一応ボツ扱いということで、続きが描かれるかは全くの謎です。
なお、注意点としてこの物語はギャフターをハーメルン版に修正する前に書いたものです。
ので、内容が違う場面がややあります。真名がまだつけられてなかったりとか。
辿り着いた今のお話①
───とある、遠い過去の話をしようか。
かつて、世は混乱の只中にあった。
人々は日々を生きるのみで精一杯であり、上に立つ者ばかりが私腹を肥やす日々。
民などはほぼ痩せ細っており、太っている存在などは滅多に見られるものではなかった。
当然民は“ただ黙して死ぬくらいならば”と立ち上がった。
だが、その立ち方はあまりに間違っていた。
向かうべき上の者には立ち向かわず、同じ苦労を味わう者の手にある僅かな蓄えを奪い、明日を生きるという立ち上がり方であった。
当然そんな行為が許される筈もなく、そういった者達は始末され、そうすることで糧を育む者は次々と減り、世界は静かに死へと向かっていた。
育む者が居ないというのに私腹を肥やす速度を緩めもせぬ上の者は、少ないのであれば民の分をと奪い、余計に民を苦しめる。
そんな世を正すために、立ち上がる者達が居た。
当然それぞれの目的はところどころで違ったのだろうが、世を変えようと立ち上がった事実は変わらない。
己の幸福にしか興味のない者を下し、難民を招き、ゆっくりとだが人々に生きる術を与えてゆく。
そんな勢力がのちに、大まかに分けて三つ確認され、そんな世界の歴史を三つの国の志と例え、三國志と云った。
三国の力は強く、民の様々がこの王ならばと信じ、その国で生きた。
糧を育み、未来を夢に見て、次第に増えた笑顔に心からの安堵を吐き。
どの国の者も自国の王が勝つことを信じて疑わなかった。
結果として覇王に到った者は魏王・曹孟徳。
同盟を結んだ呉と蜀の力をも跳ね返して見せ、大陸の天下を統べ、それだけではなく敗北した二国の王にも、ここから理想の良い国を作ってゆきなさいと、下した二国を二人の王に任せたのだという。
これこそが覇王の器であろう。
非道な王だと思ったのなら迷わず討ちに来なさいとまで言ったとされ、人々はその在り方に惹かれたのだという。
だがこの孟徳、歴史の初期では中々に腹黒いという印象があり、部下を苛めて楽しむという少々非道な面もあったというのだが、覇王に至る頃には随分と丸くなっていたとか。
そんな覇王にいったいどんな心境の変化があったのか。
それを知るには、まず彼女の前に降り立った存在、“しゃいにんぐ・御遣い・北郷”のことを語らねばなるまい。
その者、天より遣わされし知将。
銀の衣を身に纏い、黒の木剣を手に、人々に“笑顔”を思い出させる天使。
魏が魏として出来る以前、曹の旗に舞い降りた彼は、曹孟徳が“力”として誇っていた“威圧”を解き、警備が怖いという理由だけでその威圧を砕く行動に走り、警備を強化するだけでなく民への無用な威圧を殺してみせた。
このしばらくののちに魏が誇るなんでも屋、“北郷警備隊”が組まれることになるのだが、それはまた別の話だ。
ともかく彼の出現により、彼女が任されていた、歩く民が兵に怯える町や村は一変。笑顔溢れる平和な町へと色を変えていった。
その影響だろうか。
戦の中では鬼とさえ思えるほどの強さを誇るのちの覇王が、城では随分と顔を緩ませ、御遣いが作った天の料理に舌鼓を打っていたとか。
なおこの知識は遺された書物より得たものを纏めたものであるため、琮、ではなく私は悪くない。琮ではありません。どちらかというと、禅です。禅ですとも。
そしてこの御遣いの活躍が、覇王曹孟徳を勝利に導いたとされ、魏ではそれはもう有名な人物となっていた。
むしろのちに三国の中心に造られる都では、将の顔は知らぬが御遣いを知らぬ者は居ないとさえ云われるほどであり、もし曹孟徳が威圧を少しも殺さずに天を握っていたとしたら、こんな未来はなかったのではとさえ思えるほどであり、民のほとんどは彼、しゃいにんぐ・御遣い・北郷を随分と好いていた。
さて、この御遣い。
名を北郷一刀といい、姓を北郷、名を一刀。字と真名が無い存在であり、見つめると輝いて見える素晴らしいお方だ。
その武力はのちにあの三国無双にも追いすがらんとする勢いであり、男でありながらこの武力を誇るというだけで、皆は息を飲んだものである。
そんな、数ある彼の話の中でも不思議なものがあり───
料理の腕は普通。
天のお菓子を作らせたら右に出る者なし。
鉄の胃袋を持つ男。
炒飯と杏仁豆腐という言葉にとてもよく反応する。
ふと見てみると仕事か鍛錬をしている人。
人にとんでもなく好かれやすい。
関係を持つ女性が両手両足でも数え切れない。
魏の種馬。
女じゃ彼には勝てない。
昼に武で勝った女性が、夜に床で泣かされた。
なのに男にも好かれる。おかしな意味ではなく。
言い始めればキリが無いが、ともかく彼は凄い。
そんな彼が三国の同盟の証として置かれたのも、過去の知識を紐解くだけで嫌でも理解できるというものだろう。
他の特徴として、自身が成長出来ない身であることから、筋肉を使わない武技を学んでいたことも知っておくべきだろう。
彼は筋肉も強化出来ないことから、力を必要としない氣のみの技術を磨き、まさに護身と呼べる術を発展させていった。
男性より女性が強いとされるこの空の下、この技術に感謝しなかった男性はおらず、女性もまたこの技術を学び、様々な者が氣を学び、技術を学び、練磨に励んだ。
その技術は御遣いと、その否定者との戦において大変な功績を遺し、この技術がなければ三国は負けていたとさえ云える。
───この書を読んでいる未来の人よ。
この書は1800年後へ届いているだろうか。
どうか未来の日本の、ふらんちぇすかという場にその者が現れたら、この書を届けてほしい。
そして、私たちは最後まで力強く生きることが出来たと伝えてほしい。
……ええ、戦は私たちが勝ちましたよ。
心配しているだろうから、ここに記します。
呂 琮
───……と。
「まあ、これがお前を一刀と名づけた理由なんだがな」
「にわとりィイイイイ!?」
番外のいち/鶏が先なのか卵が先なのか? そんなの鶏に進化する前のなにかにきまってるじゃない。つまり結局はタマゴが先さ! きっと!
-_-/かずピー
話をしよう。なんでもない、ある日常の一端で起きた奇跡的な再会とその後の話だ。
よく再会の場面をエンディングにする物語ってあるよな。
ゲームとかアニメとか漫画とか、喩えを挙げればキリがない。
さて、そんな再会の後日談だが。
ひどく現実的で夢の無い、だが正直な話をしよう。
食費がヤバイ
これに限る。
あれからみんなを連れて道場に戻ったら、母上様驚愕。もちろんお爺様もであらせられたが、どう説明したものかと考えているうちに及川が暴露。
“みーんなかずピーの恋人さんやー!”と言った彼は、ある意味勇者だ。
偽造させた身分証の住所欄には北郷宅が記されており、なんとかならなかったのかと于吉に訊いてみれば、先立つものがありませんのでとキッパリ言われた。
派手な服装の皆様を前に固まっている母を余所に、真っ先に問い詰めにきたお爺様。道場に連行されて、改めれて問い詰められるに到り、俺はありのまま、正直に話した。嘘を言っても仕方ないし、こればっかりは真っ直ぐに向かわないといけない。みんなと生きた世界を肯定するために、俺は肯定も否定も選んだのだから。
もちろん悶着はあって、男子たる者の在り方を散々と説かれた。説かれたけど、それを真正面から切って捨てまくったのは我らが覇王さまであった。尋常ならざる迫力とともに、じいちゃんの口からこぼれる言葉の全てを真正面から微塵切り。
コメカミをバルバル震わせていたじいちゃんだったけど、時間が経って多少は“思考の根元”が落ち着きを取り戻していくと、急に態度を変えた。
いったいなにが───と戸惑う俺達を前に、一度道場を出て、戻ってくるや……一冊の書物を見せてきた。
それが、呂琮が書いたらしいものだった。
それと俺とを交互に見たのち、じいちゃんは長い長~い溜め息を吐き出して、俺に問うた。お前はどうしたい、と。
どうする。
その質問に対しての答えは、もう胸にあった。
金も無ければ住処もない。だったら広い場所を提供する以外はないだろう。
ということで、
道場に住まわせる!
キッパリハッキリ。
何か言い返そうとしたじいちゃんだったけど、「……道場、継がせたよね?」と囁くと、頭を抱えた。
ああうん、俺もいっつもこんな感じで抱えてたんだろうなぁって、そんな光景を見つめていた。
これで住む場所はOKだった。じいちゃんに思い切りドツかれたけど、OKだった。他の家族には当然止められたけど、じいちゃんが何事かを話すと家族も納得。話自体は受け入れてもらえた。
……のだが。結局は食費なのだ。だってみんな、とっても食べるし。しかも家族が頷いた理由が“食費に関しては一切面倒は見ない”という条件の下だったため、さあ大変。
当日から一致団結での食費稼ぎが始まった。当然、日雇いのバイト(力仕事優先)を探しまくっての荒稼ぎ。
力仕事かつ複雑でないもの探しが優先される中、軍師の皆様はこの時代の知識の吸収に回される。
最初からハードルが高いと言っても聞かない皆様は、最初から図書館に挑み、様々を知る日々を続けた。
で、現在。
場所は道場。
俺の目の前で床に胡坐を掻いて座るじいちゃんが、いつかの日に持ってきた書物を手に、名づけの理由を教えてくれた。
うん、本当に、鶏が先なのか卵が先なのかって話だ。
過去に行った俺の話が書物として残されており、書かれた文字が日本語とくるのだから、そりゃもう驚くしかないだろう。というか、原文がよくもまあ残っていたものだ。
書いたのは琮だ。随分と文字も綺麗だ。
綺麗なのに、未だにお手伝いさん呼ばわりなのはどういうことか。
きちんと説明したよなぁ、俺……。
亞莎は“恥ずかしがっているだけですよ”と言ってくれたが、書物に残されると大分ショックだ。
「………はぁ」
ともあれ。
娘達の歴史が辻褄合わせに選ばれてくれていた。
それだけで、鼻がツンとしてくるくらいに嬉しい。
じいちゃんが居なければ泣いていただろう。
「女に好かれるところや黒の木剣、ふらんちぇすか、という部分までもが酷似しておるとくる。そしてお前の“歴史と戦ってきた”、という言葉。……一刀よ。お前がここに記されている天の御遣いだと、儂は思っておる。だからお前の話にわざわざ驚きもせなんだ」
「いや、その頃はまだ辻褄も追いついてなかったんじゃ……ああそっか、もう追いついたからこそ、その部分も変わってるってことか」
いろいろ気を使ってくれただけなんだろうなぁ、じいちゃん。
「えっと。まあその、一応。で、一緒に来た女性たちが、その時代で一緒に戦った人達」
「……。ふむ? なんじゃな? つまりは、あー……」
「うん。曹孟徳や孫仲謀や劉玄徳」
「………」
「………」
「……儂、赤い髪の静かな子に肩揉みとか頼んじゃったんじゃけど……」
「うん。あの娘、呂布」
「りょっ!? ……婆さん……儂、もう死ぬかも」
じいちゃんがかつてないほどにサワヤカかつ男らしい表情のまま、道場の神棚を見つめてそう言った。
いや、大丈夫だから。むしろじいちゃんに気に入られようと頑張ってたから、恋。
「し、して、一刀よ。この書物、北郷という苗字と、道場があるという理由だけで、ある日に渡されたものだが。ここにある御遣いの娘達、というのは」
「えーっと。その。俺の娘」
「ぬおっ!? ならばその娘の娘というのは」
「孫で、その娘が曾孫」
「…………で! その娘は!? 祖父に隠れて子作りとはなんたることか! 抱かせい!」
「抱きたかったらその時代にタイムスリップするしかないんじゃないかなぁ……」
「ぬうう……! 儂の初曾孫……! 一刀お前、よもや自分だけ儂より先に初曾孫を抱いたなどと……!」
「や、そりゃ抱くって」
「この裏切り者がぁああーっ!! 祖父より早く曾孫を抱く孫が何処におるかぁあーっ!!」
「えぇええーっ!? い、いやっ、居るだろ! 居るよ!? 居るって!」
「やかましゃぁああっ! 立てぇい! その根性、叩き直してくれるわ!」
どこから出したのか、竹刀片手にホギャーと憤慨するお爺様。落ち着いてくれと頼んだって聞いてくれない。
まさかこの人が、こうも曾孫を求めていたなんて。
…………ああ、そういえば、二度目にあっちへ行く前に、曾孫がどうとか言ってたっけ……。
「祖父より先に死ぬ孫を叱る者の気持ち、儂にも当然わかる! そしてその理屈をそのままに、祖父より先に曾孫を抱く孫……許せん!」
「理屈が無茶苦茶だぁっ!! ちょ、じいちゃん本気で落ち着いてくれって!」
「問答無用ォオオオオオッ!」
じいちゃんが竹刀を上段へと構え、キエエと立ち上がる勢いと同時に襲い掛かってきた───そんな時だった。
道場の出入り口の戸が開き、ひょこりと顔を覗かせる三国無双が……!
「!? ……、……………」
「…………。……? じいちゃん?」
来るであろう衝撃に身構えていたものの、いつまで経っても一撃はこない。
むしろじいちゃん、こちらを見つめる恋の視線に固まってしまっていて、顔がみるみる青く……!
「……ご主人様のこと、殴る……?」
「え、あ、いや、儂はだな、その」
「殴る……?」
「これは男と男の……」
「武器を持っていないご主人様を、殴る……?」
「ナグリマセン」
「……ん」
偉大なる祖父が“伝説”の眼力に敗北した瞬間であった。
そして俺は俺で、なんだかこの祖父に物凄い親近感を湧かせていた。
「っと、それはそれとして。恋、どうしたんだ? ねねと一緒にペットショップの仕事を探すって言ってただろ」
「ん……見てきた」
「もう!? ……どれだけ急いで行ってきたんだよ……あ、で、どうだった? 仕事、出来そうか?」
「……仲良くなった子が目の前で買われていった……」
「……あの。恋さん? 提案された時にも言ったけどさ。動物を家族って言える人にペットショップは辛いと思うぞ……?」
「ん……いい、やる。これも弱肉強食……!」
「ある意味合ってるから違うって言いづらいなぁもう」
仕事はそれぞれの個性を前に出したもので決まりそうだ。もちろん最初はバイトで。
料理上手な流琉や斗詩も、まずは食事処で仕事をして、調理師の免許を取ってから本格的に、という段階を踏み始めたばかりだ。(*ちなみに調理師免許は食事処での二年間以上の実務経験が受験条件に含まれている)
恋もその道で先を目指すならと、専門学校への入学を……とか、いろいろ忙しい。
そういったものの内容確認や対処法を率先して調べてくれているのが、詠だったりする。頭に冷えピタ張って調べごとをする姿が、なんというか妙に様になってるんだよなぁ……“キミ本当に過去の人?”って訊きたくなるくらいに。
でも詠さん? 頭を冷やしたいなら貼るところは額じゃなくて太い血管のあるところにしようね。額に貼ってもあまり熱は取れないから。
「年齢偽装とかよかったのかなぁ……みんな来年からフランチェスカとか専門学校に通うつもりなんだよな? 勉強とかなんとかなりそうか?」
「なんとか、する……!」
なんとも力の篭った頷きだった。
その頃には俺はもう卒業してるんだけど、いろいろ心配だなぁ。
王様や、その臣下が一つの学園に勢揃いするわけだ。
妙な派閥とか出来ないといいけど。学園三国志、みたいに。
…………いや、シャレになってないから考えるのはよそう。
「むう……ふと気づけば孫が儂を追い抜くという、妙な状況……。“銅鏡”、のう……不思議なこともあるものよなぁ」
「まあまた銅鏡が見つかったところで、もう別の外史は無いんだから派生のしようもないと思うけどね。……あ、あー……その。じいちゃん? 無い……よね? なにかしらの“いわくつき”のものとか」
「ふむ。……おお、そういえば蔵に随分とまあ古びた刀があってだなぁ。いつからあったのかさえ忘れてしまった、それはもう不気味なものなんだが」
「封印してください」
「む? 派生のしようがないから、別にどうでもよいのではないのか? お前が一人前になったら譲ろうと思っていたんだが」
「いわくつき、って条件で思い出された刀より、あの黒檀木刀を正式に譲ってほしいんだって。あ、もちろん金は働いて払うよ」
「おおぉ……あれなぁ。不思議と手に持っても、儂の手にはもはや馴染まなんだ。同じものを握り続けていれば、握る部分が手の形に変形する、という話はあったが……氣、だったか。お前がずっとそれで包んでいた所為か、ちっとも変形しておらんというのに、誰が持っても馴染まんものになってしまっている」
「そりゃ、随分と長い時間を一緒に過ごしたしなぁ」
アレに何度命を救われたことか。
ていうか、貂蝉の話だとあんまりにもアレを持って氣を繋げていた所為か、木刀自体に氣脈が出来ているらしい。普通じゃ考えられないそうだ。
だから俺の氣だったら木刀に瞬時に満たされるけど、他の人の氣は馴染まない。大事にされたものには魂が宿るとか言ってたけどなぁ、まさか氣脈が出来るとは。
そういう理由と愛着もあって、件の謎の刀なんぞよりもあの木刀を正式に譲ってほしいのだ。あれじゃないと上手く立ち回れる気がしないし、この時代じゃ篭手と具足を直す真桜工房も無いしなぁ。
今でも鍛錬は続けていて、みんなには御遣いの氣の扱い方を教えていたりもする。皆様覚えるのが早く、早速ボコボコにされているこの北郷めでございますが、それでも人の順応ってものは素晴らしいもので……勝てないまでも、粘るくらいなら出来るようになっていた。
ええはい、最初はてんで勝てませんでしたとも。ただでさえ強いお方たちが、さらに氣を増幅させてしまったのだ、普通にやって勝てるわけがない。
「あれは知人に造ってもらったものでなぁ。儂としてもそれなりに愛着がある。元々が黒檀の素振り刀、という名が示す通り、素振り用のものとしてお前に貸したものだ」
「その“貸す”を“譲る”に、なんとか……! 頼むよじいちゃんっ!」
「蔵の刀は」
「要りません」
「………」
「………」
「ならばあれよなぁ。刀とともにならば考えんでもない」
「どれだけ手放したいんだよその刀!」
「これだけ歳を取れば、妙な直感というものを感じるものよ。“あれ”は危うい。まるで誰かが触れるのを待っているかのようだ」
「……じいちゃん。触れたことは?」
「危ういと言ったろうが。誰が触るものか」
「………」
「………」
俺の奇妙な危機感知能力って、じいちゃんからの遺伝なのかしら。
まあ、わかってたところで大体地雷を踏む俺だけど。
「……ほんとに、その条件でいいのか?」
「応。子供でも産まれたら、そやつに継がせてしまえ。それでお前も共犯よ」
「孫になんてものの片棒を担がせようとしてんだこのお爺様」
「ともかくだ。迂闊に触らんようにとお嬢さん方にも言っておけ。木刀は、まあ……お前が持っておけ、まったく。道場をくれてやっただけでは足りんのか、欲張りな孺子よなぁ」
「! じ、じいちゃん! じゃあ!」
「まあそれとこれとは別だから、10万はきっちり払うのだぞ」
「ワーオ!」
ちゃっかりしてらっしゃる! 譲ってくれれば深く深く感謝してたのに!
まあそれはこっちの都合だから、言っても仕方ないことだけどさ。
ていうかどうせ支払うなら、受け継ぐ意味とか無くないですか!?
「……じゃあ、じいちゃんも曾孫の名前全員分、考えてくれよ……? 恩返しがどうとかって、そういう約束だったよな」
「ぬごっ!? お、おおお……!? ごほんっ! ……一刀よ。ちなみに娘は何人くらい……」
「50人以上は確実」
「───」
その時俺は……喜びと悲しみとを混ぜ合わせた、まるで虚しい戦いを続けた歴戦の勇者のような表情を……祖父の顔に見たのでした。