氷の竜はヒーローと出会う   作:シニカケキャスター

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開幕

 雄英体育祭当日。例年ならば三年生が最も注目されるのだが、今年は例外だ。

 ヴィランの襲撃があったにもかかわらず、一人たりとも欠けることなく生存した金の卵たち。それがキュレムの在籍する1年A組である。

 

「八木」

 

 だがキュレムとしてはどうでもよかった。せめてオールマイトの顔に泥を塗らない程度に頑張るつもりだった。

 

 

 

 

 氷と炎を宿した少年。轟焦凍に話しかけられるまでは。

 

「おまえは俺より強い。全部が俺の遥か上だ」

 

 当たり前の話だ。素のスペックが違いすぎる。例えるならガレオン船と超弩級戦艦ぐらいの差だ。勝ち目はないに等しい。

 

「それでも俺は勝つ。この右手だけで勝って、クソ親父の個性なんざ使わず一番になることで奴を完全否定する」

 

 好きにすればいい。キュレムはどうかかろうと返り討ちにするだけだった。

 しかし、それだけでは()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『雄英体育祭!ヒーローの卵たちが、我こそはとシノギを削る年に一度の大バトル!

 どうせテメーらアレだろ、こいつらだろ!?ヴィランの襲撃を受けたにも拘わらず鋼の精神で乗り越えた奇跡の新星!ヒーロー科1年!A組だろぉぉぉ!?』

 

 鼓膜を破らんばかりの歓声。しかしキュレムは一切動じない。心は虚ろだ。

 

「ひひひ人がすんごい…」

 

「大人数に見られる中で最大のパフォーマンスを発揮できるか…これもまたヒーローとしての素養を身につける一環なんだな」

 

「なんか緊張すんな…!」

 

「しねぇよ。ただただアガるわ」

 

 このように観衆の熱気で緊張する者もいれば、自らのボルテージを上げる者もいる。そしてキュレムは虚無だった。

 

「八木ちゃんすごいね、こんな時にも表情が変わらないなんて…」

 

 おそらく表情筋が死んでいるのだろう。気にすることはない。キュレムとしては最低限のコミュニケーションが取れていればそれでいいのだ。

 

「いや、コミュニケーションできてるのかな…?」

 

 協調性がないのは否定しない。血の気が多い発言ばかりしていることも自覚している。しかしコミュニケーションができていないというのは断固として否定させてもらう。

 キュレムはコミュ障ではないと思っていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 宣誓。それは大衆の前で己の誓いを述べることを指す。

 

『選手宣誓!選手代表1-A!八木境界!』

 

 必然的にここで宣誓するのは成績優秀者、入試一位のキュレムとなる。ちなみにキュレムが断っていた場合、宣誓は爆豪が行うことになる。つまり問題児と問題児を天秤にかけた結果、オールマイトの言うことなら割と素直に聞く方の問題児が選ばれたということでもある。

 

「な、なに言うんやろ…」

 

「やらかすところしか思い浮かばねー…」

 

 宣誓。選手一同は、共に学ぶ仲間であり、良き理解者であり、そしてお互い理想を手に入れるために高みを目指しあうライバルである。

 

「あれ、まともなこと言ってる…」

 

 ここにいる選手はみな頂点に立つ権利があり、競い合う義務がある。

 それを全うし、屍山血河を築き、ライバルの亡骸の上に立ち、高らかに笑うのだ。

 

「「「やっぱりこうなったぁぁぁ!!」」」

 

 勝ったものこそが勝者だ、最後にその両足で立っていたものこそが勝者だ。卑怯と言うのは敗者の負け惜しみでしかないのだ。

 誇るがいい。己こそが頂点であると世界に告げるがいい。

 たとえその栄光が血に染まっていようと、勝者であるという真実は変わらないのだから。

 

「「「…」」」

 

 世界は沈黙に染まった。

 訳が分からず首をかしげるキュレム。とても愛らしくあるが、その口から飛び出した過激な言葉を聞いたものからすれば、人間と言う存在について理解できない悪魔のようにしか見えなかった。

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