オリジムシ愛好家の述懐   作:糖分99%

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ファーブルのイメージ画像になります。(あらすじにあるものと同じです)

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真っ白バージョン↓

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なおタイトルは語感でつけました。



6.メランコリー・メランサ

「研究者が占いに手を出すなどとはな……いよいよ追い詰められたかな?」

「いやいや、ギターノさんの占いはよく当たるっていうから興味本位で来ただけですよ。自分の研究は自分の実力で成し遂げる主義なので」

「ふふ、占い師相手に中々に酷い言いようじゃのう。まぁよい。ならば何を占う?運命の人でも占うか?」

「あっ、ちょっと気に……ンン、まぁ漠然とした未来について、とか?」

「よかろう。では…………………」

 

 

 

「………………ふむ、一種の忠告、かのう」

「というと?」

「『自分を努努見失う事無かれ』」

「自分、ですか」

「そうじゃ。アイデンティティ、人生の指針、自我、自己……どうとでも言い得る事ができるであろう」

「そうですか。ええ、ですが、きっと大丈夫でしょう」

「……ほう?」

「私は、既に私の在り方を定めてますので。きっとその在り方はこれからも変わらないでしょう」

 

 

 

 

 砂塵舞う戦場。弾丸やクロスボウの矢が砂煙を貫き飛び交う。

 飛び交うアーツが肉体を蝕みあい、鋼と鋼が火花を散らす。

 

「がっ、アア……!」

「ふぅ、ふぅ……よし」

 

 直線的な片刃の剣がレユニオン兵の装甲を貫き、血飛沫が舞う。

 これが決定打となり、兵士は崩れ落ちる。

 濃紫の衣と長い黒髪を風に靡かせる、勇壮にして儚げなフェリーンの少女は、その刀を振り、こびりついた血糊を落とす。

 

『メランサ、大丈夫?』

 

 少女の腰にかけられた無線機が、中性的な声を発する。

 普段はドクターが指示を出すために無線機を使用するのだが、この声は恐らくは高台から見守っている彼のものだろう。

 

「この声……アンセルさんですか?はい、怪我は特にありません。他の子の治療に専念してもらえれば……」

『わかりました。メランサも無理しないように』

 

 プツリと無線が切れる。

 少女、メランサは息を整え、また来るであろう敵を待ち構える。

 ぴくり、とメランサの耳が震える。その耳が拾ったのは死角よりこちらへ駆けてくる足音。

 その音は瞬く間に近くなる。

 メランサは剣の柄に手をかけ、待ち構える。

 やがて、その足音の主が死角より飛びだした。

 

 猟犬だ。一匹の猟犬だった。

 とるに足らない、ただの猟犬。レユニオンによって訓練された、単なる猟犬。

 メランサの実力をもってすれば、一刀の下斬り捨てられるだろう。

 

 だが、違った。

 メランサの動きが、ピタリと止まった。

 気がついたときには、目の前に猟犬の牙があった。

 

「ぐうっ……!」

 

 咄嗟に左腕を突き出し、身を守る。突き出された腕に猟犬は噛みつき、その牙を突き立てる。

 メランサは噛みつかれた左腕を、痛みに耐えながら壁に叩きつけた。当然、左腕には猟犬の頭がある。強かに頭を壁に叩きつけられた猟犬は悲鳴を上げ、腕からその顎を離す。

 すかさずメランサは剣を逆手に持ち、その切っ先を猟犬に突き立てた。

 先ほどとは比べ物にならない悲痛な鳴き声。しかしその声も弱くなり、やがて動かなくなる。

 ポタポタと滴る水音がする。右手に持つ剣からは犬の血が。左腕からは自分の血が。

 

「ちょっとメランサ!どうしたの!?」

 

 先ほど聞いた声が後ろから聞こえる。今度は無線機越しではなく、生の声だった。

 メランサが振り返れば、アンセルがこちらに駆け寄って来ていた。

 

「この傷……猟犬か。今すぐ止血と消毒をするから、じっとしてて」

 

 テキパキと治療を行うアンセル。

 

「ごめんなさい、アンセルさん……ごめんなさい……」

 

 そう呟くメランサの顔は、酷く暗かった。

 

 

 

 

 カタカタと規則的に響くキーボードの音。

 目紛しく変化する画面。

 彼方此方へと動き回るマウス。

 

 今現在、ファーブルは作戦記録編集部にて映像記録の編集作業を行なっている。

 不要な部分を切り取って、見所を繋ぎ合わせる。場合によってはドクターの無線音声記録も同期させて、どのような指示でオペレーターがどのように動いたのか分かりやすく解説する必要もある。

 楽ではない作業だが、今日の映像記録はそこまで長くないので何時もよりかは疲れもない。全ての作業を終えたのは定時よりも少し前だった。

 

 せっかくだし映像を見直すか。もしかしたらカットしたシーンも使えるかもしれない。

 

 そう思い纏めた廃棄予定のカットシーンを再確認する。

 倍速で流し見をしていると、一つのワーンシーンが目に入った。

 メランサが猟犬に不覚をとり、左腕を負傷したシーンだ。

 

 ふと、ファーブルは思う。最近メランサが先手を取られることが増えたな、と。

 こういう現象は本人の心理状態が原因となる。となるとカウンセラーの出番となる。

 そしてこう言ったミスをした際、作戦後にドクターがメランサと話し込んでいる姿を度々目にするので、メランサの不調はドクターも把握しているだろう。なんらかの対策もされているだろう。

 だが、結果は芳しくないようだった。

 同じロドスのオペレーターとしては気になるところではあるが、しかし心理学は専門外。どうにかするのは難しい。

 

 定時のアラームが鳴る。ファーブルは早々にデータを編集長に渡し、社員証をスキャナに通して退勤する。

 ファーブルの編集者としての仕事はこれで終わりだが、個人の仕事はまだある。

 ファーブルは戦場で生き残った感染生物の保護を行なっているが、感染生物以外にもレユニオンに使役された猟犬も保護している。

 しかしオリジムシなどとは違い犬は高度な生き物であり、オリジムシと比べれば生命力は弱い。また知能も高いため、治療したとしてもロドスオペレーターに傷つけられたという事実を忘れず、依然としてこちらに敵意を持ち、ストレスで衰弱死することが多い。

 ロドスによって無力化され、治療して、生き残って、それでもなおロドスに心を開いてくれるのは、訳もわからず遠距離からの狙撃やアーツで生き残った個体ぐらいだ。……ただそれでもレユニオンに忠義を尽くす個体はロドスに心を開くことなく、檻で一生を終えることもあるのだが。 

 そして運良く一命を取り留め、ロドスに心を開いた猟犬達だが、感染生物と違って各所に需要がある。何せ訓練された犬なのだ。傷が完治すると軍用犬として各所に売られることが多い。

 ただごく稀にロドス内で飼いたいという者が現れる。ファーブルはそんなロドスのオペレーターに飼われた子達の定期的な診察も行っている。

 それでこれから向かうのは少し前に1匹の猟犬を受け入れた行動予備隊A4の宿舎だ。

 

 ……と、ここで思い出すのは、やはりメランサだ。

 そういえば、猟犬を引き渡す時から妙に距離を置かれている気がする。

 元々コミュニケーションが得意な子ではなかった気がするが、それでもすれ違って挨拶すれば会釈はしてくれた。だが今ではスッと目を伏せられる始末。

 

 なんかしただろうか?少なくとも自分の記憶ではなにかやらかした覚えはないのだが。

 

 あまり接点は無くとも、避けられているとなると傷つくものだ。

 しかし、仕事は仕事。ファーブルは雑念を振り払い、診察器具をジャンに持たせて宿舎へと向かった。

 

 

 

 

 行動予備隊A4の共用スペースの扉をノックし、足を踏み入れると熱烈な歓迎を受けた。

 扉を開けるなり、モフモフの黒い体毛と元レユニオン上級猟犬の強烈な膂力により押し倒される。そのままなす術なく顔を舌で舐められる。

 

「こら、リオン!戻りなさい!」

 

 部屋の方から中性的な声が響くと、リオンと呼ばれた猟犬は大人しくファーブルから離れていく。

 

「ごめんなさい、まだまだやんちゃで……大丈夫ですか?」

「いやいやこれくらい。むしろこれだけ元気があるほうがいいよ」

 

 顔を拭い、差し出された手を掴み、起き上がる。手を差し出したのは狙撃手のサンクタ、アドナキエルだった。

 部屋に入ればアンセルがリオンに伏せの状態で待たせている。どうやらしつけ担当はアンセルのようだ。パタパタと振られるリオンの尻尾を重装のペッロー、カーディがはしゃぎながら触っている。共用のテーブルでは用意してくれていたのであろう茶菓子と紅茶が術師のヴァルポ、スチュワードの手によって並べられていた。

 メランサは……いた。部屋の隅っこで居心地悪そうにしている。

 

「さて、それじゃあ早速診察しますね」

 

 アンセルの足元で大人しく伏せているリオンの横にゆっくり座る。リオンが鼻を近づけ、匂いを嗅ぎ、満足したところで背中を撫でる。やがて腰をなで、そして右太腿を撫でる。

 反応はない。落ち着いている。そっと毛を掻き分けると、そこには周りの毛が刈り取られた場所があり、その中心に傷口があった。

 リオンは戦闘で右太腿を撃ち抜かれ、無力化された個体だ。ロドスへ移送する頃には血液をかなり失っており、朦朧としていたが、なんとか一命を取り留め、こちらに敵意を抱くこともなく保護することができた。

 ゆっくり、優しく右太腿を揉む。特に反応はない。

 傷口の化膿もなし。先程の様子を見るに脚に違和感も感じていなさそうだ。

 

「……よし。この部屋で飼育して激しい運動をさせないように言ってたけど……それも今日まで。明日から毎日外で運動させるように。そして前にも言ったけど、名前をつけると言うことは完全に人の手に落とすということ。その事をしっかり考えた上で、責任持って飼うこと。わかった?」

「だってさー!よかったねリオン!」

「わかってるのかな……まぁ、いいか」

 

 カーディがリオンの背中に抱きつく。リオンは首を曲げ、カーディの頬を舐める。

 微笑ましい光景を横目に、ファーブルは用意してもらったものを頂かないのも失礼と、紅茶と茶菓子を頂く。

 

 ……と、ここで一言も口を開かなかったメランサが対面に座った。

 しばらくもじもじしていたが、やがて口を開き、切り出した。

 

「あの、すこし相談があるんです。……この後お時間はありますか……?」

 

 

 

 

 メランサにココアを。自分にコーヒーを。いつものメニューを自室のデスクに置き、借りてきた猫のように縮こまるメランサの前に座る。

 そのメランサの視線は、飲み物の準備をする際にも常にファーブルの後ろをついてゆく巨大なオリジムシ、ジャンに注がれていた。

 

「それで相談って?リオンのことかい?」

「いえ、違います……えっと、リオンを迎える時に、色々話して貰いましたよね?」

「飼育する時の注意とか、それかな?」

「いえ、それではなく……レユニオンの支配下にある猟犬や感染生物の話、です。自分の意思じゃなく、レユニオンによって操られているって聞いて、感染生物の本来の在り方も知って、それで……レユニオンはまだしも、猟犬や感染生物を斬りつけるのが、嫌になって……」

「あー……あー、なるほどね、そういう……」

 

 思えばメランサの最近のミスは、猟犬や感染生物に対してのみだったような気がする。

 犬を飼い、感染生物について知ったが故に、情が移ってしまったのだろう。『それはそれ、これはこれ』と切り替えられるのならいいが、どうもメランサは良い所の出なようで、そう簡単に割り切られるほどの非情さはない……つまるところ優しいのだ。前衛としては甘いとも言える。

 

「……で、私のところに来たのは」

「ドクターに相談したら、『ファーブルに相談してみると良い。きっと迷いを断ち切ってくれる』と言われたので……」

 

 暗に『責任を取れ』と言われている気もする。

 とはいえ、自分なりの答えもないわけでもない。

 

 と、ここで扉が勢いよく開かれた。

 

「ようファーブル!菓子よこせ!……誰だお前」

 

 季節外れなハロウィンじみたセリフとともに入ってきたのはイフリータだった。

 

「め、メランサ、です」

「ふぅんそうか」

「イフリータちゃん、ちゃんとメランサちゃんに挨拶して」

「はぁ?なんで」

「あーあちゃんと挨拶できたら買ってきたエクレアあげてたのにナー?」

「ぐっ……イフリータだ。よろしく」

「えっと、よろしく……」

 

 お菓子で子供を釣るのはどうかとは自分でも思うが、残念ながらファーブルに子育て経験なんてないので仕方ない。そこらへんの教育はサイレンスに任せよう。礼儀作法は担当外だ。

 と、ここで一つ天啓が舞い降りた。

 

 イフリータに教師役になってもらおう、と。

 

「さて、イフリータちゃんにはちょっとした復習をしてもらおう。メランサちゃんも聴いてくれると嬉しいな

「復習?」

「うん。さて、第一問。オリジムシって大まかな分類だと『何』動物かな?」

「軟体動物だろ?簡単簡単」

「正解!じゃあハガネガニとバクダンムシの共通項は?」

「えっと……節足動物で、キョウカク?…を持ってる事!」

「はい正解!オリジムシがたくさん卵を産むのは?」

「なるべく子孫を残す為、だろ?」

「正解!ハガネガニは孵化した後、何をする?」

「母親を食べる」

「またまた正解!バクダンムシは特殊個体のオリジムシの近くに卵を生んで守ってもらう。特殊個体のオリジムシは成体のバクダンムシに兵士となってもらう。このように異なる生物が両方にとって利益のある生活をすることを?」

「えっと、えっと……なんだっけ」

「そう……そう……」

「……ソウリキョウセイ!」

「はい全問正解!エクレアをあげよう」

「しゃあ!」

 

 エクレアにかぶりつくイフリータ。

 さらにファーブルは話を続ける。

 

「そこらへんに当たり前にいる生き物。私たちに向かってくる感染生物。誰も彼も、親達がまさに命をかけて残した一つの大切な命である事には変わりないんだ。私達に大切な人がいるように、彼らも誰かの大切な命の一つなんだよ」

 

 そう話すと、メランサの顔が曇る。

 だから、とファーブルは続ける。

 

「メランサちゃんがレユニオンに操られる猟犬や感染生物を傷つけたくない、という気持ちはよくわかるよ」

 

 その言葉に反応したのは、イフリータだった。

 

「なんだお前、アイツらが可愛そうで遠慮してんのかよ」

「え……うん」

「バカじゃねぇの?」

「……」

 

 イフリータの荒い言葉に、さらに俯きがちになるメランサ。

 だが、続く言葉にメランサは顔を上げた。

 

「そんなの、俺達だって同じじゃねぇか」

「……え?」

「だから!アイツらが誰かにとって大切な命だっていうなら、俺たちにだって大切な人はいるだろ?アイツらが可愛そうだからって、加減して、負けて、それで大切な人が死んでも良いのかよ」

「それは……」

「アイツらも、俺達も、大切な命を守りたいって所じゃ対等なんだよ。じゃああとは強い奴が勝つ。そういうもんだろ?」

 

 まさか自分より年下の子供に説教されるとは思わなかったのだろう。メランサは豆鉄砲を喰らったかのような顔をしたまま固まった。

 

「……まぁ、イフリータちゃんの言葉は荒いけど、だいたいそういう事だよ。私達には守るべきものがある。だから戦わなくちゃいけない。文明が発達した私達にも適応される、弱肉強食の絶対な自然の摂理だよ。この摂理からはたとえ自然界にいようが、レユニオンに操られようが、逃れられない。そして弱肉強食の強弱には『運』も含まれる。……彼らには運が無かった弱者ということさ。だからメランサちゃん。あなたに守りたいものがあるなら、加減する道理なんてない」

 

 まぁ、守られる側の私が言っても仕方ないかー、とファーブルは笑う。

 

「あと一つ。アーツによる感染生物支配を受けた時点で、彼らはほとんど死んだようなものなんだよ。これに関してはすこし専門知識がいるから説明は省くけどね」

 

 ファーブルは一つ咳払いをする。

 

「まぁとにかく……望まず戦場に出る彼らを殺すのは可哀想と思うあなたは優しいと思う。でも私達にも守るべきものがある。ならば彼らと私達は対等。あとは絶対の法則である弱肉強食の摂理に則り殺しあわなくてはならない。争わず平和的に解決なんて夢のまた夢。そんなものだよ、人間界も自然界も」

 

 そしてファーブルは付け加える。

 

「大丈夫、救える子は私が出来る限り助ける。だからあなたは遠慮せず、あなたの守りたいもののために剣を振るって」

 

 

 

 

 今回の戦場は広かった。

 中央ルートより無数のレユニオン兵による突撃。東ルートより少数のヴェンデッタ。西ルートより猟犬と少数の武装戦闘員の進行が予想された。

 ドクターは中央にブレイズ、ホシグマ、スカイフレア、サイレンスを、東ルートにスカジとサリアを、西ルートにメランサとイフリータを配置し、メランサ達にはサイレンスのドローンが逐一回復支援に向かう手筈となっていた。

 なお、ファーブルが陣取ったのも西ルート近く。撮影用ドローンを安全地帯から飛ばすのだが、メランサとイフリータは手元のカメラでもバッチリ撮れてしまうほど近い。

 ついこの間アドバイス……というか詭弁を弄したばかりなので、ちょっと気まずい。

 やがて始まる戦闘。中央ルートの大挙して押し寄せてくるレユニオン兵はブレイズ、ホシグマ、スカイフレアのブロック能力と殲滅力で叩き潰され、東ルートのヴェンデッタはスカジがタイマンで殴り潰し、サリアがすかさず回復しフォローしている。

 では西ルートはというと……メランサは猟犬相手でもかつての強さを見せてくれた。その剣に迷いはなく、イフリータの炎で弱った猟犬を一撃で斬り捨てる。

 その後祈るような素振りをしているところから見るに、完全に割り切ったわけではないようだが、少なくとも迷いは無くなったようだ。

 

 問題なく戦闘は終了した。途中砲兵まで現れた為至る所、周囲の建造物がボロボロではあるが、それでも人的被害は一切ない。

 いつものようにドローンを回収し、いつものようにデータを端末に移し、いつものようにまだ生きている猟犬や感染生物の保護に向かう。

 戦場にたどり着いた時には、すでにイフリータがレユニオン兵士と猟犬の死体を燃やしていた。どうやら生き残っていたものはいなかったらしい。

 その側でじっと炎を見つめる。その顔は暗く、落ち込んでいた。

 

 踏ん切りはついたが、やはり本質は優しいお嬢様なのだ。

 おのれレユニオン。いたいけな子にこんな顔をさせるなど。自分に戦う力がないのが口惜しい。

 

「ファーブル〜、生きてるやつ1匹もいなかったぞ」

「わかった。ちょっと他ルートに行ってみる」

 

 他のルートにはもしかしたら紛れ込んだ感染生物や猟犬がいるかもしれない。

 まずは中央ルートに足を踏み出す。

 

 その時だった。

 

 西ルート近くの建造物が崩れ落ちた。

 おそらく砲兵の砲撃に耐えきれなかったのだろう。崩壊時の瓦礫がこちらにまで飛んでくる。

 そしてその衝撃がいけなかったのか。

 

 唐突にファーブルは浮遊感を覚えた。

 

 崩壊と同時に、移動都市の床までもが、崩れたのだ。

 そう理解した時には光が遠くなり、体に衝撃が走った。

 

 そして、何も分からなくなった。





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