オリジムシ愛好家の述懐   作:糖分99%

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某スネ夫とドンパチしてたら遅れてしまいました……



7.瓦礫の奥底より

「ぅ……」

 

 小さな呻き声が、暗い空間に溶けてゆく。

 暗闇の中、メランサは体の痛みを覚え、目を覚ました。

 暗いといえば暗いが、電球の僅かばかりの明かりはあるようだ。目が慣れてくると、ある程度周囲の様子を把握することができた。

 自分の体の上には砂利や石が乗っており、酷く汚れていたり、場所によっては破れてしまっている。周りは砕けた建材ばかり。よくよく見ればなんらかの機材や、レユニオンの装備の一部らしきものもあるようだ。

 上を見れば、傾いた建物が天井を覆っている。

 

 メランサは記憶を辿り、こと建物が崩れた衝撃で足元も崩れてしまったことを思い出す。

 となると、ここは移動都市の地下空間……もしくは内部空間のはずだ。移動都市の地下空間には鉄道などのインフラが整備されていたりするが、それ以外だと浮浪者や感染者の溜まり場になっていたりと、非常に治安が悪かったはずだ。

 となると、レユニオンの一部隊がここを拠点にしていてもおかしくはない。

 

 痛む体を無理やり起こし、地上へ出る方法を模索する。頼りになるのは整備用の僅かな電灯のみ。

 

 と、ここで電灯とは違う、温かみのある光が灯っていることに気がついた。

 思わず駆け出したくなるが、ならず者が灯している灯である可能性に思い当たり、腰に手を当てる。幸い、得物は失われずちゃんとそこにあった。

 

 足音を殺し、柄に手を当て、その明かりに近づき────見知った顔を確認し、思わず長く、大きく安堵の溜息をついた。

 

「ッッ!誰だッ!」

 

 その人物はその溜息の音を聞き逃さず、自分の得物をこちらに向けた。おそらくメランサの服装が黒を基調としている為、暗がりに溶け込んで姿を確認できなかったのだろう。

 メランサは手を上げ、ゆっくりと近づいた。

 

「私……メランサです」

「……んだよ、お前か……驚かせやがって」

 

 その人物────イフリータは苛立たしげに火炎放射器状のアーツロッドを足元に放り、目の前にある炎に目を向ける。

 やはりというべきか、その姿はボロボロで、柔肌には切り傷や擦傷も見える。

 燃料となっているのは建材の一部や衣服だった。その中にはレユニオンのものも混じっている。

 

 そしてその火の奥。暗がりに隠されるように横たわっている人物に気がついた。

 ファーブルだった。しかし、目は閉じられ、私が話している間にも開かれる様子はない。額から顔には流れた血を拭ったような跡がある。その左腕はあらぬ方向に曲がっていた。普段身に纏っている衣服はメランサ達以上に傷んでおり、擦られたような跡が目立っていた。

 

「その……ファーブルさんは……」

「起きねぇんだよ。……小さな瓦礫の下敷きになってたからな。頭を強く打ったんだろ」

 

 突き放したようなイフリータの言い方に思うところをあったが、血すら滲んでいるイフリータの手を見てその思いも霧散してゆく。

 

「巻き込まれたのは……私達だけ?」

「さぁな」

「……とりあえず、上の皆に連絡を……」

「無駄だ。無線機が繋がらねぇ。瓦礫が邪魔してやがる」

「そう……なんだ」

 

 以降、誰も口を開かない。黙り込む二人を炎が燃える音のみが暗い空間を満たしていた。

 

 ここが移動都市のどのあたりなのかも分からない。どうやって上に上がれば良いかもわからない。

 助けがいつ来るかもわからない。

 

 文字通り一寸先は闇。どうすれば良いのかわからない。この3人以外誰もいない。闇の中に潜んでいるかもしれないならず者の恐怖。幾たび激戦をくぐり抜けようとも、心細くなる。

 

 だが、ここでふと思い出した。 

 

「そうだ、確かファーブルさんは瞬間移動のアーツが使えたはず……」

「……そういやそうだったな」

「うん。いつも瞬間移動で一足先にロドスに帰ってるから、もしかしたら……」

「でも、多分無理だと思うぜ」

 

 助かると思われた道は、しかしイフリータによって一刀両断される。

 

「な、なんで……?」

「コイツにアーツの事を聞いたことあるんだよ。……瞬間移動、あの鍵みたいなアーツロッドがないと使えないらしいんだよ」

「……もしかして」

「ああ、引っ張り出した時にはどこにもなかった」

「……そうですか」

 

 気を失っているファーブルに帰還の可能性を託す事はできないようだ。

 であれば、どうすれば良いのだろうか。

 やはりここで待ち続けるしかないのだろうか。

 確かにそれは遭難時においては手の一つだ。無駄なエネルギーを消費せず、助けを待つ。探す側としても最も有用で確実だろう。

 しかしだからと言って助けを待つ側がなにもしないわけにもいかない。

 

 なにか、何か手はないか────

 

 

 

 

 龍門のスラム。その一角は一つの建物を中心に陥没し、それなりに背の高い建物の天辺しか見えない状態となっていた。

 その陥没した周囲をロドスのオペレーターや龍門の督察隊が囲んでいる。

 

「……というわけで、行方不明者3人の捜索をお願いしたい」

「ええ、わかりました」

 

 ドクターとチェンは駆けつけた督察隊の現場監督に捜索の段取りを取り付ける。督察隊隊長であるチェンがいるだけあって、非常にスムーズな話し合いとなった。

 しかし、とその派遣された督察隊の者は言う。

 

「レユニオンも派手にやりましたね。……これに巻き込まれては一溜りもないでしょう。……それに、もう一人は非戦闘員なのでしょう?」

「ええ、そうですね」

「……無事であると良いのですが」

 

 言外に無事ではないだろう、と言う督察の者。チェンもはなから分かっていたのか、ドクターと目を合わせようとしない。

 だが、ドクターはそれでも頭を下げ、感謝を述べる。

 

「いえ、彼女達は生きているでしょう。少なくとも、彼女達の亡骸をこの目で見るまではそう信じています。……だからこそ、捜索に協力していただける皆さんには感謝致します」

「……では、私共も尽力させていただきます。間も無くレスキュー隊も到着するでしょう」

 

 そういうと、督察隊隊員は、彼らが設置した天幕へと戻っていった。

 ドクターは踵を返し、救護班、及び工作班に声をかける。

 

「医療班、ドッグタグの信号は?」

「ダメです、一切反応がありません」

「工作班、その他電波は探知したか?」

「こちらもダメです。瓦礫が電波を遮断しているのでしょう。また、ビル倒壊により電線がショートを起こして余計に探知し辛くなっております」

「そうか……となるともう人海戦術しかないか」

 

 瓦礫の方へと目をやれば、小さな瓦礫を命綱をつけたオペレーターが掻き分け、運び出している。

 特に倒壊したビルに乗って瓦礫の撤去をするという、側からみれば危険な作業をしているのは、異常な怪力を持つホシグマとスカジ。恐らくは上の階が崩れて生き埋めになっても擦り傷程度で生還しそうなオペレーターだ。

 また、さらに6人ほど、前線で救助に勤しむ者がいた。

 一人は己の体を顧みぬ勢いで瓦礫を掘り起こし、投げ捨てる。

 一人はその後ろで的確に次に指示を出し、倒壊した瓦礫だらけのビルをマッピングしてゆく。

 あとの四人は個々の力は非力ながらも、協力して瓦礫の撤去と捜索を続けていた。

 サリアとサイレンス、そして行動予備隊A4の面々だった。

 彼らが危険な倒壊したビル内部に入り込んで捜索する理由。それは彼らにとって大切な人がこの下にいるから。彼らが命を顧みぬ作業をする理由はこれだけだ。その理由だけで命を投げ打つのには十分だった。

 

「なにかあった?」

「いや」

「そう」

 

 サリアこそ最近はサイレンスとコミュニケーションを取ろうとしているが、それでも普段顔を合わせようともしない二人が、無機質ながらも淡々と意思疎通をしている。

 

「この辺り、かなり傾いています。気をつけて」

「メランサの香りは全然ないね。もう少し下かも」

「そうですか……ではもっと長いザイルをとってきましょう」

「頼んだよ、スチュワード君」

 

 行動予備隊の面々はサリアのような派手なことはできない。耐久性もない。上から瓦礫が崩れてたならばひとたまりも無いだろう。

 だが、だからどうした。この下には間違いなく戦友が埋まっているのだ。

 それに、自分達に新しい友人を連れてきてくれた人だっているのだ。

 

 ガツン。

 

 なにか、硬質なもの同士が当たった音がした。

 その音はサリアも、サイレンスも、行動予備隊の耳にも届いた。

 

「……さっきのは?」

「わからない……誰か、どこから音が聞こえたかわかる?」

「反響してわかりづらかったのですが、発生源は恐らくは下の階からかと」

「私も下から響いてきたと思う!」

「……よし、スチュワード、丁度ザイルを持ってきているな?私に取り付けてくれ。一段下に潜ってくる」

 

 サリアはその腰にザイルをくくりつけ、崩れた床から下に降りる。

 下の階はさらに暗かったが、それ故に一つの緑色の光を容易く見つけることができた。

 少し近づけば、光は『圏外』という文字を形作っている事を確認できた。

 それを手に拾い、サリアは確信した。傷だらけで、破損しているが、それは間違いなく、ファーブルの使う撮影用ドローンであった。

 

 

 

 

「……ドローン、ロスト。多分圏外になったんだと思う。……やっぱり瓦礫が電波を阻害してる」

「ちぃっ!もう少しで上まで行けたのに!」

 

 メランサとイフリータは『DRONE LOST』の文字が浮かぶ端末を見てため息をつく。

 ファーブルの荷物から撮影用ドローンを上へ飛ばし、自分達の生存を知らせ、あわよくば電波の逆探知で自分達の居場所を知らせようという心算だった。

 しかし、太陽光で少しばかり明るくなり始めたところで電波が届かなくなり、映像も止まり、操作も受け付けなくなった。

 

「ドローンがダメならどうすんだよ」

「とりあえずはかなり上にドローンを飛ばすことができました。それも電源がついた状態の……それを見つけてくれたら、とりあえずは私たちが生きていることは伝わるかも」

「……………チッ!」

 

 イフリータは端末から離れ、火のそばにどっかりと腰を下ろす。

 メランサも端末の電源を切り、ただ火を見つめる。

 こうなってから、ただ無言で火を見つめる時間がほとんどな気がする。

 その状況に嫌気が差したのか、イフリータが突然立ち上がる。

 

「ああっもう!ここでじっと待ってられっか!おい、お前はファーブルを担ぎ上げろ。俺たちで上に向かうぞ」

「でも、移動したらレスキューも私たちを見付けづらくなるんじゃ……」

「なら俺が歩いた場所の所々を焦がして目印にすりゃいい。そうすれば辿って見つけられるだろ」

「でも気を失っている人を無闇に動かすのは……」

「ああ!?そんなこと言ってる場合────」

「おい、おいおい、アイツらロドスのガキじゃねぇか?」

 

 聞き覚えのない声が突如として暗い空間に響く。

 地下の微かな電灯の灯りと、焚き火によって照らされたのは、何度も見てきた仮面を被った者たちの集団だった。

 言わずもがな、レユニオン兵であった。

 

「チッ、んなこと気にしてられるか!逃げんぞ!」

「う、うん!……ファーブル、どうか耐えて!」

「逃すな!殺された同胞達の無念を晴らせ!」

 

 メランサはファーブルを背負って走り出し、イフリータはアーツの炎で牽制しつつ走る。その後ろを荒々しい足音と共に追いすがるレユニオン達。

 先ほどの地面を焼いて目印とする、なんて悠長なことはやってられない。ましてや戦闘できない者一人と防御能力の低い前衛一人、火力はあれど脆い術師一人では、立ち向かってもさすがに数の暴力を如何ともし難い。

 だからこそ逃げの一手に出たが、しかしそれでも問題があった。

 レユニオン達は移動都市内部の構造も熟知しているかもしれないが、メランサとイフリータはそうではない。

 囲まれるのも時間の問題な上、出鱈目に走っているために体力も無駄に消耗してしまう。

 

「あっ…ぐ!」

「イフリータ!」

「クッソ……舐めるなぁ!」

 

 術師であり、幼いイフリータの体力が尽きかけ、蹌踉めく足が段差に躓いた。転けたイフリータは即座に後ろへ火炎を飛ばすが、それでも追いすがるレユニオンの追撃は止まらない。

 慌ててメランサが前に出るが、背中にはファーブルがいる。出せる力は全力などとは程遠い。

 レユニオンもそれに感づかないほど馬鹿ではない。ゆっくり、一定の距離を保ちつつ散開し、三人を取り囲む。

 普段ならこの程度の敵など簡単にあしらえる。だが、今はつけた枷が大きすぎる。支援もない。

 じりじりと詰め寄るレユニオン。そのあとの展開は容易に予測できた。

 

 その時。パキパキ、と乾いた音がメランサの耳元で鳴った。

 音の正体はファーブル。その角と尻尾。

 もともと鉱石が付いていた触覚のようなファーブルの角。その鉱石が急激に『伸びて』いた。

 その鉱石は櫛状に並び、まるで蛾の触覚のような形状へと変化していた。

 ファーブルの鉤針のような尻尾の先端にも鉱石が発生し、二股に分かれ、そして僅かばかり発光していた、

 

 瞬間、背後で大きく、重く、硬質なものが落下する音が響いた。

 誰もがその発生源に目を向ける。レユニオンは困惑し、メランサとイフリータは驚愕した。

 

 そこにいたのは、ファーブルにいつもついて回る巨大なオリジムシ、ジャンだった。

 だが、いつもと違う。

 その殻は青白く輝いていた。

 殻の突起が展開し────そこからさらに青白く、眩く輝く結晶のようなものが現れた。

 その結晶はバチバチと音を立てて、やがて眩い雷光と、乾いた音が響く。

 その雷光は一人のレユニオン兵を捕らえた。雷撃を受けたレユニオン兵は体を震わせ、妙なポーズをとったまま後ろに倒れた。

 

「なんだ、あれは!オリジムシ……なのか!?」

 

 困惑するレユニオン兵を他所に、ジャンは次々と電撃を放つ。さらには頭を上げ、何処からかギチギチと音を鳴らす。

 瞬間、一瞬ではあったが、小さな『穴』が開いた。

 それは小さかったものの、間違いなくファーブルが開くポータルに違いなかった。

 そしてそこから現れるのは、オリジムシ、ハガネガニ、バクダンムシ、アシッドムシ……どれも殻にファーブルの保護対象である事を示すマークが刻まれた、ロドスにいるはずの個体だった。

 オリジムシやバクダンムシは最前列でレユニオンと向かい合う。アシッドムシはその後ろから強烈な腐食液を飛ばす。ハガネガニは足を組み合わせ、メランサやイフリータ、ファーブルを囲い、ドーム状の防護壁を作り上げる。

 

「な、なんだ、感染生物が……湧いてでやがった!」

「おい術師!こいつらを制御しろ!」

「やってる!だが全然制御できねぇ!」

「くそ、増援を呼べ!」

 

 襲いかかる感染生物達の対処に追われるレユニオン。

 唖然とした表情でそれを眺めるメランサとイフリータ。

 そんな中、呻き声が二人の耳に届く。

 

「う……うっぐ……頭が……気持ち悪い……腕が……熱い……」

「お、起きのかファーブル!これどういう事だよ!?」

「え?……何、これ。私、穴に落ちて、それで……」

「レユニオン達に囲まれていたのですが……突然ジャンと他の子達が現れて……ファーブルさんが呼び出したんじゃないのですか?」

「そんな事………ジャン、その姿は……!?」

 

 朦朧とするファーブルは雷光を纏うジャンの姿に目を見開く。

 

「……完全に、『女王』になってる……」

 

 雷撃を飛ばし、レユニオンを撃ち抜く姿に放心状態となるファーブル。

 だが、即座に頭を振り、メランサから降りる。足元が若干覚束ないが、それでもなんとか自力で立ち上がる。

 

「アーツロッドは紛失……でも転移は『視界の範囲内』ならできる。皆、なるべく私に近づいて!」

 

 指示に従い、メランサとイフリータはファーブルに身を寄せる。

 更には、その言葉を理解したのかジャンも近くに寄り、ドームを形成していたハガネガニ達やアシッドムシ、バクダンムシ、オリジムシも団子になるようにファーブルに近寄る。

 だが、一向にそうしないオリジムシとバクダンムシもいた。

 

「ファーブルさん、あの子達は!?」

 

 メランサの指差す先を見て、ファーブルは唇を噛む。

 

「あれは……決死隊だ」

「なっ……嘘だろ!?」

「……飛ぶよ!」

 

 自分達を黒いドームが覆い、すぐさま弾ける。

 移動した場所はレユニオンのはるか後方。

 すると、途端に爆発が3回ほど巻き起こる。

 

「アリア、アーシャ、エイアース、バロン、ビル、バール……」

 

 ファーブルが俯き、小さく、小さく呟く。

 だがすぐに顔を上げ、叫ぶ。

 その顔は誰も見たことがないほど歪んでいて、痛々しく、悲惨だった。

 

「もっかい飛ぶよ!」

 

 また、ドームが現れ、弾ける。

 レユニオン達は更に遠くにいる。

 だが、増援が来てしまったようで、その数はジャン達が何人か仕留めていたにもかかわらず、増えていた。

 更に、ここでファーブルが崩れ落ちる。

 その顔には脂汗が滲んでいた。

 

「大丈夫ですか!?」

「はぁ……ふぅ……うっ……大丈夫」

「ですがどう見ても……!」

「大丈夫、大丈夫だから……」

 

 ファーブルは震える手でポケットを探る。

 取り出したのは無痛注射器。中には透明な液体が僅かに入っていた。

 それをファーブルは迷いなく首に突き刺し、中の液体を注入する。

 ファーブルの目が揺れる。

 ゆらゆらと立ち上がるファーブルの瞳孔は開き切り、その目は充血していた。

 

「まだ、飛べる。まだ飛べるから……」

 

 そして、ファーブルは再びアーツを発動させる。

 

 

 

 

 何度瞬間移動しただろうか。

 確実に上へ上がっているのは間違いない。

 だが、瞬間移動のたびにファーブルは崩れ落ち、薬を打つ。その為、少しずつレユニオンは近づきつつあった。

 瓦礫で開いた穴を手探りで移動するファーブル達と、この場所に精通しているレユニオン。地の利があるのはレユニオン。

 遂に、倒れたビルの内部にてレユニオン達に追いつかれた。

 

 得物を構えるメランサとイフリータ。

 バチバチと帯電するジャン。

 彼らを守る感染生物達。

 

 ふと、ファーブルは目の前に落ちているものに気がついた。

 ヴェンデッタの刀。スカジが屠った者の得物がこんなところに落ちていた。

 ファーブルはそれを手に取る。本来ならアーツを通す事で強力な力を得ることができるが、ファーブルはそれを行う技術もない。

 だが、武器としては一級品だ。

 

 また薬品を体に打ち込み、ゆらゆらと立ち上がる。

 そしてその覚束ない足取りのまま、左腕が垂れ下がった状態のまま、前に出る。

 

「おまっ、何やってんだ!」

「危ないです!ファーブルさんでは……!」

「……はやく、にげなさい」

「何を言って……」

「はやく逃げなさいって、言ってるの!」

 

 酷く血走った、焦点の合わない瞳で二人を見返した。

 後ずさる二人。

 ファーブルはレユニオン達に向き直り、絶叫した。

 

「貴方達は子供なの!未来のある子供なの!子供は……子供は大人に守られるモンなの!大人が子供を守らなくちゃいけないの!……本当はおかしいのよ、私が後ろにいて、貴方達が戦うなんて!」

 

 そして、その刀を振るう。

 元々戦闘訓練なぞ積んでいない上に、ファーブルの体はボロボロ。刀の重さに振り回されて、よろける。

 だが、ファーブルは意地でも倒れず、レユニオンを睨みつける。

 

「こいよ……こいよレユニオンのクズ共!私が相手だッ!!」

「待って、冷静になって!」

「私の……デスクの二番目の引き出し。確認して、おいてね」

 

 ファーブルはその足を進める。

 一発ナイフを振るどころか、手で押すだけで倒れそうな状態。

 しかし、幽鬼のように歩みを進めるファーブルにレユニオン達は一種の恐怖を抱く。

 だが、やがて一人がその得物を振りかざし────

 

 途端、何かが弾丸のように飛んできた。

 それは得物を振りかぶったレユニオン兵をゴムボールのように吹き飛ばした。

 その正体は、剣の峰で殴り飛ばしたスカジだった。

 スカジはファーブルを一瞥すると、呆気に取られるレユニオン達を無言で斬り飛ばしてゆく。 

 更に遅れて複数の足音が背後から聞こえる。

 やってきたのは龍門のエムブレムを身につけた、消防服のようなものを見に纏う武装した一団だった。

 そしてそれに混じって見覚えのある顔が増えてくる。 

 ブレイズがスカジに続いてチェーンソーを振り、ホシグマ、サリア、カーディがファーブル達の前で盾を構え、更に後方から矢やアーツも飛んでくる。

 そして、ファーブル達に駆け寄ったのはドクターとサイレンス、アンセルだった。

 

「皆無事か!?怪我は!?」

「私達は大丈夫です!でもファーブルさんが!」

 

 メランサがファーブルの方を向いた時、ファーブルは既に力なく倒れ伏していた。

 

「アンセル、サイレンス、ファーブルは!?」

「左腕骨折、全身に擦傷と打撲痕、頭部に打撲痕、あとは薬物の過剰摂取による中毒症状が見られるわ」

「レスキューの皆さん、この人を早く担架へ!」

 

 すぐさま先程の消火服のようなものを着た龍門の者達が担架を担いでファーブルの元に向かう。

 担架に手早く固定すると、ファーブルを運んで行った。

 

 その後ろ姿を、メランサとイフリータは呆然と見守ることしかできなかった。

 

 そして、先ほどまでいたジャンや感染生物達は何処にもいなくなっていた。

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