ギャフターの外のこと   作:凍傷(ぜろくろ)

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“自分のため”の沸点が少ない人②

 それからの日々は、案外どうということもなかった。

 男の力強さを、なんて言ってはみたものの、この大陸におわす男のなんたる弱いことよ。

 つつけば倒れそうなくらいひょろひょろだった。

 なんでも子供の頃に女性の強さを知ってしまった男は、よほどに勝気でない限りは大体心を折られて努力を忘れるのだそうだ。

 当然、道場があったって行きやしない。

 なので強引に連れ出して鍛錬。嫌がっても鍛錬。泣き言言ったら鍛錬。

 もはや慈悲など無用といった具合に沙和に出動してもらい、洗脳が始まってからは早かった。

 

「貴様ら隊長に挨拶! なのー!」

「「「「マム! イエス・マム! おはようございます! 隊長!」」」」

「こらー! 殿をつけるの薄汚いチ○カス野郎ー! なの!」

「「「「マム・イエス・マム!!」」」」

 

 ちょっと早まったかな、なんて思わなくもないけど、冗談抜きで洗脳でもしないと立ち上がろうともしなかったのだ、仕方ない。

 

「それじゃあこれから隊長が貴様らにとってもありがたい氣の扱い方を教えてくれるの! 反吐ぶちまけようが呼吸が途切れようが死ぬ気でついていきやがれなのー!」

「「「「イ、イエスマム!!」」」」

「ちなみに隊長は王を一撃でブチノメすほど強いから、逃げたら死ぬと知れ。なの」

「「「「ヒィイイッ!?」」」」

 

 そうして、都での鍛錬は始まったのだ。

 冗談抜きで、反吐ぶちまけるほど。

 医者として華佗と延に手伝ってもらいながらの鍛錬は嫌でも続いた。

 まずは基礎体力作りと柔軟性の向上を求め、三日休むなんてことはせずに柔軟体操やジョギングから。

 早速吐く者が出たが、既に洗脳は済んでいたので吐いても付いてきた。その根性、実に見事。

 男の鍛錬が終われば、次は女の鍛錬。

 単身で攻め込んでブチノメしてからというもの、やたらと大人しくなったアマゾネスさんたちには、やはり体力作りと氣の扱い方を。

 ……みっちり教えたら吐いた。大丈夫、本気で上を目指せば誰もが通る道だ。

 もちろん運動後の柔軟も忘れない。

 これをしなければむくみも酷いし筋肉痛もひどくなる。なので念入りに。

 

……。

 

 男にも女にも、まずは一週間ほど柔軟とジョギングをみっちりと叩き込んだ。

 のちにうんと休ませたあと、再び柔軟から開始。少し厳しく。

 そうしてまたみっちりと叩き込みつつ、同時に氣も扱えるようにと叩き込む。

 男女とも、なんだか涙目だったり吐いてばかりだった気がする。

 しかし約束は約束なので、続ける。続ける。続ける。

 

……。

 

 何日目か、脱走兵出現。

 街に居た転生警備兵さんにあっさりと捕まった。

 横に居た丕とともに敬礼。警備隊の元先輩だった。

 俺も丕も随分世話になったから、印象に残っていた。

 

「まさかまた、こうして警備をやるとはなぁ……まあ、こっちの治安維持は任せときな。おめぇさんも、あー……そ、曹丕さま? も、別のことで───」

「さまとかやめてください気色悪い」

「俺別におかしなこたぁ言ってませんが!?」

「いや、こればっかりは丕が正しいと思うぞ警備先輩……!」

「だったらおめぇもおかしな呼び方すんじゃねぇ! そっちこそ気色悪いわ!」

 

 遠慮の無い在り方に安堵した。

 とともに、この人が警備隊にまた居てくれるなら、安心だとも思った。

 ……そっか。印象に残っている人ほど、こうして居てくれるんだろうな。

 じゃあ、警備隊は随分と賑やかなことだろう。

 って……

 

「……アニキさん」

「え? 父さま?」

 

 そうだ、アニキさん。アニキさんは居るのだろうか。

 魏におやじの店はあったか? いや、見て回ったけど無かった筈だ。

 建物自体があったかも思い出せない。頭に血が上っていた。もっと見ておけばよかった。

 ……いや。それとも、アニキさんはもう生きていたくもなかったのかもしれない。

 後悔を抱いて眠ったのだ……あれ以上の生は望んでいなかったかもしれない。

 

……。

 

 さて……もう日にちを数えるのも忘れるほどに鍛錬三昧を続けたのち。

 何故か日本から手紙が届いて、読んでみると……“卒業の日になっても復帰されませんでしたが、無事卒業という形で処理します”の文字。

 

「アァアアアーッ!!」

 

 フランチェスカのことをすっかり忘れていた愚か者がここに居た。

 しかも卒業扱い。いっそ留年扱いにでもと思ったものの、アレか。場所的に留年生など出したくないのか、それとも留年にしたら大陸との関係が悪くなると踏んだのか……どちらにしても俺の馬鹿……!!

 

「あ、あの……隊長? 急に叫んだりして、なにが……」

「凪……修行をしよう。もはや俺を縛るものはなにもない……」

「隊長!? 言葉の割りに何故静かに涙を!? 隊長!? 隊長ーっ!!」

 

 卒業しました。

 でも気分は退学気分です。

 その悲しみを男たちにぶつけるように、鍛錬をした。

 大丈夫、筋力回復は華佗や延がやってくれる。

 もはや何も恐れるものなんてないんだ……今こそ強くあれ、男!

 女の園を退学扱いまがいで卒業した俺って前例を越えて───!

 

……。

 

 ……再び時間を忘れた頃。

 

「……人ってすげぇな……」

「ああ……なんかもうあれだけ地獄だって思ってたものが平気になっちまった……」

「な、なんか俺、今なら女にも勝てる気が……」

「「「それはやめとけ」」」

「……そ、そうだよな……」

「でもさ……挑戦なんてものは考えられねぇけど……」

「けど?」

「……。今なら……伸ばされた手も、怯えずに繋いで、笑える気がするよ」

「……まあ、度胸はついたよなぁ」

「だよなー。いや、御遣い様のこえーことこえーこと」

「誰だよ、みんなにやさしい人物だ~なんて文献残したの」

「いや、基本やさしいだろ。否定ばっかでなんにもしようとしないヤツには厳しいけど」

「……相手が女だろうが、殺意丸出しで攻撃したら地面に押さえつけられてたもんなぁ……なんだっけ? アイキ?」

「俺、女があんなに簡単に無力化されるところ、初めて見たよ……」

「だな。…………王と一般人かぁ。子供の頃とは立場も意識も違うけど……まだ、伸ばせば握ってくれるかな、あいつ……」

「? どした?」

「なんだなんだ? なんの話だ?」

「友人の話だよ。臆病だった所為で突き放しちまった相手。いつか謝りたいなぁって思ってたんだ」

「臆病って……女か!?」

「好きなのか!?」

「いや、友情以上の感情は全然。ただ、後悔はしてたから」

 

 ……最近、男たちの顔に笑顔が増えてきた。

 

「そろそろ鍛錬再開するぞー」

「「「Sir! YesSir!!」」」

「いや……その返事はもういいから」

 

 しかも返事の仕方……言い方が、一層それっぽくなってきた。

 

「サー! 今日はどんな鍛錬ですか、サー!」

「サー! 今ならどんな鍛錬だってついていけます! サー!」

「え、そうか? じゃ、みんなそろそろ子供用鍛錬は卒業して、青年用鍛錬、いってみようか」

「「「───……エ?」」」

 

 ……そして。

 その時の男たちの絶望に染まった顔を、俺はきっと忘れない。

 

……。

 

 華佗と延の五斗米道を利用しての筋力強化は、通常よりもよっぽど早い。

 当然ながら栄養も摂らないといけないので、それらの吸収は人体の吸収速度に従わなければいけないとはいえ、大体はコントロールできるという……五斗米道、凄まじい。

 

「ウゲェーッホゲッホゴッホ! ~っ……ぷっは……! サ、サー! どうですか! 随分慣れたものでしょう!」

「もはやかつての女性たちになら勝てる気が……!」

「「「やめとけ」」」

「あ、ああうん……そうだよな」

「ん。じゃあそろそろ大人用の鍛錬法、いくか」

「「「「えぇえええーっ!?」」」」

 

 現実はとっても非情である。

 だからこそ強くなれるのだと知りなさい。

 この北郷、鍛錬とつくからには半端は許しません。

 

……。

 

 …………体力の安定に向かったのち、氣の体外放出と安定鍛錬を開始。

 

「あ……あ、ああぁああ……! 氣……これが、これが氣……! 俺の、俺の……!」

「やったぁあーっ! 俺にもっ! 俺にも氣がっ……! 使ったことはあっても、目で見られるなんてっ……!」

「すげぇ! これが俺の氣っ! すげぇえええっ!! サ、サー! 感謝します! まさか男にもきちんとした氣が使えるなんて! 弱すぎて使えないなんて言われた時はどうしようかとっ……う、うぐっ……ぐすっ……!」

「まあ、嬉しいのはよくわかるよ。俺も最初は全然使えなかったから」

「「「「嘘ぉおっ!!? サーが!? まさかサーにそんな時期が!?」」」」

「だからサーっていうのはやめてくれって言ってるのに……。じゃ、次はその氣が枯渇するまで全力ダッシュだ。大丈夫、枯渇しても呼吸しづらくなって昏倒して気持ち悪いのに気絶できないっていう苦しみを味わうだけだから」

「「「「嫌ァアアーッ!?」」」」

 

 ニッコリ笑うと悲鳴を上げられた。

 失礼な。こんな鍛錬、春蘭に大剣振り回されながら追われるより全然楽だぞ?

 

……。

 

 そんな日々が続いたある日。

 

「俺……なんかもう怖いものの序列が頭の中で完全に変わった……」

「俺も……」

「俺も……」

「「「女よりサーの方が怖ぇえ……!」」」

「いきなり人のことを語りだしたと思ったら、なにを人を恐怖の対象みたいに……」

「サー! しかしですよ!? こんな地獄のような鍛錬のあとに何人もの女性とのデートに付き合って、さらに女達よりハードな鍛錬もやって、そのあとも自主鍛錬とか言って鍛錬して、挑まれれば戦って、願われれば料理まで作って! サー!」

「サー! さすがに人間を越えていると思います! サー!」

「サー! と言いますかですよ!? ここまでくると歴史書物に書いてあったことの全てが真実だと理解出来るというものですが、すると、するとですよ!? かつては数十人の女性を相手に、鍛錬のあとだろうと床で……! その……! サー!」

「…………あ、あのなぁあ……! いや、まあ、してたにはしてたけど、そういうことは───」

「サー! なんてこった信じられねぇ! やはりサーは化物だ! サー!」

「サー! あの人数をですか!? なんかもう人としてもそうですが、教官としても男としても尊敬します! サー!」

「サー! 一生ついていきます! サー!」

「……じゃあとりあえず、御遣い用鍛錬でも始めようか。ついてこなかったらなんかもう全力で殴る」

「「「「ゲェエエーッ!!」」」」

 

 本気の本気で遠慮を捨てた日が訪れた。

 

……。

 

 翌日。

 

「マムゥウウ! マ、マム! イエスマム! 助けてください死んでしまいます!」

「よろしい死亡を許可する! なの!」

「えぇええーっ!?」

「沙和~、そいつ逃げ出したやつだから捕まえてくれ~」

「敵前逃亡とはなにごとかぁっ! なのーっ!」

「ししししかしマム! 死にます! 本当に死にますあの鍛錬! 今まで苦楽を共にしてきた仲間たちの悉くが昏倒! 謎の汁を口から吐いて動かなくなってしまい……っ! もはや残っているのは自分だけなのです! サー!」

「ん~……隊長、なにやったの?」

「いや、俺があの時代でやってた全力鍛錬と、左慈を相手にしてのイメージトレーニング」

「……ウジムシ野郎、号泣を許可する、なの」

 

 彼は泣いた。

 え? あれ? これ俺が悪いのか?

 

「たいちょ~……さすがに隊長の本気鍛錬に付き合わせるのはあんまりなの……。あんなの、沙和だってついていけないのに」

「いや、一応大人用の鍛錬までは段階踏めたから、そろそろいいかなって」

「隊長ー! あれは大人用のあとにするものじゃないでしょー!? あんなの凪ちゃんだって苦労するれべるなのー!」

「いやいや、凪なら余裕だろ。今なら余計だ。御遣いの氣があるんじゃ、ただでさえ強いのに勝てる気がしないって」

「むー……! 私たちには二つの氣を一つにする勇気も、点穴を八つ開ける勇気もないの……」

「………」

 

 そういえばそうだった。

 御遣いの氣は確かにバランスをくれるけど、そもそも俺が願ったのは“助け”。つまり守りの氣だ。元から守りの氣な人は混ざるのは容易だろうけど、力の氣の人は華佗に頼んで氣をひとつにしてもらわないと効率よく使えない。

 さらに言えば澱み……点穴を穿って氣脈の巡りを良くしないと氣の巡りも速くはないし。

 

(……この平和な時代でそれをやろうって思う人、居ないだろうなぁ)

 

 あ、華雄ならやりそう。

 でも絶対に霞に止められるだろう。

 ともかく反省して、鍛錬のレベルは下げた。

 大分いいところまでいけているし、無理をさせることもない。

 不思議なもので、俺自身は気づかなかったけど、沙和の勢いに飲まれて鬼教官になりかけ……いや、なってたんだろうなぁ。

 

……。

 

 大分安定してきた男たち。

 天狗になる度に女性と仕合をさせて、調子に乗るようなことだけはしないようにと教えてきた。

 こちらも鼻を折られたことのある天狗だ、あんな気持ちは深く持っちゃいけない。

 だから“やっても無駄”と感じさせない程度の鼻折れを経験してもらって、その悔しさをバネに鍛錬を続ける日々。

 男たちは力強く強靭になっていく自分の体に笑みをこぼすようになり、仕事なんかも笑顔でやっている。

 全然疲れなくて、畑仕事が楽しくて仕方ない、なんて笑って言っていた。

 

  さて。

 

 鍛錬はもちろん、都だけで行われるわけじゃない。

 都に三国全員を集めて、なんて無理だし、いっぺんに全員をコントロールするなんて余計に無理だ。

 だから一度教えたら次の場所へ片春屠で移動。教えた相手には武将の内の誰かに見てもらって、次の場所でまた俺が教えて、ぐるっと一周してきたら次の段階を教える、といった感じで鍛錬は続いた。

 俺が戻ってくるなりギャアアと悲鳴を上げる男たちが大半だったけど、なんかそれのお陰で逆に遠慮がなくなった気もする。

 癒しの氣の才能を持った人が居れば、その人には武よりも癒しを優先させて教えて、五斗米道は伝授しないまでも、癒しのコツを教えたりして、救護班に回ってもらったり。

 そういったことを休みなく続けた結果、いつの間にか男は見直されていた。

 それと、何故か俺を見かけると偉大な人にでも会ったかのように拝まれたりするんだけど……な、なにごと?

 その質問に、張虎は笑って答えた。

 

「あぁ、そらぁおとんが純粋にすごいからやろ。男の鍛錬に付き合ぅたり、女の鍛錬に付き合ぅたり、料理作ってくれたり歴史について教えてくれたり、わからんこと親身になって教えてくれたり、おかんらとでーとしたりウチらとも一緒に居てくれたり。……やー、昔っからやけど、おとんのそういう超人的順応力、すごいと思うわー」

 

 だったら少しは手加減してください。たまには自分の時間が欲しいんです。

 なんて思う自分よりも、“ああ懐かしい”って思っている自分の方が強いんだから、お手上げだ。

 娘や孫や曾孫、手がかからなくなってからの自分は、自分の鍛錬ばかりをしていた。

 こうして目を回すほど忙しい日々もとっくの昔だ。

 だから、まあ……なんというか。充実している、とも言えるのだろうか。

 久しぶりの感覚に笑みは浮かべても、嫌悪感は特に無かったのだ。

 むしろ相手が隙あらば怠けようとするから、全力で鍛錬。

 その先で強さを実感して弾けるように笑う男たちは、今ようやく子供の頃の無邪気な男子へと戻れたんだなぁ、なんて顔で燥いでいる。

 でも未だにサー呼ばわりは直らない。

 

……。

 

 その後……都へ来てどれほど経ったのか。

 いつしか女性と話す男性の数が増えてきて、そこに見下しの色が減り始めていた頃。

 いくつかの出場が許されている世界競技の中に、珍しく大陸からの男子が出ることになり、我ら全員大盛り上がり。

 日本国にとっても“北郷一刀がきちんと氣を教えられるのか”が試される状況なので、やたら大げさに取り上げてるって妹からの国際電話が来たりもした。

 テレビに映る大陸代表さんはガッチガチ。

 マイクを向けられると「ヒィッ!?」とか言い出して、見ていて苦笑するしかない。

 大陸の男性が大したことない、という事実は世界的に知られているらしく、対応も案外軽いものだ。

 それは仕方ない。今までが今までだったのだから。鍛えもしなかった分、他国の男性よりもよっぽど貧弱だったのも確かだ。

 けど今は違う。

 画面越しでもわかる、しっかりと引き締まった体を見れば、期待もしたくなるし応援もしたくなる。

 ただ応援すると固まる彼だったので、「応援は心の中で勝手にするから、いっそ失敗する気持ちで楽しんできなさい」と送り出した。

 

  ───そんな彼が今、合図とともに駆け出した。

 

 一歩目で盛大にコケて、実況に大変驚かれていたが、そこからはもういっそ吹っ切れたのだろう。

 足に氣を漲らせて、地面を蹴り弾いて、一気に前へ。

 その速さにまた実況に驚かれ、しかし曲がりきれずにコケそうになりながらも、彼は走った。

 走って走って、再びコケつつも走り、目を回しながらもゴール。

 ビリという結果になったけど、十分だった。

 というか、100メートルだったら絶対一位だった。

 

「あちゃー、ビリかー。一直線やったら一位やったのになー」

 

 霞が楽しそうに笑う。

 テレビなんてもはや見慣れたもので、本当に楽しそうだ。

 それとは別に怒っている人もいらっしゃる。

 

「むう、鍛え方が足りなかったか……。戻ってきたら休む暇無く鍛えてやる……!」

 

 華雄さんである。

 やはり戦うからには勝たなくてはという意識が強いらしく、コケなければ一位になれただろうという事情も汲んだ上で、さらに鍛えてやると猛っておられた。

 

「ねぇ流琉~? 競技って、他になにがあったっけ」

「え? えっと……三段跳びや走り高跳びだね。って、少しは自分で調べようよ、季衣」

「いいじゃん。それより三段跳びとたかとびー? ってどんなの?」

「に、兄様~……」

「わかる、わかるぞ流琉……教えても覚える気がない相手だと、説明も辛くなるよなぁ……」

 

 言いつつも二人、視線で語った。

 

 ───どうなると思う?

 

 ───勝てますよ、きっと。

 

 それだけ。

 むしろ見ていると負けるという不幸的ななにかが働くかもしれないから、俺達は黙ってテレビを消した。

 それからはまた鍛錬や仕事に戻り、男達の帰還を待った。

 

……。

 

 結果から言えば男たちは緊張のあまり失敗の連続。

 どれも最下位という結果に落ち着いたものの、以前の男たちの事情を知っていれば十分すぎると笑って迎えた。

 ただまあ、“一位ではないとは”などと大陸の名を汚す気かーとか言い出したお方には、極上のスマイルと殺気をプレゼント。大きな大会に出ることが出来ただけ、大きな進歩だ。

 その上絶対に勝てなんて、命がかかっているわけでもあるまいし、言ったりはしない。

 

「なんでことあるごとに殺気をプレゼントしなくちゃならないんだ……」

「力ばかりが正しいって認識が広まりすぎているからでしょう? わかりやすくていいじゃない。これからゆっくりと直していけばいいわよ。現在の三国の王に勝ってみせたのはあなたなのだから」

「ああうん……随分な力技でね……」

 

 ほんと、“力こそが正義”で勝ってしまった。罪悪感はある。そもそも自分の立ち方とは随分と違った戦い方だった気もする。

 じゃあどんな戦い方がよかったのかと言われれば、それもちょっとわからない。

 宣戦布告を出した上で、王とだけ仕合をすればよかった?

 それじゃあ他の人達は納得しない気がする。

 “男を見下している人”にこそ勝つことが正解だったなら、これでよかったのだとも頷けはするんだけど……うーん。

 悩んでも仕方ないか。華琳の言う通り、ここから変えていこう。

 

「ていうかさ、今さらだけど……俺ってまた支柱になるってこと?」

「? とっくの昔から今までもそうでしょう? あなたが居なかったら、誰があの道場に住むというのよ」

 

 なにも言い返せませんでした。

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