番外のじゅう/いつも通り=平穏とは限らない
とある日、とある一室……かつては御遣い様の子を身籠るための作戦会議が開かれた場所で、その御遣いが立ち、揃いも揃った皆さま方に意見を投げていた。
祀瓢を連れて服屋を巡り、着飾ってみることになると、我も我もと手を挙げる者が居た。
もちろんと言うべきなのか、筆頭として沙和。次に楽しそうだからと鈴々。いやきみ、途中で道草くって食事処行くことしか考えてなかったりしない?
次いで数え役萬☆姉妹が挙手し、麗羽が高笑いとともに参戦を望んだあたりで止めに入る。
「ちょっと一刀さん? なぜわたくしが……このっ、わ・た・く・し・がっ! 喋っている最中に割り込んできますの!?」
「麗羽……お前の美的センスが最先端すぎて、他の人だとまだまだ追いつけないからだ」
「あ、あら……せんす? なんですのそれは」
「んんー……つまりはですねー麗羽さん。お兄さんは風たちの目指す美しさでは、麗羽さんには届かないと言いたいのですよー……」
「……つまりわたくしが語る至上の美しさの前には、あなたがたの理解が追いつかないということですのね? それならばまあ解らないでもないけれど……おーっほっほっほっほ!!」
高笑いしつつ、なんでかちらちら見られる俺。目が合うと途端に高笑いが止み、顔を赤くしてもじもじされる。
こうなると次は近くに居るみなさまに見られたりつんつんされたりして、“早く”と急かされた。
ああうん、まあある意味ではいつものことだったけどさ。
けれどそれさえすれば理解は早く納得も早いので、俺は麗羽の傍まで歩いて、
「ごめんな麗羽。今度“可愛い服”とかを見に行く時は、お前を頼るから」
言って、頭を撫でる。
重要ワードは“かわいい”。
それとともに頭を撫でれば、いつものどこか上からっぽかった不敵な笑みではなく、くすぐったそうな、安心を得たようなふわりとしてほにゃりとした笑みが麗羽の顔に浮かぶ。
「いいなー……麗羽ちゃん」
「しっ……! いけません桃香様っ……!」
ちなみにこの時、下手にあたしもわたしもあたいもなどと挙手して、しかも俺がそれに答えると拗ねてしまうから、いつからか便乗は却下となった。
あの時代、あの世界から見て、ほぼ全員が俺と同じ年齢あたりになった今、この麗羽の安心したような笑みは凶器の類だと思うの。
年上女性の安心した笑みに心動かないでもないが、と考えて思い浮かぶのは桔梗が奏でる音色に安心を得たあの夜。
あの時の笑みは……ああいやいや、ここで別のこと考えてたら麗羽が拗ねる。どうしてか俺の知る女性というのは、こういうことには鋭いから。
心でも読めるんじゃないだろうかって疑いたくなったのは何度だろうなぁ……。
「そ、そういうことでしたら仕方ありませんわね。ええ、一刀さんがどうしても……ど~してもと、わたくしが可愛くてどうしてもとおっしゃるのだから、ここでわたくしがその、せんす? を押し付けるのは残酷な話ですから。……ですわよね?」
きっぱり言ったあと、どうしてか上目遣いで俺に確認を取ってくる。
不覚に思うことなんてないけど、トキメいてしまったので撫でる手にも自然と力が入ってしまう。いや、やさしさって方向での力だ。べつに乱暴にするつもりはない。
「う、うー、うー……! 鈴々もなでなでしてほしいのだー……!」
「こらえろ鈴々……! ここで立っては余計に長引くだけだ……!」
むしろ愛紗、いつもありがとう。
次に誰をと言われたら、迷わずキミを労いたい。
「そんなわけで、なんというか押し付けるんじゃなくて、見守る側に立てる人に頼みたい」
「はいはい! はーい! 沙和が───」
「却下」
「隊長ひどいのー!」
沙和が元気に挙手までしてくれたが当然のごとく却下。
キミは見守る側には向いていない。ファッション系だと特に。
「ていうかそもそもなんでこんなに集まったんだよ……。俺、白蓮にしか相談してない筈なんだけど」
「お、おいおい北郷っ? まさか私のことを疑ってるのかっ?」
「いや、白蓮はこういうことでそういう、言いふらすみたいなことはしないって知ってるし信頼してるから」
「え……あ、そ、そうか…………~……そうか……信頼……はは、信頼……そっか……」
「つまり、ここに来てもらった瞬間を誰かが見ていて、それを伝え合った結果ってことに……」
ここでちらりと予想出来る相手を見てみれば、物凄い速さで首ごと視線を逸らし、同じ背格好で歳の似たくらいの……いやまあここにはそんな人しか居ないし、そもそもこの時代に来てから全員の年齢が統一されたみたいだが、ともかくそんな相手をお嬢様と呼び、突如として話題を逸らし始めた。
まあようするに七乃である。……あえて言おう。またお前か。
「ならば主様! 妾を頼るがよいのじゃ! 袁家で養われた美的……せんす? と、主様とともに歩むようになって磨かれたこの~……な、なにかの? あたたかい何かを以て、主様も満足する服を選んでみせるのじゃっ!」
「さっすがお嬢様! ちょっと話題を振っただけで物凄い食い付きですっ! よっ、三国一のお調子者っ♪」
「うほほほほ! そうであろそうであろ! もっと褒めてたも!」
「───」
美羽は……アレだな。
違う外史の美羽とくっついたことで、ま~た騙されやすくなってるのかもなぁ。
その場面を見る機会があまりなかった所為か落ち着いてたけど、見えてないところだと随分とからかわれてるんだろうなぁ。
この容姿でこの純粋さ。ある意味ずるいというか……まあ、ずるいよな。うん。
俺の中の様々な北郷がざわめきだすほど綺麗で可愛いから困る。そりゃあ、こんな人に一途に純粋に真っ直ぐに想われたら、心も頭も動揺しまくりだろう。
だが残念ながらだが、今回は遠慮してもらおう。
ついてきても漏れなく七乃が付属してきて、場を引っ掻き回す様が簡単に想像できるし。そもそも美羽も、そういうところに行ったら自分の趣味に走って…………いや、しないか。他の外史の美羽がどうあれ、打ち解けられた美羽は空気も読めるようになったし頑張り屋だった。
「………」
なんだか突然ありがとうを伝えたくなって、歩み寄って、頭を撫でて、感謝を伝えた。
申し訳ないけど留守番していてくれとも。
少ししょんぼりしたけれども、切り替えも早く、胸を張って「うむ! 留守はどどんと任せてたも!」と言ってくれた。胸おっきい。落ち着けどこぞの北郷、この娘をそういう目で見るんじゃありません。
「ええっと、美羽にも言った通り、騒がず押し付けず、な人がいいんだが……あ、白蓮は確定で」
「わっ、私かっ!? ……あ、ああ、まあ、うん。……わかった」
「あとはえっと……───あの。みんな? なんでそこで一斉に姿勢正しく座り直すの」
あとはえっと、と指名しようとすると、ざわざわと嫌でも賑やかであった場がシンと静まり、慣れた体(てい)でどっかと座っていた人たちがシャキッとしゃらんと居住まいを正した。
みんなどれだけ服屋行きたいの。
「じゃあ思春───」
「! ま、待て、待て北郷。信頼を置いてくれるのはありがたいが、その……私にはそういったものを選ぶ感覚というのか、そういうものがない。それはお前も知っているだろう……すまないが私は遠慮させてもらう」
「え……そ、そっか。じゃあ他に……」
「……護衛はするが」
「え? 思春今なんて?」
「なんでもない。お前は安心して思うままに動け」
「………」
頼もしい微笑みで迎えられてしまった。
心から気を許して、守ってくれようとする思春さんの“頼り甲斐”が、下手な男性よりもよほどに高いってすごいね。男の俺から見てもいろいろとアレですよ。いや、いい意味でね?
いつもなら“なんでもない”を押しのけて、言ってくれるまで訊きまくるところだが、思春が笑みとともになんでもないというなら……それは信じよう。ただし、笑みに違和感を感じたならば、即座に、問答無用で、なにがなんでも訊くつもりだ。
けどそうか、思春がダメとなると……
(ここで思い浮かぶのが真っ先に紫苑とか桔梗ってあたり、璃々ちゃん絡みで見守る人としての経験が多い人に頼りたいって気持ち、滲み出てるよなぁ)
おかしいね、大体の人が母親をやった筈なのに、紫苑の母性に勝てる人がとても少ない。
いや、今の思春が子供を宿したら、それはもう大変なことになりそうだけど。きっと、述の時の倍以上は。
「じゃあ……紫苑、は居ないか。桃香、紫苑は───」
「うん。今日は仕事だって」
「はい。その。女性としての、というよりは母親らしさを学ばせるための一環として、街に出て授業をしていると聞きました」
「紫苑はいつだってお母さん役なのだ!」
愛紗の言葉に、“ああ……そういえばそんなこと書いてあった書類があったような”と思い出す。
いや、ちゃんと確認してから落款というか、GOサインは書いてるぞ?
でもさ、母親らしさを学ぶ授業って……って呆れるだろ、普通。
長い間“そういう環境”だったんだから仕方ないといえば仕方ないけど。
(………)
となると……華琳は居ないし、居たとしても華琳のセンスを全力で押し付けたものになりそうだ。女性に着せて自分が喜ぶ側のな。もちろんのちに閨に招くことを前提に置いた服選びをしそうなので却下。
当然ながら桂花も居ないから、まあそれはいい。
雪蓮が居ないのは意外なものの、正直助かる。場を引っ掻き回すの好きだからね、あの元王様は。
……蓮華、は居ないのか。
思春が居ると、もしや居るのではと思ってしまうものの、今や思春はほんとに俺についていてくれているから、蓮華もたまに“思い切り羽が伸ばせるわ”とこぼしている。……まあもちろん、ちゃんと、傍に思春が居るかどうかを調べてから言っているが。
「ちょっといい?」
「お……詠?」
「ようするに慎ましく見守って、やさしく支えられて、そっと助言をくれるような人がいいのよね? なら最初から決まってるじゃない」
「あ……そうだな」
「そうよ、最初から解らない方がどうかして───」
「じゃあ頼むな、詠」
「あんたボクの言葉のなにを聞いてたのよ!」
「いや、月を誘えば詠も来るだろ? ……え? 来ないのか?」
「うぐっ……ぃゃっ……そりゃ、行くけど」
「よし。じゃあ決定だな。あとは───」
つつっと視線を移動させると、楽しそうに場を見守る姿を発見。
卓に片肘を突き、こめかみを乗せるような恰好でクックと笑っている。
「桔梗、頼む」
「おっと。まさかわしにくるとは。だがまあ好奇心のみでここに来たのだし、それが原因で任されることも含めての好奇心でしょうな。相解った、託されたならば請け負おう。……まあ、その手のものは璃々のことで慣れておりますからな」
はっはっはと笑う姿は、あの時代の頃よりよっぽど若く、たまに“誰だっけ”と首を傾げることもあったが、いい加減慣れた。
同年代の姿になったってだけで、印象なんて呆れるほどに変わるもんだ。
小さかった人や大人だった人が同年代に、なんて奇跡が起きたあの日から、はちゃめちゃながらもよく無事で……と思わないでもない。無事じゃなかったから、つじつま合わせなんていうそれこそ奇跡みたいなことが起こったんだろうが……まあ、苦労して外史統合した甲斐もあったってもんだろう。
「じゃあ、こんなところでいいかな」
「待つのです北郷一刀! 見守るだけなら恋殿にだって出来るのです!」
ほら、ねねだってあんなにすらっとしゃらんと。
ていうか成長してもその姿っていろいろと目に毒っていうか……前から思ってたけど、なんでこの人ったら破けたジーパンみたいなのを履いてるんでしょうね。
そこからすらっと成長したおみ足が伸び、その少し先は白と黄色の縞ニーソで包まれ……って、なにを丁寧に説明している、俺。
まあ、その、ともかく。胸も成長したようでよろしいのではないでしょうか。
髪は後ろで結わず、ストレートで腰まで伸びて、頭には黒い帽子。ちっこいパンダシンボルがちょこんとついているのは変わらない。のだが、うん。
ええと。どこぞの艦隊をこれくしょんするゲームの、ドイツ艦のでかい暁っぽいって言えば解るだろうか。うん、まあ、そんな感じ。薄緑に近い色の髪のあの人が、ねねの着ている服(大き目)を着ていると想像していただければ……って、だから誰に説明しているんだ、俺。
いや、けど……あの時代でも成長するたび綺麗になるなぁなんて思ってたけど、こっちはもっとだ。なんというか、統合される際に、本人の意見とかも汲まれたりするのでしょうか。……まさかなぁ。
っとと、ねねの話の続きだ。
「まあ、うん。恋は見守ることも出来るし、いっそ護衛としても最強だよな」
「ふふふもちろんです! もっと褒めてくれていいですよ!」
でかい暁っぽくても、その意識は恋に向いているらしい。
「でも、服は選べないだろ」
「うぐぁ!」
そしてヘンな声が出た。
それに、護衛なら言わないまでも思春がしてくれるだろうし。
服は選べないって言ったんだ。きっと、そっちはやってくれるだろう。なんかそんな気がする。
無責任に信頼を押し付ける~とかじゃなくて……なんだろうな、そんな気がするのだ。
「あんまり居てもアレだろうし……今回はこの四人に頼む」
「贅沢ですね~一刀さん。これだけの美女に囲まれて、しかも選び放題だなんて。よっ、三国一の種馬っ♪」
「シャレになってないからやめてくださいマジで」
魏の種馬から始まって、すっかり三国だの大陸だのの種馬扱いだよ。
しかも今度はかつての娘にまで手を出してるとくる。
いい加減納得したとはいえ、そういうふうに言葉でつつかれたかったわけじゃないから、結構複雑だ。
溜め息ひとつ。ともあれ、こうして黄柄……祀瓢の服選びは始まったのだった。
「ところで白蓮さん? あなたこれからわたくしとお仕事でしょう?」
「え? …………あーっ!」
……始まったのである。四人が三人になって。
え? 麗羽? うん、仕事ならしてるぞ? 今時珍しい高飛車ロングドリルお嬢系モデルとして。外からわざわざ撮影しに来る人が居るくらい、人気はあるそうだ。
白蓮はその付き添い……ってわけでもないが、普通系モデルとして。ただ、結構人気はあるらしい。俺達がこの時代で出来る仕事は何か、って李さんを始めとしたいろいろな人に訊いてみたところ、紹介された仕事はぽつぽつとは届いた。
都だけに視点を絞らず、もっと広く見てみれば仕事なんて腐るほどあるのだ。それを紹介してもらうと、少しずつだが仕事は回ってきた。まあ、やっぱりいっぺんに全員、ってわけにもいかないから暇な人は多いわけだが。
「ううぅう……北郷ぉお~……」
「あぁ……そんな泣きそうな顔しないでくれ……。ほ、ほら、また今度な?」
「あ……ああっ、今度なっ、今度っ!」
白蓮は元気に手を振って、麗羽とともに出掛けて行った。
それを見送って、一人減ってしまった人をどうしたものかと思ったが……下手に増やすよりはこのまま行こうと頷いて、歩き出したのでした。
だって残り一人ってなると揉め事起こるだろ、絶対。