したのはクッキー。

 しかして単なるクッキーではない。ロドスの薬品開発の副産物として生まれた、バランス抜群、味良しのクッキーであり、とあるライバルとの買い占め競争の末勝ち取った貴重なクッキーである。

 クッキーの存在を認識するや否や、ジャンは柔らかい体を伸ばしてクッキーに覆い被さり、ジャリジャリと歯舌で削るように齧り付いた。

 体の大きさが大きさなのですぐに食べ終わり、短い触覚をゆらゆらと揺らしている。

 だいぶゴキゲンなようだ。

 

「ふふ、ふふふ、ジャン〜、もう一個食べるかい?」

「ファーブル、記録の編集の仕事は大丈夫なの?」

 

 相棒とのスキンシップを楽しんでいると、厳しい現実を突きつける優しい声が飛んできた。

 そうだ、私にはまだ仕事があるのだ。

 不本意ながら本業扱いされている副業が。

 

「はぁ、そうだった……しかも今日結構映像あるんだよね……編集作業、一体何時間になるんだ……」

「この子達の様子は私が見ておくから、張り切っていってらっしゃい。脳を刺激する香りでもいかが?」

「貰っとく……ありがとう……行ってきます……」

「はいはい、いってらっしゃい」

 

 撮影用のドローンと端末の入ったケースと自分の作業用端末や書類が入った鞄を手に取り、ジャンの殻の上に置き、研究室を出る。

 すると私のすぐ後ろを、荷物を殻の上に乗せたままのジャンがついてくる。

 元々軟体生物のわりに移動速度が速いオリジムシがそのまま大きくなったのがジャンなのだ。その最高移動速度は人間の早歩きと同等である。しかも私がポータルで移動しない限り延々と私の後ろをついてくる。アヒルの子かな?

 そんなわけでジャンはしばしば荷物持ちになってくれている。本人にその気はないだろうが。

 

 編集の仕事が終わったら今日保護した子達の経過観察と、飼っている沢山のオリジムシ達の世話が待っている。感染生物達の世話は苦にはならないが、一体眠れるのは何時になることやら……

 

 などと考えていると、何処からか悲鳴が聞こえてくる。

 おやーなんかトラブルでもあったのかなー、なんて思いながら、記録編集への足を止めずにいた。

 だが、廊下の分岐点から血相を変えてやってきた見知った顔に行手を阻まれる。

 

「いた!ファーブル、早くこっちに!」

「えっ、なに、なに?」

「早くこっちに!」

 

 現れたのは同じサルカズのハイビスカスとペッローのビーグルだった。確か二人とも行動予備隊A1の一員だったはずだ。

 その二人は状況を全く理解できない私の両方を掴み、強引に引き摺るように連れてゆく。私は完全に後方の人間なのでフィジカル面はお察し。なので重装オペレーターのビーグルどころか、医療オペレーターのハイビスカスにすらフィジカル面で劣るかもしれない。そんなのに二人がかりで引き摺られたなら抵抗などできるはずがない。凄まじい速度で引きずられる私の後ろからキィキィというジャンの鳴き声が聞こえる。

 ふと、二人の服装を見てみる。いつもの服装だがひどく傷んでおり、場所によっては溶けかかっている。

 その溶け方に見覚えのある私はサッと血の気が引く。

 どうか、私の予感があたらないでくれと普段信じもしない神に祈りながら。

 

 しかして普段から祈りを捧げぬ者に都合よく神は幸運を与えてはくれない。

 引き摺られた先にいたのは……廊下のただ中であられもない姿になったフェン、ラヴァ、クルースの行動予備隊A1の他のメンバーだった。腕や足で隠してはいるが、それをどかせば局部が露わになることだろう。

 そしてその廊下の奥を悠々と移動しているのはアシッドムシα。強烈な腐食液で防具を溶かしてしまう感染生物だ。その殻には私の保護下にあることを示す印が刻まれている。

 

「……一応、なにがあったか……聞いていいですか?」

「廊下を歩いてたらー、あの子に躓いちゃってー……」

「それで怒ったアシッドムシが粘液を噴射して……この有様です」

「ソー……ソウデスカ」

 

 クルースとフェンがどんよりとした顔で大体予想できたことを説明してくれる。

 どうやらうっかり保護していたアシッドムシを逃してしまったらしい。

 

「……おい」

「はひぃ」

 

 今まで黙っていたラヴァが立ち上がり、鋭い目つきでこちらを睨み付ける。

 ラヴァは術師オペレーターで決して肉弾戦が得意なわけではない。だが前線に出ている者と単なる研究職ではフィジカルに差がある。

 

「……保護している感染生物くらいちゃんと管理しろ!」

「ごめんなへぶぅ!!」

 

 ラヴァより怒りの篭ったビンタを喰らった。拳でなかっただけ有情と見るか。

 

 結果私は通常業務に加え、始末書と弁償に追われることとなり、結局その日は徹夜となった。

 

 なお、日が上り切り全てを終えてフラフラと自室に戻ろうとしたところ、同じくフラフラと執務室に戻ろうとするドクターとすれ違った。

 

 お互いに同情の眼差しで見つめ合うこととなった。




基礎情報
【コードネーム】ファーブル
【性別】女
【戦闘経験】なし
【出身地】カズデル
【誕生日】4/15
【種族】サルカズ
【身長】153cm
【鉱石病感染状況】
メディカルチェックの結果、感染者に認定
能力測定
【物理強度】普通
【戦場機動】標準
【生理的耐性】普通
【戦術立案】標準
【戦闘技術】欠落
【アーツ適正】標準
個人履歴
提出された履歴書及び証明書からカズデルの大学所属の生態学の研究員であったことがわかっている。フィールドワークで数々の野生動物を被写体として写してきた実績から行動隊記録編集オペレーターとして雇っている。また、本人の希望で感染生物の研究及びそれに伴う感染生物の保護と飼育を認め、費用をロドスが負担しているが、本来ロドスは製薬会社であるため、あまり予算を割いていない。

以下信頼度上昇で解放


オリジムシ
日本版ではムシとぼかされているものの、英語版ではスラッグ、つまりはナメクジ扱いされているため、軟体生物としました。

アシッドムシ
ウ=ス異本で活躍しそう。というかしてた。
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