コーン……。
「…………OH」
戻ってきた中庭、その端にある石段を登り、城壁の上へ。
見張りの兵も居ないそこで、「るーるるー」と鼻歌交じりに……たそがれた。
華琳、桃香、雪蓮ともに、むしろ着たいという意見。
当然彼女らを慕う将の皆様も、否を唱える者はおらず……。
「確かにお金は溜まってきてるけど、まだそこまで溜まってないって……」
みんなで働けばあっという間! というわけでもない。そりゃ、物凄い勢いでお金は溜まるだろう。なにせ100人以上が同じ目的でお金を溜めるのだ。
でも無くなるのもあっという間だ。
「さて、北郷一刀よ。よーく考えなさい」
脳内問答開始。
Q1:ドレスは必要か?
A1:必要だ
Q2:結婚式なんて過去に婚儀やったからいいじゃないか。
A2:そういう問題じゃない。
Q3:結婚式じゃなく、その後の安定のために貯金しよう。結婚式は余裕が出来てからでも……
A3:それは何年後だ。若い姿でいられるのは今しかないのだ。翌日事故で傷を負ったらどうする!
結論:やはり行う。
だが無謀はしない。
コネというコネ、仲良くなれた人達、そして……先行投資という名のコネさえ全力で使おう!
「丕」
「ふひゃいっ!? はえっ!? ななななんで解ったんですか!?」
後ろから静かに近づいてきていた丕に、振り向かずに声をかけた。
何故って、気配で解ったから。
そう……そうなのだ。僕らには氣がある。
他では教えようがない、あなたたちの中に眠る完全オリジナルッ……!
それを引き出し、扱う術を教えましょう。
「丕。聞いてくれ。日本にはな、記憶術というものがあって、段階毎に分けられたそれらを全て習得するのに結構なお金がかかるんだ」
「記憶術、ですか」
「うん。数百~数千円のお金で買える本から始まって、果ては一人100万円以上のものが……!」
「百万円……うわぁ……それ、結構な大金でしたよね……? 円通貨は勉強しましたけど、まだはっきりとは……」
「間違いなく大金だ。ちなみに一ヶ月働いて貰える給料の大体の平均は……確か、うん、ほんと大体だけど、30万あたりだって聞いたことがある。職種にもよるけど」
「お給料3~4ヶ月分ですか!? あ、あの……その記憶術、というのは本当に効果が……」
「謎に包まれている。まあ面白いもので、人って高い金を払って受けたものには見栄を張りたくなるってケースが多いんだ。あれだけ高いお金払ったんだからって意識が働いてね。だから誰かに“効果があったか”って訊かれたら、まず頷く。きっぱり言える人は効果が無いって言えるんだけどね」
「効果が無いんじゃ意味がないですよ!」
「で、そこで使うのが常套句だ。人にものを売る前提として、必ずこう書いておくんだ。“効果は人によって個人差があります”と。で、買ったからにはその注意書きにも頷いたんだからって理屈で、文句は受け付けない。さらにはこの教材、もしくは教えることについて、批判することや他者に内容を教えることを禁じますって書いておく」
「詐欺ですか」
「困ったことに“個人差がある”って言葉は万能なんだ。100人ダメでもたった一人が成功すればそれが成功例で、それが個人差だ」
言いつつ、背格好もそう変わらない元娘をちょいちょいと手招き。隣に立たせて城壁に両肘をつきながら町並みを見つめた。
「え、と。それで、その記憶術が、どうかしたのですか? ……まさか、父さま」
「いやいややってないし払ってもいないぞっ!? そんなことしたらじいちゃんに殺される!」
無駄遣いが嫌いな祖父だ。そのくせ木刀は10万で買えと言う。……まあ、当然なんだけどさ。
じいちゃんの顔を思い出して、くっくと笑って頬杖をついた。
「氣をな、商売にしようと思った。やってくる人全員を馬鹿正直に迎えて氣なんて教えてたら、こっちの時間がいくらあっても足りない。じゃあどうすれば捌けるのかな、なんて考えて、じゃあそれこそ途中で諦めないように、投げ出さないようにって、高い金額で」
「……父さま」
「あぁ、呆れるのはちょっと待とう。たとえばさ、入門に30万もらうとして、最後までいけたら20万返すとか、そういう方向で考えてたんだ。実際の儲けは10万。相手はきちんと氣の鍛錬が出来るし、諦めなければ20万戻ってくる」
「……一ヶ月分の給料ですか」
「この北郷が50年以上をかけて練った氣の在り方をみっちりと教える。やる気がないならそもそも払わないし、挫折するのは相手の都合だ。だから30万。微妙に払えそうで、軽くは払えない金額。……丕はどう思う? これくらいの値段だったら、客も呆れて来ないんじゃ───」
「殺到します」
「そうなの!?」
30万なんて大金だ。
いやいやそんな気軽に払えるものじゃないだろ。
というか、丕が俺の顔をじとーっとした目で睨んでいる。
……あぁ、やっぱり解った?
そうだ。本気でやるつもりなんてない。
道場をきちんと運営して、教える立場に立ったのならそりゃあするかもだけど、世の中に氣が必要か、なんて訊かれたら……いさかいの種が増えるだけな気もするのだ。
「はぁ。まぁさ、日本に戻っても結局は、氣を教えろ我らが日本国のために~とか、そんなことになると思うんだ。同じ日本人のくせに金を取るとは何事だ~とかね。じゃあ、どうなんだろうな~って思うわけだ。その100万以上の記憶術を無料で教えろって全員が押しかけたら、その人は教えるかな。教えないんだろうなぁ。でも、周囲は多分数の暴力で教えろ教えろって潰しにかかる気がするんだ」
タダより怖いものはないって、教える側にも言えることだ。
タダだから、気まぐれに覚えようって来る人も居るし、上手くいかないからって暴言を吐く人なんて腐るほど居る。
氣を覚えれば、今まで勝てなかった競技で勝てるかもしれないって、みんな当然思うだろう。だからみんな飛びつくし、けど金の都合で勝てるか負けるかが決まるのは納得が出来ないとかも言い出す。
じゃあ空手道場の人に無料で教えろと言うのか、と言えば、別の文句も飛ぶだろう。
実に上手くいかない。
「どうしたものかなぁ。もし教えて犯罪とか増えたら、それこそ目も当てられないよなぁ」
「父さまが教えた技術を犯罪に使う存在など、氣で探知して潰しましょう」
「素直に物騒だな」
気持ちは解るけど。
……まあ、こればっかりは自己責任になるのかな。
あ、じゃあ法律でも作ってもらおうか。
氣を用いて犯罪行為をした場合、天の御遣いが現場に残った氣を辿って全力で潰します、と。
「……犯罪を起こしたら、相手を探知して追い詰めて、氣脈を潰すって手もありか。二度と使えなくなるし、むしろ様々な身体機能が覚える前より低下する」
「いいと思います。それぐらいしなければ、戒めにはなりませんよ」
「だな」
「はい」
「………」
「………」
はははと笑い合ってから、はふぅと息を吐いて……丕も頬杖をついた。
「やっぱり過去の記憶があると、体は子供でも大人っぽくなるよな」
「子供って……父さまと似た年代だと思いますが」
「そうだな。せっかく精神がじいさんだったのに、他の北郷一刀とくっついたお陰で無駄に若い意識の方が高い」
というか、みんなのことが好きすぎて困る。
みんなのためならなんでもしてあげたいって思ってしまう。
けどまあ先立つものは国のもの、って感じなので。
一応、王だもの。
「あの、父さま?」
「うん? なんだ~、丕~……」
「いえ、そんなぐで~っとしていないで……その。過去に溜めた父さま自身のお金は使わないのですか? と。聞けば婚儀に使う衣装を全員分用意しようと頑張っているとか……」
「…………」
エ?
「かっ……過去、の……俺の……?」
「はい。母さまたちが若い頃ほど食事を取らなくなって以降、使う予定もなく無駄にたまっていったあれです」
「いや、でもさ、あれから何年経っていると───」
「何年経とうが、父さまが今生きているのなら父さまのお金で、そもそもそのお金も“使わずに遺しておくように”と伝えていた筈です」
「───」
いや。
いやいやいや、ちょっと待て。
もうこの大陸に戻ってきてから何度ちょっと待てとかいやいやとか言ったか忘れたけど待とう。
「……丕サン? これまででお金のカタチが変わったこととかは……」
「もちろんありましたが、その金額分は遺しておくようにと」
「あ、でも貨幣価値とかが変わったりして───」
「父さま。父さまは自分がいったいどれほど溜め込んだのか、まさか忘れたわけではありませんよね?」
「………」
「……あの。ちなみに私たち姉妹も、どうしても必要だと思うお金以外はそこへと上乗せしていましたので、是非使っていただけたらと。使う目的が私たちに関係することなら、躊躇も遠慮もいりませんし」
「……うう」
解決した。
むしろそれ全部使わずに遺しておくとか、どれだけ……───
「……丕。これを自覚するのは物凄く恥ずかしいし、勘違いだと一層に恥ずかしいんだけどな?」
「はい。それだけ父さまは皆に好かれていたということです」
「はぐぅううっ!!」
確認する前に言われてしまった。
いったいどれだけ注意したり言い伝えてきたら、過去の人のお金を遣わずにいられるのか。
金銭的に余裕が無い時だって、きっとあっただろうに……。
そんなことを言ってみれば、丕は当然のようにムフンと胸を張って、
「決まっています。皆、天の御遣いが大好きでしたからっ」
腰に手を当てて、まるで自分が褒められたような得意げな顔で遠慮も無しに誇る、元娘。つい頭を撫でてしまうのは仕方ない。
対する丕は、最初は驚いたものの、抵抗するでもなく撫でられた。顔、真っ赤です。
「い、いやっ……でもな。余裕が無い時だからこそ、“きっとこんな時のために遺しておいてくれたんだ~”とか言って使いそうなものだろ……!」
「はい、もちろん居ましたが、夢枕に立って散々脅しました」
「幽霊時代になにしてんの我が娘ぇえーっ!!」
娘が随分とやんちゃでした。
ああそうかそうだった! この娘、前まで幽霊だった!
どうりで知らないだろう知識までぺらぺらと……!
「……ちなみに、脅しってどうやって……?」
「今まで辛くてもお金を使った者はいません。なのに今代のあなたが使って、歴史に汚名を刻みたいのですか? と」
「……泣いてもいいと思うな、その人……」
ただその夢を見たあと、その人はとても頑張ったらしい。
自分に自信が無い人で、たぶんどんなものでもいいから必死になるきっかけが欲しかったのだろう、と。
「結果として、父さまの遺産は使われずに済んだのです!」
「……うん……まあ……そうだよな……」
左手を握り拳にして腰に。
右手は自分の胸に開いて添え、“さあ、褒めてください!”とばかりに目を輝かせる元娘。
……ごめん、前言撤回。全然大人っぽくなかった。口調は少し変わったけど、昔のまんまだこの娘。
呆然として動かない俺を、キラッキラ輝く瞳でずーっと見つめてきている。
でも少しするとぱちくりして、“あれ?”って顔になってくる。
褒めないと話が進みそうになかったし、実際助かったのでたっぷりと頭を撫でつつ褒めた。子供扱いしないでください、なんて言葉もなく、とても嬉しそうだった。
「けど、そっか。これでお金の心配は無くなったわけか。……どうするかなぁ、氣の道場」
「やってしまえばいいんじゃないでしょうか。そして日本人にも父さまの素晴らしさを存分に思い知らせて……!」
「100人以上と重婚するって時点で、もう日本国民ドン引きだと思うぞ……」
だって俺自身でさえドン引きだ。
幸せにしてやりたいとは思っていても、時代が違うし、半数は元とはいえ自分の娘とくる。抵抗は今だって物凄いある。やっぱりやめると言われれば即座に了承と言える。一秒了承が得意なジャム好きの奥さんにだって負けやしない。
でも……そっか。
いろいろと問題があっても、どう転がるかは使い手次第だ。
曲がったなら潰そう。悪用したなら潰そう。逃げたなら地の果てまで追いかけて潰そう。
そういったことを注意事項に書いた上で、氣の伸びには個人差がありますとでもデカデカと書いておけば大丈夫だろう。
大丈夫だ、あの頃に道場で教えていたのと、そう変わらない。
無料で教えろとか言ってきたら、じゃあそういった通信教育とか教材の価格を全て無料にしてくれとでも言おう。きっと誰も儲からなくなって暴動が起きるから。
「悩むくらいならみんなに相談するか。どうせ俺一人じゃ上手く出来ないだろうし」
「過去の都の政務をほぼ一人で回しておいて、よく言えますね、それ……」
「あー……懐かしいなぁ、そんなこともあったなぁ」
将の大半が死んでしまったあと、寂しさや悲しみを紛らわすために仕事や鍛錬をしまくった。将とともに居る時間が無くなった分、どうしていいかが解らなかったのだ。
静かな時間に埋没すると、叫び出したくなるから。
そんなものが積み重なったいつかの夜、“怖い夢”を見て泣いているところを華琳に抱き締められた。
……不思議と、思い出しても恥ずかしくはない。
結果として仕事と鍛錬ばかりになって、お金を使う暇さえなかったのが今になって吉に繋がった。
あくまで結果だ。ここでこうして丕に訊かなければ、まだお金のことで悩んでいたに違いない。
(うん)
やっぱり一人で悩む必要はない。
男の俺がしっかりしなくちゃ、なんて考えも要らない。
男達に自信を持たせるための王だとしても、別に女性を突き放したいわけじゃあないんだから。
「なぁ、丕~」
「はい、なんですか父さま」
「男って弱いな~……」
「お言葉ですが、父さま……。たとえ世の男性すべてがそうであっても、父さまはその限りではありませんっ!」
「……お前もいい加減、俺を超人みたいに見るの、やめような……?」
「手から氣弾を放ち、木剣から光を放ち、疲れ知らずで延々と走り、全盛期の母さま方と鍛錬を繰り返す父さまのどこが超人でないと?」
「………」
「………」
……超人だった。
いやいやっ、俺より上なんていっぱいっ……!
い、いっぱい……!
…………、…………お、男限定ってだけで、どうしてこう候補が出てこないかなぁあっ……!
「………」
よし。今度左慈を誘って遊びにいこう。そうしよう。
左慈や貂蝉は確実に超人だしね! うん!
───……。
状況の解決方法が解ってからは早かった。
皆様に訊いてみれば、誰もが二十歳前にはなんて言い出す始末で、嫌なわけでは断じてないけど少しは加減してくださいと言いたくなった。むしろ言った。
そりゃああの頃に比べれば仕事なんて少ない。各国の発展のために頑張っていたあの頃に比べればだ。
けれど現代に生きる今には、今でこそ必要な知識がたくさんあり、未来の知識を活かして改善案を出していたあの頃とは“忙しさの種類”が違う。種類? 方向性? ……ええいどっちでもいい、それを考える時間も惜しい。
「幸い、思考の回転は以前よりいいから助かってるけどさ……」
言いつつも書類を纏める。さすがにもう竹簡などは使っていない。
筆でもいいならやりたいところだけど、非効率であるって事実が勝っているのだ。
急ぎの用事はメールを飛ばせばいいし、仕事の都合で誰かと実際に会って確認したいこと、などは絡繰を使って全速力。
あの頃ほど馬は使われていない。蜀の一部が競馬大帝国みたいになっていた時は眩暈を覚えたけど、きっと気にしちゃいけない。
「いやぁ~……この執務室にパソコンという機械。……何度見ても似合わない」
むしろ書簡竹簡で確認するほうが頭の回転にはいいんだけどな……とはいえない。効率問題があるし。
いい加減慣れないと。
「………」
一心不乱にカタカタ。
筆よりも早いものの、無機質って感じは否めない。
直筆の報告書が懐かしいなぁ。
だが断言しよう。三国の王となった今、報告書を三国から送ってもらって確認して返して、では、現代の仕事の回転速度には追いつけない。
だからメールだFAXだ。
ただし心を込める時は絶対に直筆。これは譲れない。
確認する人が見やすいようにと長年……本当に長年鍛えた筆の文字……自分で言うのもなんだけど、綺麗に書けるようになっていると思う。
「タッピーツ」
書かないけどね。
無駄に達筆と呟きつつ、作業を続ける。
纏めて、チェックを完了したら送るだけ。
つくづく便利な世の中だ。でも会って話をする機会が減る分、相手がどんな顔で受け取っているのかも解らない。
それは、ちょっぴり寂しい。
けど。そう、けどだ。
仕事の合間に作成したこの案内書……結構良く出来ているんじゃないだろうか。
直筆で、絵も描いてみた自信作。
「いや待て」
みんなの意見では、俺は絵が下手らしい。
自分で描いたものを見ても誇らしげに胸を張れるのだが、下手らしい。
それは絵描きさんが数年前に描いた絵を、黒歴史として恥ずかしがる感覚に似ているのだろうか。
当時は上手いと思っていたのに、時間が経ってから見てみれば酷い有様、と。
「うーん」
言ってしまえば案内書とは結婚式への招待状みたいなものだ。
日本の家族や友人に送ろうとして作っているモノ。
こんなもん送っている暇があったら帰ってこいって言われそうだけど、結婚式だ。是非来てほしい。来て欲しいけど……重婚式なんだよなぁ……困ったことに。
俺が良くても……いや、まだ納得できないけど、俺がよくても招待状を受け取った相手は嫌悪するかも。嫌悪はしなくても引くだろう。
……アレ?
(今さらだけど帰る場所が不安になってきた)
100人重婚に対して嫌悪感を抱いた人とかが、嫌がらせの一環で道場に悪戯描きとかしないといいなぁ。
それに、たとえば───仕事で留守中の際、忍び寄る男数名……無防備にくつろぐ女性。
襲い掛かった彼ら───……そして血祭りにあげられる。
うん、何と言うか無理だ。
少し想像を働かせてみたけど、襲い掛かったところで返り討ちに遭うだけだった。
気配に敏感な彼女らが、自分に近づく相手に気づかないはずもなく……。
(男って……)
弱いなぁ。
やっぱりそう思ってしまった。
ああいやいや、今はそれよりも先のことを考えよう。
知り合いに送る手紙もしっかり直筆で書いたし、一つを書いてコピーなんて量産方法なぞとっていない。
相手も忙しいだろうに、貴重な時間を割いてもらって招待するのだ……真心を込めましょう。うん……なにせこっちまで来てもらうのだ……ほんとごめんなさい。忙しいのにごめんなさい。
「拝啓、及川祐様。この度は───」
さらさらと文字を書き連ねる……もちろん日本語で。
彼も地味に御遣いの氣はあるから、言葉の壁は平気なわけだが……やっぱり文字は日本語じゃないと難しい。
なので散々鍛えた綺麗な文字で、しっかりと招待の旨を伝えるべく……
「……なんか堅苦しいな」
せっかくの友人に送る手紙だというのに、気安くなくてどうする。
ここはまずフレンドリーに…………いや、あまり馴れ馴れしすぎてもな。
でもあいつの場合は水臭いとかいいそうだし……うーん。
あれか? 最初は冗談から入るとか……あ、いいかも。
じゃあ───
「拝啓、及川祐様。このお手紙は呪いの手紙です。読んでから一週間以内にお返事をくれなければ、殺し屋があなたを殺しにうかがいますゆえ」
……殺し屋は物騒だな。
「んー……どうしたもんかな」
筆をゆらゆら揺らしながら思考にふける。
しかしそう簡単には彼が喜びそうな面白いことが浮かばない。
「及川……及川が喜びそうなこと───」
女───待とう。
さすがにそれはいろいろだめだ。
「………」
普通に出そう。
“つまらない招待状”なんて言われたら言われたで、それを話のタネにするだろうし。
「いっそ家族だけでひっそりとやるかな。……マテ。家族だけ、っていったって……家系図を見ると、この大陸のほぼが自分の家族に……!」
盛大なパレードが脳裏に浮かんだ。……直後、頭を抱えた。
解ってる、北郷解ってる。ひっそりとやったところであっという間にニュースになって、世界全土に知れ渡ることになるくらい。
それならいっそ開き直って知ってもらうほうがいいんじゃないかとは思った。思ったけどキツい。
「いや……いや! こういう時こそ立たなきゃだろ、男の子!」
精神はとっくに爺さんだけど、男を見せる時にこそ臆病になってくれるな!
そう、これは戦だ。
自分の弱さと戦えないというのなら、最初から複数の人を愛したりなどするな!
頭を抱えて溜め息乱舞だった自分を奮い立たせて、椅子から立ち上がるや───……仕事の途中だったことを思い出して、大急ぎで片付けた。