オリジムシ愛好家の述懐   作:糖分99%

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前の更新から1ヶ月以上開いてるってマジですか……?

ちなみに私ごとですがサソリを飼い始めました。
はい。つまりこのお話はそういうことです。

あとバニラ推しの方には先に謝罪しておきます。申し訳ありません。



産み、増え、繁栄せよ
10.デスストーカー・ストーカー・上


 子は母の愛を受け、大きくなる。

 

 いつか母の如くなる日を夢見て。

 

 兄弟姉妹が幾多も死別しようと。

 

 目指すべきは己が生まれた故郷。

 

 

 

 

「まず、これが矛だ。シンプルでなんの変哲もない、な」

 

 ヴイーヴルによく似た特徴を持つ鍛治師、ニェンは一本の長い金属棒をファーブルに見せる。

 その先端には左右対象の刃が取り付けられていた。

 

「古代では矛は戦車兵どころか、歩兵も持っていた重要な武器種であった。……が、冶金技術と戦術の発展により、刺突特化の槍が好まれるようになってからはあまり見られなくなった。……ここら辺は教科書に載ってるだろ?」

「……いや、そこまで詳しく載っていたか……というか私の専攻は生態学であって、考古学では……」

「なんだ、学校じゃあその程度のことも教えねぇのか」

 

 ニェンは呆れ混じりの溜息とともに矛を片付け、もう一つの金属棒を取り出す。

 その先端にはやはり刃がついているのだが、先ほどと違い柄と垂直に穂先が取り付けられていた。

 

「そんで、これは戈だ。敵に打ち据える、騎馬兵を引っ掛けて引き摺り下ろす、などなどさまざまな用途に使われた。武器用ピッケルみたいなものだ。それで、だ」

 

 ニェンは戈もしまい、奥から一つの長柄武器を手にとり、ファーブルに手渡した。

 ずっしりと両手に感じる重み。しかし見た目ほどは重くはない。

 穂先は柄と垂直な刃と並行な刃両方が取り付けられている。

 

「先ほどの矛と戈、二つの特徴を持つのが戟だ。ハルバードとも言えるが……軽量化のために斧の部分は消えたがな。これひとつで突く、斬る、引っ掛けるができる優れものだ。遠心力を生かした叩きつけは装甲もかち割れるだろう。歴史の中で槍によって淘汰された戟だが、あくまで高度化された戦術が生まれたが故。個人で扱うならば完成された武器種と言える」

「……これを私に?」

「ああ。お前さんの要望と身体能力、戦闘技術、それに例の事件をもとに作り上げた特注品だ。農民でも槍を持たせりゃ戦争では立派な戦力になったという。なら、フィールドワークで山やら登ってたらしいお前さんなら使いこなせるだろう。例え戦闘経験皆無でもな」

 

 そう言ってカラカラとニェンは笑う。

 ファーブルは渡された戟(もしくはハルバードもどき)を軽く振ってみる。

 なるほど見た目よりかは軽いが、フィールドワークで持っていくピッケルは長くても60cm。対してこちらは2m近く。石突に重りが入っていて穂先と重心を調整しているようだが、それでも振るえば若干体が重さに持っていかれる。

 軽量化してもなお武器に振り回されるファーブルを見てニェンは苦笑する。

 

「ま、それの扱いはおいおい慣れていけばいいだろ。ここにゃ達人も多い事だしな。さて、この戟にゃひとつ大きな特徴がある。それがこの装置なんだがな」

 

 コツコツと指先で穂先の根本をつつく。そこにはなにやら装甲で守られた機械が取り付けられていた。

 

「コイツはロドスの技術もちょいとばかし練り込んで作り上げた特殊なアーツユニットだ」

「私、まともにアーツを扱えないのですが」

「だから特殊と言ったろう?まずコイツは内蔵された蓄電池によって使用者周囲に絶縁フィールドを張り、穂先が避雷針に変化する。で、ジャンとかいうオリジムシの雷撃を受けると、戟が負極帯電し、周囲の生物から電荷を奪う。一定の値を超えると放電を起こす」

「……つまりは?」

「つまりは雷を意図的に発生させる、という事だ。ちなみにそこの標準器を使えば特定の対象から電荷を奪うこともできる。ていうか、標準器を使わないと最悪近くの味方に落雷するからな」

「めちゃくちゃ危ないじゃないですかこれ」

「お前さんは戦闘ど素人だろう?ならこれくらいのモノは持っててもいいだろう」

 

 

 

 

 その後ニェンから武器の手入れについてみっちりと教授された結果、早朝から時間は経ち、既に昼になっていた。

 戦闘オペレーター・バアルゼブルとしてのロドスへの登録手続きは思ったよりも長く、煩雑であり、ここ数日で巨大組織の秩序を守る事の面倒臭さを思い知らされた。

 ただ今日に限ってはニェン個人の面倒臭さと言うべきか、熱意の強さというべきか……ファーブル自身も研究内容については相手の反応も見ず語り出す性分ではあるので、研究者の性ともいうべきか。ともかく、ロドスの面倒臭さとは別の理由で時間を潰してしまった。

 そしてまだ面倒ごとは終わっていない。戦闘オペレーターとして戦場に出る際の自分のシフトの調整、それに伴う作戦記録編集者としての給与変更、人員の欠員に伴う新人の雇用、それに伴う新人の教育などなどやるべき事や確認事項は多い。

 とはいえ、午前をまるまるニェンの講義に使い潰す余裕があることから分かる通り、今日はオフである。じっくりと保護下の子達を可愛がり研究するのもいいし、久しぶりにゆっくりと体を休めるのも良い。

 が、何をするにもまずは空腹を満たさなければ。確か社員食堂がここから近かったはずだ。

 ただ、今も当然のように後ろからジャンが付いてきている。暫し迷ったのち、このまま食堂へ向かうことにした。

 以前ならば一旦自室に戻りジャンに留守番させるか、又は買っておいたインスタント食品や手料理を自室で食べるかしていた。というのもジャンは巨大な感染生物であり、戦場で敵として相対することが多い。だからこそ人の集まる場所にジャンを連れてゆくことは職場を除いてほぼなかった。しかしいずれはジャンとともに『バアルゼブル』として今まで交流の少なかったオペレーターと共に戦場をゆくことになる。ならばジャンを『バアルゼブル』の片割れとして皆に慣れてもらうために顔見せに行く事は重要だろう、と考えた為だ。

 

 いざ食堂へと足を踏み入れると、お昼時というだけあって多くのロドス職員が昼食を取っていた。そしてやはりと言うべきか奇異の目がこちらにいくつも投げかけられる。

 それもそうだろう。何せ蛾の触覚のような角を生やしたサルカズが、長柄武器を担いで、しかも巨大なオリジムシを連れて食堂へ乗り込んできたのだから。

 ある程度覚悟していたとはいえ、いざこの状況下に置かれると中々に堪えるものがある。ヒソヒソと何やらこちらを見ながら話すグループが目に入り、顔が急激に火照ってくる。

 そそくさと注文口に向かい、適当な定食を注文し、隠れるように隅っこの席に着席する。移動する際人波が自分を避けるように移動していた事を思い出し、耳まで火照ってくる。

 フォークは何度も皿と口を往復するが、肝心の口はフォークが運んできた食材の味を全く脳に伝えてこない。羞恥の感情で味覚を認識する余裕すら無くなっていた。

 

 やはり食堂に来るべきではなかったか。

 色々と過程を飛ばしすぎたか。

 

 そんな後悔の念に囚われていると、遠慮がちな声が頭上からかけられた。

 

「あの、お隣よろしいですか?」

 

 顔をあげれば、そこにいたのはハルバードを背負う長身で少しばかり童顔のヴイーヴルの女性であった。

 その顔には見覚えがあった。確か、自分が治療を受けている間、保護していた子達の面倒を見てくれていた……

 

「えっと、BSWのバニラさん、ですか?」

「はい、そうです!覚えて頂いて光栄です」

「あ、いえ、どうも……」

 

 名前を覚えられて光栄に思われるほど自分は偉くないのだが、なんていう嫌味じみたツッコミを飲み込む。

 バニラは確かBSWからロドスに留学してきた訓練生だったはずだ。ストイック、謙虚、低姿勢。この3単語で彼女の人柄を簡潔に言い表せるだろう。カメラマンや編集者として彼女の姿を見たことはあるが、面と向かって話したのはあの時以来2度目だろうか。

 

「あ、そうだ。あの時はゴタゴタしていてちゃんと言えませんでしたが……改めて言わせてください。あの子達の面倒を見てくれてありがとうございました」

「いえいえそんな!私にとっても貴重な経験になりました。特に特殊個体のオリジムシや、大人しいバクダンムシと触れ合う機会なんてそうそうないので」

「……あの時から気になっていたのですけど、感染生物……お好きなんですか?」

「感染生物だけでなく、生き物皆大好きです!」

 

 すっとファーブルはギプスを嵌めていない右手を差し出す。

 意図を理解したバニラも右手を差し出し、ファーブルの右手を包む。

 そして硬い握手を交わす。

 

 以前あった時から予感はあったが、間違いない。この子は『同志』だ。

 周囲から理解されなかった私が欲しくて止まなかった同志に違いない。

 

 そしてそれは、相手にとってもそうであったようだ。

 

「何だか私、安心しました。『犬が好き』って言ったら大体の人が同意を示してくれるのですが、『オリジムシも好き』って言ったら大体引いてしまうので……」

「わかる!感染生物だから触れづらいっていうのはわかるけど、でもフォルムは丸っこくてそれでいて光沢があって……」

「何というか……触れないからこそ感じる美しさと言いましょうか」

「……毒蛇と似通った美しさ……なのかな?」

「そう、それです!危険なものほど美しくて、危険で触れないからこそ余計に惹かれるというか……」

「わかるわかる!まぁ私は撫で回すけどね!もう感染者だから!」

「……こういう事ができると思うと、感染者が羨ましく思えます……あの時も仕方なく手袋をつけて触れ合わざるを得ませんでしたし」

 

 先ほどの羞恥は消え、研究者(ヲタク)特有の捲し立てるような口調で語るいつものファーブルと、普段の大人しい様子とはかけ離れた興奮するようなバニラの間で、常人にはおおよそ理解できない会話が交わされる。

 聞く人が聞けば目眩がするような会話を暫く続けたのち、バニラはようやくテーブルに立てかけた戟に気がついた。

 

「もしかして、それは……」

「あ、うん。ドクターの権限の下、ニェンさんから頂いた私の……アーツユニット……なのかな?」

「槍術を嗜まれているのですか?」

「いや全然。それに特殊オペレーターだから近接戦になることすらないとは思う。……でも戦場でジャンに頼りっぱなしになるのはなんだか、ね。それだとレユニオンと同じ気がしてさ」

「なるほど……」

「そういえばバニラさんはハルバードを使っているんですね」

「はい、1つで色々とできるので重宝しています」

「……もし良ければ私に戦闘のイロハを教えてくれませんか?」

「え、ええっ!? わ、私はまだ訓練生で、未熟者でして……」

「いやいや!私達はジャンと私二人で『バアルゼブル』なんですけれども、中々ジャンに抵抗のない人がいなくって……それに長柄武器を扱う人も少ないんです!ですから是非!」

「え、えっと……本当に私でよろしければ、謹んでお受け致します」

「ありがとうございます!……まぁ、今はちょっと難しいですけど」

 

 ファーブルは自分の左腕に目を落とす。

 そこには固定用の布は外れたものの、未だにギプスで固定された左腕があった。

 

「そういえば、特殊オペレーターとして雇用されるのですよね?」

「そうなんです。とりあえずこれで皆の役に立てればな、と」

 

 そう言って取り出したのは一つのカメラ。 

 ハンディタイプのようだが、少しばかり大きく、妙な形をしている。端的にいえばゴツい。

 

「これは……ビデオカメラ?」

「ただのビデオカメラじゃないんです。特殊な光波や電波や熱源を捉えて光学迷彩などで不可視化した対象をとらえる特殊なカメラです!このカメラと無線を併用して不可視化した敵の位置をリアルタイムで共有するつもりです!」

 

 そう言ってそのカメラを起動させてみる。

 すると、液晶には普段の景色を妙な色彩で彩り、ノイズのようなモヤが至る所に映り込んだような映像が映されていた。

 

「もしここにステルス状態のものがあれば、灰色のノイズがかったような人影が見えるんです」

「なるほど……」

 

 液晶に映し出される奇妙な映像をバニラはまじまじと眺める。

 

 ふと、何となくジャンにカメラを向けてみる。

 特殊個体になった影響か、周囲に若干のノイズが見られる。恐らくは内部の電気エネルギーのせいだろう。

 

 だが、そのすぐ横。

 そこにはそのジャンを蹲ってマジマジと眺める一つの人影があった。

 その人影には腰から非常に長い節のある尾────蠍の尾を生やしており、更には灰色のノイズが全身にかかっていた。

 慌ててカメラの液晶から目を離す。そこには誰もいない。気配すらない。しかし、カメラはしっかりと身を潜める何者かの姿が映し出されていた。

 

 驚き声もなく視線を液晶と現実を行ったり来たりするバニラ。対して、ファーブルはその存在に見覚えがあった。

 カメラにも映らず、特殊なカメラを用いてようやく姿が写る存在。肉眼では見たこともない存在。インタビューもしたことが無い存在。

 同じ特殊オペレーターのマンティコアだ。

 

「えっと、マンティコア……さん?」

 

 声をかけた途端、ギョッとしたような顔でこちらを見るマンティコア。

 慌てたように右往左往した後、あっという間に何処かへと駆け出していった。

 

「マンティコア、ってもしかして、あの人がそうなんですか?」

「恐らくは。私も昔渡された資料と映像の情報からしか判断できないけど」

「蠍の尻尾を持つらしいとは聞いていたので、やはりあの人ではないでしょうか」

「うん、蠍の尻尾だった」

 

 マンティコア。肉眼で誰も見た者はおらず、術師がようやく存在を感知できる程度、というミステリアスな存在。

 公開された資料からマンティコアという謎の種族名がコードネームとなり、種族特徴として蝙蝠の羽のような物を頭から生やし、腰から巨大な蠍の尻尾が生えている、という情報しか出回っていない。

 ファーブルも編集作業をするにあたって特殊な戦闘術、暗殺術を持つという事実を追加で知る以外は何も知らない。

 

 ミステリアスな彼女だが、彼女について知ろうという者は少ない。

 そもそも見えないというのもあるだろうが、何より人を遠ざけるのは、蠍の尾を持つという事実だろうか。

 蠍というものは危険な生物である。強力な毒を持つ種類は数少ないが、中には人を死に至らしめる強力な毒を持つ種もいる。その種と相対した時、柔軟に動く尾の構造がいかに恐ろしいか理解することだろう。

 数億年も前からフォルムが変わっていないという事実も添えれば、蠍という形が捕食者として完成されたフォルムの一つであるという事は疑う余地もない。

 原初の時代、被捕食者であった人間にとって、サイズの差から蠍の毒牙にかかる先祖達はほぼいなかったであろうが、それでも捕食者である蠍と相対した際、被捕食者であった人間が嫌悪感を覚えるのは仕方のない事なのだ。

 

 故に、その蠍の尾を持つマンティコアに近づきたいと思う者はいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あの尻尾、触ってみたいなぁ」

「はい。触ってみたいです……」

 

 しかしながら、完成されたフォルムであるが故に、その魅力に取り憑かれる変態が存在する事もまた事実なのであった。




マンティコアはいいぞ……!
s1かs2どちらを特化させるか迷った結果、両方特化させればいいという結論に至りました。まぁ特化2なら素材軽いしヘーキヘーキ。

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