ギャフターの外のこと   作:凍傷(ぜろくろ)

39 / 79
努力の肯定。強くあるために①

番外のじゅういち/こうして、彼の心は強く硬く決まってゆく

 

 “幸せになっていいんだよ”

 

 そんなことを言われて、思うことはなんだろう。

 とりあえず俺なら俺を知るところから始めてくれとか返す……ことはないな。

 ただ、親しい人とかさ、大切に思う人が不幸だとか幸せになっちゃいけないんだ~なんて言っているなら、そんな言葉を届けたいって思うんだろう。

 その幸せってのがなにかも解らないくせに、無責任に言ってしまうのだろう。

 じゃあもし、その幸せってのがなにもかもを捨てて俺と一緒になにかから逃げることだ、なんて言われたら、俺は走ることが出来るのだろうか。

 今ある全てを捨てて、走ることが出来るのだろうか。

 答えは否だろう。

 偉そうなことを言っておきながら、それは出来ないと言って、その人の幸せを否定するのだ。

 なんなんだろな。人間って理不尽で自分勝手で、自分が直前に言った言葉さえ否定してしまえるのだ。

 ……ああ、まあその、つまりなにを言いたいかというと。

 

『かぁあああずぴぃいいっひひぃいい~っ……!! 俺っ……俺ぇえ……! またフラレたぁあ~っ……!!』

「ガンバレ、お前は幸せになっていいんだゾ」

『せやったら娘の誰かを俺に紹介───』

「不幸になりやがれこの野郎」

『こっ……国際電話越しでこの態度ッッ!!』

 

 祀瓢とのデート中、及川から電話が来た。まあ、ケータイにだが。

 一応プライベートなものなので、祀瓢や桔梗、月と詠にも少し離れた位置の茶屋で待ってもらっている。

 

『とほー……かずピー、もうちょい俺にやさしくしたってや~……。俺おらへんかったらかずピー、病院で発狂してたかもなんやろ……?』

「んむ……っ……ま、まあ、そうだけど」

『せやろせやろー? したらちぃっとくらいええや~ん♪ あ、ちゅーわけやからなんというかこう、笑顔がかわええ胸のおっきくて腰は細くておしりはおっきく安産型なー♪』

「……礼を盾に取った欲張りエロスが」

『あれ? なんや今ものっそいドストレートにえらいこと言われた気がしたんやけど……』

「いや……助かったのは事実だよ。ほんと、感謝してる」

『おう。まあ紹介してってのはじょーだんや。こっちが苦しくなるくらいの男泣きしたやつの心救ったことを盾に、なにかを要求して手にした幸福なんていらへんいらへん。俺はもっとこー……なぁ? 自分の手で掴んでいく、っちゅーのを重要視しとるねんで? あー、しゃーけどこの動画、いつ見てもえー声やなー♪ かずピーの歌声もええ感じやし』

「お前は消していいって俺、何回言ったっけ」

『これくらいえーやーん! あーほら、バックアップとでも思とってくれたらそれでえーて! やー、それにしてもこの最後んところ、かずピーが歌いだしたところでみぃんな頑張って歌うからめっちゃ心にじぃんときてなー! ……まあ、全部終わったあとに聴いたら、そら泣きたなるわなぁ』

「……お前もそれ忘れてくれ」

『あの時代で歌ってもろた“君よ花よ”のこと? それともかずピーが泣いたこと?』

「どっちもだよ! ~……はぁ、まったく……」

 

 君よ花よ。

 あの時代、あの時の都で、及川がゲームに勝利した権限でみんなに歌わせた歌だ。

 とあるゲームのエンディングで流れる歌だな。

 一人の男に多くの女性が、って部分で及川的に感じ入るなにかがあったらしく、歌わせたんだとか。

 俺、大神さんほど正義を愛してなんかいないんだけどなぁ。むしろ目的のためなら割と手段選ばないぞ? 自分が正義だなんて口が裂けても言いたくない。

 

「……どんな志も夢も、貫けなきゃ結局なににもなれやしない」

『お? かずピー今なんて言ったん? 近くに車通ってよぉ聞こえんかったわ』

「いや。ところで及川、お前の周囲でなにか面白いこととかってないか? いい加減日本が恋しくてさ」

『あー……なんや俺のこととか通じて、かずピーにええ顔しよってヤツ増えたなぁ。なんや知らんおっさんに声かけられてびっくりするわ。そのうち美人なおねーさんとか来るんやないかって、いろんな意味でビクビクしとるわ』

「気を付けろよ。そういうの、案外手段を選ばなかったりするかもだから」

『せやなー、気を付けるわ。あ、しゃーけどどうせ来るならこう、胸とかはちきれんほどおっきくて、腰はすらっとしててー♪ そんでもってウィンクが似合うべっぴんさんとかがええなー♪』

『あらぁん? 及川ちゃんじゃなぁーいのぉん! おひさしぶぅりぃ!』

『ほぎゃぁああああぉおおおおおお!? たたた助けてかずピーたすけてぇえ!! 胸囲がヤバくて腰に余分な脂肪のないウィンクで突風巻き起こすモンゴルマッチョとエンカウントしてもぅたぁああっ!!』

『どぅぁあああれがスタイルだけで世界を滅ぼせられる眼球が天地崩壊スイッチの化け物ですってぇええん!?』

『ひぃいいすんませんえろうすんませんそんなこと言ってないですたすけてぇえ!!』

 

 絶叫が響いた直後、ぶつりと切れた。

 ……ああ、貂蝉そっちに居るのか。

 ええっと、こういう時なんて言えばいいんだろうな……あー……。

 よ、よかったな? 胸のおっきな相手が出てきてくれて。……うん、ウィンクも上手だし……な? べっぴんかどうかは知らないが。

 ……べ、べっぴん? ああうん、そのテのお方にしてみれば相当べっぴんさんなのでは?

 

「………」

 

 通話が終了したケータイを腕ごとだらりと下ろし、けれど手首を持ち上げてその画面を見る。

 及川祐。名前と、通話部分に赤いバッテンを映した画面がそこにあった。

 

「………」

 

 たまに、思う。

 俺、あの時代に飛ばずに普通に学校卒業したら、どんな自分を歩んでたんだろうなって。

 及川は向こうで楽しくやっている。

 俺だってこっちで、苦労はそりゃああるけど充実した日々を送っている。

 けど、やっぱり考える時はあるのだ。どんな自分だったんだろう、って。

 そんなんだから頭の中に浮かんだ、幸せになっていいんだよ、なんて言葉。

 俺の中のどこぞの北郷くんが言っただけかもしれないが、まあ、そりゃあそうだ。どうせ生きるなら自己満足だろうと幸せである方を歩みたい。

 今歩いているこっちにそれがないかって言われれば、もちろん俺は幸せだと笑顔で答えるし、質問されるまでもないって言えもするだろう。

 不満はないんだ。

 ただ、疑問はある。

 左慈が願うことを銅鏡が叶えたとしたら、俺はどんな自分を生きていたんだろうな、とか。

 肯定するからこそ考える時があることってやつだ。実に簡単じゃない。

 

(今度左慈が来たら、またこの鬱憤でもぶつけるか)

 

 これを考えるのも一度や二度じゃないんだから。

 たまに少し、ほんのちょっぴり黒い方に思考基準が傾くことがあるだけで。

 え? ああ、あっちも鬱憤ぶつけに来るだけだから、べつに八つ当たりとかじゃないんだ。正当な……その、たぶん、喧嘩ってやつだ。

 

……。

 

 で、せっかくだからと茶屋で軽食を摂ったあとはデートを続行。

 改めて見ても、なんというか時代の流れとかどうなってんのって光景ばかり。

 市場なんてあの頃の再現みたいだし、高台から見える景色だって、自然は随分と育まれたし、色で見れば緑ば~っかりだが。なんというか建物がめっちゃ少ない。

 まるでこの都自体がRPGの街シンボルみたいだ。ほら、街の外に出れば平原ば~っかりってアレだな。

 見渡したって車なんて通ってないし、電線は地中を通っているらしいしで……なんともはや、よくもまあこれほどまで徹底して……。

 

「………」

 

 川だって綺麗だし、森林や山には極力手をつけていない。

 そこのところは孟獲……まあ美以だが、その子孫が断固反対してそういった風習を身につけさせたらしい。

 そこには天の御遣いも一口も二口も噛んだという噂がまことしやかに……って、俺別になにもっ……! あ、いや、もちろん書物に書き残したっていうのも、前に言った通りだ。

 それ以外といったら…………い、いや、そりゃまあ、その、ネ? ちょっと頭の固いお子を南蛮の密林に強制連行して、そこで自然とともに生きる素晴らしさを学んでもらったっていうか。

 しばらく生活したら、そいつもすっかりウキョロキョキョーンって叫ぶようになったし、それでよかったのだ。……よかったのか?

 まあ移動手段は相変わらず絡繰だし、機械を使っている部分なんて随分と少ない。絡繰、万能過ぎだろ。

 ここに到着したあの日にも思った通り、空港からここまで、絡繰で移動、だったもの。

 すごいネ、絡繰。

 だって盗まれる心配もないし、仮にレッカーで盗まれたとしても使える人物なんて居やしない。

 氣を使えることが条件として存在するからには、まずそれが出来なければ動かしようがないのだ。

 華琳の嫌いな排気ガスもありません。いたれりつくせり、一家に一台、絡繰さんだな。

 

「真桜に頼んで、氣を蓄積できる絡繰の大きいのを作ってもらって、誰でもかめはめ波が撃てるーって商品でも……氣を込める側が死にそうだからやめよう」

 

 なんなら全部の指に嵌める指輪式絡繰を作ってもらって、かめはめ波の動作に反応して内部に閉じ込められた氣が解放されるー……とか……やめとこう。

 

「父? どうかしたのか? 真桜がどうとか聞こえたが」

「ああいや、ちょっと考え事だ。絡繰のことをな」

「絡繰か。真桜はすごいな、よくあんなものを作れるものだ。私も一度、籠作りからやらせてもらったが……あれは難しい。簡単には出来なかった」

「まあなぁ。この現代でも、1800年って歴史があるくせに真桜より上手く作れるヤツが居ないんだもんな。いや、そりゃカタチは綺麗だぞ? 部分部分も無駄を無くして、少ない材料で完成しているってものもある。でもなぁ」

「氣の循環や蓄積の技術は、だろう?」

「そうだ。あれは真桜ならではだな」

 

 そもそもこの時代、氣を存分に扱える者がやたらと少ない。

 だから少ない氣で動かせる絡繰を作る方向に向かったんだろうけど、その技術でも真桜に勝てないっていうんだから……1800年の歴史に軽々打ち勝っちゃう魏の絡繰技師さんは、ほんま最強やで……!

 

「ところで祀瓢」

「なんだい我が父」

 

 すこぉしおどけた風に言う短い言葉にひょいと乗っかるノリ良い娘。

 俺と彼女はにっこり笑い合い、

 

「桔梗が離れてくれん」

「すまない父、私にはどうすることも出来ん」

 

 答えを出し合って、俯いては嘆息した。

 

「ああいや、こほん。失礼した、お館様。離れたくないわけではないのですが、情けないながら、懐かしいのか初めてなのか、よく解らん感情に襲われておりましてな」

 

 困った顔で、左腕に抱き着きっぱなしの桔梗が言う。

 もしや恋!? ……恋なんだろうなぁ。ってこれはさっきもやっただろう。

 まあその、間違い無く恋、だとは思う。

 だって1800年も想い続ける華煉のような瞳をしている。あそこまでとは言わないまでも、よく似ている。

 それってつまり……だろ?

 

「恋したこととかは、なかったのか?」

「恋? ふははっ、このわしが恋とっ! お館様はこれが恋だとでも仰るおつもりかっ! …………え? ……こ、恋……なのですか?」

 

 自信満々に笑い飛ばそうとして失敗したっぽい。

 顔を真っ赤にして、わたわたしながら訊いてくる姿は、なんというか可愛い。

 

「ま、そうね。月ほどじゃないけど、挙動とかがこれ見てる時の月に似てるし」

「これ言うな」

「ばかちんこ」

「キミはもうちょっと慎みを持とうね、詠ちゃん」

「詠ちゃん言うな!」

 

 などと悶着する横で、「恋……恋……?」と、目を渦巻き状にして真っ赤な頬に手を当て首を傾げ、はわわわわって感じでもごもごしてる桔梗さんが本気で可愛いです。

 いやいや落ち着け俺、そもそも祀瓢とのデートなのに別の人をだな……!

 

「言われてみれば、わしはその……お館様には信頼は置いても、恋をするというにはちと違う感情を抱いていたような……というか、これが恋なのだとするならば、確かにあれは恋ではないということになりますなぁ……………………ぁぅぅ」

 

 こほんと咳払いののち、自分の分析を開始した桔梗が一層に赤くなり、俯いた。

 思わず祀瓢が「かわいいな……」と呟いてしまうくらい、確かにその姿は可愛かった。キリッとしていれば綺麗なのに、この狼狽える姿は可愛いとしか言えやしない。

 

「あんたってほんと、女の行動ひとつひとつにいちいち惹かれやすいわよね」

「? 人の魅力に目がいくのは当たり前のことだろ。好きとか嫌い以前に」

「うわ……よくそういうこと平気で口に出せるわね」

「思ったことは口にしていかないと、誤解しか生まれていかないって痛いほど理解してるからなぁ……」

 

 自分自身でも、他の世界の北郷でも。

 そして、伝える時はしっかりと確かに。じゃないと誤解があっという間に広がっていく。特に七乃とか春蘭相手には熱心とも言えるほどしっかりと伝えよう。

 ……春蘭に関しては、多少諦めも混ぜることが上手く生きるためのコツでもある。これ、北郷の知恵。

 などとミスターポポチックなことやっていないでだ。

 

「じゃあお茶も終わったし、そろそろ行こうか。あ、一応先に訊いておくけど、何処か行きたい場所はあるか? 自分の目で確かめることは数えられる程度しかしてなくても、報告書で知ってることでよかったら案内くらい出来ると思う」

「ではお館様」

「お、桔梗? どっか行きたいところがあるのか? 酒は祀瓢が苦手だからダメな方向だけど」

「構いませぬ。それよりもちと、手合わせなどをしていただけると」

「なんでそうなった」

 

 軽く手を挙げ、提案されたのは戦いの申し出でありました。なんでだ。

 訊いてみれば、なんでか顔を赤らめてそわそわしだす。

 そこでこの北郷は考える。今までの人生経験と他の北郷達の知識から察するに、これは俺になにかを期待する女性の反応だ。

 言いづらいことを察して欲しいとか、もう一歩踏み込んでくれれば話すとか、そういった類の。

 コマンド:どうする?

 

1:かかってこいオラァ!(手合わせ願われてるみたいなので)

 

2:33日後に決闘の約束をしてやりすごす(コロッセオがない)

 

3:ポーカーで勝負してみる(魂を賭けよう!*注:“精”という意味で)

 

4:肯定する言い回しをしつつ断る(たぶんその後に強制バトル)

 

5:伽においては最強有敗ベヒーモス(出過ぎだぞ! 自重せい!)

 

 結論:2(33日後ではなく)

 

「手合わせって……腕相撲とかそういうものじゃないよな?」

「わしはそれでも構いませぬが……どうせならば思い切りぶつかれるものが良いですなぁ。なんというか、その。どのようなことだろうと構わぬのですがな、どうにもこう、お館様の力強い姿を見たいと思ってしまっているようで。可能ならば目の前で、わしに向け、その姿とその力とその技術の全てを振るっていただけたなら、この身も落ち着けると思うのです」

「………」

 

 どこぞの北郷が、それは戦に興奮しすぎてアレが起立して祭さんに絞られたアレと似てるから待てと叫んだ。

 頭に浮かぶ光景が生々しい。

 よーしまただけど落ち着こう俺。

 

「まあ……それは解った。むしろ手合わせしてくれるのは嬉しい。でも今はデート中だから、また今度で」

「む……確かに今は柄の手番か。ここでわしが我が儘を口にしてもただ大人げないだけ……───しかし、これは、なんとも……」

「桔梗?」

「い、いや、今さら自分の奥底から湧いてくるものに振り回されるほど子供ではないのですがな。どうにもわしは、恥ずかしいことに自分を優先してほしいと随分と懐かしくも我が儘を唱えたいらしいのです」

 

 とほー、とため息を吐きつつ俺を見てくる。

 目が合うとポムと顔が上気して、誤魔化すように茶を飲もうとするんだけど、もう器にお茶がない。

 器を持った手をうろうろさせてから卓に置くと、またしてもとほーと溜め息。

 

「色恋に悩む桃香さまらを見て初々しいものだと笑んでいたものだが……! 自分がなればこうも余裕がなくなるとは……っ……!」

 

 あ。頭抱えた。

 

「月に詠よ。訊きたいのだが、こういった場合はどう都合をつけておるのだ?」

「べつにボクは月と一緒に居られればそれでいいし」

「わ、私はその、あの……ご、ご主人様のお召し物やお布団を干したりして……」

「月っ! 正直にそういうこと言わなくてもいいんだってば! っていうかボクがそれに驚きなんだけど!?」

「そこで“穢された”って顔で俺を見るのやめようね?」

「私はとりあえず突撃だなっ! 父にぶつかり父にぶちまける! 実に解りやすくていいと思う!」

「柄よ。大人になると、そういうことも難しくなるのだ。……といっても、この身は若いものであったか……ふむ。よしお館様、一丁揉んでやってほしいのですが」

「だから祀瓢とのデート中だってば」

「では早う次へ参りましょうぞ! 茶も残らぬ茶器を前に、長く居座っても店の迷惑というもの!」

「はぁ……酒の時は長々と居座るくせに。ま、いいんじゃないの? そろそろボクも歩きたかったし」

「うん。それじゃあご主人様、次の場所へ……」

「ああ」

 

 頷いてはみたものの、結局提案らしい提案はなかった。手合わせは保留だし。

 なので俺が知るこの現代でのデートめぐりをして、祀瓢を喜ばせることにした。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告