番外のなな/結局はどちらも悪かったのだという事実
なんのかんのとやっている内に夜が来た。
現代だというのにいつかのままの夜の街は、街灯もないのにちっとも怖くないとくる。懐かしさって強いなぁと笑ってしまう。
さて、そんな風にして夜の街を歩いている理由はといえば、
(父さまとでぇと父さまとでぇと父さまとでぇと父さまと父さまとととと……!!)
夜だというのに顔が真っ赤と解る赤さで、目をぐるぐる回してあわあわしている丕……華煉と、
「夜の風って、なんだか安心しますよね。鍛錬してばっかりだったからでしょうか」
えへへと笑う、いつかの卑屈っぽさのかけらもない登……好蓮と、
「単に、悪党が現れたとして、自分で何とかできる安心感からじゃないですか?」
好蓮の言葉に、大して考える間もなく、ずばりと答えを言う禅……桜花。
彼女らと街へ繰り出す約束をしていたからだ。
「それはもちろんよ、禅。なにせ今の私は父さまの教えをそのままに、間違った鍛錬を一切せずに成長できたのだからっ!」
ふんすと胸を張って、大変嬉しそうに言う好蓮さん。
……そうか、なにもただ生まれ変わったってだけじゃないんだもんな。やり直した分だけの時間がきちんとあって、述も好蓮も、その時間を思うように生きることが出来たのだ。
かつては遅れてしまったスタートラインをきっちりと存分に。それはきっと、彼女らにとってとても大事な時間だったに違いない。
「……まあ、その。そうであっても、母さまたちの氣の強さにはほとほと呆れたけれど」
「うん……御遣いの氣だよね……。あれ、ずるいよね、登姉さま……」
ずるいって言われた。軽くショックだった。
「禅、遠慮はいらない。私のことは好蓮でいい。父さまのもと、苦楽を共にしてきた姉妹が今さらなにを遠慮する。むしろ私は呼ばれたい。私は“孫家”に生きている。その証を、名を呼ぶんだ、禅」
言って、好蓮が両手を横に広げる。その顔は……嬉しそうだ。
「孫家、孫権が娘、孫子高が許そう。私の真名をお前に預ける。真名の価値はそれぞれだ。私は私が心を許す全ての人に、私を認めてほしいんだ。だから呼べ。私は───好蓮だっ」
「登姉さま……もらった当日に許しちゃっていいんですか? ととさま、頑張って考えたのに」
「うっ……そ、それは……あの。父さま?」
「受け取ってくれたからには、その名前はお前のものだよ、好蓮。預けるのだって好きにしなさい。……タダシ男ニ預ケル時ハタダデハオカン……!」
「ととさま……いい加減子離れしなきゃ……」
「───あ」
そ、そうだった。そもそも俺はこの三人と、意識改革のために時間を取ったのだ。
夜の街を歩いて、父である自分の意識をもうちょっと抑えてやるつもりで。……いやらしい方向性は断じてない。断じてだ。
「そうだな。こういう感情はもう、もしかしたら産まれるかもしれない子供に向けてやらなきゃだよな」
「う……あの、父さま? その。子作りの行為のことなのですが。やはりあれはするべきなのでしょうか……あんな、痛くて辛くて気持ち悪いものを……」
「……ああその、ちなみに。あー……殺意を抑えられないけど訊くな?」
「抑えられないこと確定なの!?」
「抑えられない。絶対だ。で、だけどな、桜花。……その痛くて仕方がなかった行為、男はどんな行動をとっていた?」
そう。物凄く最低だし自分でもそれはないだろって質問だけど、気になるものは仕方ない。むしろそんな痛いだけの思い出しかないって、いったい……?
案の定、かつての娘二人に“うわー……それ訊くの?”って顔で……見られない!? 華煉はなんだか真っ赤で目ぇ回したまま聞いてなさそうだからいいけど、これっていったい!?
……いったいもなにも、それだけ嫌な思い出しかないってこと、なのか? ───そうした嫌な予感がよぎった時、好蓮が気まずそうに言葉を放つ。
「……その。男が好き勝手に触りたいところを触って、満足したのか突き刺して、震えて、終わりました、けど……」
それが答えだよし殺そう。
「あっはっはっはっはぁあいつの一族の家系図どこかなぁ一族滅ぼしてやるよかかってこいコラァアアア!!」
「父さま!?」
「ととさま落ち着いて!? そ、それは、もうあんなの嫌だけどっ! 一族っていったら私たちもだよ!?」
「ぬぐぁぅ!? くっ……く、おぉおおお……っほぉおお……!!」
「ととさまやめて!? 握り締めた拳が嫌な音立ててるから!」
じゃあなんだ? 文字通り男側が満足しただけの、女にしてみれば痛いだけのものだったと……!? 触りたいところを触って、自分が満足したら突き刺して、って……あ、やばい。聞くべきじゃなかった。むむむ娘を、娘の純潔をそんな乱暴にアガガガガあのガキブチノメーション……!!
ああだめだ、ほんとだめだ。もう他のやつらに任せられない。絶対に幸せにする。“そういう行為”には躊躇が前に出すぎていたけど、もう覚悟完了だ。
「チナミニ桜花ハ……!? 桜花、オウカオウカカカッカ我ハハハハハハオーガナリナリナリナリ……!」
「と、ととさま落ち着いて……。目が、目が赤いよ!? あとなんか口から湯気みたいなの出てる!」
「大丈夫だよ桜花ァァ……! これはただ、怒りすぎて目が血走っているだけだからァア……!」
「全然大丈夫じゃないよ!?」
「……禅のものは、ひどかったと聞いています、父さま。そういった知識がろくになかったのか、あえてそうしたのか、興奮のあまり頭が動かなかったのか……今となっては知ることも出来ませんが、準備も無しに貫かれ、激痛に気絶したまま終わったそうです」
「………」
「あの。父さま。氣が。き、氣がっ……氣が溢れて、頭上で“滅”の字に……!」
「好蓮? 桜花? これからはお前たちに言い寄ってくる男が居たら、俺に報せなさい。大丈夫、俺の制裁は確実です。必ずや相手野郎様の息の根……ごっほげほっ! ……と、止めちゃいけなかったな。よし、接待して下剤入りのお茶でも振る舞おう」
「だめだよ!? ……と、ととさま? あのね? 危ないことするようなら、私はととさまに言ったりは───」
「大丈夫だ。危ないことはしない。ただ動けないように縛り上げて、桂花の生徒として突き出すだけだ」
「突き出したらどうなるんでしょうか」
「いい質問だなー好蓮ー♪ ……とりあえず自分がどれだけ悲しき男なのかを擦りこまれるんじゃないか?」
よし落ち着こう。娘達……もとい、好蓮たちが恐怖している。
そして華煉はまだ赤いままだ……どうしよう。
そもそも……聞こえているのだろうか。声をかけたら反応は……ん、んん。
「………」
「でーと……でーとってなにをするのだったかしら……! たたたしか桂花の授業では、主に男に貢がせて困らせて苦しませて、最後にまた奢らせることを約束させる、女が得をするための行事だとか……!」
「……ふんふん」
華煉の目の前で手を振るってみるも、反応なし。
なので、
「華煉」
「なにかしら?」
声をかけてみた───刹那、高貴なる姿勢で応対をしてみせた。
なにが彼女をこうまでさせるのかは謎だが、とりあえず呼んだ相手が俺だと気づくと一気に赤くなった顔と、そのぐるぐるお目々はなんとかしなさい。
「とにかくだ。もう決めた。お前たちは、俺が幸せにする。つか、自分で訊いておいてあれだけど、かつての娘の生々しい初体験とか何を訊きだしてんだろうな、俺は」
「あの、ととさま? 急に話を振られても、丕姉さまは反応できないと思うよ?」
「あら。馬鹿にしないでもらいたいわね、禅。───初体験? つまり未熟だと言いたいのかしら? だとしたらこの曹子桓も随分と低く見られたものね。ええそうね、確かに体験したことなどないわよ。けれど知識は誰にも負けないつもりよ」
「えぇえええっ!? そそっ、そうなのですか丕姉さま!!」
「そ、そんなっ……姉さま!? それは本当に!? こ、講師はやはり朱里様で……!? それとも雛里様……!?」
「? 凪と秋蘭だけれど……なに? 何故そこで当然のようにその二人の名が出てくるのかしら」
「だだぁあってだってだって! そういうお話で、しかも誰にも負けないだなんて言うなら!」
「そうです! 外せない筈です姉さま!」
「そ、そうなの? そんな話は聞いたことがないのだけれど」
…………ハッ!? 意識が飛んでたような、そうでないような……!
あぁあいやそれよりも! 丕が! 華煉が! よもやそっち系の知識に富んでいただなんて!
しかも朱里や雛里の協力無し!? それってあれですか!? 夜な夜な独りで艶ッツヤの書物をひとり読み漁っていたと……!?
(華煉……色を知る歳かッッ!!)
などとオーガやってないで。
別におかしなことじゃないだろう。むしろあれだけを生きて、一度もそんなことがなかったらそっちの方がすごい。
しかしまあその、なんだ。……ものすごーく複雑な気分だ。ある意味娘の体験談を聞くよりも複雑。ああ、好蓮と桜花の話は怒りが浮かんだ。解りやすかった。そして許せん。
でも華煉は……なぁ。お、親としても、一人の女として見ようとしている男としても、どう反応すればいいんだろうか。
(ふむ……敵の布陣も周到か。 厄介だな……)
(孟徳さん……)
布陣かどうかは別として、厄介なものだ。
あれか。華煉の部屋を勝手に掃除して、出てきた艶チックな本を机にでも重ねておけばいいのか。よし落ち着けどこのお母さんだ俺。
「とっ……ととさま! ととさまぁっ! 丕姉さまが知らない間に達人さんになっちゃったよう! 頭の中でだけど!」
「やめなさい本人の前で」
「父さま……なんとかしてあげてください……。得意げに語っているのに全て知識だけだなんて、見るに堪えません……! あの人、私の姉さまなんです……!」
「だからやめなさい、本人の前で」
あと俺の娘だった人でもあるんだから。
俺の服を引っ張って懇願する二人とは、少し離れた位置で胸を張っていた華煉が、ハテと首を傾げる。
なんとかしてあげろっていったって、どうしろというのか。訊けと? どんな本から得た知識だ~とでも訊けと?
「あー……その。華煉? ちなみに、お前としてはそのー……そのテの行為は、どういったことから始めるのが普通だと思う?」
「え……そ、それはもちろん、手を繋ぐところから、なのでは」
(あ……結構まとも)
(わわっ……結構まともだぁ……!)
(姉さま……信じていいんですね? そうですよね、かつては完璧な姉だと羨んだあなたです。あなたは高き存在であってください……!)
「ほほう。で、次は?」
「えっ……それは、その。腕を組んだり……」
(……登姉さま。わたし、なんだか自分が穢れた存在に思えてきました……)
(しっかりするのよ桜花。じゃないと話を振った私たちこそが穢れそのものとなるのだから……!)
「……? 次は?」
「っ……あ、あの、父さまっ! 確かに私は先を先をと関係を急いてはいましたが、そうなったからこそその関係を大事にしたいというかっ……! ままままずはですね! 手を繋いでから腕を組むまでの期間を大事にすることも大切だと思いまして!!」
「………」
……うん。なんか冷静になれた。なんか違うって思ったけど、よーするにあれだ。
「好蓮。桜花」
「えっ!? あ、はい! なんでしょうか父さま……」
「なにかな、ととさま……」
「恥を飲み込む前に受け止めておけ。……華煉がしているこれは、デートの話だ」
「「───……」」
あ。固まった。
「え? あの、なにを……? でぇとの話でなければなんだと───」
「う………ぁああああああああっ!! どうしましょう登姉さまどうしましょう私今とても死にたいです!」
「姉さまごめんなさい登は穢れておりましたもういっそ殺してくださいぃ……」
「え、えぇっ!? なにを言っているのよ!」
「だ、大丈夫です丕姉さま……! 丕姉さまはそのままで……純粋なままでいてください……!」
「むしろ姉さまをあんな考えで汚すような自分が恥ずかしい……! 姉さまが隠れて艶本を見ているだなんて……!」
「つやっ……!? ……子高、ちょっとそこに座りなさい」
「へやいっ!? あ、え……あの、姉さま……?」
「聞こえなかったのかしら? 私は。あなたに。そこに座れと言ったのだけれど?」
……目の色が変わった。ああ、これは本気で怒ってる。
でもさすがに天下の往来で女性を座らせるわけにはいかんだろう。
なので腕を組んで冷たい眼差しで好蓮を睨む華煉の頭をわしりと撫で「ぴぃっ!?」……ると、先を促した。ぴぃってなんだぴぃって。
「華煉、行くぞ。せっかくの時間を説教なんかで潰さない。そりゃあ説教だって大事なものではあるけど、そもそも話がかみ合わなかったのが原因なんだ。それを説明するから。ほら、来い」
「「「は、はいっ!」」」
数歩先へ歩き、けれど追ってこない三人にほれと手を伸ばすと、元気に駆け寄ってくる三人。
さて……まず何処から行こうか。時間も時間だから、行けるところは限られてるしな。
◆あとがきでありんす
タイトル通りなアレになっていくので、それ方面はちょっと……とか言う人は見たらメーですからね?
親娘愛? いいえ、どこぞの誰かが転生して恋に落ちるのとなんら変わりはありませぬ。え? ダメ?
じゃあ飼ってた動物や昆虫が人に転生して恋に落ちる物語を思い浮かべてみよう。……マシになりました? ダメ?
兄を愛したヤンデレ妹が転生して……とかそういう物語とそう変わらないと思うのデスがなぁ……。ちなみに凍傷は浪漫倶楽部の源氏雛子さん物語は大好きです。千葉繁さんの演技が素晴らしくてですねェ……ええ、ドラマCD買いました。懐かしいなぁ。聴いてた当時は気にしてなかったけど、コロン役の木原さとみさんって声優とかじゃあなかったのね。ほーんてっどじゃんくしょんがアニメ化した時は仲間由紀恵さんがアレでアレでしたが……うん。