「さて、一刀? あなたの答えを聞かせてもらおうかしら」
「───」
ここでハーレムもののラストよろしく、“逃げ出して追いかけられてエンディング♪”は、のちに地獄しか待っていませんね。この場の全員が敵に回る。確実に。そしてあの最後は好きではない。
神様だけが知っているセカイのごとく、一人を選んでアディオスを? 華琳の言う通り、“合わさったこの外史”では誰とも結ばれていない今こそ、それが出来るのは確かである。で、あるが、この場に居る全員が敵に回る。確実に。むしろ全員を受け入れることが出来るのにそれを今さら否定するのはあまりに非道。したら殺される。非道な王になったら殺しにきなさいって華琳の言葉が、何故か俺に返ってきそう。
じゃあかつては娘だった子を受け入れて多妻の内に加えろと? ……それは非道ではないと言えるのだろうか。や、一般的な話をするなら、そりゃあ非道じゃないとは思う。血縁にしたって何代離れてるんだって話だし、血縁がある相手との婚儀が意地でもダメだというなら、世界なんぞいっそ滅んでもいいんじゃないかとも思う。それこそ、過去を辿れば誰と誰が血縁なのかなんて、考えるだけ無駄だ。“祖先は原始人です!”って名言しちゃえば誰もが家族でキョーダイだ。
つまりは……ツマリハ……
「エ、エート。ジャア例エバダケド、ミンナトサヨナラシテ、カツテノ娘タチヲ受ケ入レルトカ言ッタラ」
「「「殺すわ」」」
「ヒィやっぱり!」
王らが声を揃えて仰った! 桃香も例外ではなく!
「じゃあそのっ……華琳が言った通り、今は誰とも経験してないんだし、一人を選んだら───」
「「「殺すわ」」」
「これも!?」
でもそりゃそうだって納得出来るあたり困ったもんでした。
だってね、そりゃね、一つの外史のみで言うのであれば、自分が選ばれるって確信を持てる人だってそりゃあ居るよ。俺も魏の外史だけだったら確実に華琳を選んでいたし。
それが今じゃ全部の外史の記憶がある。一人を選べなんて言われたら、誰になることやら。
「えと。まず最初に冗談であることを言っておくな。あー……こほん。……いっそ全員との関係を切るとか───」
「「「「───」」」」
「ヒィごめんなさい本当に冗談です!!」
王のみならず、この場に居る全員から殺気が溢れた。ていうか今空気が軋んだ。“ゴリッ……!”って軋んだ。
言ってみたもん勝ち、という言葉があるけど、言っていいことと悪いことは当然ながら存在する。冗談で場を和ませたかっただけなのに、その一言ですべてが崩壊することだって、冗談のように聞こえるだろうが本当にあるのだ。
「あぁ……はぁ。あの時も訊いたことだし、今さらって返事しか予想できないけどさ。みんなはそれでいいのか? 遠慮無しで言わせてもらえるなら、俺は体力を保たせる自信がこれっぽっちもないぞ?」
「疲れ果てたら氣を使ってまで体を動かして、人のことを鳴かせたくせに」
「華琳サン、たぶんそれ文字にしたら字が違う」
「どのみち、あなたの体力問題なんて誰も心配していないということよ。一日中だって走っていられるあなたが、今さら人付き合いで体力が続かない? どういう冗談よ」
「精神的疲労の話ですハイ」
「それこそ今さらじゃない。あなたがそんな───」
「華琳~? これから一生、酔っ払った桃香と雪蓮と春蘭の相手をしてって言ったら頷けるかー?」
「まっぴらごめんだわっ! ───あ」
優勢であった覇王が、しまったという顔をした歴史的瞬間である。
「……華琳? 自分に出来ないことを人に押し付けるのは覇王的に非道じゃないかな?」
「う、ぐっ……! い、いえ、それは限定的な話でしょう? 桃香だって常時酔っているわけではないし……!」
「そうだったとしても、今でさえ時間の許す限りにみんなの都合に付き合っているのに、その人数が倍になったら不満ばっかり溢れないか? 俺の体力が平気でも、時間は無限じゃないだろ」
「だ、だからそれは、日毎や週毎に分ければ……」
「ある日にどうしてもその人と何処かへ行きたいって思っても、俺はその日が来るまで我慢しないといけないと?」
「う……」
言いつつ立ち上がって、華琳のもとへ。
目の前まで辿り着くと、目を合わせて次から次へと質問を投げる。
華琳がよくやる、相手の目を見つめ、虚言を許さない方法なのだが……華琳さん、既に真っ赤になって視線をちらちら動かしまくっております。
そして俺の発言。外道である。我慢しているのはみんなだって同じだろうに。でもこういう時じゃないと反撃できないので、ごめんなさい、今は許してください。
そんな気持ちを込めて周囲を見渡してみると、みんな“やれやれ”って顔で苦笑していた。
「は~ぁ、まったく。華琳は一刀に強いのか弱いのか」
「きっとどっちもだよ。ねー? 華琳さん?」
「一刀もこういう時ばかりは強気に出るものね。これが床の上だったらと思うと……」
「あっははは、蓮華も言うようになったわねーっ! ほらほら想像してみなさいよ華琳~♪ 床の上で縛り上げられて、逃げ道も塞がれた挙句にこうして言葉で責められてる自分を~♪」
「っ!?」
「うわっ! 真っ赤! ちょっと大丈夫なの華琳! なに想像したのか知らないけど……想像? ……そんな、一瞬で? ……もしかして経験というか、そんなことされた記憶があるの?」
「なっひゃっ!? な、ないわよ……? ないわよ!!」
(……あるわね。へー、華琳ってば経験豊富)
(……あるの、ね……って、まさか、于吉に洗脳されたあとの……?)
(わわわ、あるんだー……! 私はそういうの、ちょっと怖いかなー……)
真っ赤になって反論はするけど、涙目で視線がうろつきっぱなしの珍しい華琳さん。
ああ、うん、あれは思い出したくないだろうなぁ。覇王にまで到った記憶のある彼女なら余計にだ。自分に対する罰だからーとか言って、縛った上に後ろから、とか……なぁ。
あー、華琳さん? そこで桂花は見ないほうがいいって。余計に赤いから。今、もう本当に可哀相なくらい赤いから。
「小動物状態の華琳をいじめるのも楽しいけど、先に答えがほしいわね。じゃ、一刀? そろそろ本気の答え、聞かせてもらっていーい?」
ふぅっ、と。
片目を閉じつつ俺の方を向いて言ってくるのは雪蓮。腰に当てた手が、なんというか少し怒っている様を表している気がする。
言い逃れとかはいいからさっさと結論聞かせなさいってところだろう。
……答えなんて、ここに招かれた時点でひとつしか存在していないじゃないか。逃げられないし断れない。断る気があるのかと言われれば、さすがに元娘だ、断りたい気持ちのほうが大きい。
けど、1800年越しの恋を応援したいって親ばか状態な思いも確かにあるわけで。
ああもう、ほんと……男親ってやつは……。
「…………わかった、受け入れる」
「「「「……!!」」」」
受け入れる、の言葉に、娘達が一斉に笑顔になる。正座のまま。
「ただし、やっぱり好きになる過程というか、そういうのは段階を得てだな……」
「はいは~い? 一刀さ~ん? どうせお嬢様の時と同じようなことになるんですから、そういうのはもういいですよー?」
「っぐ……!」
視線を向ければ、ピンと伸ばした人差し指をくるくる回す七乃さん。
ええ、ええ、そうでしたね……! 確かにあの時と状況は似てるんでしょうね……! だが全く同じなわけじゃあない! あの時の場合は子供な俺の、美羽への気持ちがあったからすんなり受け入れられただけであって、娘に恋する俺は存在していない!
だから───! と、脳内が言い訳を探している情けない状況のさなか、つんつんと背中をつついてくる雪蓮さん。向き直ってみれば、にっこり笑顔で真面目なセリフ。
「ねぇ一刀? 一度相手のことで悲しんだ娘を、また悲しませたいの?」
「だぁああもうお前ら全員幸せにしてやるァアーッ!!」
ヤケクソは、心さえしっかり前を向いていれば確かな決意である。
一歩を踏み出す勇気が湧かない場合、ヤケクソほど勇気ある行動はない。
それがたとえ、のちに血涙を流したくなるほど冷静になったあと、後悔に向かうのだとしても……
「父さま……父さまぁっ!」
「とわぁっ!? あっ……ま、ったく……! お前なぁっ、1800年も待つくらいならさっさと転生して、新しい恋でも探してろよっ! さすがにこればっかりは荒っぽく説教させてもらうぞ!?」
「構いませんっ! ここに辿り着けたなら、私の恋の勝ちですからっ! 勝ちで……か、ち……ふ、ふわぁあああん……!!」
「へわっ!? な、ななな泣いたぁあああっ!!? あ、か、華琳っ、どどどどうすればっ!」
「何故そこで私なのよ……いいから、抱き締めて頭でも背中でも撫でてあげたらいいでしょう?」
「へー? ふーん? 華琳はそうされると落ち着くんだー。へー」
「……雪蓮? あなたとは一度、思いっきり話し合う必要がありそうね」
「いいわよ? いつかの遊びの続き、いっとく?」
「ええそうね。今度は桃香も蓮華も混ぜて、この中で誰が最強なのかをはっきりとさせようじゃない……!」
「え、ね、姉さま?」
「遊び? わあ、よくわからないけど楽しそうっ! それって私にも出来ますかっ!?」
「王様方!? 一応感動の場面だろうに喧嘩の予定を立てないでくださいますか!?」
言ったところで聞きやしない。
雪蓮が蓮華に、華琳が桃香に説明をして、やがて四人がゴゴゴゴゴゴと謎の迫力を出しつつ睨み合う結果に……ってどんな説明をしたんで!?
そんな四人がたっぷりと睨み合ったのち、俺の方をバッと見ると同時に手まで突き出して、
「「「「遊び道具!!」」」」
「あるかぁっ!!」
即答で返した。
そうこうしている内に正座していた元娘らも突撃してきて、場は混沌と化す。
けれど俺も、少し考えを改めようと胸に刻んでいた。
思えばあの時代、愛だ恋だよりも国家としての効率ばかりを望んでいた。
俺は基本娘の嫁ぎ先は任せっぱなしだったし、というか俺が出ると相手に襲い掛かるパターンばっかりだったから、任せるしかなかったのだが……それでもだ。
娘達にはきっと、相手に対する恋心も愛も無かったに違いない。
なのに母親たるみんなは恋する瞳をしてたっていうのなら、顔にも言葉にも出さなかったけど、不満は十分あったのだろう。
だったら? ……だったら、無理にでも首を突っ込ませるべきだったと思った分、恋心に応えるくらいのことはしてやりたいと思うのだ。
あれだけ生きて、恋もまだだとするのなら、それはあんまりだと……そう思ってしまった。
政略結婚なんてこの時代じゃあもうする必要もない。
なら、恋を知って、いつか俺じゃなくても別の人に恋をするまで、俺がその代役を───!
……。
その日から、俺の多忙の日々は加速した。
「父さま父さまっ、朝です!」
「う、うぅ……ん……あぁ、丕……おはよう……。あ、あー……あのな……? 体は子供でも、意識は大人なんだから、もっとだな……」
「? あの、記憶があるというだけで、私はどちらかというと子供の意識の方が強いんですよ? 産まれて、育って、過去のことは“知識”として存在しているだけですから。だから父さまの娘というものも“常識”としてではなく“知識”としてなので、そう意識してないわけでして」
「……マテ。それってつまり、他の娘も……?」
「え? あ、はい。そうですけど」
「………」
「?」
(エート。ジャアツマリ? 彼女らにとっては過去のことは本を紐解いたのと似たようなことで? 親だったから、というブレーキはそもそも一切存在していないことに……?)
加速した矢先、やばいことを知り……
「お手伝いさん! お手伝いさん! 胡麻団子を作りました! 一緒に食べましょう!」
「そ、そか。ところで琮? なんでこっちを見ないんだ? 目を見て話すっていうのは基本だって言ったろ?」
「めめめ眼鏡も無しに直視しろと!? 目が潰れます!!」
「俺そんなに醜い顔してるの!?」
「いえあの違いますそういう意味では決して……! た、ただ眩しいという意味でっ……! 以前にも話したでしょう!」
「まだ直ってないのかそれ……」
「は、はい……しかも未来における婚儀を許可された時からは余計に……!」
「その……琮? その眩しさは知識から来てるだけだよな? べつに俺の顔は、そんな、眩しいとかは……」
「知識抜かしてでも直視できないほどですが……!?」
「アレェエエエ!!?」
そして知識だけでは間に合わないほど、既に恋を知っている少女らも居るわけで。
「うふふへへぇえ~……♪ とうとうお父さんを支えてあげられる時が来ちゃいましたねぇ~……♪ さあお父さん? どんどん延に甘えてくださいねぇ~?」
「ヤスマセテクダサイ」
「あらあらぁ~、こんな朝から膝枕なんて、お父さんは本当に甘えたがりですねぇ~」
「普通に休ませて!? いや違うから! 膝枕とかじゃなくて、わぷっ!?」
「では胸枕ですかぁ? いいですねぇ~、こうして頭を抱いて、なでなでしていると和みますねぇ~……いいこいいこ~♪」
「ちがっ……延!? 延さん!? 間違ってる! いろいろと間違ってるから!」
「お父さん~? もっとも~っと延を頼ってくださいね~?」
「───…………」
なんかもう、途中で抵抗は無意味だと悟らされたり。
「父! 美味しい果実水を作ろう! 酒の味はわからないが、じゅーすは好きだ! そして酒に染まっている母を目覚めさせてやろう!」
「オー、ソーダナー」
「お、おおう? どうした父。目に光がないぞ?」
「イヤ……ベツニ……果実水ネ……果実水……」
「おお? 林檎か。父、まずは林檎のじゅーすか?」
「……ハオオ!」
「おおぉおおっ!? 父!? 父ーっ!? 林檎が! 林檎が砕けている! もっと普通に絞ろう!? 手でやらなくてもいい! むしろ壊すのは駄目だ!」
ぼーっとしている間にいろいろあって。
「………」
「………」
「…………」
「…………」
「静かですね……」
「……うっ……ぐっ……! ふぐっ……!」
「父上!? 何故急に泣かれるんですか!?」
特に何をするでもなく中庭の東屋の傍、その小さな坂に腰を下ろして空を見上げた時、なんだか泣きたくなりました。
一緒に居た述が滅法驚くほど。
「ちなみに滅法って、常識を超えている様、という意味が含まれているらしい。そもそもが因縁から生じていないものを差すらしい」
「どうしていきなりそんなことを私に!?」
「……父さん、もう疲れたよ……」
「顔を合わせて早々にこの世の終わりみたいな顔をされる身にもなってよぅ……」
禅はなんだか癒しです。癒しなのに、結婚はしたいのだそうです。
少したそがれてから昼を迎えると、食事休みを挟む……こともなく、次の元娘に拉致された。相手はデートと言って引かない。
「姫……ごはんくらいのんびりと……」
「次、子高姉が待ってる……時間なくなるの、嫌……!」
「…………俺も時間が欲しいデス……」
けれど娘との時間も楽しまなければと意識改革を始め、振り回されながらもそれは続き───やがて。
「さあ行こうか惲。今日はたっぷりとデートしよう」
「デッ……!? な、なにを言っているのかしら!? デート!? これはただの散歩よ! なんで私が男なんかとっ」
「ああそうだ、デートなら手を繋がないとね」
「ひゃああっ!? ちょっ……急に触るんじゃないわよ汚らわ───」
「? 腕を組むほうがよかったかな?」
「しっ……ぃ……!? って、だから何を勝手に腕をっ!」
「ははは、惲は今日も可愛いなぁ。でも、あんまり叫んでいると周りが驚いちゃうぞ? めっ、だ」
「…………だだだだだだだ誰だあんたぁああーっ!! ちちちっちち父に変装してこの私を騙そうだなんてどこまで痴れた男! しょしょしょ正体を現しなさい! 誰を騙せても私をだませるなんて! 騙せるなんてーっ!!」
「……行こう?」
「なっ……うっ……! あ、あぅあ……っ……だ、だれが……!」
「ね?」
「───…………ハイ」
やがて、暴走した。
夜になり、全員とのデートを終えた男、北郷一刀は、目を渦巻状にしてにこりと笑ったのち、受身も取らずに床に倒れたそうな。