ギャフターの外のこと   作:凍傷(ぜろくろ)

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王になっても彼は彼①

番外のろく/抵抗もなく、悩むこともなかったらすごいと思うんだ

 

 魏側の屋敷、その一角の個室にて、のんびりとお茶を楽しむ珍しい三人組を発見。

 結婚式についてを相談しようと人を探していたところに、沙和から誘いがあったのだ。連れてこられたこの個室には、三羽烏しか居ない。むしろこの三人が外でお茶をしないなんて、なんと珍しい……。

 と、まあ現状確認はそれとして。

 

「というわけで、結婚式についてなんだけどさ」

「おー、前に訊いてきた“うぃーびんぐどれすー”っちゅうのを使うやつやろー?」

「ウェディングドレスな」

 

 ウィービングすな。ボクシングでもする気かお前は。

 

「そうだよ真桜ちゃん! あれをウィービングと間違えるなんて、ちょっといただけないの! ……ところで隊長、うぃーびんぐってなに?」

「ボクシングの技法で、上体を動かして相手の攻撃を避けたり、勢いをつけたりすることだよ」

 

 デンプシーロールとかの動きもウィービングになるらしい。

 って、そんなことを言いたくて来たんじゃないんだって、俺は。

 

「やー、賛成しといてなんやけど、あないヒラヒラしたのん着てみんなに見られるの、恥ずかしいやん……なぁ凪ー?」

「たっ……たた隊長が望むのでしたらっ、じじじ自分はどんな格好でももももも!!」

「ちょい落ち着き」

「くひゅう!?」

 

 顔を真っ赤にして口早で、どもりつつ叫んでいた凪が、脇腹を真桜に突かれておかしな悲鳴をあげた。

 ありがとう真桜。そしてほんと落ち着いてくれ凪。

 

「相変わらず隊長のことになると暴走しがちなのー……」

「うぐっ……そ、そんなことはっ……! ……あの、隊長……隊長はその、もしかしなくても迷惑で───」

「ばしっと言ったり! 隊長!」

「甘やかすとだめなの! 隊長、ここはバシッと言うの!」

「真桜、沙和。俺のことを好きになってくれてありがとう。でも迷惑だ」

「「はぐぅあぁああっ!!?」」

 

 バシッと言ってみた。方向を変えて。

 すると胸を押さえて驚愕の顔をしたのち、二人はぼてりと卓の上に突っ伏した。ぼてりというか、ドゴォンって感じで。

 

「はいはい、自分でも苦しいことを他人に強要しない。凪、気持ちをぶつけてくれるのはすごく嬉しいから、素直にありがとう」

「は、はいっ!」

「でも、やっぱりちょっと落ち着こうな? 行動に移る前に、一度考える余裕を持とう」

「よく言うで、隊長~……」

「そうなのー……隊長の場合、そうして悩むとすっごく長いくせにー……」

「経験してるから言ってるんだよっ! 悪かったなっ!」

 

 ともかくだ。一度深呼吸をして、そもそもの目的を思い出す。結婚式について。そう、結婚式についてだ。

 家族で盛大にパレードをするか、主要人物のみを招いてのささやかなものにするか。

 ちなみに家族で盛大にだと三国に住む者が漏れなくついてくる。なにせ家族だし。

 じゃあ主要人物のみで? ……総勢100人以上との結婚式を、数人の前でするのって、式場だけが立派なのに、知り合いや友人がまるで居ない人達の結婚式みたいじゃないか?

 ということを話してみると───

 

「あー……たいちょ、たいちょ~? そらちょおっとばかし無茶やで~……?」

「そうだよたいちょー……」

「はい。たとえ数人を招いてのものにしようとしても、確実に広まります。というよりは、我々が黙っていたところで必ず情報を漏らす者が出てくるでしょう」

「あっははぁ、そうそう~、呉の大将とか、むしろ自分から言い触らしそうやん~」

 

 呉の大将……ああ、雪蓮か。雪蓮……雪蓮ねぇ。

 想像してみた。……するとどうだろう。酒の勢いでべらべら言い触らす元呉王様の姿が、物凄く鮮明に脳内に描かれた。

 じゃあ彼女を監禁したらどうなる? ……雪蓮じゃなくても、華雄あたりが適当な質問をされたついでに、ぽろりとこぼしてしまいそうな気がする。

 あれ? なんだいこれ、秘密のお話なんて到底無理じゃないか。到底……とう…………あれ? いまさらだ。俺がみんなに対して秘密に出来たことなんて、ほんの一握りくらいしかなかった。だってみんな異常なくらいに鋭いし。

 

「あ、ところで隊長~? これ、の方はどーにかなったん?」

 

 真桜が、広げた手の人差し指と親指で○を作る。ようするに金だ。大仏とかの印では断じてない。

 

「あれ……真桜に、……いや、俺、誰かに金の相談とかしたっけ」

「んや、相談はなかったで?」

「でもさすがにねー?」

「全員分の、と考えれば」

「……そりゃそうだ」

 

 誰だってそこに行き着くだろう。けれど、かなりの反則的事実に助けてもらったわけで。それを話してみれば、案の定三人ともあんぐり。

 だよなぁ、俺だけがおかしいわけじゃないよなぁ。

 

「隊長……ウチらがおらんくなって、そないに寂しかったんやね……」

「エ?」

「お金の使い道も解らなくなるくらい寂しくなるなんて……沙和、ちょっときゅんときちゃったの……」

「いや、ちょっと待てお前ら、俺は」

「隊長……! 隊長がお辛い時に傍に居ることが出来ず……!」

「待って!? いやほんと待って!? なんか論点違うぞ!? 今はお金の心配はなかったって話だろ!?」

 

 何故か真桜が普段からは考えられないくらいにとてもやさしい目をして、沙和は瞳をきゃららんと潤ませて、凪が自分の力不足を嘆くように俯いて……そんな状態でにじり寄ってくる。待て! 当時の俺を思ってくれるのは嬉しいけど、何故ににじり寄ってくる!?

 と、三人が一定距離まで近づいた瞬間、俺の背後から無言の圧力。振り向けばそこに、朱の君が居た。

 

「うぐっ……やっぱおった……!」

「思春さん、そこどいてなの!」

「だめだ。この男は他にもやることがある。出来れば早いほうがいい」

「やること……思春殿、それは? 出来ることならば、私も隊長の手伝いを───」

「他の将や娘らに、婚儀についての相談をすることだ」

「んお? や、それってみんなを一箇所に集めて質問すればええだけの話しとちゃうん?」

「我の強い100人以上を一箇所に集めて質問をして、話が纏まると思うのか」

「あ、無理やわ」

「無理なの」

「無理ですね」

 

 すげぇ即答だなオイ。っとと、口調口調。

 うーん、やっぱり他の外史の北郷一刀の影響の所為で、どうにもこう……。

 

「あ、そんなら姐さんや華雄にはウチらが訊いてくるわ。さっき向こうの酒屋に行くの見たし」

「真桜ちゃん解ってないのー……結婚の相談なら、相手にきちんとされたいものでしょー?」

「だったら探してここに集めればいい。行くぞ! 真桜! 沙和!」

「わっ! 凪ちゃんがやる気なのっ!」

「そら、まさかの婚儀相談を隊長自らしてくれたんやもんなー♪ よしゃあーっ! ウチも気合入れんでー!」

「そこはよっしゃあじゃないの?」

「や、今はべつに細かいツッコミとかいらんから」

「では隊長! 失礼します!」

「待っててねーたいちょー♪ すぐにみぃんな連れてくるからー!」

「ここおってやー!? 寂しいからって追ってきたらあかんでー!? あ、でもそんな隊長もちょっとええかも」

「ほらほら真桜ちゃん! はやく来るのー!」

「あーあー解とる解とるってー! 走ると胸イタイんやからしゃあないやろー!?」

 

 ……止める間もなく行ってしまった。

 え? 俺、ここで待ってなきゃだめなの?

 

「………」

「………」

「……座るか」

「ああ」

 

 思春を促して椅子に座る。

 個室には大き目の円卓、その上に茶器と……入ってきた時のまま、三人がのんびりと楽しむはずだったお茶が、湯気をあげたまま残っていた。

 残すのももったいないので口にしてみると、ちょっと茶葉が多くて濃い。淹れるの失敗したんだろうか。少しお湯を足して口にすると、丁度いい感じになる。

 

「ところでだが、北郷」

「ん? なに?」

 

 孤独を愛する井之頭さんのように茶をすすってみる。

 このパターンだと大体思春がとんでもないことを言い出して、俺がお茶を噴き出してしまう~とかいう事態が起こる。自分の人生経験がそう絶叫している。

 しかし心配には及びません。永き時を生きたこの北郷、覚悟を以って相手と対峙していれば、どれほどとんでもない言葉だろうと冷静に受け止められます。

 

「ウェディングドレスのことを皆に訊く際、どういう訊き方をした?」

「え? その時も一緒に来てくれてたんじゃないのか?」

「傍には居たが、重要な話だと感じた。あまり重要なことを耳にしすぎるわけにもいかないだろう。だから少し離れて見守っていた」

「……思春もさ」

「? なんだ」

「いや。思春もさ、すっかり守護者っていうか……守衛に慣れたよな。まさか見守っていた、なんて普通に言ってくれるとは思わなかった」

「───」

 

 ひくっ、と、彼女の喉の奥から小さな声が聞こえた。けど、実際思っていることだ。俺自身、他の外史の自分との記憶の重複で、許容できていたものに抵抗がある部分もあるのに、思春はそんな素振りも見せずに俺に就いていてくれている。

 “呉を離れて俺の下に就いた”なんて外史がそこかしこにあったわけでもないのにだ。そんな俺の疑問を真正面から受け止めて、その上で……彼女は、静かに“ふふっ”と笑った。

 ……唖然。

 それが本当にやさしい笑みだったから、言葉もなく固まってしまった。

 

「……当然、だろうな。“他の私”は“気持ちの在り方”を知らなかった。自分の奥底から湧き出した気持ちの意味さえ知らなかった。が、私はそれがなんなのかを知っていた。知っているのなら受け入れるだけであり、私はその感情を認めている」

 

 ならば何故否定する必要がある。そう言って、彼女は目を閉じてフフッと笑うのだ。……他の人が居る前では絶対に見せない表情だ。どうやら、心を落ち着けてくれているらしい。

 ……遠いいつか、“惚れ薬”を飲む機会があった。

 名前の通りに“惚れるだけ”の薬で、惚れるというのがどういう感情を指すのかを知ることが出来た……そんな日があった。

 そんないつかを思い出しているのだろう……思春はやさしい笑顔のままに俺を見つめて、俺も見つめ返して、やがて顔が赤くなり、ふるふると震え出し、俯き、頭を抱えだした───あれぇ!? さっきまでの余裕たっぷりのやさしい笑みは!?

 

「いや……その、だな。様々な世界が統一されたのは、まあ、解る。が、解りすぎて困る、というかだな」

「…………ああっ」

 

 反応を見ていて理解が追いついた。そしてそれは俺も同じ意見だった。

 

「まさか思春とこんな話をするとは思ってなかったけど……まあその。好きすぎて困るよな」

「ぐっ……! わざわざ口に出して言うなっ……! 他の世界の自分がどれほど自分の想いに鈍いのか、痛感しているところだ……! 気づくまでは私もそうだったなどと、恥の極みだ、こんなものは……!」

「いやそんな、極みとまでいかなくても」

「……“呉のみに居た貴様”にとって、三国を抱いた自分がそうでないと一切感じなかったと言えるか?」

「産まれてきてごめんなさァァアアアいぃっ!!」

 

 客観的な想像を働かせてみれば、もう穴があったら入りたかった。しかも今は三国どころかかつての娘とまでだ……!

 誰かもう穴に入った俺の上に石碑でも乗せてくれ……。

 と、思春と同じく頭を抱えた辺りで、急に思春が姿勢を正して表情を改めた───次の拍子に、とんとんと聞こえるノック。

 ハテ、誰? ……って、凪たちが呼びかけてくれた内の誰かかな?

 

「鍵はかかってないぞー」

 

 なのでいつも通りの言葉を、この部屋の主人でもないのに言ってみる。

 ノックの主はゆっくりと扉を開けて、ひょこりと顔を覗かせると───

 

『おぅにーちゃん、相談があるって言うから来てやったぜー』

 

 ───と言って、ペロペロキャンディーを揺らしてみせた。

 名を、宝譿という。

 

「宝譿か。よく来たな。これから大事な話をするから、お前だけ来てくれ」

 

 そんな特別ゲストさんをそっと何者かの頭から外すと、宝譿を手にパタムと扉を閉ざした。

 ……そしてもちろん、動くこともなく喋ることもなくなる宝譿さん。

 

「おおぅ……まさかの取り外しぷれいとは。お兄さんも随分と意地悪になりましたねー……」

 

 そして、扉の外で、怒るでもなく淡々とツッコミを入れるは風さん。

 

「それともお兄さんは風なんかよりも、実は宝譿に恋をしていて、大事な話というのは宝譿に着せるうぇでぃんぐどれすの相談を───」

「よく来たな風! 入ってくれ話してくれさあさあさあ!!」

「ふひゃうっ!? お、おおっ……!?」

 

 謎のぬいぐるみ的物体との婚儀を疑われたので全力で招き入れた。具体的には扉を開けて抱き締めたのちに姫様抱っこして扉を足で閉めて歩いて運んで円卓にスチャーンと座らせた。

 よっぽど驚いたのか、なにやら可愛い声が出た気がするけど……なにやら顔が赤いので、ここは踏み込まないのが吉だ。絶対に吉だ。乙女心が解らない俺でもこれは解る。

 

「こんな隅の個室に女の子を無理矢理連れ込むなんて、お兄さんも大胆になりましたねー。風はこれから、こんな片隅の部屋でどんなことをされるのでしょうかー……」

「はいはい、宝譿返すからおかしなこと言わない」

 

 糸目で少し機嫌が悪そうな風の口に、宝譿が持っていたキャンディーを突っ込む。それから宝譿をちょこんと頭の上に乗せてあげれば、いつもの風の完成だ。

 桂花ほどではないにしろ、風も結構誤解を招く言い回しが好きだから、先手先手で誤解を生まない状況を構築していって───ってそういう話がしたくて呼んでもらったわけじゃない。

 

「お~……訪ねて早々に部屋に連れ込まれて、硬くてべとべとしたものを口に突っ込まれてしまいました……」

「だからなんで誤解しか招かない言い回しを───」

 

 と、言っている途中、廊下からばたーんという音。

 

「───……する……のかなぁ……もう……」

「ちなみにですねぇお兄さん。廊下には一緒に来ていた稟ちゃんがー」

「うん……予想ついてたからやめて……?」

 

 かつての特訓の甲斐もなく、合わさった外史の数だけ興奮度が高まった気がしてならない稟の鼻血癖は、全てが合わさったこの世界でも変わることなく溢れ出る。

 立ち上がって歩き、扉を開けてみれば……ほうら、血まみれ劇場。……なのだが、なんと気絶していない稟がそこに居た! だっ……いやいや落ち着け俺! 意外性という気持ちを貫かれたからって、“誰だ貴様”はもう絶対にやめるんだ!

 

「だ……あー、その、大丈夫かー……? 稟ー……?」

 

 声をかけた所為で余計に妄想が加速して、ひどいことにならないかと躊躇したものの、このままほうっておくわけにもいかない。なので声をかけると、気絶はしていないものの倒れてはいる稟が俺の姿を確認。

 その視線が、俺の目からどうしてか股間に下りてゆき、またしてもバシュッと血を噴き出して……彼女は気絶した。

 そんな彼女を、俺の脇からひょこりと顔を出した風と、いつも通りの光景にもはやツッコむのも疲れた俺が見つめていた。

 

「稟ちゃんも変わりませんねー」

「……変わらないものに憧れる、心がおじいちゃんな自分としては、ここくらいは変わってほしかったなぁ」

 

 さすがに気絶している相手にとんとんはしないのか、血の海の傍で彼女を揺する風。

 俺と思春はといえば、もはや手馴れたものとばかりにテキパキと掃除をして、稟を部屋に連れ込むと扉を閉めた。

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