A.ごめんなさい
お互いに昔の想い人のデートを観察する途中で出会うという奇特な出会いを果たした少女、田中優。彼女と出会ってから数週間が経ち俺は2人で愚痴りあったカフェに来ていた。
もちろん一人でカフェ巡りをするような優雅な趣味を持っている訳では無い。彼女に呼び出されたのだ。特に用事もなく暇をしていた俺は快く呼び出しに応じ、彼女を待っている訳だが……
「……遅いな、時間間違えたか?」
会話履歴を何度見返しても集合時間は間違っていない。既に1時間近く前になろうとしているその時間を見ながらため息をひとつつく。
別に告白とかを期待していた訳では無い。無いが……それでも彼女といたあの時間は俺にとっては忘れられないものとなっているわけで……会いたいという連絡を受け、待ち合わせを心待ちにするくらいには彼女の存在は俺の中で大きな割合を占めるようになっているのだ。
だと言うのに1時間の遅れ。連絡もなし。さすがの俺でも少しモヤっとする。
「まさか……」
事故か何かにあったのだろうか。それならば連絡がつかないことにも納得出来る。だとするならば迎えに行くのが筋というものか……?
「あ、ごめんごめん!色々あって遅れちゃった!」
全然そんなこと無かった。何事もなくて良かったわ。
「あー、別にいいよそんな気にしてないし。それで相談事って?」
「実はねぇ、大学の先輩にデートに誘われたんだよね」
ピクッ
「……へぇー、ちなみにどんな人なの?」
「え?うーん、顔は良かったよ、性格も良いらしい」
ピクピクッ
「……ほーん、それで?どう思ってるの?」
「まだ分かんないかなぁ……キミは?何も思わない?」
…………
「別に……いいんじゃない。ていうか俺には関係ないでしょ」
「……確かにそうだけどさ、そんな言い方しなくても良くない?ホントにどうでもいいの?」
……どうでもいいわけはない。だからといってなにか言える訳でもない。そんなことができるなら俺はまずこいつと出会っていない。
「……そっか、私帰る。わざわざ呼び出したのにごめんね」
ここで手を伸ばしていれば、声をかけていれば何かが変わったのだろうか。しかし、それはあくまでも過ぎ去った過去の仮定に過ぎず……俺を苛む新たな過去となる。
数週間が経ち、俺は再びあのカフェに足を踏み入れていた。
「あ、やっほ」
「おはよう……今日は早いんだな」
……どうしても喧嘩腰になってしまう。そりゃそうだ。まだバリバリ引き摺ってるんだぞ。
「え?ああ、この前は電車が事故で止まっちゃってからね。……あれ、言ってなかったっけ」
聞いてないし……別に気にしてないけど。
「ま、いいや。それで何の用なんだ?ていうか彼氏持ちなのに男と会っていいのか?」
「え?彼氏?誰に?」
「は……?いやいや、お前以外に居ないだろ!大学の先輩に告られたって言ってたじゃんか!」
「告られてはないよー、デートに誘われただけだし。ていうか断ったよ?」
へ?断った?……良かった…………あれ、俺今?
「なんで断ったんだよ、良い人じゃなかったの?」
「うーん、なんて言うか分かりやすく体目当てー、みたいな?話してても楽しくなかったしー」
「それにさぁ、デートの途中で気づいちゃって」
「気づいた?何に?」
「んふふー、それはねぇ……」
「キミと一緒にいた方が楽しいってことに、だよ」
「……は」
なんだそれ、俺と一緒にいた方が楽しいから断ったってか。そんなんズルいじゃん。そんな顔されながらそんなこと言われたら……嫌でも期待しちゃうだろ。
「だからさ、良いんだよ。今はもう少しキミといたいんだ、私は」
……俺の中にはここで返せるような気の利いた語彙はない。だからといって何も言わなくていいのか?言わなかったから後悔してきたんだろ?
「……俺も、お前と一緒に……いたい」
「へ…………ふ、ふは、あはははっ!」
「んなっ、笑うなよ!」
「い、いやいやごめんて!ふふっ、いやホント。面白かったとかじゃなくてね、嬉しくて」
「くふふ、そうかぁ、キミは私といたいのかぁ……えへへ」
ぐぬぬ……言わなかったから後悔してきたんだろ?とか考えてたけど言ったことちょっと後悔してるぞ今。
「ねぇねぇ、せっかくだしさこの後遊び行かない?まだ時間あるし」
こいつ、俺の苦悩も知らないでぇ……はぁ。
「そうだな!遊ぶかぁ!」
もうやめだやめ!うじうじと考えるなんてもうやめ!こいつと一緒にいる時間は楽しい!それを恥じる必要も何もねぇ!好きとか嫌いとかそういうのは後でついてくるだろ!!
「にひひ、行こっか!」
この娘数日前に友達から恋愛漫画借りて一気読みしてますからね。そりゃこんな恥ずいセリフ言いますって。(帰って悶えた)