ギャフターの外のこと   作:凍傷(ぜろくろ)

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同じ背格好の親と娘と②

 で……冥琳と二人、呉服屋に来たわけだが。

 いや、さっきのとは別の場所ね?

 冥琳に似合う服を考えると、あっちはちょっと……と思ったが故。

 この北郷、ただ歩いているだけではない。常にどの場所にどの店があるのかくらい、きちんと目を動かしておりますとも。

 そんなわけで……

 

「北郷? その……突然、なにがどうしてこういう話に……」

「どうして、って……俺が冥琳に贈りたいんだ、純粋に(露出を抑えるために)」

「雪蓮も珍しく落ち着いた服を着ていたが……紹殿あたりになにかを言われたか? いや、この場合は循か」

「(言われ……いや、引っ張られただけだな)いや、なんも」

「───……、……そ、うか……」

「…………これなんかは……いや、冥琳ならこっち……?」

「……いつか───」

「? 冥琳?」

「あ、いや」

「?」

「…………(いつか、あの三羽烏が言っていたのを耳にしたな。北郷に服を贈られるということは…………その)」

「あ、こっちのなんかいいかもだな」

「…………~」

 

 雰囲気的に似合ってそうなものを選んでは、立って待っている冥琳の姿に合わせてみる。

 これがまた随分と似合うのだ。

 派手じゃないかなーなんて思うようなものでも、冥琳が着ると落ち着いて見える気がするのだから、その人の印象ってのはすごいもんだと思う。

 しかし今回の目的はあくまで落ち着いたものであり、露出を控えさせることなのだから、そこで派手さを求めても仕方ない。何故って、露出を控えようがスタイルがよすぎるから、結局のところ目は惹くのだから、落ち着いたものにしたほうが冥琳も気分的に落ち着けるだろう。

 どうせ贈るのだ、妥協は無しで。

 

「ほ、……こほん。北郷」

「ん、どうかした?」

「いや、ああまあその、なんだ。……お前は私に対しても、そうあってほしいと思うのか?」

「?」

 

 そうあってほしい? ……ああ、冥琳だもんなぁ、そりゃ気づくか。

 露出度を抑えて欲しいって意味だよな?

 

「気にならないわけじゃないからね」

「っ、そ、そうか。ではその……(男子が女性に服を贈るということは、閨にてそれを脱がす喜びがどうのと。あの時はなんとも女性然とした考えだな、などと思ったものだが……いざ自分が、となると、これは……)」

「?」

「…………~」

 

 なにやら冥琳が赤かった。

 目を伏せ、胸やお腹当たりに腕を回すようにして身を捩り、口を波線みたいに閉じてもじもしている。

 ……言われてみて、露出度が気になったってパターンだろうか。

 けれどその姿は、ふと思った時に頭を撫でて、いつかの約束通りに彼女を褒めた時の様子にも似ていて、なんだかこう、口に出すわけにもいかないんだが、可愛く見えた。

 

「……、北郷」

「っと、さっきからどうかした? 顔も赤いしなにかを言おうとしては、やめてってことが多いし」

「いや、そのだな。……さっ……」

「さ?」

「最近、……真名───そう、真名を与えていっているそうだな」

「え……ああ、そのことが訊きたかったのか。そうなんだよ、似合うかどうか、それは嫌だとか言われたらどうしようか、とか考えながら。名前の時はみんなに任せっぱなしだったけど……いや、真名って難しいな。その上で、“大事にしてもらえるのが嬉しい”って思える。預けられなきゃ口にしちゃいけないっていうのも、名付けてみれば嬉しいルールだったりするしさ」

 

 それが原因で、うっかり呼んで喧嘩になるとかは本気で勘弁だが。

 地味にありそうで怖いんだよなぁ、雪蓮がうっかり呼んで、“オノーレ!”って娘たちと争いが始まるとか……。

 いや、うっかり具合でいうなら白蓮……いや、白蓮はそういうところはしっかりしてるしな。

 ……怖いのは麗羽か。間違いなさ過ぎて本気で怖い。

 

「循の真名は……いや。これは私がきちんと循から受け取るべきだな。親であろうと真名は真名だ」

「やっぱりそうなるのか。親の場合って真名は無条件で口にしていい、とかだったらどうしようかって思ってたんだ」

「お前が考えてお前が名づけた真名だ。お前のことが大好きな娘たちが、それを許すことがないことくらい、少し考えればわかることだろう」

 

 顔の赤さもどこへやら。

 冥琳はいつもの調子で胸の下で腕を組み、目を伏せてフッと笑むように言った。

 こういう時の冥琳って、落ち着いてくれてるんだなーって受け取れて、こっちも安心する。

 なんて言えばいいんだろうな、ほら。

 雪蓮と一緒に居る時の冥琳って言えばいいのか? その中でも東屋とかで一緒に酒を呑んでる時の気安さに似ている。

 ……つまり、自分はそれだけ気を許されているってことで。

 

(……まあ)

 

 気安く頭を撫でても怒らないって事実が、既にそれを物語っているわけだが……そういう滲み出る空気と安心感って、頭を撫でて良いか悪いかにイコールするわけじゃない。

 たとえば俺が町のおやっさんに頭を撫でられようが、俺はそれを拒まないだろう。

 けど、じゃあこんな安心した空気が出来るかっていったら違う。どちらかというと、気安い親戚のおっちゃんと居るような、騒がしい空気になるだけだ。

 だから、つまり、その。

 嬉しいものなのだ、何気ないことでも、それに気づくことが出来れば。

 

「そっか。じゃあ、好まれるためにも服は素直に贈られてくれな?」

「───」

 

 あ。また真っ赤になった。きょとんとした顔が瞬間的に。

 いきなりなにを言い出すんだ、って言葉があったとして、“いきな”辺りであっさり理解に到って赤くなったような……待て待て待て、服贈るだけでどうして赤くなるんだそもそも。

 そんな、好きな人からのプレゼントで一喜一憂する、恋に夢見る乙女じゃあるま───……ぃ、し…………───

 

「………」

「………」

 

 いや。乙女でいいんだろうな。

 あんな血生臭い時代を駆け抜けて、愛だ恋だよりも地位や軍略のために人を娶るような世界を生きたんだ。

 それを俺に対して、今さらだろうが抱いてくれているのなら、俺はそれを邪魔するつもりはないし、むしろ応援したい。応援っていうか相手俺なのか、やっぱり。

 ……そ、そっか。服、贈られると嬉しいってことだよな。うん。そっか、うん。

 ななななんだろな、なんか嬉しいぞこれ。

 露出を抑えるためだとかそんな理由で選ぼうとしていた自分が、逆に恥ずかしくなるくらい。

 

(ん)

 

 真心込めて贈ろう。

 もちろん、露出はしない方向でだ。

 多少は値が張ろうとも、決めたのなら突き進むのみである。

 男はね、意地っ張りで見栄っ張りなんだ。

 だから金銭面でピンチだろうとへっちゃらフェイスで乗り越える。

 それでいい。それでいいけど、のちに背中で大・号・泣!

 男ってそんなもんだと思う。

 

「冥琳」

「っ、あ、ああ、その。……決まった、か?」

「ああ」

 

 言って、大人し目だけど動きやすそうな服を用意。

 冥琳に見せると、ほう、と息が漏れて、若干赤さが引いた気がした。

 

「なるほど……こういうもの(を脱がすの)が好みか」

「俺の好みっていうか……冥琳に似合うかどうかだな。で、似合うと思うんだ、とっても」

「そ、そうか」

 

 そしてまた真っ赤である。

 目を伏せ、口を波線みたくして、眉はハの字。

 わかりやすく言うと困ってますって顔なんだろうに、感じられる雰囲気は、べつに嫌がっているとかそういうものではないとくる。

 これはそのー……この北郷めのこれまでの経験から語る、乙女心の分析から察するに……あれか。どんな顔をしていいのかわからないって顔だな。

 なまじ頭がいいと、そういう素直な感情を表情に出すのが難しくなるのかもしれない。

 特に相手に悟られないようにって、常に気を引き締め続けなければいけないような世界に生きたんだから、それは必然とも言えるわけで。

 

(ふむ)

 

 じゃあその困惑に近い感情に、その感情をぶつけられるなにかをパスしてあげればいい。

 サイズが違ったら仕立て直す方向で考えるとして、とりあえずは店主のもとへ服を持っていって、商談を済ませる。

 そうしてお金も支払い終えると、冥琳に感情のぶつけどころ、衣服を紙袋ごとプレゼントした。

 

「………………、北郷……」

「着てみてくれないか?」

「いっ───今かっ!? ここでかっ!?」

「へ? な、なんだ? そんな驚くことか?」

「いや………………そう、だな。服とは着て、慣らさなければ、服と呼ぶよりは飾りに近いのだろうな」

「ああ、はは、それは確かにそうかも。なんていうか、ふわふわ浮いてるようなものを体につけてるだけってイメージ、あるよな」

「~……」

 

 俺の言葉に冥琳は軽く俯き一層に赤くなると、俺の手から受け取った服を手に試着室へ移動。

 俺はそれを見送って、店長と一緒に彼女が出てくるのを待った。

 

……。

 

 そして、その後。

 

「へー! 冥琳も一刀に買ってもらったの? 似合ってるじゃない、へー、へー、へー……!」

 

 雪蓮たちと合流すると、冥琳が少しの硬直ののち、俺を見て一言「……よもやとは思うが北郷、お前はまさか雪蓮と同時に……!?」なんて、よくわからないことを言い出した。

 なんのことだろうか。

 同時……同時? あ、デートのことか?

 あぁ……確かにデートだと思ってたら別の女性と一緒に行動することに、とか……あまり嬉しいものじゃないかも。

 しかし先約というか、先に一緒に居たのは風蓮や擁冥なわけで。

 いや、それ以前にデートといっても、もう俺の財布の中身が枯れ果てそうだから、現代風に言うと……あ、今現代だった。

 えーと……普通に言うならウィンドウショッピング的なものになるんだが。

 ……あ。冥琳を見てニヤリと笑った雪蓮が、冥琳にべしりと額を叩かれた。

 

「たはー……あはは、それで一刀、これからどうするの?」

「どうするもなにも」

 

 俺は最初から、雪蓮の服を買うことで紹や循の気を済ます以外に、とくに理由はなかった筈なんだが。

 それが何故か風蓮や擁冥や冥琳の服も買うことになって、我が財布の中身が……。

 い、いや、男なら気にすまい。

 なんならこれから四人の女性とデート(ウィンドウショッピング)が出来ると考えれば、及川ならウッヒャッホォーイな状況だろう。

 ポジティブにいこう……たとえそれが、やかましさと注意と溜め息だらけの歩き回りにしかならなそうだとしても……!

 いやほら、雪蓮が騒ぐだろ? 冥琳が注意するだろ? 風蓮が溜め息を吐くだろ? 雪蓮が風蓮に絡んで、擁冥がそれを阻止しようとして、巻き込まれて、冥琳が怒って…………あれ? 俺大丈夫かこれ。

 騒ぐ雪蓮にも注意する冥琳にも溜め息を吐く風蓮にも巻き込まれる擁冥にも、その全てに俺こそ巻き込まれそうな気がするんだけど。

 

「………」

 

 おっ………………男なら、気にすまい……!

 これは試練だよきっと……男ならば、大事な女性の心さえ満たせる男であれ……!

 

(………)

「うわぁっ!? ほ、北郷!? どっ……~……」

 

 これから苦労をかけるって意味で、冥琳の頭を撫でた。

 大層驚いていたけどすぐに赤くなって、手をどかしにかかるでもなく……ふしゅううと俯き大人しくなる冥琳に癒されつつ、デートもどきは始まったのだった。

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