オリジムシ愛好家の述懐   作:糖分99%

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信濃を引き当てられたのでウイニングランしながら書きました



14.僅かばかり淫靡なもの

 貴女はそこにいますか?

 

母は元気ですか?

 

 しっかり食べていますか?

 

子はすくすくと育っていますか?

 

 貴女がそこにいることが残念でなりません。

 

この枷から早く解き放ってあげたい。

 

 ああ、憎い。だからこそ。

 

そう、愛おしい。だからこそ。

 

 私は剣を取る。

 

私は力を振るう。

 

 

 

 

 

 危機契約。

 名前は知っている。その在り方も知っている。

 しかし、編集者としてロドスに来てから長いものの、あまりそれらと関わることはなかった。

 というのも、危機契約には遠隔オペレーターを配置できるような場所すらない峻厳な地帯、異常に強力な原生生物が生息する地帯、はたまた異常な能力を持つ敵部隊が駐屯している地帯などなど、非常に危険度の高い依頼契約がなされる事が多々ある。

 通常の戦闘ですらやっとなのに、カメラマンなぞ配置する余裕などない。危機契約側から報酬として並べられる作戦記録は危機契約側のドローンによって撮影されたもの。高難易度なだけあって資料としての素材はいいが、結局はドローンによる無人撮影であり、危険地帯での撮影もあって肝心なところが写っていなかったりと中級作戦記録止まりのものだけだ。

 よって編集部は危機契約時には全員暇を持て余していた。

 

 しかし、今回は違う。

 今の私は特殊オペレーター「バアルゼブル」でもあるのだ。機材を持ち込み、敵の迷彩を暴き、ジャンの放電とそれを利用した雷撃による術攻撃を行う、新米の戦闘オペレーターだ。

 私は大切な友と、戦場に立つのだ。

 

 

 

 

 

 ……が、しかし。

 

「ドクター!ドクター!バクダンムシの矢面に立たされるなんて聞いていませんよ!?」

 

 今現在、ファーブルは燃える地面を見下ろす高台にて、無線機に縋り付くように座り込んでいた。

 無線に怒鳴り込んでいる間にも、目の前でバクダンムシの一体が絶命し、爆ぜる。

 その爆風は当然ファーブルにも届く。が、爆風は頑強な『檻』に阻まれ勢いを無くし、ファーブルの戦闘服を僅かに焼き、ジャンの甲殻の表面が少し焼ける程度。

 その『檻』の正体はハガネガニが脚を組み合わせて作り上げられた代物。ファーブルが連れてきたというよりも、『勝手に転送されてきた』というのが正しいだろう。恐らくは女王たるジャンの指令により、どうやってかファーブルのアーツ能力に干渉し、ロドス内のハガネガニを転送させているようだ。

 ファーブルのアーツ能力にジャンがどうやって干渉しているかは不明であり、不気味。人や荷物を運ぶときよりかは楽だが、唐突に襲い掛かる疲労感は拭えない。大切な、保護しているハガネガニ達を盾にすることも許し難い。しかしながら直後にジャンから吹き上げる得意げな感情を前にしては何も言えなくなる。

 それに、ハガネガニ達は非常に頑健な上に、ある程度傷ついたハガネガニ達は新たに転送される別個体と入れ替わる為、犠牲だけは出ていなかった。それだけは救いだろう。

 

 しかし、だ。

 それだからと言ってバクダンムシの矢面に立たすのはいくらなんでもあんまりだろう。

 

『いや……今回の作戦区域には特異な進化を果たしたバクダンムシが生息していて、迷彩を纏っているんだよ。それで君の力を借りたく……』

「それは知っています!私も迷彩を纏うバクダンムシの話は兼ねてより聞いていましたし、その迷彩を破ることも私が持つ機器ならできます!でもそれならシルバーアッシュさんに頼めばよかったじゃないですか!何せ全てを解決する真銀斬ですよ!?」

『今回前衛、重装を配備するにはコストが……仕方ないからアンジェリーナにマンティコアやクリフハートを配備して足止めと引き戻しで対処している。そのためにも君の力が必要なんだ。頑張って耐えてくれ。実際元気そうだし』

「そんなぁ!」

『おっと、凶悪ロックブレイカーのお出ましか。これからグラベルとレッドに出撃命令を出す。通信を切るぞ』

「ちょっ、ドクター、ドクター!?」

 

 無情にも無線は切られる。

 併せて凶悪ロックブレイカー達が列をなしてやってくる。

 

 山場だ。ここが山場だ。

 

「ああ、チクショウ!やってやる!皆あと少しだ、耐えて!」

 

 

 

 

 結論から言えば、作戦は成功した。

 ハガネガニも軽傷の子ばかりで、重傷を負った子や命に関わる傷を負ったような子もいない。ファーブルは自室に戻り、作戦に参加したハガネガニの甲殻に食い込んだ砂利やバクダンムシの破片を取り除いていた。

 

 そういえば実戦らしい実戦は今日が初めてだったろうか。

 戦場に立った時の光景を思い出す。吹き上げる熱波。圧力すら感じられる敵の殺気。

 そして、そんな彼らの断末魔。

 カメラマンとしていつも見て、聞いているものである。しかし、その臨場感というべきか、迫力はまるで違う。

 しかしながら、敵の死にはそこまで情動の変化はなかった。恐らくはファーブル自身がそのハルバードを振り下ろし、命の火を消すことがなかったからだろう。専ら攻撃はジャンの雷撃であった。

 

 ならば。もしも。私自身がその手で敵を殺したその時。

 私の心は今のように平静を保っていられるのだろうか。

 それとも、取り乱し、その罪に耐えきれなくなるのだろうか。

 

「キュキチッ!」

「……あ、ごめんね」

 

 考え事をしてしまったせいか、治療中のハガネガニを抱えたままぼうっとしていたようだ。

 手際良く全てのハガネガニの治療を終わらせ、ファーブルはいつものルーチンに戻る。

 

 と、その時。自室の扉がノックされた。

 

「はい、どうぞ」

「ファーブル、いるか?」

「あら、初実戦で危険極まりない場所に配置してくれたドクターじゃありませんか」

「なかなか厳しいことを言ってくれる」

 

 入ってきたのは少し前に無線で会話したドクターその人であった。

 嫌味たっぷりな口撃をするりとかわし、手招きをする。

 

「ちょっと君に見てもらいたいものがあって。すぐに来てくれるかい?」

「……はぁ」

 

 

 

 

 連れてこられたのは医務室の一室の前。中からは複数人の女性の声が聞こえる。

 ドクターは医務室から背を向け、入るよう促した。

 

「この中だ。とりあえず中に入って欲しい」

「ドクターは入らないのですか?」

「そんな事したら即殺されるよ」

「うん?」

 

 ドクターの言葉に疑念を抱きながらその扉を開ける。

 そして中の様子を見たあと、その疑問は氷解した。

 と同時に血の気が引く。

 

 中にいるのは女性オペレーターのみなのだが、皆あられもない姿になっているのだ。中には一矢纏わぬ姿と言ってもいいような者までいる。

 治療を受けているオペレーター達はまるで服が溶かされているかのようであり、溶けかかった部分が皮膚と癒着し、それを医療オペレーターが薬剤を使い剥がしているようだった。

 

 その衣服の溶け方。使用している薬剤。全てに見覚えがある。

 アシッドムシの腐食液。それに違いない。裸に近い状態ながらも軽く肩にタオルケットをかける程度で留めているのは、服と皮膚とが癒着している部分に腐食液の成分が残っていたりした場合、服がさらにくっついて面倒なことになるからであろう。

 思い出すのはアシッドムシ脱走事件。こってりと絞られ弁償させられた思い出。

 治療中のオペレーターの中にはホシグマなどの上級オペレーターも混じっている。上級オペレーターの戦闘用の衣服となると、私が着ているものと比べればその値段は桁違いだ。

 

 だらだらと冷や汗が滝のように吹き出し始める中、1人の医療オペレーターがファーブルに気がつく。

 

「あ、もしかしてドクターの言っていた助っ人ですか?」

「……はい?」

 

 予想だにしていなかった問いかけに頭の中が真っ白になる。

 と、ドア越しにドクターの声が響く。

 

「そうそう。その人が感染生物専門のファーブル。もう大体どういう状態かわかっていると思うよ」

「いや……どういうことですかこれ?何故私はこんな所に呼ばれたのですか?私の保護下のアシッドムシが脱走したわけではないのですか?」

 

 あ、何か勘違いしてる。そんな呟きがドア越しに聞こえてくる。

 

「いや、違う違う。危機契約の依頼先に大量にアシッドムシがいてね。そのアシッドムシがまぁ強いのなんの!重装オペレーターだろうがガンガン装備とかしてくれるし……撤退して帰ってきた状態だよ」

「な、なるほど……で、なぜ私を呼んだのですか?見た所処置及び治療は正しくなされているように思えますが」

「いや、常日頃から感染生物と接しているファーブルなら何か対策を知っていたり思いついたりしないかな、と」

「丸投げですか」

 

 つまるところ、達成できない契約を結んで積んでしまったので知恵を求めている、と言うことだろうか。

 しかしながら、ファーブルはついさっき初実戦を終えたルーキーなのだ。うまくアシッドムシを処理する方法など知るはずがない。

 うんうんと唸っていたその時。信じられないものが目に入った。

 

 それは誰もがある程度恥じらいを持ってタオルなりを羽織る中。何も羽織らずパイプ椅子でいつもの笑みを浮かべるラップランド。

 ────その、胸である。

 

 あるのだ。たわわに。その、それが。確かに、しかと、主張しているのだ。

 普段着で隠れていたが、まさか着痩せするタイプだったとは。

 

 ふと、視線を落とす。

 かろうじて自分が女性であると言うことを示す緩やかな膨らみがあるのみ。残念ながら着痩せするほど着込んではいない。

 

 見渡してみれば、まぁ、なんということか。誰もがしっかりと実を2つ揺らしているではないか。

 

 ホシグマを見てみよ。装甲服の下に押さえつけられた揺れるものを。身長が高いため全体としてはそこまで目立たないかもしれないが、それ単体で見ればかなりの大きさだ。

 

 ロープを見てみよ。私とほぼ同じ程度の身長。なのにも関わらず。なのにも関わらずである。しっかりとあるではないか。わがままなそれが!

 

 そして驚天動地なのがウタゲである。なんなのだ。なんなのだ、これは!一体、どうすれば良いというのだ!何をどうして何を食べればこんなになるというのだ!これがトランジスタグラマーというものなのか!?

 

「おーい、ファーブル?どうした?」

「……はっ、いえ!なんでもありません!……男性陣は被害に遭わなかったので?」

「いや、男達は男達で別の部屋で治療している。それで何か妙案は?」

 

 しまった。呆けていて何も考えていなかった。

 ここはわからないと突っぱねてしまおうか。

 

 アシッドムシの酸は強力だ。何より反応速度が段違いであり、王水を超えるだろう。当然この反応速度にはタネがあり、アシッドムシのアーツの作用によるものだ。

 そんなアシッドムシの調査のために開発された衣服というものは存在する。耐酸性に優れる分厚い服と、アシッドムシからの腐食を促すアーツを防ぐ装置からなる防護服だ。これがあればアシッドムシの腐食液すら防げるだろう。

 が、これを提案しないのは当然問題があるからだ。

 第一に高い。精密機械が含まれる上に、需要が少ないため大量生産されず、値段が跳ね上がっている。ただ費用に関してはロドスは捻出できるかもしれない。

 第二にして最大の問題が重くて硬いことだ。分厚い防護服は動きを阻害するし、背中に取り付けられた装置は枷となる。こんなものを着て戦闘など考えられない。

 

 と、ここで自分が大学に所属していたことを思い出した。

 

「そうですね。特殊な薬品をオペレーターに塗る、とかどうですか?」

「特殊な薬品とは?」

「ある程度アシッドムシの腐食液の腐食性を弱めることができる薬品です。私が大学にいた頃、対アシッドムシ用の防護服は高くて手が出なかったので、その薬品をスズメバチ駆除用の防護服に塗ってアシッドムシの観察を行なってました」

「ほう……効果の程は?」

「処置無しの場合腐食液噴射1発で防護服に穴が空くところを、3発耐えられるようになります」

「3発……か」

 

 ドクターは唸る。脳内でダメージ計算でもしているのだろうか」

 

「……もう少し効果を強くすることはできるか?恒久的に耐えられるように」

「……となると原液を塗るしかないですね。しかし原液は……」

「何か人体に問題でも起きるのか?感度3000倍とか?」

「なんですかその頭の悪い数字は。まぁ大体あってます。普段は2000倍希釈で使うのですが、そうする理由は単純にその薬品が非ッッッ常に高額だからです。いえ、正確には調合素材ですね。その薬品は工業的に生産されているものではなく、教授が独自に作り上げたものですから」

「なるほど、なるほど……」

 

 うんうん、と扉の向こうで唸るドクター。

 

 おや?非常に嫌な予感がしてきたぞ……?

 

「ではその薬品を10人分頼む」

「まさかとは思いますがドクター、それは原液換算ですか?」

「もちろんだ」

「高いんですよ?それこそ目玉が飛び出るくらいには」

「大丈夫だ。そのくらいはロドスが出す。その薬品の調合を頼めるか?材料費は私宛に申請してくれ」

「……わかりました。補給部に連絡して取り寄せてもらいます……が、本当にいいんですね?」

「ああ、いいとも。勝利のためならば」

「忠告はしましたからね?」

 

 

 

 

 数日後。ファーブルから件の薬品が届けられた。

 早速その薬品を全員に配備し、契約の依頼に臨んだ。

 結果快勝。薬品の効果は素晴らしく、異常に強力なアシッドムシの腐食液を防ぎ切ってみせた。

 腐食液さえ対策して仕舞えば、アシッドムシなどただの狙撃兵。ホシグマの般若が甲殻を削り、シルバーアッシュの真銀斬は全てを薙ぎ払い、エイヤフィヤトラのイラプションが焼き払う。

 そして支払われる多額の報酬、資材。

 歓喜するドクターやオペレーター。

 

 ……そんなドクターの肩を補給部が叩く。

 振り向くドクターに突き出されるは請求書。

 その額を見てドクターはゆっくりと崩れ落ちた。

 

 無理もない。請求額はついさっき達成した契約の報酬とほぼ同額だったのだから。

 

 

 

 

 

「この荒野ね。ロドスが活動していたというのは」

 

 1人のサルカズが荒野に佇む。

 背後に複数の兵士を連れて。

 その武装は統一されていない。

 しかし、その目が見るものは間違いなく統一されていた。

 そう────

 

「どうやら危機契約絡みの戦闘のようです。掲示された依頼と一致します」

「どうします?次の作戦ポイントを予測して攻勢にでますか?」

 

 兵士たちが書類をめくりながらそのサルカズに問う。

 サルカズはその口元を歪める。

 

「ええ、いいじゃない。高難易度の作戦達成直後の疲労し切った状態を狙う……素晴らしいわ」

 

 でも、とサルカズは付け加える。

 

「もう少し見ていましょ。情報を得ましょ。そして確実な隙を晒したその時に……アイツらの喉を噛み切りましょ」

 

 統一されていない兵士たちは笑う。

 それは飢獣の笑み。

 それは狩人の笑み。

 それは憎悪の笑み。

 

「『リテレーター』なんてたいそうな名前を貰っているんだもの。ならば確実に……アイツらの息の根を止めてやらないとね」

 

 ────ロドスへの報復。





支援契約:ファーブル謹製アシッドムシ専用対腐食液(原液)
アシッドムシによる防御力減算-50%
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