これは縁太郎と結ばれない世界線。まぁ、原作でどうなるかは置いといてお楽しみ下さい。
指輪を君に
恋は盲目。そんな言葉があるが、実際に恋に落ちてみるとその意味がよく分かる。
どれだけ手を伸ばしても届きそうもない高嶺の花。自分とでは身分の差すら感じてしまう風格。果てにはその人には好きな人がいる。そこまで来たら盲目と言うより敗北ではないかと最近思う。
それでも、その花に手を伸ばしたい。彼女の隣に寄り添いたい。そんな願いを抱いた僕と彼女が結婚するでの、もどかしくも暖かい……そんな一幕
* * * *
僕の名前は
年齢に目を瞑れば僕は結構モテるタイプらしい。しかし、年齢と外見がアレなのでモテない。私生活ではボサボサの髪、普段メガネはかけないが読書の時だけは眼鏡を掛ける。それが一度昼休みに同僚に発見され、部署では眼鏡が似合わない社員の一人として名をはせている。
話を戻すと、先程も言った通り僕は絶賛婚活中なのだ。理由としては両親の早く結婚して欲しいと言うメールから婚活が始まった。
しかし婚活と言ってもマッチングアプリなんかは中々手がつけられない。一度友人がマッチングアプリを使って酷い目にあったと聞かされ、それ以来マッチングアプリは使わない様にしている。そんな時にCMで黒峰マリッジプランナーという婚活をサポートしてくれる相談所が大々的に宣伝されていた。
だが入会料が高く近所にも違う相談所があると知り、そこに入会した。そこで婚活をサポートする人達を仲人を知り、僕の知らないことはまだまだいっぱいあるのだと思い知らされた。
そこで白城相談所と言う所の一人と会って話をしてみないかと言われ、特に誰と言う指定もなかったので僕はそれを承諾しその日を待った。
その日が来ると、私服に着替え言われた通りのカフェテリアに十分程早く着き相手が来るまで読書をしていた。
しばらくして、キリがいい所でしおりを挟み前を見る。すると目の前に一人の女性が立って居ることに気付いた。
「あなたが新樹拓也さんですの?」
「え? あ、はい。あなたは白城の
「そうですわ」
「あ、取り敢えずお疲れでしょうし座って下さい」
僕は本を鞄にしまい再度早乙女さんと向き合う。
それが夢と言われたら僕は信じてしまうかも知れない。それ程に早乙女さんは綺麗で、そして一目惚れをしてしまった。
ハーフを思わせる様な金髪の髪。エメラルドの様な綺麗な緑の瞳。そしてモデルかと言わんばかりのスラリとした体にブランド物を思わせる様な私服。
全てが輝いて見えた。
僕にない物を、早乙女さんは全て持っている。けれど僕はなんだ? 早乙女さんの様にルックスがいいわけじゃない、綺麗な眼じゃない。
その時の顔はどんなのだったかは知らない。けれどとてもではないが人に見せられた顔をしていなかったのは確かだろう。
この人と僕は釣り合わない。
何故かそう直感してしまった。でも、これはわざわざ早乙女さんや彼方の相談所の仲人さん、こっちの仲人さんが用意してくれたり予定を合わせてくれた場なのだ。勝手に落ち込んで空気を悪くして終わるのは失礼だろう。今は早乙女さんと過ごす時間を大切に、そして楽しもう。そう心に決め早乙女さんとの時間を出来る限り楽しんだ。
随分と時間が経ち、僕と早乙女さんもそろそろ帰ろうと言う事になった。しかし、最近は夜遅くに女性が襲われるとか言うニュースをよく見かけるので心配になった。
「早乙女さん、家まで送りましょうか? 僕は車ですし最新なにかと物騒ですから」
そう早乙女さんに質問すると、一瞬肩がピクリと跳ね上がった気がした。その瞬間僕はなにかまずい質問をしてしまったのだろうかと思い、嫌なら断ってもらっても大丈夫だと言った。
「そうですわね、最近は物騒ですしお願いしますわ」
「…………」
「どうしました? 早くいきますわよ」
「あ、はい! スミマセン、すこし考え事をしてまして」
予想外の早乙女さんの返答によりしばらく思考がフリーズしていたがギリギリ戻ってこれた。僕は早乙女さんを車に案内し、家に向かって車を走らせた。その時の車内は会話はなくただ静寂が満ちていた。しかし、その静寂は悪くなくとても居心地が良かった。なにせ一目惚れした相手が同じ車に乗ってくれているのだ。変だと思われるが内心飛び上がりたい位嬉しい。
しばらく車を走らせ早乙女さんが言った住所に辿り着くと、そこはアパートだった。それよりは団地の方がしっくり来そうな、でも何処か懐かしい雰囲気が漂っていた。
「ここが早乙女さんの住む場所ですか?」
「そうですわ。でも昔はお嬢様でしたのよ? 今は上流階級の殿方と結婚して玉の輿を狙ってるんですの」
「へぇ……でもよく僕との婚活を受けてくれましたね。あ、べつに嫌って訳じゃないんですけど。その、言ってはなんですけど僕の家はそんなに上流階級の家じゃないですよ? むしろ昔から貧乏貧乏って言われるばかりですよ。こんな奴に付き合ってくれた早乙女さんは凄いですよ」
僕は車の外を眺めながらボヤくように早乙女さんに告げる。やはり僕みたいな男は眼中にないのだろう。もしくは僕の兄目当てか。いずれにせよ早乙女さんが僕を好きになってくれる事はないのだろう。
半ば諦めながら考えていると早乙女さんは不思議な事を聞いたかの様に頭を傾げる。その動作に胸打たれながらもその場を耐えた。しかしそこからの追い討ちに耐える事は出来なかった。
「なにを言ってますの? 今日はとても楽しかったですわよ?」
「ですよね、楽しかったですよね……え? 楽しかったんですか?」
「なにか変な事を言いました?」
「え? あ、いや変な事は言ってませんけど……だって玉の輿を狙ってるって。てっきり勘違いされてる物だと思ってましたので…」
そういうと早乙女さんは綺麗な笑顔でこう告げる。
「玉の輿は前の考えですわ。今は上流階級の殿方だからと言う理由で選んでは居ませんわ」
「じゃあさっきのは……」
「勿論、揶揄っただけですわ」
そう告げると早乙女さんはドアを開けてアパートの方に向かっていく。僕はそれを茫然と見つめていると早乙女さんがゆっくり振り返って最後の最後に大爆弾を仕掛けてきた。
「また今度、どこかに出かける時にお誘いしますわ」
そう言ってアパートの中に入って行く姿を再度見見届けると、僕は暫くフリーズしていた。
* * * *
それから一月、二月と過ぎて行った。あれから早乙女さんとよく出かける様になり次第に打ち解けていった。けれど時折なにかを気にする様に周りを見渡すのを不思議に思い今回誘われた外出で思い切って聞いてみる事にした。
「そう言えば早乙女さんは偶になにかを気にする様に周りを見ますけど、誰か好きな人でも?」
「え? あ、そ、そんな訳ではないですわ。そ、それより次はこれが食べたいですわ!」
質問に対し明らかに話を逸らす早乙女さん。しかし、僕の中では好きな人は居ないのではないかと少し安堵してしまう。が、モヤモヤはまだ晴れないのでここで一気に追い詰める事にした。それが自分を傷つける事になることも知らずに。
「嘘ですね。早乙女さん、嘘をつくときは大抵左の髪を触ります」
「っ--バレてしまいましたわね」
「因みに今のは嘘ですよ?」
「だ、騙しましたわね!」
そう言って顔を赤くする早乙女さん。
不覚ながら可愛いと思ってしまった。
「それで? 誰が好きなんですか?」
「……わたくしの入っている白城相談所の仲人ですわ。でも今は「なら、僕と出かけてる場合じゃないですよ。ほら、早く行って気持ちを伝えないとダメですよ」ちょっと、なにをしますの?!」
僕はそのまま早乙女さんの手を引き、僕を送ってきてくれた仲人さんに白城相談所に早乙女さんを送る様頼んで早乙女さんを車の中に入れる。
「は、離してくださいまし!」
「ダメですよ、早乙女さん。当たって砕けろです。きっと振り向いてくれますから……それじゃあお願いします」
そう言うと仲人さんはコクリと頷き車をゆっくりと走らせ始める。そして車が見えなくなると、僕はそこで膝をつく。
「結構良かったと思ったんだけどなぁ……」
今日は思い切って結婚を前提に付き合えないかと聞こうと思っていたのだが、肝心の相手に好きな人が居たのであれば言う必要はない。分かりやすく今の状況を言えば失恋をした。人生で初めて、おそらくこれ以降はないであろう恋をして、そして失恋をした。
刹那、走馬灯の様なものが頭に流れ込んでくる。死にかけている訳でもないしどうとでもないはずなのに、早乙女さんと一緒に過ごした時間がスライドショーの様に次々と思い出される。
「……帰るか」
二十代後半で初恋をして、失恋をした。それは余りにも淡く、そして儚い様に一瞬にしてそれは消え去った。
* * * *
僕は今公園のベンチに腰掛けている。家にも帰ろうと思えば帰れるか今は帰る気が湧かない。なにもかもがどうでも良くなってきて、真っ白に見えてきて……本当に僕はなにを舞い上がって居たのだろう。
勝手に気があるのではないかと思い込み、目を逸らされれば照れてるのだと勘違いする。こんな思考をしてれば早乙女さんに愛想尽かされたり、ほかの男性に好意が言ってもおかしくはない。結局、また振り出しに戻る。
「久しぶりに吸うかな」
僕はポケットから長らく吸ってないタバコの箱を取り出す。もう随分前に辞めてから吸って居ない。だが、今これを吸わなきゃやって居られない気がするのだ。
僕はタバコを一つ取り出し口に咥える。そして胸ポケットからライターを取り出し火をつけようとするが中々着かない。よく見ればすでに中身はなくなっており、着かないのは当たり前の事だった。
仕方なくベンチから立ち上がりライターを買いに行こうと思った時だった。
不意に足が止まり、声も出せないほどの驚きが僕を蝕んだ。
なんで
「なんでここに居るんですか、早乙女さん」
僕の目の前には白城相談所に送った筈の早乙女カレンが立って居た。
* * * *
「なんでここに居るんですか、早乙女さん」
僕は目の前の彼女、早乙女カレンに問いただす。今の気持ちを正直に言えば嬉しいもある。だがどちらかと言えば怒りの方が強い。これは八つ当たりなのだと分かっている。けれど、抑えきれない感情が流れ出てくる。
「それは……」
「相談所の仲人の人が居なかったからですか?」
「……」
「やっぱり、その人との繋がりを持ちたいがために僕を使っていただけなんですね」
「それはちがいますわ!」
「なにが違うって言うんですか」
傷つけたい訳じゃない。嫌いになって欲しい訳じゃない。それなのに、戻れない場所ギリギリに僕は居る。
どんどん溢れる言葉を止める事は出来ない。早乙女さんにはもっといい人と……いい、人と。
「そんなに怒鳴るのに、何故あなたはそこまでなくんですの?」
「え?」
不意に頬になにかが伝わるのを感じた。涙だ。どれ程流そうと思っても流れなかった涙だ。馬鹿らしいような場面で、どうしようもない場面で泣いてしまった。
それなのに早乙女さんは今もなを僕の目の前に居てくれる。だからなのだろう。自然と言えなかった言葉がポロポロと出て来る。
「好きだったんです。早乙女さんの事が」
「………」
「一目惚れって奴でして、初めて会ったあの時からあなたを好きになって居ました。二十代後半になって、初めて初恋をしました。それが早乙女さんです。けど、僕は人の幸福を……早乙女さんに幸せになって欲しいんです。だから、行ってください」
「いやですわ」
それを言われた瞬間、いつの日かの言葉を思い出す。『また今度、出かける時にお誘いしますわ』その言葉を言われた時の様に、フリーズした。訳がわからなかった。好きな人の元に行ってと言われているのに何故断るのだろうか。
僕は様々思考をしていると、不意に暖かさが僕を包んだ。
それが早乙女さんに抱きしめられていると理解するのには、相当の時間を要した。
「さっ、早乙女さん?」
「確かに、わたくしは縁太郎の事が好きですわ。いえ、好きでしたと言うべきですわね」
「好きでした?」
そう聞き返すと、早乙女さんはコクリとうなずく。
「初めはあなたを見た瞬間は相性が合わないと思いましたわ。でも、それは会った瞬間。過ごしてみると案外心地良かったんですのよ? そこから長い時間をあなたと過ごしましたわ。勿論、縁太郎との時間には及びませんわ。でも、あなたと過ごしているうちにいつの間にか引かれていたんですわ。あなたに……いえ、拓也に」
「早乙女……さん」
長らく触れることのなかった人の肌、人の暖かさ。これ程までに暖かいものだとは思いもしなかった。早乙女さんの温もりはまるで、あの日アパートの前で感じた優しくも懐かしい感覚。
そしてゆっくり離れると、早乙女さんは意を結ました様に僕の方を強く見る。
「新樹拓也さん」
「は、はい」
「わたくしと……」
「あ、やっぱ僕から言わせて下さい。ここは男からってのが理想だと言ってましたしね」
「ええ、そうですわ」
それならと僕は深呼吸をしてポケットから小さなケースを差し出す。
「これは……」
「早乙女カレンさん……僕と、結婚! ……を前提にお付き合いしてください!」
言ってしまった。わざわざこっそり計った指の大きさで思い切って、振られるかも知れないなんて事を考えずに買った指輪を差し出す。まだ結婚なんて早いと思う。けど、本気だと証明は出来る。
ふと、ケースが開く音がした。
「え?」
「ふふっ、結婚が前提……なんて事は言わせませんわ。今まで婚活をして来てここまでの殿方は居ませんでしたわ。そして、わたくしもここまでまだ誰かを好きになれた事は初めてですわ」
「え? それってつまり……」
「お付き合いなんてわたくしと拓也の仲ですわよ? そんな水臭い事は飛ばしてしまってもわたくしは構いませんわよ?」
それはつまり、早乙女さんは返事を決めていると言う事になる。
心臓の音がハッキリ聞こえる。もしかしたら早乙女さんにも聞こえてるかも知れない。
けど、ここまでの事は初めてだから許して欲しい。僕は再度大きく深呼吸をして今度こそ、伝える。
あの日、一目惚れをしてからずっといいたかった事……僕はここで告白をする。
「早乙女カレンさん、僕と……結婚して下さい!」
「--はい、喜んで」
指輪を君に
END
好きなのってスラスラ書けますよね