番外のばんがい/つまりサーヴァントとかなんかそういう北郷さんのお話。
他愛ない話をしていると、雪蓮が声をかけてきた。
変わった空気に“真面目な話か?”と少し姿勢を正すと、雪蓮は真剣な顔で言った。
「日本で、あにめ、見たじゃない? 私もさ、ほら、語り継がれた英雄ではあるんだから、なにかしらの能力とか使えたりしない? ほら、えーっと、ほーぐって言ったっけ? あいおにおんへたいろい、とか使ってみたいのよねー!」
「………」
ああうん、雪蓮だった。まあ、雪蓮だったよ。
真面目かと思えば実に雪蓮だった。雪蓮だもんなぁ、そりゃ雪蓮だよ。
「こう、しゃらぁんって剣構えてさ、“集えよ我が同胞!”って! いいわよねーあれ!」
「使えたとして、何人集まるかであの頃の信頼のされ具合が解りそうだから、逆に怖いだろ」
「うっ……それが一番怖いのよねー……。これでもほら、そのぉ……ねぇ? 慕われてたとは思ってるのよ? ……兵よりは民に、だとは思うけど」
「母さんは言うほど人気はなかったと思うわ。だって、町で見かければ大体飲み食いしていたから。民と話している時に酔いで顔を赤くしている母さんを見つけた時、私がどれほど恥ずかしい思いをしたか、知らないでしょ?」
「うぐっ……」
「雪蓮……前から言おうと思ってたんだけどさ。あ、前っていうのはあの時代の頃からな?」
「……あんまり聞きたくないから言わなくていいかも」
「雪蓮。お前、言われて胸に突き刺さる言葉、多すぎ」
「はぐぅっ! ……気にしてたのに……!」
図星というか、今まさに考えていたであろうことを指摘されて、雪蓮は頬を膨らませてそっぽ向いてしまった。
「ふーんだ。いいわよねー、一刀は。一刀がえぇっと、へたいろい? を呼んだら、きっと係わった人全員が現れるわよ。そしたらそこに私も居て…………あっ。それも案外悪くないかも」
「然り然りも言ってみたかったし」なんて、既にケラケラ笑っている。自由な人だなぁほんと。
「父さん父さん、そのー……へたいろい? ってなに?」
「…………」
笑う親をよそに、風蓮とその隣の擁冥は疑問をぶつけてきた。俺に。
……雪蓮じゃまともに答えなさそうだもんなぁ。脚色するだろうし。
「小説、漫画、アニメ……いろんなものに登場する英雄が使う、能力のことだよ。俺の国にな? 過去の英雄を召喚して戦わせるっていうお話があるんだ。召喚される英雄には、逸話を元にした能力があって、まあ、王の軍勢……アイオニオン・ヘタイロイっていうのはその中のひとつだ。自分と戦場をともに駆けた勇者を連続召喚する結界を作る……言葉にするだけでも滅茶苦茶な能力だな」
口にしてみれば、風蓮は「なにそれ! すごい!」と興奮気味に手を合わせた。
擁冥は微妙に首を傾げている。
「つまりさ、過去に為した偉業に関わるなんらかの能力が付くんだ。思春なら錦帆賊関連の能力を使えるだろうし、鈴々なら……たぶん、攻撃もそうだけど“守り”に関しての逸話も能力になると思う。恋は言うまでもなく三国無双の強さが……って、最強すぎて怖いな。絶対に身体能力強化側だよ」
「へー! へー! じゃあ、じゃあ父さんは!? 父さんが英雄としてー……その、召喚? されたら!?」
「いや、俺はそんな大したことはないだろ」
だって俺だぞ? なんて苦笑しながら言ってみると、擁冥が服をちょこんと引っ張りつつ、ふるふると首を横に振るう。
……。だってな。俺にどんな能力が期待できると?
「そうねー……一刀なら、王はもちろん、武官文官問わず兵にも民にも慕われて、逸話を語り継ぐ人の数ならそれこそ大陸全土って感じで……私に勝ってみせたあの時の実力とか、呂奉先を吹き飛ばして勝ってみせたあの瞬間とか、剣から光の波動を放てるとか攻撃を腕で受け止めて倍返しするとか、ほっとけば丸一日走ったり鍛錬できたりする呆れるくらいの持続力とか、三日毎とはいえ猛将連中と鍛錬を続けてた異常とか、」
「う、うん……」
「料理は普通だけどお菓子作りは最高とか、二種類の氣を持ってる……のは、もう私たちもだけど、他にもまだまだあるでしょ。あ、子孫がずうっと守ってきた、一刀のための宝物庫。あれも一刀の信頼から出来たものだし、逸話になるんじゃない? あ、武器がなくても素手でも将と渡り合えたっていうのもあるかも」
「───」
考えてみたら結構ヤバかった。
なにその逸話だけで馬鹿みたいに強化されそうな存在。俺が望まなくても、話がエラ呼吸になるほどに尾ひれどころの話じゃなくなってる。
えぇっとつまり? 俺単体でアイオニオン・ヘタイロイが使えてエクスカリバーもどきが使えてゲートオブバビロンが使えて、素手でもマジカル☆八極拳とまではいかなくても、呆れた戦闘を繰り広げることが出来て……たとえバーサーカーで召喚されても、日々を“落ち着け”を合言葉に生きてきた俺にとって、暴走なんてものは取るに足らないものかもしれなくて、ていうか王の軍勢……この場合天の軍勢か? 召喚出来たら戦局覆るよな、うん。
どんなに離れてても、全てのクラスのサーヴァントを召喚するみたいなもんだし、遠距離からの弓矢の宝具連射で、その時点で勝てるんじゃないかしら。軍師はキャスターとして召喚されるだろうし、朱里と雛里が召喚されたら、暴風を巻き起こして鎖で相手を縛って業火で焼き尽くす宝具とか普通に使いそう……!
……まあ、考えるだけならタダか。
「日本の娯楽ってすごいわよね。なんでもかんでも楽しいことに変えちゃうんだもん」
「まあその分、金にがめついところもあるとは思うけど」
「努力してお金を得ることは悪いことじゃないんじゃないの? もちろんやり方にも寄るけど、誰かが楽しめるなら、えーと……うぃんうぃん? じゃない?」
「なら、雪蓮はもっと頑張らないとな」
「冥琳みたいなこと言わないでよ、人がせ~っかくのんびりしてるところに」
くぴくぴとラプサン・スーチョンを飲む擁冥をなでくりしつつ、頬杖ついてとほーと溜め息。
そんな母を見て、娘もまたとほーと溜め息。
「これで、格好いいところのひとつでも見せてくれたなら……」とか呟いている。
格好いいところもあるんだぞぅ? 戦の中でばっかりだけど。
怖いところだってもちろんある。戦の中でばっかりだけど。
あ、でも興奮すると手がつけられないってところもあるな。戦の中でばっかりだけど。
閨で興奮しすぎると同じことにもなるから、それを宥めるのも大変苦労はしますが。……宥めるというか……実力行使で屈服?
仕合後で見切りの攻防を繰り広げ、俺が勝利して、悔しいからと何度も戦って、それでも勝利して、目が虎っぽくなった雪蓮に首根っこ掴まれて雪蓮の部屋まで引きずり込まれて、そこで押し倒された日もあった。
ええまあ、床の上ではほぼ勝利を手にするこの北郷、彼女が満足するまでとことん付き合って……ちょっと、その、泣かせてしまった経験まであったりするのですが。体が疲れても氣で体を動かして、って、華琳の時にもやったことがある方法で。
あの時のいじけ具合といったら……
「いだだだだだだ! ちょ、なにすんの雪蓮!」
「んっふふー? 一刀~? なんかヘンなこと考えてたでしょー」
卓を挟んで正面から、身を乗り出してまで頬を抓られ、なにをするだァーと言ってみれば、説明しづらい質問。
考えてたけど……言えと? 言いましょう。言えないとでもお思いか?
「連続して仕合って、連続して俺が勝って、雪蓮が俺を自分の部屋に」
「いい! やっぱり言わなくていいから! ちょっと一刀!? こんなところでなんてこと考えてんのよもー!!」
怒られてしまった。
……ほぼが自由な元呉王様に、そんなことを言われるなんて思ってもみなかった。
「母さん? 顔を真っ赤にして隠したがるようなこと、父さんとしたの?」
「べっ…………べつに、ほら、ね? かかか一刀に関わることで恥ずかしさがないってこと自体……珍しいことじゃない気が~……しない?」
「発見するたび遊んでるか酒を呑んでるかサボって寝ているかの母に比べたらとても誇れる父だけど」
「ひどい! 一息で娘がひどい! うわぁん一刀ー! 一刀の所為で娘がー! なんか言ってやってよもー!」
「泣きつきたいのか文句言いたいのか助けてほしいのかどっちなんだお前は……」
せっかく持ち直していた娘からの評価がだだ下がりっぽいぞ元王様。
見なさい、この子ったらまた、とほーと溜め息ついておるでよ。
こんな時はアレだね、日本の道場でみんなを住まわせている時に身に着けたスルースキルで、思考の海にでもどっぷり浸かって……
-_-/イメージです
軽くイメージ。
そう、軽くでいいんだ。ちょっぴり自分が格好いい立場になれるっぽいイメージとか。
ほら、こう、さっきの話の続きとか……さ?
というわけで……───二人の騎士の前に立ち、自身の武器たる黒檀木刀の先で地面を突き、高らかに名乗りを上げた。
「我が名は天が御遣い北郷一刀! 此度の聖杯戦争においてはバーサーカーのクラスを得て現界した!」
なんて言って、騎士二人や征服王に、名を隠すことなく戦に挑むとは、とかなんかそれっぽいこと言われてみたいとか、バーサーカーのクラスでああも自我を保っていられるものかとか言われてみたい。
や、どうせ落ち着け落ち着け考えることが多い俺だから、正気を保っていられるだけってオチだろうけど。
で、そのあと登場した英雄王様に、湖の騎士さんのように華麗に立ち回れずにボコボコにされる自分が簡単に想像できた。
イメージなんだからもうちょっと強くあろうよ、俺。
そ、そう、格好よく、ね?
ほら、木刀と篭手と具足で飛んでくる武器を弾いてさ、なんならさっき、雪蓮が言ったみたいにこっちも宝物庫を開いて反撃とか。
……あ、だめ。なんか飛んでいく財宝の中に桃が混ざってる。あっさり貫通された。桃ぉーっ!!
(もうちょっと、格好よくいこう、ね?)
あの頃の宝物っていったらほら、みんなの武器も当然入っているわけだから、きっと強いよ?
恋とか愛紗とか星とか、持っていた武器を勢いよく飛ばすわけだ。
その中には当然、その時代に生きた者が鍛えたものや作ったものまであるわけで、たとえば黄金の波紋に弾かれて勢いよく飛ぶ絡繰華琳様とか、お菊ちゃんとか───…………なんで想像した! なんで想像した俺!! ていうかそうだよ! あれどうなったの!? まさか本当に宝物として残ってないよね!?
……落ち着こう。うん、想像して早々だけど、ほんとこんな調子じゃバーサーカーになっても冷静でいられそうだよほんともう……。
(宝物のことは忘れよう……)
遠い目で現実逃避した。
次は……ほら、ライダーじゃないけど、片春屠くんには乗れるし、その逸話がスキルになってる可能性もあるわけだ。
遥かなる蹂躙制覇とか……ああうん、片春屠くんじゃ名前の由来通り、ただの轢き逃げアタックになりそうだね……。
ならアレだっ、木刀からの剣閃の逸話が昇華したスキル!
エ、エクスカリバーっぽいものになってたら格好いいよな!
放つ剣閃がレーザーみたいにこう……! い、いい! 格好いいじゃないか! で、切り離しを忘れると氣の全部を持っていかれて、一発で塵になるんだね。
…………なんで余計なことばっか考えちゃうかな俺……。
じゃあ次だ! 七度の瞬間錬氣! 淀みを解放したことで出来る氣力ブースター! 全力の一撃を放ったあとでも瞬時に回復! 敵に「なん……だと……!?」とか言わせられるかもしれない!
……でも俺、その七つ全部使って、ようやく英霊様たちと戦える程度の実力しかなかったりするんじゃないだろうか。わあ、ありえそう。
(~……だから余計なこと考えるなってば俺ぇえええ……!!)
いいんだよ! 想像なんだからもうちょっと強くあろうよ!
回復も多少は出来るから、傷があっても癒せるとか、氣を使った加速が出来ますよとか!
硬身功……とは違うけど、氣で拳を硬質化、加速で鋼鉄の拳を音速まがいの速度で敵に叩き込めるとか凄いじゃないか! ……で、筋痛めてギャアアと叫ぶと。
だめだ……なんかもう俺、いろいろと自分のオチが理解出来ちゃってる……!
もっと、もっとなにか、俺なら確実に、っていう逸話めいたものがあれば……! それを自信にして、今までのイメージをもっと格好いいものに変えるんだ……!
なんでもいい、なにか、なにか───! “これぞ俺!”っていうなにか!
これぞ……! これぞ! これ───…………こ…………
「………」
……種馬?
◆種馬
対女性スキル:EX
触れた女性、分類に限れば女であろうと雌であろうと誰であろうと孕ませる。
付加スキルとして“女たらし:EX”が存在する。
-_-/北郷一刀
…………コーン……。
「……母さん。父さんが顔を両手で覆ってしくしく泣き始めたんだけど」
「たまにあることだからそっとしといてあげなさい」
もうやだおうち帰りたい。
桂花に言われるならまだしも、自分でそこに思い当たるとか、俺ってほんと愚か者。
ああ、擁冥が頭を撫でてくれる……ありがとう、情けないけどありがとう。
◆あとがきみたいなもの
ではここまで! とりあえず仕事いってきます。