中庭にて、ウムスと頷いていると、そこへとみんながやってくる。呼ばれただけあって、急ぎ足だ。でも走りはしない。さすがだ。
「一刀? 急に呼び出すなんてあなたらしくもないわね。何事?」
「かっ……合戦か!? 合戦だな!?」
「ああ華琳、みんな、急に呼びだしてごめん。あと華雄、ある意味戦みたいなことではあるけど、本当に戦うわけじゃないから落ち着いて」
「そっ……!? …………そうか……っ……!」
なにもそんな、この世の終わりみたいな顔して落ち込まなくても……。
と、今は華雄のことは霞に任せよう。
それよりも、きちんと決意を届けないと。
「みんな、聞いてくれ」
「どうした、北郷。本格的に、この時代の三国の支柱になる気にでもなったか」
「なんで知ってるの!?」
一歩前に出た冥琳さんがあっさりと決意を暴露してくれちゃいました。
いろいろ悩んだのに……俺はこのもやもやを何処へ吐き出せば……!? と、いつも通りと言えばいつも通り、頭を抱えそうになる俺の前に、ひょいと近づく影ふたつ。
視線をやれば、朱里と雛里がそこに。
「あの……ご主人様? ご主人様の性格は解っていますし、遅かれ早かれそうなるのではとは思っていましたから……」
「そうなの!?」
「ひゃっ、はい……! あ、あのあの、ですからそんな、落ち込まないでくだしゃい……!」
「………」
落ち込むとかじゃなくて、普通に驚いただけなんだけど。や、そりゃあ決心した気持ちが空ぶって残念だったって思いはあったけどさ。
……確かに、日本に戻ってやることやったらもう一度、とは思ってたよ? ……あれ? ちょっと待て? ……気軽に往復出来るほどお金あったっけ。……無いね。
「なによ、そんなこと? あなたもつくづく一刀ね。他の外史と合わさって、少しはそのお人好しが落ち着いてくれることを願っていたのだけれど」
「北郷一刀なんだから北郷一刀なのは当たり前だろ……そういう華琳だって、ああいう初めてを経験したこともあるんだから、少しは素直になってくれることを───」
「お黙りなさい」
「メイド服でご奉仕とか」
「お黙りなさいっ」
「……リリカル・マジカル・るるるるるぅ~☆」
「殺すわ」
「ごめんなさいっ!?」
いや、ね。外史がくっついたお陰で知ることが出来たことは割りと多い。
むしろ華琳が魔法少女していた世界があるなんて、知らなくてよかったとも思う。思い出した途端、隠れて腹がよじれるほど笑ったのは絶対に墓まで持っていく。絶対にだ。
「えと、ご主人様? ご主人様が支柱になるのは解ったけど……っていうか、もうとっくになってると思ってたんだけど、今度はどんな目標を立てたのかな」
思い出して笑いそうになったところに、丁度桃香が質問をくれる。
口の中で舌を噛みつつ、笑撃が引っ込んだところでようやく続きを話すことが出来た。
とっくに、という部分はスルーしよう。振り返ってみて“あ、そうかも”って思ってしまっただけに、ちょっとだけ悲しい。
「まずは王になる。今代の王達が言うように、この時代の男性はちょっと弱い。逆に女性は気が強くて、今でも見下している人が居る。俺の知る中でも強烈なのが一人居るけど」
「はん? それ誰のことよ。男が嫌いだなんて仲良く出来そうだわ。これで男の中でもあなたのことが一番嫌いなら、もっと良いけど」
今喋ってるアナタのことです桂花さん。
とりあえず彼女のことはスルーしつつ話を進める。
「今、女性が王のままで居ても、その王が女性は男性を見下すことを禁ず、なんて言っても、たぶん状況は変わらない。だから一度男が王になって、一度“男性の王”っていう前例を作らないといけないって思うんだ。強い男だって居るんだって、見下し続ける女性に少しでも解ってもらうために」
「……ですがご主人様。王に、といっても、そう簡単になれるものではないでしょう」
すかさず愛紗がツッコんでくる。
うん、俺もね、さっきまではそう思ってたんだよ。
思っていたのになぁ……。
「いいえ、雲長様。御遣い様は既に王です」
愛紗の言葉にとうとう顔を片手で覆うように俯いた俺を余所に、元魏王が一歩前へ出て言う。当然愛紗さん、ぽかーん状態。
もちろんこの大陸でしばらく過ごしていれば、知ろうとすれば知ることの出来ることだ……軍師達は“そういうことか”と頷き、華琳も……マテ、なんか華琳さん、“今さら?”って顔で笑ってる。
……いやいや待ちなさい!? まさか全て計算通りか!? だから俺が一人で突撃することを全く止めもしなかったと!?
(敵ながら見事な働きよ。斬るには惜しいが、生かしてはおけん!)
(孟徳さん!?)
いや今目の前で笑ってるのあなたですからね!? あなたであってあなたじゃないけど! 惜しむ程度で斬り捨てちゃだめでしょ!?
……脳内孟徳さんが暴走している内に話が済んだのか、何故かみんなが“またか……”みたいな顔で俺を見る。また!? またってなに!? 俺別におかしなことしてないよね!?
「そう。ならばいいじゃない、今はここに腰を下ろして、立派に王を務めなさい。むしろ相手が男性を見下す女性だというのなら、あなたほど有効な存在など居ないわよ」
「「「「「───……」」」」」
「だからその“あ~”って顔なに!?」
華琳が放つさらなる言葉で、“またか”と言う顔が“あ~……”と妙に納得した顔に変わった。
そして、そんな顔になった皆様はもう何も言わず、むしろ俺がそうなるように手回しを開始した。俺が何を言っても「任せてくだしゃい!」と返すだけである。……噛むのは朱里や雛里だけだが。
そんなわけで……この大陸に来るまでは、ただの学生でしかなかった男が……王になってしまったのである。
───……。
王になってからの日々は、実に忙しい。
各国……大陸の、ではなく、それこそ世界の皆様に挨拶をすることになり、いろいろなところから“随分可愛い王だ! ワッハハハハハハ!”と笑われたものだ。
まあ実際、死ぬまで王、なんてことにはならないだろうから笑わせておこうと引き下がる。あと困ったことに各国の言葉が解る。御遣いすげぇ。
しかしいろいろなことはともかく、まずは地盤……自分が立つ場所の改善から始めないとと、まずはこの大陸のことについてを調べ始めた……ら、既に纏めてあった。
軍師たちの「知識が必要なら必要と言え」という言葉には素直に頭が下がる。
そもそも自分だけでこの広い大陸をどうにか出来るわけもないのだから、もうこうなったら全員で、だろう。
大陸……中国大陸の在り方は、かつて俺が知っていたものとは随分と違っている。
お陰で混乱することもあったものの、新しい知識を取り入れればそっちが基盤になっていくんだから、辻褄っていうのは面白い。
そうしてまずは勉強から入り、次に……時間を取っては街の女性とコンタクト。
結構迷ったものの、“どう接していけばいいのかな……”なんて質問をした俺に対し、みんなの返事は“なにも考えずにあなたらしく”だった。
首を捻り、それでも真っ直ぐに向かっていった。
“お前が王だなんて認めない”とか“たまたま勝っただけで、男がつけあがるな”とか散々言われても、まあ……罵倒には変わりないんだろうけど、桂花と長く付き合ってると、この程度じゃなぁ……。
などと、罵倒されるたびに桂花を思い出し、そうなるとギャーギャーと目の前で罵倒する女性の言葉が小さな子供の癇癪みたいに聞こえて、不思議と苛立ちも沸かないとくる。
そうして笑顔で向き合っているうちに、やがてぽかんと毒気を抜かれたような顔をされるようになって、なんだかいろいろ相談されるようになって、ふとした拍子に笑顔が見られるようになって、鍛錬で伸び悩んでいると打ち明けられ、教えてみたら解決して…………いつしか、なんか、懐かれた。
……え? それに対してのみんなの反応?
うん……なんか、“ほらやっぱり”って。
そんなわけで、いつかのように時間をかけて、各国を回って人望を集めた。
気がつけばまた一月、また一月と時間が過ぎて、それこそいつかのように行く先行く先で笑顔が見られるようになった頃───そう。現代の調理の勉強をしながら飯店で働いたり、元々あった武術道場のだらけきった雰囲気をブチノメ……もとい、壊して、気持ちを新たに再開してみたり、アイドルやったり医者になったりをやって、仕事も生活も安定した頃のこと。
『いい加減帰ってこんかこの馬鹿者っ!!』
道場を任せっきりだったじいちゃんから、怒りの国際電話が届いた。
これはそろそろ帰らないとと、またみんなを呼んで相談。帰る準備を始め、街にも挨拶に行った。
するとどうだろう、みんなはともかく、この地に住んでいた皆様が反対すること反対すること。ついポロっと「実家に帰らせていただきます」と言っただけなのに、どうしてか逃げられない状況に……!
こうなると余計に帰ることが出来ない。むしろ送り出してくれる人が居ない。みんなは一緒に帰るし。
「………」
じゃあこうしよう。
未だに俺を嫌っているおなごがおる。
彼女に話して、いっそ追い出すようなことを言われれば、その勢いで───!
「───」
結論から言おう。
泣かれた。
嫌ってなんかいない、全部嘘、構ってほしかっただけ、行かないで、だそうだ。
なにがどうしてこんなことに……。
え? これって俺が悪いの!? ちょ、みんな!? なんでまた“またか”って顔するの!? いやいや霞さん!? “よっ、女泣かせ!”じゃないよ!
一度場が混乱すると関係ない話になることが多いので、早々に話を切り上げて移動。もちろん泣いた彼女には嫌われたから帰るんじゃないことはきっちりと教えて。
で……また都の中庭、その端の東屋に腰を下ろしつつ考えるわけですよ。
「その……い、いろいろ大変ね、一刀」
「蓮華……うん、ほんとね」
おきまりのポーズといえばそれまでな、円卓に肘をついて頭を抱える俺へと声をかける、前の席にとすんと座った蓮華。
まさか嫌われてなかったとは……人生経験って案外、どれだけ積んでもわからないことってあるものだなぁ……。や、100年生きたって乙女心を完全に理解するなんて、俺には無理そうだとは思ってる。
……思ってるところへ、どこかそわそわした蓮華さんである。
なんだろ、とても嫌な予感が。
「と、ところでなんだけど、一刀」
「う、うん? なにかな?」
顔を赤らめ、もじもじする蓮華さん。
なんというか、懐かしい光景だ。
この年老いた心にもなにかこう、暖かいなにかが湧き出て───
「け、結婚式は、いつするのっ?」
湧きっ……
「………」
ワッ……
「れ、蓮華? 結婚式って……」
「あ、べ、べつに焦っているとかじゃないのよ? ただそのっ、紫苑が祭との酒の席でちょっとこぼしたらしくて……!」
「紫苑が?」
湧き出た云々はこの際置いておこう。
でも何故急にそんな? あの紫苑が……
「珍しく結構酔ったらしくて、どうせやり直したなら、まだまだ若い内に結婚してみたい、って」
「───」
「それに、祭も桔梗も悪乗りして頷いて、翌朝……というか今日なのだけど、頭を痛めながらもやっぱりそうしたい、って……」
「………」
「そんな気持ちに便乗するわけじゃないの。私もその、あなたとはもう一度、そうしたいと思っているわ。むしろ生活が安定したらとずっと思っていたの。そ、それで───」
「安定したから、そろそろ……と」
「そ、そうっ! そそそそれでなのだけどねっ!? ほらっ、そのっ、ここっこここんな時代なのだからっ、他国の風習も取り入れてみてもいいのではと思って! ここここれをっ!」
「ウワォッ!?」
顔を真っ赤に、目をぎゅっと瞑りながら、彼女は両手で何かの本をズヒャオと突き出してきた。
……見れば本らしく、表紙にはウェディングドレスを着た女性が。
……エ?
「ここここここっここここのっ、ウェディングドレスとかいうの、初めて見た時からずっと気になっていて……!」
「………」
全員ニ、ウェディングドレス。
果タシテ、オイクラニ……?
でも、お高いんでしょう? どころの騒ぎじゃないでしょう、これ……!
エ、エート、何人だっけ。元娘らも合わせて……100人以上!?
ウワハーイ! 自分のことながら凄まじい重婚だ! なんかもう死にたい!
そういえば会場予約してドレスとタキシード用意して、安いほうでも100万したって話を聞いたことが………………え?
ひゃ、百万? 百万×100人…………ブフォオ!?
いぃいいいやいやいやいや! それは会場とタキシード込みでなんだから、会場は都! タキシードは一着! 増えても二、三着あればヨロシ!
だ、だからえぇと……ウェディングドレスって一着いくらなんだ?
レンタルって手が一番無難とか聞いたけど、やっすいやつだとぺらっぺらの子供の学芸会で着てるような質のものになるとか及川が言ってたな……。あれはないわー、って笑ってた。うん、俺も今笑いたい。泣きながら笑いたい。
えっと、そうだな。会場30万、タキシード30万、ドレス30万と適当に考えたとして、約100万。
で、ドレスを100人分となると30×100でブッフォオ!! やっぱりひどい結果に! むしろ考えるまでもない結果だったよ! 実に混乱してる!
「ソ、ソウダネー! キレイダネー! ヒャッハァーッ!!」
「か、一刀もそう思ってくれる? 私に……似合うかしら」
「似合うヨ!? 間違いなく似合うネ! 命懸けるヨ! 似合う!」
「一刀……そんな、涙を滲ませてまで……」
そう、命を懸けてもいい。似合う。それは間違い無い。それは。
ただ値段が……! 値段が恐ろしいことに……!!
い、いやっ! 泣いてないよ!? 僕強い子だもん!
それに、みんながみんなウェディングがいいなんて言うかも解らないし……あ、そ、そうだよな、落ち着こう、うん。
まずはみんなの気持ちを訊いてみないと。
(ていうか、王だった三人……蓮華はウェディングがいいって言ってるんだから、あとは華琳と桃香と……一応雪蓮にも訊いてみようか)
華琳はこの地に則ったものを取る気がするし、桃香もなんかそんな感じがするよな。
それにしたって呉服屋に相談しなきゃだけど、ウェディングドレスほど値段が跳ね上がるかは謎なわけで。むしろレンタル前提で考えてたけど、フルオーダーの場合だとウェディングドレスって……やっぱり100万くらいかなぁあ……! セミオーダーの場合はその半分くらいか……!?
ええい悩んでも仕方ない、とにかくみんなと相談を───!